2018年9月1日土曜日

第195回「より速く、より遠くへ!ロードバイク完全レッスン」西 加南子

レーティング:★★★★☆☆☆

今回もソフトバンク新書の一冊です。全く知りませんでしたが、西さんは38歳で全日本選手権(2009年)を初優勝された遅咲きのロードレーサーであり、いまも現役で活動を続けているプロ選手ということです。もともとトライアスロンをされていたようですが、自転車が合っているということで特化し、2009年ころまでは派遣社員と二足の草鞋を履いて活動をされていたとのこと。

そんな西さんがアマチュアであり、かつどんどん能力を高めたい、あわよくばレースにも出てみたいというロードバイク乗り向けに書かれた一冊となります。とても平易な文章で段階を追って説明がありますし、さらには日中働いている人を想定した現実的な内容であるため、とても参考になります。どうやって50Km、100Kmと距離を伸ばしていくか書いており、さらに家ではローラーを使って平日こなし、また休息を十分に取ることは強調されています。また、疲労が心拍数である程度わかるというのは目からうろこであり、自分も実際図ってみたい気になりましたが、いかんせんツールをどうするのかと基礎心拍数からまず図らないといけないので、なにか探してみたいと思います。

初級からステップアップしていこうという方にはうってつけと思われます。今の自分にはここまでやる時間が残念ながらないので、すこし余裕が出来たらいろいろとトライしてみたいところです。

2018年8月18日土曜日

第194回:「アラフォーからのロードバイク」野澤 伸吾

レーティング:★★★★★☆☆

前回レビューから1ヵ月弱も空いてしまいました。この夏は仕事もなかなか減らず、家でなんやかやとやることが多く、読書ペースが上がりません。今年は年後半に向けて更に忙しくなる見込みなので、来春までは腹を括って読めるときに散発的に読むしかなさそうです。

そんななか、今春から運動不足を少しでも解消するためクロスバイクに乗って近所のサイクリングロードなどを走っていますが、思いのほか面白く長続きしています。サイクリングロードは車で並走することはありましたが、実際に自分で走るとこれまた見晴らしもよく爽快で、クロスバイクでも2時間半くらいで40Kmくらい移動できることが分かってきました。サイクリングロードを走っているのは、ロードバイク6割、クロスバイク2割、歩行者・ランナー・ママチャリ2割といった構成ですが、ロードバイクとクロスバイクには見た目以上の圧倒的な速度の差があり、年配の方やかなりメタボっぽい方にもぶっちぎられます。速度でいうと私はだいたい時速20Km程度で巡航しますが、ロードバイクは無理なく時速30Kmはでているようで、少し力を込めると恐らく40Km近くは出ているのではないでしょうか。

クロスバイクは扱いやすいですし、そこまで高価でもないので街乗りも含めて気楽に楽しめるのでこれはこれで十分満足なのですが、ロードバイクの凄さの秘密に触れたいと思って借りてきたのが本書です。ワイズロードというスポーツバイク専門店の人が描いた本で、その仕組みから乗り方、楽しみ方まで丁寧に書いてあり、新書という意外な形式ではありますが、絵も入っていて楽しい構成です。チェーンは走った後に必ず乾拭きするとか、ケイデンスを一定にする、高性能かどうかより自分の使いたいスタイルで機材を選ぶなど、なるほどと思うものや知らなかったということもあり、なかなかです。ちなみに本書は見慣れないカバー(表紙)だとおもったら、ソフトバンク新書というところからでているということです。2013年6月発行です。

2018年7月28日土曜日

第193回:「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」新井 紀子

レーティング:★★★★★★☆

今年のベストセラーの中の一冊であり、AIという旬のネタと子供の読解力という親の関心事をうまく組み合わせたタイトルの一冊です。AIについてはよくニュースや新聞などで目にし、2000年代前半のドットコムバブルを彷彿とさせるAIバブルが起きていることから、結構関心がありました。また、子供の読解力については親としてもそうですし、ゆとり教育やスマホといった子供たちの学力に影響を及ぼしそうな要素がいろいろとある中で、どうなっているのかという関心もありました。

