レーティング:★★★★★☆☆
第142回(2016年3月)に前作(「大人の流儀6」)をレビューしていますが、伊集院さんのエッセーはそれ以来です。内容は前作までと重なる部分が多く、東日本大震災、老犬のこと、銀座のこと、飲みすぎた話などではありますが、意外と今回は重複感が少なく、またどういう運命にあっても不運と思ってはいけない、とりわけ早逝した人や震災などで心ならずも亡くなった方などに対して、周りもそう思ってはならない、供養にならない、というメッセージに貫かれています。
幸いなことに、私には近しい人で災害などで亡くなった人はいませんが、この年になると早くなくなった友人もいます。彼がなんで早く逝ってしまったのかと考えることはたびたびありましたし、生きていてほしいと思ったことも、また生きていればこんなこともできたんだろうな、と感じてしまうことがありました。ただ、それは考えても仕方ないことですし、生きる者とても一方的な感傷に過ぎないことは頭ではわかっていたのですが、なにかもやもやと割り切れないものがありました。
色々と心を打つフレーズがあるのですが、「憤ってはいけない。不運だと思ってはいけない。不運な人生などどこにもないんだ。」という恩師の話の下りや、「天命とたやすくは言わぬが、短い一生にも四季はあったと信じているし、笑ったり、喜んでいた表情だけを思い出す。」あたりはとても味わいがあります。本作は故立川談志師匠、銀座のバーテン(ハヤさん)、お手伝いのサヨなど、とても魅力的な人々の話が出てきます。本シリーズが売れるわけがよくわかる一冊でアラフォー以上の方に強くお勧めです。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2017年5月21日日曜日
2017年4月26日水曜日
第167回:「騎士団長殺し」村上 春樹
レーティング:★★★★★★★
前回の投稿から2か月ほど空いてしまいました。仕事や休暇などでこれだけの期間本を読み終わらなかったのは久しぶりです。大丈夫と思っていても、本をなかなか読み進められないくらい疲れていたのかもしれません。月初に湖畔に2日いって、かなり回復してきて、この本当に楽しみにしていた一冊を読みました。このブログは僭越ながら読んだ本を最高7点で評価しているのですが、8点を付けたいくらい、とても素晴らしい出来の作品でした。
正直にいってAmazonの評価は相当低いですが、これは村上さんの作品に非常に典型的な現象であり、デビュー当時から激しく評価の割れる作家であったかと思います。私は中学時代、たぶん3年生の時に出会ってからもうかれこれ相当の年月愛読していますが、本作は温故知新的な懐かしいモチーフを多数下敷きにしながら、東日本大震災に触れ、大人と少女の力強い成長を描く意欲作だと思います。以前、村上さんはロシア小説のような全体小説を書いてみたいんだ、ということをどこかで書かれていましたが、騎士団長というモチーフはそういう布石かなと感じるところもあります。
ネタバレになりますが、物語は中年か中年手前といってよい男の話から始まります。古びた車でめぐる北への旅はとても哀切な感じがします。まさに精神的な死線をさまよう様な旅となります。そして神奈川に落ち着き、再び絵を・・。また、ここで現れる年上の男性は名前からして過去の作品を想起させるもので、ハルキストとして否応にも気分が盛り上がります。ここらへんで物語はすこしスローペースになりますが、騎士団長の登場で想像もしない方向に話が触れていきます。ここからはおなじみの地下、穴、集合無意識といったモチーフがふんだんに盛り込まれつつ、その中心に少女が座ります。そしてラストの少女の話、男の再生はとても力強く爽やかであり、自分、他者、運命といったものを信じぬくことという大きなテーマに挑んでいます。
