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2019年3月31日日曜日

第211回:「自転車三昧」高千穂 遥

レーティング:★★★☆☆☆☆

NHK出版から2008年4月(もう11年ほども前ですね)に出版された新書です。高千穂さんはSF作家だそうですが、50歳を過ぎて本格的にスポーツタイプの自転車に乗り始め、その良さについて色々な角度から書かれています。感心してしまうのは、単にMTB、ロードバイクといった単一の車種を乗りついているのではなく、ママチャリ、ミニベロ、ロードバイク、ピストバイクといった多種多様な自転車を試し、それらを場面に分けて柔軟に使いこなしているところです。なかなかそういう探求心のある方はいないと思います。

本書は、新書ということもあり、極めて平易な語り口で堅苦しいことはなく話が進んでいきます。ただし道路交通法や自動車、自転車乗りのマナー、さらには自転車に厳しい交通行政に触れる部分については、思い入れが強いのかかなり繰り返し熱く進行していきます。なお、最後の部分は競輪に触れている部分が結構あります。いまどき渋い種類のスポーツですが、読んでいると結構面白く興味がわきます(競輪は一度も行ったことはありませんが・・)。とてもゆるい調子の一冊ですが、どのチャプターも面白く、自転車全般に興味がある方にはとてもすらすら読める一冊だと思います。

2017年5月21日日曜日

第168回:「大人の流儀6 不運と思うな。」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

第142回(2016年3月)に前作(「大人の流儀6」)をレビューしていますが、伊集院さんのエッセーはそれ以来です。内容は前作までと重なる部分が多く、東日本大震災、老犬のこと、銀座のこと、飲みすぎた話などではありますが、意外と今回は重複感が少なく、またどういう運命にあっても不運と思ってはいけない、とりわけ早逝した人や震災などで心ならずも亡くなった方などに対して、周りもそう思ってはならない、供養にならない、というメッセージに貫かれています。

幸いなことに、私には近しい人で災害などで亡くなった人はいませんが、この年になると早くなくなった友人もいます。彼がなんで早く逝ってしまったのかと考えることはたびたびありましたし、生きていてほしいと思ったことも、また生きていればこんなこともできたんだろうな、と感じてしまうことがありました。ただ、それは考えても仕方ないことですし、生きる者とても一方的な感傷に過ぎないことは頭ではわかっていたのですが、なにかもやもやと割り切れないものがありました。

色々と心を打つフレーズがあるのですが、「憤ってはいけない。不運だと思ってはいけない。不運な人生などどこにもないんだ。」という恩師の話の下りや、「天命とたやすくは言わぬが、短い一生にも四季はあったと信じているし、笑ったり、喜んでいた表情だけを思い出す。」あたりはとても味わいがあります。本作は故立川談志師匠、銀座のバーテン(ハヤさん)、お手伝いのサヨなど、とても魅力的な人々の話が出てきます。本シリーズが売れるわけがよくわかる一冊でアラフォー以上の方に強くお勧めです。

2016年3月27日日曜日

第142回:「大人の流儀5 追いかけるな」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

前作の『なぎさホテル』に続いて伊集院さんのエッセーとなります。すでにこのシリーズは4冊、昨年末にレビューしていますが、本書は2015年11月に出版されたもので、現時点での最新作となっています。いつもどおり歯に衣着せぬとても率直で面白い内容になっています。

いろいろと面白い記述があるのですが、まず野球で言うと松井氏のことは絶賛する一方、対談もしたイチロー氏のことについては相当懐疑的なところが面白いです。両選手はキャラの方向性がそもそもかなり違いますが、伊集院さんが直接的に指摘しているようにイチロー氏の発言がとても分かりにくく、日本語として難があるというところは個人的にはかなり同感です。偉大な選手ですが・・・。
あとは、スマホを四六時中、大人も子供もいじっている社会が異様であることも繰り返し言及しています。この点については自分も全くその通りだと同感する一方、暇があれば読んでしまう自分もいるので、その一員としては偉そうなことは言えません。最近気づいたのですが、朝の電車で新聞を読む人がほとんど皆無になりました。日経や産経は電子版に早くから力を入れていたので、ビジネスパーソンは結構スマホで日経などを読んでいるのかもしれませんが、ふと目に入る人は2チャンネルのまとめとか、パズルゲームなどが多いのはやや気がかりです。新聞を読んでいると偉いという話ではありませんが。あと、漫画を読んでいる人もいなくなりました。昔は1列8人並んでいたら、2人がジャンプやマガジン、2人が小説、2人が音楽、2人が昼寝というイメージがあったのですが、今は8人並んでいれば6人くらいすまほを見ているイメージです。これからは眼科が儲かる時代が来そうです。

