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2021年12月19日日曜日

第242回:「人生の短さについて」セネカ(中澤 務 訳)

レーティング:★★★★★★☆

久々に読んだ古典になります。この本がお勧め、というようなウェブの記事は関心がありちょくちょく見ているのですが、その中で出てきた一冊です。実はかなり売れている一冊のようです。3篇収録されており、他は「母ヘルウィアへのなぐさめ」と「心の安定について」となります。3篇ともとても含蓄のある内容でとても好きですが、特に最初と最後が素晴らしいと思います。人生の短さについては、何が有意義がよく考えること、意味のない仕事をどれだけしても大した意味はないといったことが書かれています。今の人々は自分も含めて日々仕事に追われ、メールに追われ、私生活でもやることがたくさんあるので、なかなかに耳の痛い内容になっています。

また、「心の安定について」はこれまた秀逸です。親族への手紙の形を取りながら、財産について、仕事について、友人について親身に助言をしていきます。独特の世界観が示されていきますが、とても率直かつ分かりやすく、心を打つ内容になっています。ローマ時代から2000年を超えて、このような普遍的な内容が残されていることは本当に驚きですし、それだけ時間が経っても人が考え悩むことは同じなのだとハッとさせられます。そう考えると、飲み会で私が友人、知人とだらだら話している内容は2000年前の人たちが聞いても特に違和感のない内容なのかもしれません。

古典を読むことの良さは現代を相対化できることにありそうです。要は自分が考えていることは昔の人も考えていたし、逆に昔の人の考え抜いた知恵があること、それは回答ではないですが一つの心温まる支えになる感じがします。

2021年8月9日月曜日

第240回:「仕事と人生」西川 善文

レーティング:★★★★★☆☆

有名な経済界の方々が書く本は多数あり、そのうち少なくない冊数を読んできましたが、日本の経営者の書いたもので読みごたえがあったのが西川さんでした。昨年の9月に亡くなられてしまいましたが、若き日の住友銀行でのエピソード、バブルの後処理に奔走する姿、新たな時代の三井住友銀行の経営、その後の郵政などへのチャレンジと本当に波乱に満ちたキャリアを送られ、そのどれもが容易ではなく、成功しても何らかの批判が付きまとう非常に厄介なものだったと思います。旧住友銀行についてはほかにも複数の方々が本を書かれていますが、どれもバブルやその前の時代を描いたものが生き生きとしてそれだけ活気のある銀行だったんだろうなと感じることがあります。

今回の一冊は西川さんがキャリアを振り返りながら、新人時代の思い出、その後身に着けていったスキル、忘れてはいけない心構えなどを非常に分かりやすく説いています。正直に言えば西川さんの以前の著作と重複する部分はそれなりにありますが、とても短く簡潔にまとまっており、若い人が西川ワールドに入っていく格好の一冊になるものと思われます。それにしても中身はどれも納得の行くもので、なにより素晴らしいのは偉ぶることもなく、奢ることもなく、淡々と自分はこのようにやってきて、こういうことが役に立ったと書いていることです。志願しての米国長期調査などはあったものの海外在住や海外留学といったご経験はなかったと思いますが、考え方はとても合理的で無駄がなく明晰です。

そしてなにより惹かれるのはその気骨です。自分はやらねばならないことをやる、正しいと思ったことをやるという根本があり、変に空気を読んでこうしろとか出世のためにはこんなこともしてきたというド根性立身みたいなエピソードは少ないです。もちろん気遣いも配慮も人一倍あった方だったんだと思いますが、そういう面はあえてかもしれませんがほとんど触れていません。しかし、部下たちからいかに慕われていたか垣間見えるエピソードもあり心が温まります。20代、30代にお勧めの一冊です。

2019年10月6日日曜日

第226回:「筋トレが最強のソリューションである」Testosterone

レーティング:★★★★★☆☆

前回のレビューからずいぶん時間が空いてしまいました。夏休み後から仕事がやたら忙しく、更にはお盆ぐらいから久々に将棋にハマってしまい、会社帰りなどの相当の時間を将棋に使ってしまい、純粋な読書量がかなり減少しています。純粋なという意味は将棋の本は数冊読んでおり、将棋関連以外の本を指しています。

それはともかくとして、図書館に予約してから彼此1年くらい待ってようやく届いた本がこちらです。本屋でも平積みですし、新聞広告などでも目にされる方が多い一冊かと思います。昨今、高齢化に伴う健康意識の高まり、さらにはライザップブーム(去った?)などで健康のために筋トレが役に立つという認識が急速に広がってきた影響で、Testosteroneさんを始めとしてトレーニング本隆盛の時代を迎えていきます。