なんでこういう前向きな力強い、生命の賛歌といってもよいような作品になったのでしょうか。当然ですが作者の年齢や心境の変化を感じざるを得ません。おそらくとてもポジティブな人生観や世界観の進化があったのではないかと思っています。そして歴史的なエピソードが(賛否両論あると思いますが)率直に盛り込まれてきています。なにかに遠慮する必要はないのだという作者の吹っ切れた感じを受けます。中国大陸でのエピソードには、日本人であれば相当抵抗感がある人はいると思いますし、私も作者のような味方に与しないタイプですが、それはそれとして一つの味方ですし、それを作品の中で表していくこと自体に大きな抵抗を感じることはありませんでした。
ハルキストとして好きな作品は尽きませんが、今までの長編の中でも3本の指に入るものと感じており、前作「多崎つくる」、前々作「1Q84」をはるかに超えてきていると思います。
前回の投稿から2か月ほど空いてしまいました。仕事や休暇などでこれだけの期間本を読み終わらなかったのは久しぶりです。大丈夫と思っていても、本をなかなか読み進められないくらい疲れていたのかもしれません。月初に湖畔に2日いって、かなり回復してきて、この本当に楽しみにしていた一冊を読みました。このブログは僭越ながら読んだ本を最高7点で評価しているのですが、8点を付けたいくらい、とても素晴らしい出来の作品でした。
正直にいってAmazonの評価は相当低いですが、これは村上さんの作品に非常に典型的な現象であり、デビュー当時から激しく評価の割れる作家であったかと思います。私は中学時代、たぶん3年生の時に出会ってからもうかれこれ相当の年月愛読していますが、本作は温故知新的な懐かしいモチーフを多数下敷きにしながら、東日本大震災に触れ、大人と少女の力強い成長を描く意欲作だと思います。以前、村上さんはロシア小説のような全体小説を書いてみたいんだ、ということをどこかで書かれていましたが、騎士団長というモチーフはそういう布石かなと感じるところもあります。
ネタバレになりますが、物語は中年か中年手前といってよい男の話から始まります。古びた車でめぐる北への旅はとても哀切な感じがします。まさに精神的な死線をさまよう様な旅となります。そして神奈川に落ち着き、再び絵を・・。また、ここで現れる年上の男性は名前からして過去の作品を想起させるもので、ハルキストとして否応にも気分が盛り上がります。ここらへんで物語はすこしスローペースになりますが、騎士団長の登場で想像もしない方向に話が触れていきます。ここからはおなじみの地下、穴、集合無意識といったモチーフがふんだんに盛り込まれつつ、その中心に少女が座ります。そしてラストの少女の話、男の再生はとても力強く爽やかであり、自分、他者、運命といったものを信じぬくことという大きなテーマに挑んでいます。
なんでこういう前向きな力強い、生命の賛歌といってもよいような作品になったのでしょうか。当然ですが作者の年齢や心境の変化を感じざるを得ません。おそらくとてもポジティブな人生観や世界観の進化があったのではないかと思っています。そして歴史的なエピソードが(賛否両論あると思いますが)率直に盛り込まれてきています。なにかに遠慮する必要はないのだという作者の吹っ切れた感じを受けます。中国大陸でのエピソードには、日本人であれば相当抵抗感がある人はいると思いますし、私も作者のような味方に与しないタイプですが、それはそれとして一つの味方ですし、それを作品の中で表していくこと自体に大きな抵抗を感じることはありませんでした。
ハルキストとして好きな作品は尽きませんが、今までの長編の中でも3本の指に入るものと感じており、前作「多崎つくる」、前々作「1Q84」をはるかに超えてきていると思います。
2017年2月25日土曜日
第166回:「死の淵を見た男」門田 隆将
レーティング:★★★★★☆☆
もうそろそろあれから6年が経とうとしている東日本大震災により、深刻な事故を引き起こした福島第1原発の話です。門田さんは優れた現代のノンフィクション作家であり、スポーツから歴史まで幅広く執筆を続けられています。とても冷静であり公平な評価をしようとする一方、深い情があり非常に優れた作品が多いと感じます。