本作は伊集院さんらしい、大人とは、男とはといった武骨な内容が前面に出ており、らしさを取り戻した一冊といっていいと思います。面白かったので、関心ある方にはお勧めです。

2016年3月12日土曜日

第141回:「なぎさホテル」伊集院 静

レーティング:★★★★☆☆☆

著者が20代後半から30代半ばまで過ごされた、逗子のホテル(今はないそうです)における暮らしやその時に出会った人たちについて書いた回想のような一冊です。小生でもないし随筆ともいえない不思議な文章ですが、著者にとって悩ましくも比較的穏やかな時代だったと見えて、強い思い入れを感じる文章となっています。様々な挫折を経てこのホテルに偶然到着された伊集院さんは、そのままホテル側の行為で7年間も逗留することになります。

この本の良いところは、たぶんその話自体が奇跡的な、ややもすると信じられないような前提に基づいているところにあります。すなわち、偶然いったホテルが寛容にも7年も止めてくれる、もちろん一定水準の料金は払っていたにせよですが。また、そこに出てくる支配人、漁師さん、各種のバイトの人などとの交流が穏やかで、読んでいても癒されるような感じを受けます。まさにこのホテルが伊集院さんに提供したのは、シェルターであり、病院のような機能ではなかったかと思います。また、小説家へはばたく前段階として(学生時代に続いて)相当の読書をこの期間にされたようですので、ナーサリーの役割もしていたのではないでしょうか。

正直にいえばもう少し細かいエピソードが多くあると、よりリアルに情景が浮かび上がってくる感じもしますが、追憶のスタイルなので、ややぼんやりとした記述に意図的にしているのかと思います。伊集院ファンにはお勧めの一冊です。

2015年12月27日日曜日

第134回:「許す力 大人の流儀4」伊集院 静

レーティング:★★★★☆☆

このところしきりにレビューしている伊集院さんのエッセーです。最新刊(5)は図書館での予約待ちで、とても人気があるようなので少し来るまでに時間がかかりそうです。それはそうと、この作品は過去に出てきた話の繰り返しが複数あり、さらに標題となっている許す力についてもパワーが不足していて読みどころがありません。伊集院さんが小さいころにいわれなき差別を受けたくだりなどは、もっと掘り下げればオリジナリティと迫真さが出てくると思うのですが、あまり触れたくないのか詳しく記述されるわけでもありません。

こういうエッセーは、長編と違って作家がコンスタントに書きやすいものですし、これだけのヒットシリーズであれば雑誌側もたとえ惰性になったとしても手放したくないでしょうから、相当程度続くのではないでしょうか。しかし私が一気に1~4まで読んでしまったせいか、結構飽きが来ます。1週間に一回しかない雑誌の連載を5年分くらい一気に読んできたので、そういう評価は作品の読み方として適切ではないかもしれませんが・・・。

おそらく本作品が今年中にレビューする最後の一冊になるかと思います(もしかしたらもう一冊読み終わるかも)。もう5年もちょっとづつアップしていると、いつの間にかどのページであれアクセスが増えてくるもので(引っかかる作品が増えるので当然ですが)、私の拙いポストで少しでも役に立っているとよいのですが。標題にもあるとおり、どこまでいっても個人の読書記録というのがメインですので、作品含めて偏っていると思いますが。

