2011年4月12日火曜日

第10回:「リストラ屋」黒木 亮

レーティング:★★★☆☆☆☆

(私にとっては)記念すべき第10回に到達しました。読んで下さった皆様、ありがとうございます。完全に趣味で行っている書評ですが、次は100回を目指して進んでいきたいと思います。大体、月4冊ペーストすると25カ月あれば100冊に到達するはずです・・。

ところで今回は本ブログではおなじみの黒木氏の作品です。他に2冊同時並行で読んでいるのですが、どうしても読みやすく、また著者が好きだということもあり他の2冊を追い抜いて読んでしまいました。が、レーティングは低めです。

本作は、黒木氏の書いた「カラ売り屋」の続編という位置づけであり、事実サブタイトルとして「カラ売り屋2」という名前も付いています。おなじみ?パンゲア&カンパニーというカラ売り専業のファンドが、極東スポーツというPE会社の保有するリストラ真っ最中の会社(の経営者)と戦っていくものです。

率直に言えば、第7回で書評した「トリプルA」のような人間描写はなく、(こちらは書評していませんが)「巨大投資銀行」や「エネルギー」で描かれたような緻密な経済/金融の描写もなく、半端な印象を受けました。書評で書かれている方も散見しましたが、リストラ経営者=悪、市場を守るもの=善という分かりやすい構図が設定・貫徹されてしまっています。著者特有の、ビジネスパーソンの行動の源泉を生い立ちに求めるという部分が本の後半にありますが、それとて生い立ちこそ描写していますが、上記の善悪の構図にはノータッチです。リストラ経営者にも、それを雇ったPEファンドにもそれぞれの論理があり、肯定的に描かれているカラ売り屋だってファンドによっては、人によっては、また意図と関係なく悪となることもあると思われますが、そういった多面的な評価が描かれなかったのは残念です。

ただ、著者は勧善懲悪的なストーリーを一貫して避けてきている(と私は強く感じます)ので、この作品では恐らく意図的にそういうストーリーを描いてみたのでしょう。もしそうだとすれば、(上記の善悪の構図を維持しなければ)パンゲアが所在するNYのハーレムにおける人々の生き様(そしてパンゲアのパートナーが行っているボランティア活動)が上手く描けなくなるからではないか、と思います。このNYの描写は、ストーリーに深みを与えていて、アメリカにおける人種、経済的格差を丹念に拾っています。

レーティングはやや辛めですが、実は結構楽しんで読みました。中盤まで読んでなんだかなぁと思われた方は、ぜひ我慢して最後の50ページまで行ってみてください。すこし救われた気になります。

0 件のコメント:

コメントを投稿