本書のサブタイトルは、「吉田昌郎と福島第一原発の五00日」というものです。これがほぼすべてなのですが、あまり知られていない事故発生直前からその後の対応やかかわった方々のその後を描いた一冊です。吉田所長はほとんど文字通りの暗闇の状況から、現場の職員たちを指揮し、後方に一部は避難させ、どうしても必要なところについては命がけの処置を統括しました。また、ノンフィクションとして素晴らしいのは、こういった所長の言動だけでなく、本当に多くの人に直接取材をして、復旧班や発電班といった現場のチーフやその下の職員にも丁寧に聞き、どういう状況であったのかを掘り起こしているところです。
本書を読むと、原発事故の被害は想定されたシナリオの中でいえば、ほとんど最小限に抑えられたのではないかということ、またその功績はひとえに現場の頑張りや命を賭して対応した自衛隊員や消防隊員にあったことが見えてきます。ただし、本書でも述べられているように、だから原発は安全だ、今後も事故はないということではなく、むしろ同じことがまた起こった時にこの被害で終わるという保証はなく、原発を続けていく場合は規制委員会等ですでに規制強化がなされていますが、さらに死角のない対応をとっていくことが必要になるのでしょう。
終わりの方の青森から福島第1に働きに出て亡くなった方のエピソードなどは、痛切極まりないものがあります。そして、極限で踏みとどまり、覚悟を決めて原発や地域を救った人々の誇りの高さに感銘を受けるばかりです。原発への賛否はいろいろあると思いますが、とても心打たれる一冊です。
もうそろそろあれから6年が経とうとしている東日本大震災により、深刻な事故を引き起こした福島第1原発の話です。門田さんは優れた現代のノンフィクション作家であり、スポーツから歴史まで幅広く執筆を続けられています。とても冷静であり公平な評価をしようとする一方、深い情があり非常に優れた作品が多いと感じます。
本書のサブタイトルは、「吉田昌郎と福島第一原発の五00日」というものです。これがほぼすべてなのですが、あまり知られていない事故発生直前からその後の対応やかかわった方々のその後を描いた一冊です。吉田所長はほとんど文字通りの暗闇の状況から、現場の職員たちを指揮し、後方に一部は避難させ、どうしても必要なところについては命がけの処置を統括しました。また、ノンフィクションとして素晴らしいのは、こういった所長の言動だけでなく、本当に多くの人に直接取材をして、復旧班や発電班といった現場のチーフやその下の職員にも丁寧に聞き、どういう状況であったのかを掘り起こしているところです。
本書を読むと、原発事故の被害は想定されたシナリオの中でいえば、ほとんど最小限に抑えられたのではないかということ、またその功績はひとえに現場の頑張りや命を賭して対応した自衛隊員や消防隊員にあったことが見えてきます。ただし、本書でも述べられているように、だから原発は安全だ、今後も事故はないということではなく、むしろ同じことがまた起こった時にこの被害で終わるという保証はなく、原発を続けていく場合は規制委員会等ですでに規制強化がなされていますが、さらに死角のない対応をとっていくことが必要になるのでしょう。
終わりの方の青森から福島第1に働きに出て亡くなった方のエピソードなどは、痛切極まりないものがあります。そして、極限で踏みとどまり、覚悟を決めて原発や地域を救った人々の誇りの高さに感銘を受けるばかりです。原発への賛否はいろいろあると思いますが、とても心打たれる一冊です。
2017年2月19日日曜日
第165回:「歓喜する円空」梅原 猛
レーティング:★★★★★★★
円空や木喰は、日本を代表する仏師であり、とりわけ庶民に近い立場で伸び伸びとした親しみやすい仏像を多数残したことで知られています。昔から寺や神社に行くのが好きで、その流れで仏像も面白いなと思い、社会人になってから仏像関係の本をたまに読んだり買ったりしているのですが、この一冊は昭和最強の知性(と勝手に思っている)梅原さんの晩年期の力作です。梅原さんの本は久々に読みましたが、晩年らしい円熟と円空への限りない愛情を感じます。基本的に学術的な内容ですが、時代を追いながら作品の変遷に迫り、また通常仏像ばかりと思われている円空の絵画や和歌も多数収録し、多面的な分析がなされていきます。
