2011年9月24日土曜日

第22回:「散るぞ悲しき」梯 久美子

レーティング:★★★★★★☆

2005年に話題となった1作です。丹念な取材、取材対象への(客観性は損なわないものの)深い共感、トピックの難しさをもろともしない冷静な筆致、どれをとっても一級のノンフィクションとなっています。太平洋戦争については様々な評価がありますが、それを超えて一人の人間が圧倒的な運命の前でどう生きたか、という普遍的なテーマを携えており、考えさせられる内容に仕上がっています。

サブタイトル「硫黄島総指揮官・栗林忠道」が示す通り、日米の先頭の中でも最も熾烈を極めたといっても過言ではない硫黄島での戦いを指揮した栗林中将(のちに大将)のストーリーです。軍人のエリート卵としての出発から、その後の軍歴、当時は死地と言っても過言ではない硫黄島への志願しての前進、家族や元部下に対して宛てた数多くの手紙から浮き上がる几帳面な性格と深い愛情に心を打たれます。しかし、ここまでだとただの良い軍人で終わってしまうのですが、本の半分は如何に中将が入念かつ執拗に硫黄島防衛に際して準備を行い、残酷ともいえる戦闘方法をとって戦い抜いたかが描かれます。あまり知らなかったのですが、中将は硫黄島を米軍にとって最も忌避する戦場にし、大いに恐れられ、そしてその戦いを称えられました。

本書全体を貫くのは兵士たちの哀切なる叫びであり、それを大本営に伝えた中将の無念さです。また、本の後半に描かれる平成6年の話ははっとさせられ、なんとも言えない気持ちになります。兵士たちの生きたかったという強い思いが満ち溢れており、読むのがたびたび辛くなる本です。不景気だとはいっても、戦後100年もたっていないのにこの経済と治安と生活環境があることに心から感謝し、その中でどうするべきかを考えさせられる良い本だと思います。著者の本をもっと読んでみたくなりました。

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