関係ないのですが、DVDはほとんど借りないのですが、たまたま蔦屋で目に入ったクリント・イーストウッドの最後の主演作品「グラントリノ」を借りて昨日見ました。正直言ってとても心動かされる素晴らしい作品でした。いろいろな複雑さや要素が含まれていますが、主人公の男気に打たれます。人生万事塞翁が馬、という感じのする作品です。

2015年12月20日日曜日

第133回:「別れる力 大人の流儀3」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

伊集院さんの三冊目です。書評としては前二冊とかなり似通った内容になってしまうのですが、引き続き著者のいろいろな思いが詰まっています。故・夏目雅子さんとの死別もそうですが、いねむり先生との別れなど、様々な人生における別れにフォーカスしていますが、もともとが雑誌の連載ですので、それ以外の普通のコンテンツもたくさんあります。

三冊目ともなるとやや感想が薄れてくるのですが、この本の時期の伊集院さんは東日本大震災の後ということもあり、少し内省的な気がします。沈んでいる気がします。伊集院さんに限らず、2011年はもとより2012年も2013年も日本全体としてそういう傾向がありましたが・・・。しかしこのシリーズはネット上での評判を見ていると、結構怒りというか反感の声が上がっている(まあよほどの感慨を持った人でないとわざわざアマゾンに書き込んだりしないものでしょうが)ものの、とても売れ行きの良いシリーズのようで、伊集院さんの代表作ともなりつつある感じがします。

さて、年が明けると間もなく成人式ですね。毎年成人の日の朝刊に乗せられる伊集院さんの短文を楽しみにしているのですが、来年はどんな内容になるのでしょうか?

第132回:「続・大人の流儀」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

前回レビューした伊集院さんエッセイ・シリーズの2冊目です。実はこの一冊から読みだしたのですが(2→3→1と読みました)、かなり面白い一冊でした。エッセイはこうこないとというかなりのこだわりが込められており、若い職人は休みなどない(オフィスワーカーでもこれはある程度そうだと思いますが)、震災後に花見を自粛するのは愚の骨頂(本書は2011年12月刊行)、どんな手紙が心を動かすのかなど、興味深いトピックが並びます。

本書のハイライトは残念ですが東日本大震災のような気がします。連載中にあの地震が起きて、伊集院さんは仙台にお住まいということで衝撃的な揺れに遭遇したことが描かれています。安易に情緒的になってはいませんが、そのさなかにいた物書きとして、住民の一人としてとても哀切な文章が見られます。これとは直接関係ありませんが、どういうきっかけか、元巨人の松井選手とも相当仲が良いようです。かなりの顔の広さですね・・・。

イメージを持っていただくために、アマゾンから拝借したタイトル(抜粋)を添付します。ご興味持たれた方は年末年始の帰省や移動のお供にいかがでしょうか?

・鮨屋に子供を連れていくな
・若い修業の身がなぜ休む?
・イイ人はなぜか皆貧乏である
・花見を自粛するのは間違っている
・高収入のスポーツ選手がそんなに偉いか
・若い時期にだけ出会える恩人がいる
・どんな手紙がこころを動かすのか
・大人が口にすべきではない言葉がある
・世間の人の、当たり前のことに意味がある
・男は死に際が肝心だ 他

なお、ご本人は気を付けているということですが、前回レビューした一冊とほぼ同じような話が出てくる場面がいくつかあるのが少し残念です。引き続き、続編をレビューしていきます。

2015年12月16日水曜日

第131回:「大人の流儀」伊集院 静

レーティング:★★★★★☆☆

今年初めて読んだ作家の一人が標題の伊集院さんです。第116回に伊集院さんの「いねむり先生」をレビューしており、その時に出会いについて書いていますので、もしご興味ある方はそちらも参照頂ければと思いますが、今回は小説ではなくエッセーです。これが連載されている週刊現代は読まないので、本になるまで知りませんでしたが、かなり人気のあるエッセーシリーズのようで、本書は2009年~2011年1月まで連載されたものを一冊にしています。