円空の生涯は深い陰影を残すに至る苦難の連続と、生きること、彫ること、仏教に帰依することの喜びという一見相反する、しかし表裏一体を成す2つの流れが併存しているように見受けられます。幼き日の母との別れ、地元での恩人であり親友であった人との別れ、壮絶な東北、北海道への旅、法隆寺での修行、白山信仰や厳しい修行、写実的な創作から大胆かつシンプルな造形へ、そして後年には深い慈悲を感じさせる優しい作品へ。また、最後は覚悟の入定。目まぐるしく、まるで日本中を旅する円空の姿が目に浮かぶようなすぐれた作品です。
本書の面白いところは、過去の円空研究を踏まえ、学術的な観点から是々非々で厳密な評価を下されているところです。これを見ると民俗学的な研究には、おそらく相当のいい加減さや妄想に近いようなものが一部にはあるということです。しかしSTAP細胞であったり自然科学でも例外ではなく、むしろ研究や調査といったものについては、それなりに批判的精神をもって対峙しないといけないことも、梅原さんは教えてくれる気がします。とても優れた一冊で、円空についてこれだけのクオリティを持った著作はもう出ないものと思われ、文句なしの最高レーティングです。
円空や木喰は、日本を代表する仏師であり、とりわけ庶民に近い立場で伸び伸びとした親しみやすい仏像を多数残したことで知られています。昔から寺や神社に行くのが好きで、その流れで仏像も面白いなと思い、社会人になってから仏像関係の本をたまに読んだり買ったりしているのですが、この一冊は昭和最強の知性(と勝手に思っている)梅原さんの晩年期の力作です。梅原さんの本は久々に読みましたが、晩年らしい円熟と円空への限りない愛情を感じます。基本的に学術的な内容ですが、時代を追いながら作品の変遷に迫り、また通常仏像ばかりと思われている円空の絵画や和歌も多数収録し、多面的な分析がなされていきます。
円空の生涯は深い陰影を残すに至る苦難の連続と、生きること、彫ること、仏教に帰依することの喜びという一見相反する、しかし表裏一体を成す2つの流れが併存しているように見受けられます。幼き日の母との別れ、地元での恩人であり親友であった人との別れ、壮絶な東北、北海道への旅、法隆寺での修行、白山信仰や厳しい修行、写実的な創作から大胆かつシンプルな造形へ、そして後年には深い慈悲を感じさせる優しい作品へ。また、最後は覚悟の入定。目まぐるしく、まるで日本中を旅する円空の姿が目に浮かぶようなすぐれた作品です。
本書の面白いところは、過去の円空研究を踏まえ、学術的な観点から是々非々で厳密な評価を下されているところです。これを見ると民俗学的な研究には、おそらく相当のいい加減さや妄想に近いようなものが一部にはあるということです。しかしSTAP細胞であったり自然科学でも例外ではなく、むしろ研究や調査といったものについては、それなりに批判的精神をもって対峙しないといけないことも、梅原さんは教えてくれる気がします。とても優れた一冊で、円空についてこれだけのクオリティを持った著作はもう出ないものと思われ、文句なしの最高レーティングです。
第164回:「「カエルの楽園」が地獄と化す日」百田 尚樹、石 平
レーティング:★★★☆☆☆☆
この標題からわかる通り、『カエルの楽園』という百田さんの本がベースとなっており、同書を読んだ石さんが百田さんに対談を申し込んで始まった一冊です。『カエルの楽園』を読んでいないので、なんだか順序が逆になってしまっているのですが、こちらもいつか読んでみたいと思います。ちなみに『カエルの楽園』は寓話形式で書かれているようで、要は現在の極東や日本の外交、政治情勢を大胆な予測を交えて描いているようです。
