2011年4月9日土曜日

第9回:「福祉を変える経営」小倉 昌男

レーティング:★★★★★☆☆

第7回のレビューにて触れた故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)が生前に書かれた本です(2003年10月初版)。小倉さんは経営の第一線を退いた後、莫大な私財を投じてこの財団を立ち上げ、各種の障害者への支援、雇用などを行ってきました。特に大手のパンメーカーと提携して立ち上げたスワンベーカリーの事業を軸として、主に「共同作業所」と呼ばれる全国の障害者施設に携わる人々に向けたセミナーの草稿を本にしたものが本書となります。

色々と胸を打たれるところはあるのですが、小倉さんのこの財団へのコミットメントの強さ、まさに無私と呼んでよい障害者との共生への努力が印象的です。財団は共同作業所の運営に携わる人々を、無料で2泊3日のセミナーに招待し、小倉さんは(高齢になっていたにもかかわらず)自ら熱弁を振るい続けました。しかも一年に何度も、何年間もです。

本書のメッセージをあえて単純化すれば、障害者にも適正な賃金を払えるビジネスモデルを確立・実行するべき、というものです。このメッセージは、(賛否両論あるんだとおもいますが)極めて熱い問いかけ(障害者の尊厳とはなにか、自立とは何か)に支えられており、わかりやすく語りつくされています。また、そういった考えを実践するためのセミナーをベースとしてますので、数々の先進的な障害者雇用事例、ビジネス事例が数多く詰め込まれており、大いに実践的な内容になっています。

考えてみれば少し形態は違いますが、途上国の産品を「貧しい人が一生懸命つくったから、買って下さい」という形ではなく、㈱マザーハウスのように「かっこいい/綺麗でほしくなるバック作ったので、納得すれば買って下さい」という社会起業家が出て、成功を収めてきてます。若いこうした社会起業家が活躍する一方、かなり前から、ビジネスの当たり前の論理と強い情熱をもった日本のビジネスパーソンが実践していたこと、これは余り知られていないでしょうし文句なく称賛に値することだと思いました。ずいぶんと頭が下がりますし、色々と考えさせられる本です。

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