小説でのやさしい語り口とは異なり、このエッセイの面白いところは伊集院さんのこだわりが満載で、包み隠さず語られているところです。それでこそエッセイなわけですが、悪く言えば独断と偏見に溢れており、私はとても好きですが、人によってはかなり不快になるかもしれません。女性や若い方などはかなりむっとされるような記述もそれなりにあります。実際、女子供は寿司屋にいくな(私が言っているわけではなく、本書にほぼそのまま書かれています)といった章については、かなり議論が起きたようです。

内容についてはさらりと読めるものでして、実は2冊目、3冊目も既に読んだ(既に本日時点で5冊目が発売されています)のですが、いずれも2時間くらいあれば十分です。本書は色々と面白い話がでているのですが、銀座の料理屋の話などは個人的に殆ど(一部の飲み屋を除いて)銀座にご飯を食べに行くことがないので興味深く読みました。湯島、上野あたりも良く出てきます。

しかしなんといっても本書のハイライトは、巻末に付されている「愛する人との別れ」です。ご存知の方も多いかもしれませんが、伊集院さんは故・夏目 雅子さんと結婚・死別されています。その時の出会いから、奥様の病死、その後の25年が淡々とした筆致で語られ、この淡々とした中ににじみ出る故人への愛情や生き続ける悲哀に胸を打たれます。この章については、偉そうにこれ以上コメントするのも野暮というものですが、ぜひ一度読んでいただきたいと思う名文です。

2014年2月9日日曜日

第87回:「われ悩む、ゆえにわれあり」土屋 賢二

レーティング:★★★★★☆☆

土屋さんのエッセイを紹介されたのは、もう10年くらいまえでしょうか。現在の(初婚ですが)妻におもしろいよと当時紹介され、2冊ほど読んだ記憶があります。このたび1週間ほど時間がとれそうだったので、久々に土屋さんの本を読みたいと思い借りてきました。10年ほど前に読んだ時はお茶の水大学教授の肩書だった気がしますが、本書では同大名誉教授になってました。1944年生まれということなので、もう実質引退されているということでしょうか。ちなみに哲学の教授です。

さて、土屋さんの本業の著作は読んだことがないのですが、本書を含む一般向けに書かれているのは軽妙なエッセイが多く、どの本も面白くお勧めです。視点が徹底的に自虐的で、自虐ネタの書きものでは日本でも有数の方ではないかと勝手に思っています。哲学の教授というと難しそうとか高尚そうというイメージがありますが、正直言って息抜きに書いているのか、その真逆でゆるいネタばかりです。カントもヘーゲルも出てきません。

前置きが長くなりましたが本書は2012年に刊行されたもので、元々は雑誌PHPに連載された氏の人生相談から取っているそうです。相談ネタもユニークなものが多く、例えば「自然の美しさに無関心な子ども」について、とか「アリとキリギリス、どちらがトクか」などしょーもない(が当事者にとっては大事な)ものが並びます。しかし、こうして客観的に見てみると下らないなあと思える悩みも、実は自分に生じるとやっかいだったりして、私たちの抱える悩みもはたから見たらその程度なのかもしれません。土屋さんは、いつもどおり力の抜けた、真面目半分、不真面目半分な回答を繰り広げます。どれもかなり笑えるものばかりで公共の乗り物で読むのが困難なのですが、その自由すぎる発想を読んでいくと、単に笑えるだけでなく様々な角度からものをみることで、正当な悩みの評価や新たな抜け出し方を見つけられると言っている気がします(あえて教訓を抽出しようとすれば)。

面白いのはいくつもありますが、備忘まで挙げると「新幹線の肘掛け問題」、「夢がかなったらほんとうに幸せか」、「夢を捨てさせるには」、「仲良しの度合い」などでしょうか。旅に持っていったり、なんとなくふわっと笑いたい時などにお勧めの一冊です。人気のある土屋さんなので、引き続き著作はどんどん出るものと思われます。

2012年2月5日日曜日

第35回:「ハーバードの人生を変える授業」タル・ベン・シャハー

レーティング:★★★★★☆☆

先日、いつも借りている地元の図書館からメールが来ました。予約された本が届きました・・・最近めっきり予約をしていなかったので、はてなにを予約したんだろうかと。確かに人気のある新刊にはすぐに予約が殺到するので、予約後1年以上まっている本もあります。そういう中の一冊かと思って受け取りにいったところ、タイトルの本でした。奥付を見ると、2011年5月に増刷したことが記載されているのでその後にどうやら予約したようです。

