2014年7月13日日曜日

第97回:「スコールの夜」芦崎 笙

レーティング:★★★★☆☆☆

2013年、第5回日経小説大賞受賞作です。当時かなり大きく報道されましたし、書店でも結構平積みされていましたので目にされた方も多いのではないでしょうか。現役○○、というのはとかく影響を集めやすいですが、財務省の現役キャリアということも話題を呼びました。たしかに本省のキャリアで根気よくコツコツと破綻ない小説を書くのは大変だと思います。

さて、本書はある大銀行に勤める女性総合職第1期の物語です、枢要な部署に登用され、厳しい仕事に当たるうちに・・・というものです。話自体は至極普通といっては失礼ですが、大きなクライマックスもドラマチックな展開もなく、やや淡々と話は進んでいきます。この点、結構批判はありますが、私自身は荒唐無稽なもので現実感を喪失するより、ややじっとりしていますが地に足のついた話として徹底しているのはリアリティがあってよいなあと思いました。他方、主人公が女性であり、日本の大組織における女性の存在という重要テーマがあるのはわかるのですが、ややそこに話が集中しすぎていたのが残念でした。知的世界で格闘する男性弁護士、SEとして組織の枠にとらわれず活躍する若手男性、主人公の母の昭和的価値観など、素材は色々と提供されていますが、どの人も魅力的ではあるけれど踏み込んだ人物造形がないので、やや印象不足な感じです。

プロの作家ではないので多産は難しいかもしれませんが、自作を読んでみたいところです(最後の方に示唆されています)。

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