2017年1月15日日曜日

第162回:「砂のクロニクル」船戸 与一

レーティング:★★★★★★★

あけましておめでとうございます。本年のレビュー第1作となります。本書は、私が昨年下期を使って読んだ大作「満州国演義」を書かれた船戸さんの代表作となります。上下2巻(文庫)で読みましたが、とても密度が濃く面白い作品に仕上がっており、まさに代表作という感じです。

今回の主人公はクルド人です。私がクルド人という言葉を初めて聞いたのは湾岸戦争のあたりだったと思います。なんでもイラクにはクルド人という少数民族が居て、サダム・フセイン政権がそれはそれは弾圧しているというニュースを聞いたことがありましたが、詳細はよく知りませんでした。本書はイラン革命あたりから話が始まりますが、イラン・イラク戦争においても重要なプレーヤーとして登場し、国家を持たない悲劇の民族として存在していることを知りました。

あまり書くとネタバレになりますが、イランに潜入しているある日本人とロンドン・モスクワを舞台に活躍する日本人がカギを握ります。やや非現実的な設定ではありますが、悲壮なクルド・ゲリラやイラン国内の活動家とイランの国家を支える革命防衛隊などとの厳しいせめぎあいが続きます。中東の紛争は(多くの紛争がそうですが)とても残酷で悲惨なイメージがありますが、まさにそれを地で行く救いのない展開が続いていきます。本書に深みを出しているのは、クルド人活動家の観点、革命防衛隊の視点、日本人からの見え方が同時並行的に進んでいくところです。

下巻は実際の武器密輸取引の実行段階に入ります。スケール大きく、ロシアやカスピ海が出てきて、主要な登場人物が集結して息もつかせぬ展開となります。ここらへんの重々しい持っていき方は船戸さんの超一流の技術であり、本当に読ませます。なお、本作は石井光太さんの解説も秀逸です。立場では極端な人ばかりが出てきて良し悪しとは別の次元になりますが、革命防衛隊はイスラム革命に、クルド人はクルドの独立に、ゾロアスター教徒は宗教再興に、武器商人は商人としての信念にそれぞれ殉じていき、そのぶれなさに本書のフォーカスがあるように思います。なお、1992年の山本周五郎賞受賞作品ということです。

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