さて、本書は保守系の著作を多く書いている百田さんと日本に帰化した元中国人の石さんの2日に亘る対談を取りまとめています。百田さんはここ数年話題の作家です。いろいろと賛否両論ある方ですが、中国については強い関心を持っているようです。前半は今の日本の政治状況や中国からひしひしと受ける軍事的なプレッシャー(尖閣など)についての認識が語られていき、尖閣や沖縄を突破口として、日本全体に対する軍事的な野心について強く警鐘を鳴らす内容となっています。
後半部分についてはかなりの予測が含まれているので、私にはあっているのかどうなのかよくわかりませんが、しかしながら石さんが描いている通り過去のウイグル族やチベット族への支配は確かに苛烈なものであり、日本が仮にこういう少数民族のような立場に置かれればとても厳しい立場になることは想像ができます。他方、日本はそういう状況に容易に陥る状態にはないことも同時に事実かと思います。
この前の日米首脳会談では、尖閣諸島が安保条約の対象足りうるかを一つの最重要ポイントとして確認していったように、確かに極東の情勢は昨今かなり緊迫の度合いを増している感じはします。
この標題からわかる通り、『カエルの楽園』という百田さんの本がベースとなっており、同書を読んだ石さんが百田さんに対談を申し込んで始まった一冊です。『カエルの楽園』を読んでいないので、なんだか順序が逆になってしまっているのですが、こちらもいつか読んでみたいと思います。ちなみに『カエルの楽園』は寓話形式で書かれているようで、要は現在の極東や日本の外交、政治情勢を大胆な予測を交えて描いているようです。
さて、本書は保守系の著作を多く書いている百田さんと日本に帰化した元中国人の石さんの2日に亘る対談を取りまとめています。百田さんはここ数年話題の作家です。いろいろと賛否両論ある方ですが、中国については強い関心を持っているようです。前半は今の日本の政治状況や中国からひしひしと受ける軍事的なプレッシャー(尖閣など)についての認識が語られていき、尖閣や沖縄を突破口として、日本全体に対する軍事的な野心について強く警鐘を鳴らす内容となっています。
後半部分についてはかなりの予測が含まれているので、私にはあっているのかどうなのかよくわかりませんが、しかしながら石さんが描いている通り過去のウイグル族やチベット族への支配は確かに苛烈なものであり、日本が仮にこういう少数民族のような立場に置かれればとても厳しい立場になることは想像ができます。他方、日本はそういう状況に容易に陥る状態にはないことも同時に事実かと思います。
この前の日米首脳会談では、尖閣諸島が安保条約の対象足りうるかを一つの最重要ポイントとして確認していったように、確かに極東の情勢は昨今かなり緊迫の度合いを増している感じはします。
2017年1月28日土曜日
第163回:「幸せになる勇気」岸見 一郎、古賀 史健
レーティング:★★★★★☆☆
本書の1作目に当たる「嫌われる勇気」はベストセラーになったようで、まだ書店で時折見かけます。この作品はその続編という位置づけのようで2016年の2月に刊行されました。図書館でずいぶん長く待って今月読みましたが、内容としては前作を要約しながら、より掘り下げてアドラーの考え方や現実世界でどう実践していくかということが書かれています。
アドラーは本書でもフロイト、ユングに次ぐ心理学者の一人と書かれていますが、その評価は(日本だけなのかもしれませんが)よくわかりません。そもそも研究対象としているものがかなり違う感じがします。アドラーはむしろ社会心理学のような人と社会のつながりにフォーカスを当てているようで、哲学的な趣があります。
