2014年4月3日木曜日

第91回:「事業再生とバイアウト」日本バイアウト研究所編

レーティング:★★★★★★☆

今回の一冊はかなりマニアックなものですので、関心ない方は完全スルーを推奨します。2011年3月に刊行された一冊で、400ページ強あるボリューミーなものです。

バイアウトとはいわゆる企業への資本参加(通常支配権を獲得)を指しますが、内部の経営陣が株式を買い取るのをMBO(Management Buy Out)、外部の経営陣が株式を買い取り会社を新たに経営するのをMBI(Management Buy In)と呼んでいます。2000年代は不良債権のバルクセール(いわゆるバブルの後処理)から始まり、その後企業自体を再生の対象とするビジネス、それを生業とするファンドが相当数誕生しました。公的機関として不良債権問題の解決への端緒を付けるとして設立された産業再生機構(2003~2007年)はBSサイドの再構成を中心に行ったのに対して、再生機構のOB/OGが主力として設立したファンドはBSはもちろんのことPLサイドにも注力し、本格的なターンアラウンドを目指しています。

ちょっとこの関係に首を突っ込まざるを得ないことが数年前にあり、更にその3年ほど前にはベンチャー及びプライベートエクイティ投資について学んだことがきっかけで、産業再生機構が出した本(3部作)を読み、そこから自分なりにこのブログでもかなり頻繁にレビューしていますが事業再生というものについて学んできました。今回は、事業再生のなかでもバイアウト(MBOでもMBIでも)を使ったパターンであり、いわゆる投資ファンド、とりわけプライベートエクイティ(PE)ファンドが絡んだものです。

本書は2部構成になっていて、前半は「手法と市場動向」、後半は「事例と経営者インタビュー」となっています。前半はその名のとおり弁護士さんを中心として法的なフレームワークの説明、典型的なPEファンドのバリューアップ手法などの解説が続きます。ここはちょっとだけ退屈なのですが、へーそういう手法もあるんだという気づきが随所にあります。そこを乗り越えると後半ですが、その名のとおりケーススタディのようになっていて、各PEファンドの投資、バリューアップ、一部はイグジットまで顛末がかなり詳細に書かれています。当事者たちが詳細にケースを紹介しているので、なかなかセンシティブで普段情報が出てこない再生事例が詳細に紹介されており、またPEファンドの投資判断、バリューアップ、デューデリジェンス手法などがかなり描かれているので、アウトサイダーとしては大変興味深い内容です。どれも日本のビジネススクールの教材としてすぐに使えそうなものばかりです。

自身の備忘録として、以下何点か。
①現在の国内事業再生は、時価総額~200億円程度の中堅企業が中心的なPE投資対象となっており、使われるスキームは様々だが殆どのケースでレバレッジは効かせていない。また一回の投資額も5~20億円程度とかなり小さく、ミドルリスク・リターンを狙っている模様。
②デューデリジェンスにはきちんと各種アドバイザー、コンサルタントを入れている(もちろん本格投資を決める直前だと思いますが)。ただし、この点はリスク対比、またリターン対比でコストが正当化できるのか謎(できるからやっているのでしょうが)。極力(調査対象を絞るなど)省コストで外部リソースを使っているものと推測。
③各社の再建プロセスは共通パターンあり。経営者の招聘、人事制度の改革やインセンティブの付与(目標達成時賞与、ストックオプション)、社内規律の確立、規則の整備、製造現場の改善(5S他)、キャッシュ創出(不要資産の処分、固定費の圧縮、運転資金の削減)、コスト低減によるPL改善、特に営業利益重視、場合によって金融支援によるBS改善。殆どこのパターンの模様。これをちゃんとできると海外販路の開拓、商品の価格見直し等で利益レベルの向上を目指し、イグジットヘ。
④各PEファンドとも成功例を載せているので当然と言えば当然だが、かなりのリターンを得ている。本書の某ファンドが手掛けた製造業のある会社の例では、PEファンドの投資額は5億円(+有形無形のコスト、人件費等は別)に対して、イグジットは21億円(なんと4倍強)となっている。もちろんこれはできすぎの例だと思われるが、リスクを取っている分かなりのアップサイドがある(ダウンサイドもある)。

この業界に興味のある学生さん(もとい新卒は殆どいないようですが)、社会人の方々にはとても面白いと思います。なかなか情報がでてこない業界なので資料として一級品です。

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