2014年4月13日日曜日

第92回:「プロフェッショナル経営者とバイアウト」日本バイアウト研究所編

レーティング:★★★★★☆☆

今回もマニアックな一冊であり、前回レビューしたもののシリーズものです。ファンドによるバイアウト対象先に送り込まれた外部からの経営者へのインタビューと送り込んだファンド、また仲介した人材エージェントへのインタビューを纏めたものです。本書のフォーカスは、PEによる投資案件で実際に成長や再生を実現していくのは投資先経営陣ですが、その経営陣をリクルートし、かれらがどう成長/再生を実現しているかという点、更には日本における(送り込む)経営者プロ市場がどうなっているのか、というものです。前回に続いてディールの詳細が明らかにされることが極めて少ないPE投資の内実が詳細に当事者によって語られているので非常に参考になります。また、今回もビジネススクールの授業で即使えそうなものばかりです。

全体的な論調としては、日本ではプロ経営者(送り込まれた企業を概ね業種に関係なく成長/再建できる経営者、と一応定義します)の市場が欧米などに比べれば小さいそうです。しかし、それでも本書に出ている成功例は結構劇的なものもあり、また少なくない事例が紹介されています。面白かったのは、以前のPE投資は金融工学的な付加価値が大きくて、買収(+レバレッジ)で資本を再構成、不採算事業、遊休資産の売却、自社株買い/株主配当などB/Sに着目した改革が多かったようですが、近年ではイージーな案件が減ってきて、本格的にどうやってビジネスを変えていくかということがバリューアップのメインの戦場になっているそうです。確かにKKRの黎明期のエピソードを見ると上記のような手法が徹底して書かれていますが、2000年以降の少なくとも国内の事例をみると、かなり踏み込んだ戦略/オペレーションの改革が行われています。KKRも企業価値向上のためコンサルティング機能を内製化しており、2011年からKKRキャップストーンをグローバルに立ちあげています。

送り込む経営者の確保ですが、これも色々な手法があるものの、①経営者プールを独自にゆるく囲い込み、②(ミドル含め)経営層を内製化(内部から派遣)、③人材エージェントなどからサーチ、というのが主流なようです。①はインダストリー・パートナーなどと呼ばれる各回の経営陣OB/OGなどとのコンタクト強化(ディールのソーシングも兼ねて)などをしているようで、そこから案件ごとに最適な人物を探すようです。②はPEファンドの人材を数名実際に派遣し、現場でのマネージメントに実際に入れてしまうもの、③はそのままですね。どれも一長一短あるそうですが、ある程度の規模が確保できているファンドならば、①と②の組み合わせが一番現実的な路線のような気がします。

レーティングは記載のとおりですが、前半にかなり重複感が強いエピソードが並びます。後半はファンド側の視点もかなり盛り込まれてて面白いと思います。関心のある方がかなり限定されると思いますが、勉強になる一冊です。

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