過度なものでなければ運動が健康にいいのは疑う余地がないところですし、健康であれば結果としてダウンタイムや医療費の削減に繋がるのも事実でしょうから、そういう意味でこのブームは良いことだと思います。他方、糖分満載のタピオカが流行したり、相変わらずデカ盛り番組などがたくさん流されていることを考えると、おそらく健康やスポーツに目を向ける人とそうでない人というのもまた顕著に違うのかもしれません。結局は自分で責任を負うべき選択であり、それ自体はとやかくいえませんが。

この本はまさにタイトルの通りで筋トレしたらうまくいく、そして気分も上がるという本です。特に欧米ではかなり筋トレというのは標準的な日常活動に組み込まれている感じがします。マッチョ志向とは言いませんが、男女を問わずがっちりとした肉体で健康になる(見せる)というのはかなり重要な要素らしく、健康のためにそうしているかは別として、価値観に組み込まれていると思います。そういう波が大きな意味での欧米化の一部として日本にも遅ればせながら到来してきているのかもしれません。ちょうど今ラグビーワールドカップが盛り上がっていますが、彼らの筋肉隆々とした体とプレーを見ていると、日本人の憧れの体も少しずつ変化していくのかもしれません。本書の内容にほとんど触れませんでしたが、深い言葉あり、面白い逸話あり、軽妙なギャグありで面白いです。特に10代、20代で読むとその後の大きな財産になりそうな本です。

2019年8月11日日曜日

第225回:「極夜行前」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

第221回でレビューした名作と呼び声の高い「極夜行」のまさに準備段階について記した一冊です。角幡さんには失礼ですが、人気作の二番煎じでつまらない本なんじゃないかという危惧も少しだけあったのですが、至極真面目に書かれており、またそのクオリティは「極夜行」よりも高いのではないかという一冊でした。探検物が好きな方には本当にマストといえる一冊ではないでしょうか。素晴らしい作品です。

おおもとになった「極夜行」については既に第221回に結構書き込んだのでまだの方はそちらを見ていただくとして、本書の素晴らしさは冒険家角幡唯介が如何に長い年月を掛け、また用意周到に困難を乗り越えながら準備してきたがの過程がつぶさにわかることです。例えば本編ではさらりとしか触れられない六分儀について試行錯誤を繰り返したこと、デポについては何度も何度も荒らされてきたこと、またカヤックでの北極圏での長旅を行ってきたことなど、どれもが得難い探検となっています。また、その過程では自らと北極圏がダイレクトにつながり、まさに自然の恵みを得て自分が生きていき、さらに旅をアレンジしていくというダイレクトな感覚を味わうプロセスが描かれており、感動的ですらあります。

自分が道具を使いこなし、スキルを習得しながら自らのできることを拡大していく、それは生命にとって生きることと同義であるはず。旅の中でそのプロセスをたくさんの助力を得ながら実現していったこの探検は、間違いなく事前準備も含めて角幡さんの最高傑作ではないでしょうか。また、30代後半から40代前半に掛けて何かの最高傑作を残したいという角幡さんの人生観は胸に刺さるものがあります。当然、探検という肉体的な要素が強いジャンルと市井の勤め人では何をもってピークとするかは相当異なるものと思いますが、その覚悟に学ぶところ大です。

2019年7月7日日曜日

第223回:「沈黙」遠藤 周作

レーティング:★★★★★★★

第219回でレビューした「深い河」に続き、遠藤周作さんの代表作です。これもいいよとお勧めをしてもらった一冊となります。さっそく読んでみましたが、題材、構成、描写、文体などどれも超一流であり、文句なしの最高レーティングです。昭和の大作家はすごいということを折に触れて描いていますが、その凄まじさを印象付けるに十分な一冊です。中学以上の学生さんにも十分読める内容だと思いますので、ぜひ夏休みなどに読んでみるとよいのではないかと思います。

テーマはキリスト教、布教と弾圧、さらには神の沈黙、そもそも信仰とは何かというところまで掘り下がっていきます。そんなに分厚い本ではありませんが、司祭や信徒に待ち受ける過酷すぎる運命を通じて、これらが浮き彫りにされていきます。作品の内容としては決して明るくありませんし、読んでいると頭からどんよりと暗い気分になりますが、それほど作品がもつパワーが強いということかと思います。

作品は、じわじわと繰り返される疑問、なぜ沈黙なのか、なぜ何の救いも与えられないのかという点を軸に進んでいきます。そして最後まで沈黙は破られず、救いも与えられませんが、その中で葛藤し、答えが見いだされていきます。基本的には信仰の葛藤を描いていると考えられますが、シニカルな見方をすればそこまで信じる価値のあるものは何なのか、ただの自分勝手な思い込みに過ぎないのかという見方も成立するのではないかと思います。ここらへんの分岐は、そもそもキリスト教的な見方を持てるのか、持てないのか、もっといえば宗教的な強い信仰を持ったことがあるのか、ないのかというところに左右されるともいますが、私は後者の部類なので司祭に没入するということは難しかったです。

