2018年11月10日土曜日

第200回:「シンドローム」真山 仁

レーティング:★★★★★☆☆

ハードカバーで上下二巻、900ページ近い力作です。おなじみのハゲタカ・シリーズの最新作であり、2015年から雑誌に連載されていたものをまとめたものです。フィクションの形をとっていますが、多少のフェイクも入れながらかなり大胆に事実をベースにした構成をとっています。上巻はほとんどの部分が福島第一原子力発電所の事故とその後、数日間の動きが描写されます。このあたりは新聞やテレビで十分に繰り返された話をなぞっている感じもあり、正直間延びした感じを受けますが、下巻になり、なぜそこまで丁寧に描いたのかがなんとなくわかるような気がしてきます。あとは、あそこまでページを割いて原発について掘り下げるというのは、著者のエネルギー問題への個人的な関心の高さも感じることができます。

買収者側は資本の論理を推し進めながら、うまく利益をあげる取引を仕込み、被買収側はどうにかして生存を図るわけですが、その対立軸は古来からの勧善懲悪的で図式としてはやや単純すぎるかなという印象を受けました。他方、本作の優れたところは、単に企業買収の話にとどまらず、原発、エネルギー政策といった大きな構図を視野に入れて、広がりのあるストーリーを描き出しているところです。また、これも言い古された話ではありますが、時の政府の対応についても非常に厳しい筆致で描き切っています。

かなり賛否が分かれている様ではありますが、私としては著者の問題意識は十分に伝わってきますし、エンタメ作品でありながら、高い視座と広い視野のある作品に仕上がっていると思いますので、エネルギー関係者やそういう業界に携わる学生さんなどにも十分面白く読めるのではないかと思います。著者にはポスト原発のFiT制度下の再生可能エネルギーを巡るビジネスなども続編として描いてほしいと願っています。

そういえば気づくと第200回目のレビューとなりました。最初のポストが2011年1月(東日本大震災の2か月前)ですから、足掛け7年9か月での200巻達成となりました。変動はありますが、1年30冊弱のペースでしょうか。今後もぼちぼち読んではアップしていきたいと思います。

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