2021年12月11日土曜日

第241回:『プライベートバンカー』清武 英利

レーティング:★★★★★☆☆

知り合いと飲みに行っていたときに、ちょうどその店がこの小説の舞台の一つになっていると聞き、買ってみました。シンガポールを舞台に日本の富裕層とそれを顧客とするプライベートバンカーたちが何を考え、そして日本の金融当局がどのように課税を強化してオフショアへの富の移転とせめぎあっているか、そういう話になっています。小説のようですが実名ノンフィクションとなっており、確かに文体も独特でドキュメンタリーのような小説のような感じです。

シンガポールの狭い国土で繰り広げられるやりとりが身近に感じられ、同国になじみのある方々には面白い内容ではないでしょうか。本書に名前が出てくるプライベートバンクは最初架空のものかと思っていましたが、この前オフィスビルを発見し、本当に実在することが分かりました。初刊が2016年ということで、日本の富裕層の状況も変わってきており、さらには本書でも詳細に触れられている通り日本の金融当局の締め付けも進んでいるということで、この2021年ではまた違う状況になっているんだろうと想像しますが、それでも外資系金融機関には日本人のプライベートバンカーが複数いらっしゃり、やはりそれなりの富裕層やその資産管理が行われているのだろうと思います。

また、日本人相手に限らずファミリー・オフィスといって世界中の資産家の資産運用を行う小規模な運用会社が数多く立ち上がっており、また、シンガポール政府もこの動きを促進しているため、今後も金融資産のセーフヘブンとしてのシンガポールの地位はますます向上していきそうです。プライベートバンクに預けるような資産のない私には全く無縁の世界ですが、こういう世界もある、というのは知識としてはなかなか知られて面白かったです。

本年もあっという間に残り少なくなりましたが、もう1冊レビューをアップしていない本があるのでそちらも年内に上げたいと思います。

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