2018年7月22日日曜日

第191回:「生きるとは、自分の物語をつくること」小川 洋子・河合 隼雄

レーティング:★★★★★☆☆

本ブログでは類書も含めて何度かレビューしている、故・河合さんの対談本です。同氏が亡くなられた2006年の対談を収めたもので、『博士の愛した数式』で一躍有名になった小川洋子さんとのものです。本書は『博士の愛した数式』を最初に読み解きながら、数学科出身の河合さんの数学への愛も垣間見せつつ展開していきます。なかなかに趣のある対談で、博士と少年の間の友情がなぜ成立するか、能動的に誰かを変えようというのではないけれど、そこにともにいるということの重要性、受け入れがたいことを受け入れるときの物語の必要性、原罪と原悲、いとしみ。

対談は次回を約して第2回を終えたところ、河合さんが病に斃れることで途切れてしまいます。長いあとがきは河合さんの追憶と、小川さん自身が物語を作り出すことについて書き記すことで閉じていきます。アンネの親友であったジャクリーヌさんの夫のルートさんのエピソードも大変印象的です。

正直に書けば、本編はかなり短く、もっと対談を読んでみたかったという物足りない感じが残りますが、それは小川さんが一番感じているところでしょう。しかし、中身は非常に濃いもので物語やそれにまつわる心理学に関心のある方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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