2012年5月20日日曜日

第42回:「変人力」樋口 泰行

レーティング:★★★★★☆☆

現在マイクロソフト日本法人の代表執行役社長の樋口さんの著作です。出版されたのは2007年12月で、再建中のダイエーの社長を辞められて1年2カ月ほどたったころとなります。内容は、ダイエーの社長を務められた2005年5月から2006年10月までの体験を振り返り、その中から経営者に必要な3つの力をピックアップして説明するものとなっています。

樋口さんの著作については第17回にレビューしており、その時にプロフィールも詳細にご紹介していますので、ご興味あるかたはそちらも併せ読んでいただければと思いますが、引き続き(著者のファンであることもあり)面白い内容となっています。以前、学生だったときに好きな経営者について書けという宿題があり、色々考えたのですが結局著者を取り上げたことがあります。

さて、産業再生機構についてはご存じの方が多いと思いますが、その機構が取り組んだ大型案件の一つがダイエーでした。ダイエーは現在もGMS業界の主要プレーヤーですが、80年代、90年代までのダイエーは現在とは比べものにならない存在感と勢いを誇っており、そのダイエーが産業再生機構の支援を受けるというのはかなり象徴的な「事件」でありました。また、同時にスポンサーとして参画したのが国内PEの草分けであるアドバンテッジ・パートナーズと商社の丸紅ということで、これまた興味深い組み合わせであり、色々な意味で注目された案件でした。

その後、産業再生機構はダイエー株を丸紅とイオンに譲渡し、現在も基本的にこの2社が株主として経営に参画しています。一つ残念なのは、この株式譲渡の過程ではダイエーと株主間で大きな軋轢があったとされていたのですが、その内実については十分に語られていない点です。推測のカギとしては「引き続き貢献させてほしい」と記者会見でコメントした(2006年7月)という記述があり、相応に納得していない様子が伺えます。引退した経営者ではないので、さまざまな影響や社会的インパクトを考慮されたのだろうと考えられます。

なお、タイトルは「変人力」という安易な新書かタレント本のような寒いものになっていますが、受けを狙ったタイトル設定の誤り典型例で、樋口さんは「現場力」、「戦略力」及び(最後に)「変人力」が必要だとはっきり書いており、このどちらかというと末節である点のみをタイトルとしてしまったのはいかにも出版社的発想で残念です。残念な部分を連続して挙げてしまったものの、日本政府や企業、ファンドが2000年代に真剣に取り組んだ産業再生の試みを知る上でも、また一人の現役経営者の記録としても非常に面白い良著であることは間違いありません。

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