2011年6月19日日曜日

第16回:「ロング・グッドバイ」レイモンド・チャンドラー

レーティング:★★★★★★★

久々の更新になります。なんやかんやでバタバタしており、本を読む時間自体があまり確保できず、また、この本はあとがきを入れると645ページもあるので、今月はやっと1冊を読み終わった状態です。

レーティングは、当ブログ初の満点!渋すぎるフィリップ・マーロウ(=主人公)にしびれました。レイモンド・チャンドラーは、1888年に米国シカゴで生まれたミステリ作家です。フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公としたミステリのシリーズで有名になり、今でも多くのファンを内外で獲得しています(この翻訳は村上春樹氏)。本作が発表されてからすでに48年が経過してますので、既に歴史の風雪に曝された上で生き延びていることを考えれば、高いレーティングになることは不思議ではないのですが、それにしても(満点を付ける程)面白かったです。

まず、強烈な主人公の設定。主人公は私立探偵で、都会に一人で住んでいて、割と酒を良く飲んでいて(酒の話の部分を読むとのどが渇きます)、警察に多数の知己が居て(友人ではない)・・・とミステリアスな人物となっています。こういう人物なので実にドライなのかと思いきや、偶然に見かけた酔っぱらいを助けてしまい、というところから物語がスタートするのも意外ですが、その酔っぱらいを最後まで見捨てることができず・・・という展開も人物造形を良い意味で裏切っていきます。

次に全体を貫く喪失感。あまり書くとネタばれになってしまうのですが、戦争、金、名誉、そして人にとってのプライド、そういったものが随所に語られ、それらがどういう経路を辿って人生に影響を与えるかが大胆に描かれていきます。人について言えば金持ちもいれば、移民も出てきますし、私立探偵も警察官もギャングもでてきますが夫々に悲哀を抱えています。その渦に翻弄されていくフィリップ・マーロウはある意味そういった周囲の物語の語り部として機能していきます。

最後に文章の巧みさ。ここは読んでくださいとしか言えないのですが、どの文章も無駄がないのに詳細で、そして飽きることなく600ページを読み切らせる力量はたいしたものです。ぜひチャンドラーの他の作品も読まねばと思わせます。また、ぜひ原書でも読んでみたいと思わせるものでした。

たまに何気なく書店で手に取った一冊が、忘れえぬ良作であることがあり、その意味で読書はやめられないものだと再認識しました。

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