さておき、本書はアドラーをほとんど知らない私にとってとても面白いものでした。備忘的に書くと、アドラーは行動面の目標として、①自立すること、②社会と調和して暮らせることを掲げ、そのための心理面の目標として、①わたしには能力がある、という意識、②人々は私の仲間である、という意識を掲げているそうです。どれもごくまっとうです。また、他者に対しては尊敬を持つこと、すなわち「人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のこと」(エーリッヒ・フロム)が肝心であり、更に条件付けを伴う「信用」と無条件の「信頼」は大きく異なるものであり、後者は結局自分への信頼がないとできないことなどが説明されます。ほかにも人生の主語として「私」を超越していくことの重要性や承認欲求の奴隷にならないこと。過去は実際は存在しないに近く、都合よく引っ張り出すことで、今、これからなにかをしないことの言い訳にしない、など色々と耳の痛い言葉が並びます。なお、教師や親は生徒や子供を褒めない、叱らないというのもユニークで面白いと思います。結局これらの行為は依存を深め、結局人は自分でしか変わらないということを喝破します。それよりは尊敬し、寄り添うのだ、ということを説きます。ここは人間関係の問題は「課題の分離」、すなわち誰の問題か、ということで処理できるというアドラーの考え方にも通じています。
少し理想主義にすぎるきらいはありますが、とてもシンプルで正論ですが深い内容だと思います。1作目は読んでいませんが、多くの人の心をつかんだ理由が分かります。ぜひおすすめの一冊です。
本書の1作目に当たる「嫌われる勇気」はベストセラーになったようで、まだ書店で時折見かけます。この作品はその続編という位置づけのようで2016年の2月に刊行されました。図書館でずいぶん長く待って今月読みましたが、内容としては前作を要約しながら、より掘り下げてアドラーの考え方や現実世界でどう実践していくかということが書かれています。
アドラーは本書でもフロイト、ユングに次ぐ心理学者の一人と書かれていますが、その評価は(日本だけなのかもしれませんが)よくわかりません。そもそも研究対象としているものがかなり違う感じがします。アドラーはむしろ社会心理学のような人と社会のつながりにフォーカスを当てているようで、哲学的な趣があります。
さておき、本書はアドラーをほとんど知らない私にとってとても面白いものでした。備忘的に書くと、アドラーは行動面の目標として、①自立すること、②社会と調和して暮らせることを掲げ、そのための心理面の目標として、①わたしには能力がある、という意識、②人々は私の仲間である、という意識を掲げているそうです。どれもごくまっとうです。また、他者に対しては尊敬を持つこと、すなわち「人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のこと」(エーリッヒ・フロム)が肝心であり、更に条件付けを伴う「信用」と無条件の「信頼」は大きく異なるものであり、後者は結局自分への信頼がないとできないことなどが説明されます。ほかにも人生の主語として「私」を超越していくことの重要性や承認欲求の奴隷にならないこと。過去は実際は存在しないに近く、都合よく引っ張り出すことで、今、これからなにかをしないことの言い訳にしない、など色々と耳の痛い言葉が並びます。なお、教師や親は生徒や子供を褒めない、叱らないというのもユニークで面白いと思います。結局これらの行為は依存を深め、結局人は自分でしか変わらないということを喝破します。それよりは尊敬し、寄り添うのだ、ということを説きます。ここは人間関係の問題は「課題の分離」、すなわち誰の問題か、ということで処理できるというアドラーの考え方にも通じています。
少し理想主義にすぎるきらいはありますが、とてもシンプルで正論ですが深い内容だと思います。1作目は読んでいませんが、多くの人の心をつかんだ理由が分かります。ぜひおすすめの一冊です。
2017年1月15日日曜日
第162回:「砂のクロニクル」船戸 与一
レーティング:★★★★★★★
あけましておめでとうございます。本年のレビュー第1作となります。本書は、私が昨年下期を使って読んだ大作「満州国演義」を書かれた船戸さんの代表作となります。上下2巻(文庫)で読みましたが、とても密度が濃く面白い作品に仕上がっており、まさに代表作という感じです。