前置きが長くなりましたが、本の内容は、ハーバードの学部生向けに以前あった(今は著者がイスラエルに戻っている)講座のエッセンスを纏めたものです。要は自己啓発的というかワークライフバランス的な内容で、どう自分の好きなものを見つけるかとか、自分の気持ちと向き合うかみたいなことが書いてあるのですが、ただの読みものというよりは、ワークブックとして構成されているのが特徴です。ThinkとActionという2項目が各セクションについており、実践することを強く推奨した内容となっています(おそらくそうしないとほぼ意味がない)。

内容自体は、日本ではお目にかかれない!といったものでもなく、さすがハーバード!という内容でもありませんが、極めて分かりやすいこと、内容が至極常識的であることから信頼が持てます。なお、原題は"Even Happier"という抑制されたものであるのに対して、邦題は読者を馬鹿にしたようなものに変えられているのがやや残念ですが、出版不況のご時世ではこのくらいのタイトルを付けないと社内で了解がえられないのかもしれません。

就活中の学生さんから社会人の方までくらいには面白い本だと思います。全部は無理そうですが、一部やってみようかと思わせるものがありました。

2011年12月31日土曜日

第33回:「「あるがまま」を受け入れる技術」谷川 浩司及び河合 隼雄

レーティング:★★★☆☆☆☆

今年最後のレビューとなります。改めて読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。最近は色々あって読書に割ける時間が減ってしまっていますが、来年はもっと読んで(&レビューして)いきたいと思うのでどうぞよろしくお願いします。

ところでやっと読了したのは最近読み進めている河合 隼雄さんのシリーズで、前回の硬派な(ほとんど学術書)ものとは打って変わった対談ものです。私の経験では対談本というのは9割超の確率で駄本ですが、今回も残念ながらその範疇であったようです。二人の対談者は立派ですし、いずれも関心のある人なのですが、一般論としてあまりに対談本のいけてなさが際立っているように思え、その理由を考えてみたいと思います。仮説1:喋り言葉は書き言葉に比べて冗長であり、内容の密度が下がる、仮説2:喋りでは即座に応答する必要があるので、どうしても内容が浅くなる。仮説3:喋りでは面白いこと、良いことを言おうとするので、内容が受け狙いになる。などなど他にも色々と考えられますが、皆さんいかがでしょうか。もちろん対談本肯定派の方がいらっしゃればぜひお勧めの本と共に教えてください。出版社や対談者からすれば、短い時間でテープ起こしと校正くらいの作業で1冊の本ができるので、原価が異様に安く、実は手っ取り早い稼ぎ方なのかもしれません。

さて、この本は一流棋士の谷川氏とユング派の大家である河合氏(このときは文化庁長官)の対談であり、主に谷川氏のプロ棋士としての経験などに対して、河合氏が心理学的な観点からコメントして、徐々に二人で話していくというものです。前半は二人ともお互いがお互いを褒めあう展開であり、読者からすればやや白けます。編集の問題かと思いますが、そういうやりとりは本に掲載する前段階で済まして欲しいものです。その後、特に谷川氏が「~というものではないでしょうか」などと一般化した思いや信じるところをなんども開陳するのですが、いずれも凡庸な話であり、特別お金を払って読むに値しない話が続きます。別に凡庸な話がいけないわけではなく、私も凡庸な話しかできませんが、あまりに常識人な話が続くので、なにかカフェでとなりのおじいさんとお父さんのお話を聞いているような感覚に陥ります。

ただ、後半の内容はすこし盛り返し、谷川氏が羽生氏(ご存じの棋士)への嫉妬について語るところや、なにもしないことが創造につながるという河合氏の話などは、生々しくまた逆説的で興味深いところでした。

本年最後の1冊のレビューがかなり批判的で恐縮ですが(だったら読むなという話もありますが)、また来年も率直に書いていきたいと思いますので、宜しくお願いします。末筆になりますが、どうぞ良い1年をお迎えください。

