2018年2月17日土曜日

第183回:「空白の五マイル」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

現代には稀な冒険家の話。世界中の殆どの場所が踏破されつつある現代において、そもそも冒険というものが成立しづらくなっているわけですが、著者は冒険の現代的な意味を問いながら、ツアンポー峡谷という中国とインド国境付近の最後の楽園とされた土地について書いていきます。本書(文庫)は2012年に出ていますが、著者の角幡さんは近著(エッセー?)もあるようなので、そちらも遠からず読んでみたいと思います。

本書は前回レビューに続いて星7つです。大学時代に心底感動した本が『この地球を受け継ぐ者へ―人力地球縦断プロジェクト「P2P」の全記録』(石川 直樹)だったのですが、その本とはまた違った趣で強い印象が残りました。まずP2Pは、世界的なプロジェクトに選ばれた若者たちが衝突を繰り返しながら協力してエクスペディションを行っていくものでした。衛星携帯やブログといった当時最新のテクノロジー満載で、ほぼリアルタイムで旅の様子が発信されていく形であり、全体として明るく、夢と希望に満ちたものでした。翻って今回レビューした一冊は、大学の探検部時代からツアンポーに取りつかれた人が、大学時代のツアンポー峡谷踏査の構想を3回に分けてかなえていき、その手法も基本的には単独行、傷だらけ、サポート僅か、予測不可能な事態が連続して生きて帰れるのかどうか、という厳しいものです。また、著者の大学の先輩がツアンポー峡谷のカヌーで亡くなったエピソードから始まるように、常に死と生と冒険という重いテーマを抱えています。

読んでいて本当に驚くのが切実な動機をもってツアンポーに入り、限られた食料を持ちながら沢の遡行、藪漕ぎ、クライミング、雪との闘いを乗り越えていく強さです。自らの生を放り投げたような粗削りな旅ですが、恐れおののきながら進んでいく様はとても感動的です。また、ツアンポーの複雑な歴史や文化自体もとても興味深いですし、更には旅の最後で見せられる官憲のやさしさといった部分もぐっときます。私は、本作で出てくる人(1人だけ)とお会いし、一緒に食事を1度だけさせていただいたことがもう16年ほど前にあります。とても強烈な印象を受けた方で、眼の力が強く、今でも忘れられない方です。この本を読んでいて期せずして再びそのご活躍ぶりを目にして、まったく予期しない感銘も受けました。

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