今回の主人公はクルド人です。私がクルド人という言葉を初めて聞いたのは湾岸戦争のあたりだったと思います。なんでもイラクにはクルド人という少数民族が居て、サダム・フセイン政権がそれはそれは弾圧しているというニュースを聞いたことがありましたが、詳細はよく知りませんでした。本書はイラン革命あたりから話が始まりますが、イラン・イラク戦争においても重要なプレーヤーとして登場し、国家を持たない悲劇の民族として存在していることを知りました。
あまり書くとネタバレになりますが、イランに潜入しているある日本人とロンドン・モスクワを舞台に活躍する日本人がカギを握ります。やや非現実的な設定ではありますが、悲壮なクルド・ゲリラやイラン国内の活動家とイランの国家を支える革命防衛隊などとの厳しいせめぎあいが続きます。中東の紛争は(多くの紛争がそうですが)とても残酷で悲惨なイメージがありますが、まさにそれを地で行く救いのない展開が続いていきます。本書に深みを出しているのは、クルド人活動家の観点、革命防衛隊の視点、日本人からの見え方が同時並行的に進んでいくところです。
下巻は実際の武器密輸取引の実行段階に入ります。スケール大きく、ロシアやカスピ海が出てきて、主要な登場人物が集結して息もつかせぬ展開となります。ここらへんの重々しい持っていき方は船戸さんの超一流の技術であり、本当に読ませます。なお、本作は石井光太さんの解説も秀逸です。立場では極端な人ばかりが出てきて良し悪しとは別の次元になりますが、革命防衛隊はイスラム革命に、クルド人はクルドの独立に、ゾロアスター教徒は宗教再興に、武器商人は商人としての信念にそれぞれ殉じていき、そのぶれなさに本書のフォーカスがあるように思います。なお、1992年の山本周五郎賞受賞作品ということです。
あけましておめでとうございます。本年のレビュー第1作となります。本書は、私が昨年下期を使って読んだ大作「満州国演義」を書かれた船戸さんの代表作となります。上下2巻(文庫)で読みましたが、とても密度が濃く面白い作品に仕上がっており、まさに代表作という感じです。
今回の主人公はクルド人です。私がクルド人という言葉を初めて聞いたのは湾岸戦争のあたりだったと思います。なんでもイラクにはクルド人という少数民族が居て、サダム・フセイン政権がそれはそれは弾圧しているというニュースを聞いたことがありましたが、詳細はよく知りませんでした。本書はイラン革命あたりから話が始まりますが、イラン・イラク戦争においても重要なプレーヤーとして登場し、国家を持たない悲劇の民族として存在していることを知りました。
あまり書くとネタバレになりますが、イランに潜入しているある日本人とロンドン・モスクワを舞台に活躍する日本人がカギを握ります。やや非現実的な設定ではありますが、悲壮なクルド・ゲリラやイラン国内の活動家とイランの国家を支える革命防衛隊などとの厳しいせめぎあいが続きます。中東の紛争は(多くの紛争がそうですが)とても残酷で悲惨なイメージがありますが、まさにそれを地で行く救いのない展開が続いていきます。本書に深みを出しているのは、クルド人活動家の観点、革命防衛隊の視点、日本人からの見え方が同時並行的に進んでいくところです。
下巻は実際の武器密輸取引の実行段階に入ります。スケール大きく、ロシアやカスピ海が出てきて、主要な登場人物が集結して息もつかせぬ展開となります。ここらへんの重々しい持っていき方は船戸さんの超一流の技術であり、本当に読ませます。なお、本作は石井光太さんの解説も秀逸です。立場では極端な人ばかりが出てきて良し悪しとは別の次元になりますが、革命防衛隊はイスラム革命に、クルド人はクルドの独立に、ゾロアスター教徒は宗教再興に、武器商人は商人としての信念にそれぞれ殉じていき、そのぶれなさに本書のフォーカスがあるように思います。なお、1992年の山本周五郎賞受賞作品ということです。
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