2016年8月28日日曜日

第152回:「劔岳<点の記>」新田 次郎

レーティング:★★★★★★★

新田次郎さんは昭和の大作家であり、とりわけ山岳小説で有名な方ですが、名前はもう20年ほど知っていながら一度も読んだことのない作家の一人でした。特に読んでこなかった理由はないんですが、最近映画化(2009年)されるなどした本作を書店でたまたま手に取る機会があり購入してきました。なお、初版は昭和52年発刊、私がっ手に取った文庫版は昭和56年発刊ということでした。そういう意味では相当古いわけですが、昭和後期ですので個人的にはそんなに遠くは思えません。

さて、初めて読みましたが新田さんの文章の的確さ、過不足なく進んでいく筆に脱帽です。文体は昭和の作家ですがとても現代的で、今年刊行されたといわれてもほとんど違和感のない現代性を獲得しています。

内容についても、山岳小説というジャンルではありますが、とても優れた特徴を持った一冊だと感じました。具体的には、測量官という「地図を作る」というほとんど知られていない世界にスポットを当てていること、劔岳というキャッチなー山を題材に山岳会との測量官の微妙な相克と愛情を描いていること、測量官である柴崎氏のひたむきさや同僚、妻への愛情を細やかに描いていること、日本の山岳信仰、特に立山信仰と奈良朝時代とみられる開山の歴史に迫っていること、など本当に挙げきれない興味深いテーマがバランスよくとらえられています。本当に力量のある作家だったんだということを痛感しました。

また秀逸なのが長めに書かれた新田さんによる「あとがき」です。64歳か65歳であった新田さんの好奇心旺盛さと執筆意欲に驚かされますし、丁寧に執筆の背景を紹介し、本作の魅力を一層高めるようなものになっています。久々に最高レーティングです。新田さんのほかの作品も読み進めてみたいと思いますが、まずは代表作の一つである「強力記」でしょうか。お勧めの一冊です。

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