2013年6月16日日曜日

第69回:「採用基準」伊賀 泰代

レーティング:★★★★★☆☆

2012年に随分売れた一冊です。著名なコンサルティング・ファームで採用を担当していた方、ということで随分話題性があり、またタイトルも就職活動を控えた大学生などは手に取らざるを得ないようなものになっています。ちなみにタイトルは著者も書いているとおり、本の中身のごく一部でしかありませんが、この程度であればアイキャッチのために許される範囲かなと思います。

では、この本の中身はなんなのかということですが、マッキンゼーにおける採用活動の視点を紹介しながら、本論である(主にキャリア上の)リーダーシップの重要性について説く、というものです。リーダーシップは教育可能であり、今の日本社会に強く求められているのに、重要性の認識が決定的に欠如しており、系統的な教育もされていない、というのが著者の主張です。私は、海外に居た時にリーダーシップというものに非常に重きを置くところにいて、耳タコ状態でこの言葉を聞いていたので、強い関心をもって読み進めることができました。著者の主張には共感するところもそうでないところもありますが、面白い一冊だと思います。なかなかリーダーシップについて正面から論じているビジネス?書は少ないと思います。

共感するところは日本ではリーダーシップというものが良く理解されておらず、その重要性も共有されていないということ。私も勉強に行く際に、リーダーシップ教育に力を入れている学校なんです、と周囲に説明しましたが、当然ながら周囲は「うーん何やんの」ということでしたが、正直言って行く前の私も「なんか良く分からないけど、行って見ればわかるか」という程度にしかイメージがありませんでした。本書でもうまく定義されていませんが、リーダシップというものが果たしてなんなのか、仕事におけるそれとはなんなのかについての共通理解がなく、他の言葉や概念で部分部分が表現されていることが多々あると思うので、まったく日本で理解されていないというわけではなく、元来輸入概念なのでそのものの理解は乏しいということでしょうか。

そしてリーダーシップの重要性というか、人生における大切さというのは個人的に海外での経験を経て実感するに至ったのですが(実践できているのかは人が決めることだと思いますのでなんとも言えません…)、他方、著者の言うようにリーダーシップを持つ人材が日本に少ないとか、日本の問題の多くがリーダーシップの欠如によるもの、という考え方はやや疑問です。リーダーシップを持つ人材は、少なくとも私が接してきたビジネスパーソンには沢山いました。また、あまりリーダーシップを持つ人が見られない業界/組織も見受けられますが、それは個々人の問題というよりはそもそもリーダーシップを必要としていないか、排除しようとしている業界/組織なのではないでしょうか。また、後者のリーダーシップの欠如が日本の多くの問題につながっているという指摘も、正直言って組織は人々のリーダーシップだけで解決できるような容易な問題ばかりではなく、リーダーシップ教育がなされている欧米を見ても問題山積であることを考えれば、同意しがたいものがあります。政治経済やミクロ経済主体としての企業の問題は、リーダーシップの欠如もあるのだと思いますが、むしろ構造的なものだと思います。

上に書いたとおり異論もありますが、本書はそれでも良い本だと思いますし、特に高校、大学生や28歳くらいまでのビジネスパーソンにお勧めできると思います。志高く生きたいという人には大いに鼓舞する内容ですし、リーダーシップ云々はさておいても、結局なにが仕事を動かしていくのかということが書いてあります。また、管理職はリーダーと同義ではなく、日本企業に求められているのはリーダーではなく管理者という点もかなり正しいと思います(それはそれで理由があるわけで悪いわけではないのですが)。

備忘まで面白いと思った部分をメモしておきます。まず、リーダーがなすべき4つのタスク:目標を掲げる、先頭を走る、決める、伝える。マッキンゼー流リーダーシップの学び方:バリューを出す、ポジションをとる、自分の仕事のリーダーは自分、ホワイトボードの前に立つ。また、最終章の「リーダーシップで人生のコントロールを握る」も面白いです。リーダーシップを過大評価する必要はありませんが、(繰り返しですが)それが教育可能(trainable)であること、自分の頭で考えることを可能にし、仕事やプライベートの生き方に大きな影響を与えること、などを正面から説いています。なお、あとがきで紹介されている、著者が運営しているMY CHOICEというサイトは、コンテンツが面白いのですが、やや更新頻度が低く改善を期待したいところです。

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