2014年8月17日日曜日

第98回:「しんがり」清武 英利

レーティング:★★★★★☆☆

このところ夏だというのにめずらしく仕事が立て込んでおり、読書も本ブログの更新も頻度が落ちてますが、忙しい時に限って2~3冊併読していて更にアップが遅れたりします。忙しくても毎月2冊は最低限目指しているのですが、今月は(本書以外に)あと1冊読めるか微妙な情勢です。

さて、本書は日経新聞朝刊の広告欄に出ていて、興味をひかれて借りたものです。サブタイトルは「山一證券 最後の12人」というもので、破綻が決まった後、給与も途中からでない中で破綻の原因の解明や責任追及などのため会社に残り続けた人々の物語です。破綻した会社で本当に清算まで至る会社は少なく、他社に買われたり、民事再生という形で再建を目指すわけですが、山一の場合は強い行政指導や裁判所からの拒否もあり自主廃業という形で異例の清算に至りました。文字通り金融危機の中で会社自体が消滅するわけですが、自分のキャリアや家族の生活を頭の片隅に抱えながら、強い責任感を発揮して残り続けた人々のエピソードはかなり強く心を打つものがありました。どうして自分が長年務めた山一が消滅しなくてはならないのか、いつから「飛ばし」が始まったのか、そして誰が。見つける機会はなかったのか、会社が生き残る機会はなかったのか。そういう疑問に突き動かされながら、心身ともに厳しい状況での仕事が続いたようです。

破綻の直接の原因は、過去の法人取引の中で取引先の損失を被る形で多くの簿外債務を抱え、雪だるま式に大きくなってきたこと、大物総会屋に(他社も同様ですが)付け込まれたことなどが描写されていきます。ここまでは既報のものとそう変わりませんが、本書はインサイダーの多くに取材しているので部門間の争い、とりわけ法人部門の強大化と牽制部門の権限の小ささが浮き彫りにされていき、その発端がなんとも人間臭く、悲しくなるようなエピソードで驚きます。

他方、辞めた山一社員が人それぞれ一筋縄ではいかないポスト山一の人生を送ったことも描かれています。本書を読み始めてから気づいたのですが著者は読売巨人のGMとなって5カ月で解任されたあの人です。知りませんでしたが元々新聞記者だったということで、文章は大変読みやすく、取材も丁寧にされている感じを受けています。そして、こういう地味だけれど硬骨のノンフィクションを書くところに、著者の人間性がよく表れていると感じました。

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