2017年2月19日日曜日

第165回:「歓喜する円空」梅原 猛

レーティング:★★★★★★★

円空や木喰は、日本を代表する仏師であり、とりわけ庶民に近い立場で伸び伸びとした親しみやすい仏像を多数残したことで知られています。昔から寺や神社に行くのが好きで、その流れで仏像も面白いなと思い、社会人になってから仏像関係の本をたまに読んだり買ったりしているのですが、この一冊は昭和最強の知性(と勝手に思っている)梅原さんの晩年期の力作です。梅原さんの本は久々に読みましたが、晩年らしい円熟と円空への限りない愛情を感じます。基本的に学術的な内容ですが、時代を追いながら作品の変遷に迫り、また通常仏像ばかりと思われている円空の絵画や和歌も多数収録し、多面的な分析がなされていきます。

円空の生涯は深い陰影を残すに至る苦難の連続と、生きること、彫ること、仏教に帰依することの喜びという一見相反する、しかし表裏一体を成す2つの流れが併存しているように見受けられます。幼き日の母との別れ、地元での恩人であり親友であった人との別れ、壮絶な東北、北海道への旅、法隆寺での修行、白山信仰や厳しい修行、写実的な創作から大胆かつシンプルな造形へ、そして後年には深い慈悲を感じさせる優しい作品へ。また、最後は覚悟の入定。目まぐるしく、まるで日本中を旅する円空の姿が目に浮かぶようなすぐれた作品です。

本書の面白いところは、過去の円空研究を踏まえ、学術的な観点から是々非々で厳密な評価を下されているところです。これを見ると民俗学的な研究には、おそらく相当のいい加減さや妄想に近いようなものが一部にはあるということです。しかしSTAP細胞であったり自然科学でも例外ではなく、むしろ研究や調査といったものについては、それなりに批判的精神をもって対峙しないといけないことも、梅原さんは教えてくれる気がします。とても優れた一冊で、円空についてこれだけのクオリティを持った著作はもう出ないものと思われ、文句なしの最高レーティングです。

0 件のコメント:

コメントを投稿