2013年6月1日土曜日

第68回:「海賊とよばれた男」百田 尚樹

レーティング:★★★★★★☆

いやー面白かったです。今年の本屋大賞受賞作であり、「永遠の0(ゼロ)」(第50回でレビュー)で鮮烈なデビューを飾った著者の作品です。評判の高い本作も楽しみに手に取りました。素晴らしい気骨のある経営者がいたことに、素直に感動します。同じビジネスパーソンの端くれとして、ただただ頭が下がります。

すでに各所で書かれているとおり、出光興産の創業者である出光佐三の伝記のスタイルをとっています。そして優れた書き物によくあることですが、時代の大きな変遷やうねりも同時に描いており、ずいぶん勉強になります。感動した点を幾つかあげてみたいと思います。

まず佐三さんのぶれない信念、社員、顧客を強く思う気持ち、日本のためや世界のためを思い、権力に是々非々で対峙し、決しておもねらない姿勢、不撓不屈の粘り、支え続けたまわりの仲間たち、どれをとっても驚嘆する話です。こんな経営者がいたこと自体が信じらませんが、この良くも悪くも我を貫く経営ができたのは、非上場であり(現在は上場済)外部株主の強いコントロールから自由であったこと、創業者であり強い個性を会社経営に反映できたことがあると思います。現在の上場会社であれば株主から疑義を呈されそうな決定も幾つかあります(ものの見方が違うので仕方ありません)が、これをやりきれたところに創業者、会社形態のメリットが強く働いています。

次に信念を持って全力で戦う佐三さんに多くの人が陰に日向に大きなサポートをしていることです。まず創業時の資本を提供した日田氏、生涯をかけた支援と交流は心を打ちます。終戦後に海外から続々帰国した社員たちの献身的な働き(また、佐三さんの私財をなげうった支援)、アメリカ石油業界の意向を受けながらも、時として深い理解を示すGHQ,イランとの取引をあえて黙認する政府幹部、巨額の融資を何度も承認したバンカメ、などなど数えきれないほどもう駄目だという局面で助けを受けるのですが、佐三さんが取引先や社員に与え続けた温かいサポートや私心ない主張と行動によるものだと思います。カーネギーの著作を地で行くような話です。

最後に先見性とスケールの大きさです。まだ車もろくに走っていない時代から、国内における潤滑油小売商としてスタートし、戦中は日本軍の要請を受け満洲や東南アジアに大きく展開します。終戦と同時に殆どの海外資産を失い、それでもあきらめずに米国への大型タンカーの就航、そして運命のイランとの取引に進みます。この間50年ほどであり、激動の日本の近代史と共に激動の経営史が展開されます。この世界を向こうにひるまず拡大を続ける姿は無謀にも見えますが、経営者の一つのあり方を示しているものと感じます。

戦後の日本の石油政策、輸入や外貨の割当制度、GHQと一体になったメジャーの石油ビジネス支配の試み、朝鮮戦争が果たした復興への役割、イランにおける英・米の石油収奪政策(それによるイランの現在までに至る怒り)などもかなり詳細に書き込まれているので、そういう分野に関心のある方は非常に面白いと思います。

これは売れるよな・・という力作です。著者の次回作にも期待です。

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