2014年1月13日月曜日

第83回:「亡国のイージス」福井 晴敏

レーティング:★★★★★★☆

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年ものんびりとしたペースですが、1冊読み終わるごとに懲りずにレビューしていきたいと思います。さて、昨年末から読み始めていた本書ですがやっと読み終わりました。映画化もされた(見てませんが)ようなので、ご存知の方も多いかもしれない一冊です。私は文庫版の上下2冊を読んだのですが、単行本は1999年が初刊とのことで、もう15年も経つのですね。

まず、非常に長い一冊です。文庫で上下合計ですが千ページを超えています。上巻は謎がふんだんにちりばめられ、海のシーンを中心とした戦記ものみたいな感じですが、下巻は登場人物の家族も含むストーリーが多くなり、人間中心の話に移行していきます。正直に言えばもう少し短い方が楽ですし、後半少しだれる感じがありますが、かといって無駄な削れそうな部分があるかというとそういうことでもないようで、これだけの内容を詰め込むにはやむを得ないのかなと思います。

次に、話は面白いです。上に書いたとおり既に15年が経過していますが、在日米軍、ミサイル防衛、朝鮮半島情勢など日本を取り巻く状況はあまり変わっておらず、いまでも新鮮に読めます。現在は、中国や尖閣情勢が加わっているという意味で更に複雑化していますが・・。要は政治的なリアリティがありつつ、各国家や主体の考えをいくつかのギミックをつかってあぶりだしており、非常に完成度が高いと思います。更に一番上手いなとおもったのは、その魅力ある人物造形です。どの人物もハードボイルドな側面をもっていつつ、人間臭さを失っておらず、常に混乱と迷いの中で最善の選択をしようともがきます。その結果、行動は矛盾を孕んでいたり、合理的でないこともありますが、そういうことを含めて人間であることの賛歌になっています。2000年に日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を一気に受賞していることからも、非常に衝撃を与えた作品ということが分かるかと思います。

あと男子というかおっさん的な観点で面白かったのは、イージス艦や現代の海戦というのがどういうものかという一端が読めたことです。レーダーの性能が飛躍的に向上し、多くのミサイル発射や近接戦闘が自動で行えることや、データリンクをフル活用した電子戦の様相を呈していることなど、まさにハイテクの力を結集していることが分かりました。この文脈では日本が独自に航空機、艦艇を作れば相当のものができそうですが、費用やテスト、また外交上の配慮もあってなかなか難しいそうです。

著者の作品を読むのは初めてでしたが非常に面白く、いつか時間がある時に評判のよい「終戦のローレライ」も読んでみたいと思いますが、こちらは表題作の倍くらいの長さのようなので正直躊躇してしまいます・・。本年は30冊を読むことを目標に掲げているので、年末に115冊くらいまでいけるよう頑張っていきたいと思います。その次は松岡正剛さんの千夜千冊に追いつけ、追い越せで頑張っていきたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