本書は前半でとても分かりやすくAIを使って企業や研究者がなにをしようとしているのかを説明したうえで、同時にAIの限界がどこにあるのかを自らの研究を通じて論じていきます。帯にあるように、AIができることとできないことは相当分かってきているようで、その意味で過大な妄想をAIに持つべきではないが、産業や医学等において大きな影響力を持ってくるであろうことも述べています。後半は衝撃的なリサーチですが、日本人の中学生、高校生の日本語の読解力がかなり低いレベルにあることを説き起こしていきます。驚愕すべきことは、学力上位といわれる学校でもそれなりの読解力しかないこと、更には社会人でも同様のこと。これは日本社会全体の知的レベルや意味を理解する力が低い状態にあるということで、読んでいるもの、話していることが正しく伝わっていない可能性が示唆されています。そうすれば、AIは部分的にはこれを凌駕する力をつけているので、部分最適でAIが人間の仕事の一定の部分を奪っていくリスクが現実化していることが説明されます。

詳細は本書をぜひ読んでいただきたいところですが、本書の素晴らしいところは著者の志の高さと知的な誠実さです。ありがちなAI関連本の煽りは一切なく、エビデンスを使って冷静に分析をしていきます。なぜ日本人の読解力が低いのかは謎であり、そこがとてももどかしいところですが、この解明は次作に期待したいと思います。1点読んでいてわからなかったのは、読解力に関する長期的なデータがないため、今の低い読解力が経年でどう変化しているのかという点です。今の読解力が高くないのは分かりましたが、昔に比べて低くなっているのか高くなっているのかがわからず、そこは評価しづらいところかと思います。

2018年7月22日日曜日

第192回:「セラピスト」最相 葉月

レーティング:★★★★★★★

最相さんは数年ごとにコンスタントに労作を世に出す、ノンフィクション作家として知られており、出世作は『絶対音感』です。私は『絶対音感』は読んでおらず、ただ、自分の好きな星新一の評伝を書いてたなという程度の認識しかありませんでした。前回(第191回)でレビューした故・河合さんの本と同時に借りたのが、初めて最相さんの本を読む機会となりました。

ノン・フィクションは色々なジャンルの中でも好きですが、読んでみるとやたら浅いものやいろいろなネタ本のホッチキス止めのようなものが多い中で、本書を一読し、最相さんが以下に長い時間をかけて丁寧に取材し、またバックグラウンドの勉強や資料収集を怠りなく進め、更に本作について切実な動機をもって執筆に当たったのかがよくわかりました。ほかの作品は読んでいませんが、きっと素晴らしいクオリティの作品を書かれているのではないかと思われ、ぜひ読んでみたいと思います。

本書は体験的ノン・フィクションとでもいうべきものであり、自ら箱庭療法を体験し、更に心理学についての専門的な教育を受けながら進んでいきます。戦後日本の心理学が、占領後の一部の大洗の教育機関、さらにそこに関係した米国のクリスチャンから齎されたこと。米国、スイスに学んだユング派の河合先生が臨床心理士として、ユング的な考え方やカウンセリングのアプローチを持ち込んだこと。臨床心理士(今後は国家資格として心理師)のワークや日本の医療改善に取り組んだ人々。さらに箱庭療法の実際。色々と俯瞰しながら、現代医療の問題点や障碍者福祉(そして社会復帰)までの取り組みを紹介するもので、非常に高い見地や広い視野と同時に地に足の着いたルポが組み合わされ、現代社会論としてもとても面白い一冊です。

最後に河合さんや臨床心理士たちの書いたケースが断片的に紹介されていますが、とても面白いです。人間って不思議な存在なのだとつくづく思います。広く推奨できる一冊であり、ご関心の向きはぜひ読んでいただければと思います。非常に分厚いですが、文章もとてもよく推敲され、読みやすいので時間は余りかかりません。

第191回:「生きるとは、自分の物語をつくること」小川 洋子・河合 隼雄

レーティング:★★★★★☆☆

本ブログでは類書も含めて何度かレビューしている、故・河合さんの対談本です。同氏が亡くなられた2006年の対談を収めたもので、『博士の愛した数式』で一躍有名になった小川洋子さんとのものです。本書は『博士の愛した数式』を最初に読み解きながら、数学科出身の河合さんの数学への愛も垣間見せつつ展開していきます。なかなかに趣のある対談で、博士と少年の間の友情がなぜ成立するか、能動的に誰かを変えようというのではないけれど、そこにともにいるということの重要性、受け入れがたいことを受け入れるときの物語の必要性、原罪と原悲、いとしみ。

対談は次回を約して第2回を終えたところ、河合さんが病に斃れることで途切れてしまいます。長いあとがきは河合さんの追憶と、小川さん自身が物語を作り出すことについて書き記すことで閉じていきます。アンネの親友であったジャクリーヌさんの夫のルートさんのエピソードも大変印象的です。

正直に書けば、本編はかなり短く、もっと対談を読んでみたかったという物足りない感じが残りますが、それは小川さんが一番感じているところでしょう。しかし、中身は非常に濃いもので物語やそれにまつわる心理学に関心のある方はぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