2011年12月4日日曜日

第31回:「大河の一滴」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

師走は、文字通り忙しい月と言われていますが、私も例外ではなく、なんだか11月後半からばたばたとしており、平日も休日もなにかしらがあり、本をじっくり読む時間が取れません。そんな中で、この本と河合隼先生の本とSteve Jobsの伝記(英語版)を並行して読むというめちゃくちゃな読書スタイルをとっていたので、どれもいつもに輪をかけて進んでいませんでしたが、一番読みやすい本書をなんとか読み終わったというところです。某消費者金融ではありませんが、読書も計画的にすることが必要そうです。

さて、この本は1998年に出版され、大ヒットとなったのでタイトルを耳にされた方も多いかと思います。ただし、年代としては私の世代よりは、当時40~50代以上に受けたものと思われ、内容としては渋いものです(しかしながら、若い人も読んで感じることは等しくあると思います)。

具体的な内容的ですが、やはり重いものが多く、親鸞などを引き合いに出しながら現代の問題(犯罪、自殺、心の問題etc)について答えではないものの、一つの見方を提示しています。著者も書かれている通り、この本では割と素直に「こうではないか」という一つの見立てが示されていて、いつもは「なになにではないだろうか」と問いかけるスタイルの多い著者にしては珍しいスタイルかと思います。

うーんと思ったのは、この本が出版されベストセラーになった13年後の2011年、現在の日本が突きつけられている問題の多くは概ね(当時から)変わらず、その深刻さの度合いが増しているものもある(多い)ということです。本書では繰り返し自殺の問題(これは当時より数で言うと増えています)、不況や貧富の格差の問題(これも目立って改善はしていないかもしれません)が触れられていますが、これらのイシューは変わらず今日も残っています。また、自然災害(阪神大震災、当時)についても残念ながら今年は東日本大震災が起こってしまい、今、この本が再びこの本が書かれることがあれば、原発やエネルギーといった話も追加されてしまいそうです。

フェアに言えば、本書でしばしば触れられている犯罪は、統計的には減少しているようです(警察庁によれば、刑法犯罪の認知件数は平成14年を境に一貫して減少してきています)。もちろん犯罪の性質といったものは加味していませんが・・。

最後にあとがきを読んではたと気づきましたが、本書は幻冬舎から出ています。色々と型破りで有名な見城 徹氏は著者と実は長い長い付き合いだそうで、氏に口説き落とされて本書を書いたようです。幻冬舎の設立は1993年ということなので、少し経ってからの出版ですが、この本も幻冬舎が飛躍するのに大きく寄与したことは間違いなさそうです。こういう普段見えにくい著者と編集者の交流ややりとりが垣間見れるのは、興味深いところです。

2011年11月16日水曜日

第30回:「夜明けを待ちながら」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

ゆるく始めた本ブログですが、お陰様で第30回目のレビューに到達しました。飽きっぽい私がここまで続けられているのは、ひとえに本が好きということではありますが、こうしてつたないレビューを書き残すことが非常にポータブルな記録となっていることもあります。本のチョイスは、偶然であったり、またある程度意思を働かせたものも色々ですが、その時々になにを読んでなにを考えていたのか、少しわかる気がします。

今回は五木氏が1998年に出したエッセイです。多くの方がご覧になったことがあると思いますが、五木氏は多くのエッセイを特に90年代から立て続けに出しており、周りに聞いてみると賛否はかなり分かれますが、幾つかの本はベストセラーになるなど人気作家と言っていい存在になっています。私も記憶している限りではこれが3冊目(五木氏の著作のうち)だと思いますが、素直に良い本だと思います。

ラジオで、リスナーからの手紙に対して答えたものに手を入れたのが大半を占めるのですが、そのテーマも決して明るいものばかりではなく、むしろヘビーなものが大半です。それらに対して五木氏が迷いながら、殆どが答えにはなっていないのですが(当然ですが)話をしていきます。よくよく考えると人生の相談事というのは大抵答えはなくて、それをどうみるか、どう考えるかということしかできない気もしますが、答えがなくても相談者をぐっと受け止め、支え、静かに鼓舞することはできるように思えます。

