2011年9月4日日曜日

第21回:「不撓不屈」高杉 良

レーティング:★★★★★☆☆

株式会社TKCの創始者で、税務史に残る当局との裁判である「飯塚事件」の中心に居た故・飯塚 毅氏の実話に基づく評伝です。TKCの成り立ちよりは、飯塚氏の人柄、生い立ち、教養、信念そしてそれらを持って国税庁と激突した飯塚事件の詳細が話の中心です。こんな立派な人が居たのかという驚くの連続で、士業を目指される方、とりわけ公認会計士や税理士を目指される人には大きなモチベーションになるのではないでしょうか?

飯塚氏は、ほぼ独学でドイツ語と英語をマスターしており、国内外の税法に通暁し、昭和中期にはドイツの会社と提携を成し遂げたり、米国企業の日本法人の法律顧問になったりと高い才能をもって活躍します。社用車は外車(これには信念があるわけですが)と順風満帆であった飯塚氏の会計事務所は突如、国税庁及び税務署との全面対決に入り、第ニの帝人事件といわれる飯塚事件が発生します。部下の逮捕・抑留、そして裁判は4年以上に及び、その前には全国的な事務所及び取引先への弾圧的調査が継続されます。

しかし、この渦中でも飯塚氏は見事な見識と態度をもって事務所を主導し、そして氏を助ける各界の有力者が現れます。単に硬派な訴訟ストーリーではなく、冷徹できれる経営者であった飯塚氏が、揺れまどい、多くの人の支えを得る中で成長する様も描かれており、いずれにせよ一級の経済ネタであることは間違いありません。

惜しむらくは高杉氏の記述がやや平板に思え、これだけの当局との激突であれば、描かれているよりもっと悪いことがあったのだと思うのですが、そこは実在の会社や存命中の関係者も多いためか相当に抑制された記述になっています。かかる記述があると、さらに国家権力と対峙することのむずかしさ、そこで立場を投げ出さなかった飯塚氏のすさまじさがより分かっただろうに、とも思います。

なお、この小説は一度映画化もされており、映画の方が好きだという方はそちらでご覧になるのも手かと思います。本は、文庫版で上下2冊ですが、比較的すぐ読めると思います。

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