2018年6月24日日曜日

第190回:「山本五十六」阿川 弘之

レーティング:★★★★★★★

山本五十六は、日本の軍人の中では東郷平八郎、乃木希典あたりと同格の高い知名度を持っているのではないかと思います。今はそうでもないのかもしれませんが、私の小学校時代はまだプラモデルがそれなりに人気があり、軍艦や戦車、ゼロ戦といったものを幾つか作った記憶があります。その後、太平洋戦争の書籍をたまに図書館で借りて読んだりしていましたが、戦後に描かれた本は、ほとんどが海軍善玉説であり、陸軍=悪玉というわかりやすい描かれ方をしています。その主な理由は、2・26事件を主導したのが陸軍の青年将校であったこと、また明確な戦略がなく中国で戦線を拡大し、なし崩し的に三国同盟を推進したことで、米英との全面対決の構図を作ったことが挙げられます。

さて、本書はそのようにとかく善く描かれがちな海軍において連合艦隊司令長官(亡くなったのち元帥)を務めた山本五十六の評伝です。まずは本当に丹念に取材がなされており、また多くの先人の書物の上に作られていますので、とてもバランスが取れた内容になっています。山本氏が長岡の出身で、贔屓ともいえるとても強い郷土愛を持っていたこと、夫婦仲はよくなく、外に親密な女性を抱えていたことなど目にうろこの部分がかなりあります。また、昭和初期から軍縮交渉に携わり、米国、英国にも長期出張を含めてかなり滞在したことも恥ずかしながら知りませんでした。そういう国際的な経験を通じて、日本の国力の限界を理解していたがゆえに、開戦反対であったことはよく知られていますし、早くから艦艇に対して飛行機の有用性を意識していたことも有名です。

真珠湾攻撃は、山本氏の短期決戦、早期講和を目指す考えから出てきており、機動部隊で米国海軍の本拠地を叩くという本当に野心的な作戦でした。結果的に空母を叩けなかったわけですが、相当の成果を上げました。その後の連合艦隊司令長官は、正直に言えばあまり積極的に指揮を執っているわけでもなく、大和に蟄居するような形で日を過ごしていたようです。惜しむらくは、空母を中心とした機動部隊の有用性に気づきながら、その活用がその後は必ずしもされなかったこと(サンゴ海海戦などは別として)、更には司令長官の問題ではありませんが、自身の死の原因にもなる暗号解読の重要性に気づかず、ミッドウェー海戦を迎えたことです。

とは言え、これらはすべて敗戦後のタラレバの世界の話であり、後世の私たちが偉そうに論評する話でもなく、できるとしたらどういう教訓を読み取れるかよく考えるくらいでしょうか。人物としては、故郷を愛し、新しい用兵法や作戦を考案し、部下や理知的な考えを好む極めて尊敬できる方だったことが分かります。また、阿川氏のバランスの取れた論考、タブーなく描きたいという姿勢に頭が下がります。阿川氏の書いた「井上成美」も読んでみたいと思います。

2018年6月2日土曜日

第189回:「羊をめぐる冒険」村上 春樹

再び村上さんの足跡を辿る第3弾です。本書は村上さんの長編作家としての立場を確立したといっても過言ではない初期の初長編であり、内容としても前2作に比べてぐっとシリアスになり、深みを増しています。また、カルト集団や歴史的な物語(特に昭和初期の満州)がモチーフとして出てきます。本書の主な舞台は都内と北海道ですが、私はこれを読んだ高校時代は北海道に行ったことがな、強い憧れを抱いたのを覚えています。その分、札幌や函館、小樽に行く機会が得られたのは本当に嬉しかったです。

本書の面白さは、現世のものと現世でないものが融合して出てくるところです。詳細は書けませんが、(下)で出てくる丘の上での邂逅は本当に感動的であり、歴史的なシーンだと思います。また、いろいろと回収されない謎があり、たとえば「ガールフレンド」はなぜどこに行ってしまったのか、「羊」という不気味な存在の狙いは何なのか、どうして「羊男」という形をとる必要があったのか・・・。

それなりの長さなので久々に読みましたが、下巻からは2002年2月にロンドンに一人従兄を訪ねて行った時の栞がでてきましてこれまたとても懐かしくなりました。どうもその時に機内で読んでいたようです。映画のチケットの半券でもうそんな映画を見たことも忘れていましたが、雨に濡れた寒い夕方に映画館に行ったことを思い出しました。イヌイットの映画でした、なんでこの映画を見に行ったのか。