他の作家と同様に、そして五木氏自身が認めているように、どのエッセイも同じようなネタやものの見方が繰り返されますが、別にまたかという感じもせず、年が離れているからか割と素直に読めます。書かれたのは、1998年はバブルが崩壊し、企業倒産やリストラも増えたそれなりに暗い話題の多かった年と記憶していますが、その時代から今があまり変わっていない印象を(本書を通じて)受けます。また、ポジティブ思考や強者生存的なテーゼに真っ向から反論をしており、勝間和代氏的な世界観の対極を行っていることろは、非常に読んでいて面白いものがあります。

本を季節で分類すれば、秋か冬のものですので、この季節にまったり読むには面白いと思います。ただし、受験を控えている等、テンションを上げていかないと行かない人には不向きですので、春休みあたりに読んでください。

2011年11月13日日曜日

第29回:「リスクは金なり」黒木 亮

レーティング:★★★☆☆☆☆

たままた時間があり、本屋でぶらぶらと文庫本を眺めていたところ、見つけて購入しました。好きな作家であり、このブログでも何度か著作を紹介してる黒木氏のエッセー集です。私が知る限り、氏のエッセー集はこれが初めてではないかと思われ(そもそもエッセーを積極的に書いているわけではないようです)、その意味では貴重なのですが、残念ながらレーティングはかなり辛めにつけさせてもらいました。

気に入らない理由をあまり挙げるのもお行儀が良くありませんが、自分でレーティングを付けている以上、一つの見方としてご紹介したいと思います。

①多くのエッセーが短すぎて、読みごたえがない:短いから優れていないというわけではないのですが、なかには2ページといった極めて短いものがかなりあります。すらすら読めるといえばそうなのですが、わざわざ本に収録するほどか・・というものも多数あります。
②タイトルが大げさすぎる:内容は多岐に亘っていて楽しいのですが(例えば外国のお酒の話)、その反面このタイトルのネーミングが示唆するものと相当にズレがあります。ついでに言えば、帯にある「なりたい自分になるための仕事術、人間術」に至っては???という感じがします。
③既存の著作と重複する内容が少なからずある:エッセイは古いもので2000年ころからのものを含んでいますが、時々の取材ノート的な内容があり、それらは概ね今までの作品に書き込まれているもので、新味がありません。

内容は楽しいものや味のあるものもありますが、熱心に読んでいるファンとしては(①、③はそれが故にかもしれませんが)全体としてがっかりするものでした。

2011年4月22日金曜日

第11回:「雑文集」村上 春樹

レーティング:★★★★★★☆

上記レーティングは、私が村上春樹の大ファンなので相当バイアスが入っていることが確実ですが、私的書評なのでご容赦ください。

『雑文集』というタイトルが示す通り、村上氏が80年代から書いてきたライナーノーツや行ったスピーチ、新聞等への寄稿、自作の外国語訳版への序文等を集めたものです。本当に1ページの半分にも満たない電報から数十ページの読み応えあるエッセイまでありますが、駄文はなく、面白いものばかりです(褒めすぎか・・)。とりわけ、料理やジャズといった村上氏が得意のファンお馴染みの分野だけではなく、余り語られてこなかった生い立ち(初めて買ったレコードとか・・)や、日本では殆ど語らない文学観といったものが載っている点は貴重だと思います。

本当に個性的で多様な文章が集められていますが、私が特に良かったと思ったのは以下のものです。
・東京の地下のブラック・マジック:地下鉄サリン事件に関して。
・いいときにはとてもいい:短いけれど心にしみる電報です。
・柄谷行人:笑えて脱力します。これをボツにした編集者は正しい気がする。
・物語の善きサイクル:村上氏にしては珍しい物語論です。
と、リストし始めるとしまいには全てを書いてしまいそうですが、面白い本なのでぜひお手に取ってみてください。そうそう、装丁も安西水丸さんと和田誠さんの絵が素敵です。