2021年3月20日土曜日

第233回:「約束の海」山崎 豊子

レーティング:★★★★★★☆

前回の投稿からほぼ5ヵ月が経過してしまいました。この間の読書量は大きく低下してしまっていました。仕事環境が激変し、身の回りのことをする時間が極端に増え、移動時間が減るなど本を読む時間がどんどん削られました。しかしながら、今になって少し落ち着いて本を読む時間ができたことは良い印しだと思いますし、これからは少しゆっくりと読書をする時間を意識的に持てればと思います。

さて、久々の一冊は山崎さんの遺作となってしまった約束の海です。小さいころに世間をにぎわし、それを幼心で見ていて衝撃を受けたニュースはいくつかあるのですが、たとえば日航機の墜落、チェルノブイリ、そして潜水艦なだしおの衝突事故でした。それらの事故が持つ社会的な意味合いは当時よくわかりませんでしたが、連日、生々しく放送されるテレビを家族でよく見ていましたし、その痛ましさはもちろんのこと、こういうことが身近に起こったらどうしようという不安を漠然と抱いたことを思い出します。

本作は山崎さんらしく、太平洋戦争初日の真珠湾攻撃から、なだしお、そして日本近海における外国勢力とのせめぎあいを取り上げながら、青年の成長と人生を描くという一大叙事詩となっています。三部作が想定されていたということで、第一部で終わってしまったことは本当に残念ですが、こういうスケールの大きな作品で山崎さんが最後に問いたかったことの重みは十分に伝わってきます。テーマ設定もそうですし、どのような題材に心を動かされておられたかというのを読むと、どこまでも人間的な優しい視点を持った作家でらっしゃったことを感じます。取材は綿密を極め、長い年月と考えられない費用が投じられていたようです。こういう作品を生み出していける作家はほとんどにいなくなってしまったように感じられるのが寂しいところです。山崎さんの本はまだ読めていない代表作が数冊あるのでそれらについても順次読み進めたいと思います。

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