しかしながら、個人的な信仰の有無は別として作品としての素晴らしさは全く減じることなくあります。また、歴史的なキリシタン弾圧の一つの側面が書かれており、その凄まじさを学ぶこともできます。2015年頃でしょうか、インドネシアのスマトラのキリスト教が多い地区に行ったことがありますが、そこでも圧倒的なイスラム圏におけるキリスト教の存在を目にして、ずいぶん驚いた記憶があります。良作中の良作といってよい一冊であり、ぜひ読んでいただきたいと思います。

2019年6月16日日曜日

第221回:「極夜行」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

以前ツアンポーの探検についてレビューした角幡(かくはた)さんの一冊です。2018年の本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞と大佛次郎賞を獲得した一冊です。角幡さんは、ノンフィクション分野、とりわけ探検分野(というものがあれば)では本当に伸び盛り、また円熟さも出してきている第一人者です。目が離せない作家といって良いと思います。その良さはオリジナリティのあふれる探検を自ら考え、自らの資金で実行し、それを作品にしているという点、また筆力も高く、ただの叙述ではなく、かといって過剰な叙情でもない良さがある点です。本書はまぎれもなく一線級の作品であり、こういう探検と著作を出せる人は日本にはごくわずかになっていると思います。

本作は、極夜でどこまでいけるかという題材を取り扱った一冊です。極夜とは耳慣れないことばですが、白夜の対義語で要すれば一日中太陽が昇らない状態を指します。北極圏のごく近い地域では白夜と極夜の両方が体験出来て、まさに異次元的というか宇宙的な体験ができるそうです。グリーンランドが舞台であり、角幡さんは4年間を掛けて実験的な探検から始まり、各種の技術習得、デポの設営など何度も現地に足を運びながら周到に準備をされます。その成果もあって極めて過酷な状況ながらツアンポーよりも死地をさまよう局面が少ないような感じですが、それでも毎日暗い中を犬と一緒に橇を引きながら何か月も氷点下30-40度といったなかを人力で歩きとおすのですから、大変なことです。当たり前ですが常人には全く想像もつかない世界です。

また、結婚、奥さんの出産といったライフイベントがうまく探検とマッチしてきて、ただの探検から人生や太陽といったものへの深い考察へと降りてきます。加えて今回特徴的なのは犬を同行させており、その犬との交流や協力、さらには抜き差しならない状況に陥った時の判断までつまびらかに開示されており、犬とと旅することについてもユニークな考察がなされた一冊になっています。

角幡さんは40歳ころまでに最高の探検をしたかった、これからは衰えが出てくるだろうということを書かれています。しかしながら、本書を読む限りむしろ経験を増して更に独創性のある探検ができるようになられている印象があります。次の本格的な探検がどういう形になるのかわかりませんが、大変期待しているところです。

2019年1月20日日曜日

第205回:「ブッダの真理のことば、感興のことば」中村 元訳

レーティング:★★★★★★☆

岩波書店から出ている大古典が、本年一冊目のレビューです。中村 元さんは日本を代表する仏教学者ですが、大学時代にある授業をとった時、その先生のお師匠ということで、講義で何度も絶賛されていたのを今でも覚えています。岩波文庫での発刊は1976年、文庫なのに1,000円を超えています。

本書は教団化が進んでいない原始仏教の経典を邦訳したものであり、真理のことばは「ダンマパダ」(パーリ語)、感興のことばは「ウダーナヴァルガ」(同)を出店としており、翻訳に際しては漢語、英語などの後世の役も参考にしているとのことです。特に真理のことばはとても平明な短文で構成されていて、今の世の中でも十分我々の生き方を考えさせられるようなごく日常的な宗教色がほとんどない警句集といった趣です。感興のことばは、それに比較すれば少し長い感じがあり、もう少し論理構成 が長くなっている感じがします。

この原始仏教の良さは、その後の世俗化や高度に複雑化してしまった仏教の書物とは違い、もっと当時の人々の息遣いが聞こえるような切実さとシンプルさがあることです。ここ数年、日本や世界の古典を徐々に読もうとしているので、その意味で本書を読めたのはとても嬉しく、聖書やコーランも読んでみたいところです。本書は注釈を除けはそんなに長い本ではないので折に触れて取り出し、読む機会がありそうです。

2018年9月29日土曜日

第198回:「最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと」マーカス・バッキンガム

レーティング:★★★★★☆☆

ビジネス本は結構読んできたんですが、書店にいくとリーダーシップやマネジャーの役割といったジャンルの本が山ほどあります。このジャンルの本は、いわゆるソフトスキルを中心に描いているだけにつかみどころがなく、やや説教じみた内容が多く、更には書いている人によってスタンスが全く異なるのがあるあるです。要は、定説がなく客観性が得られ辛く(だからこそ諸説振りまいていろんな人が書けるジャンルなんだと思いますが)、その意味で科学というより、かなりアートの要素が強くなりがちです。

本書も正直にいってそういった特徴は一定程度ありますが、かなりの人にインタビューして実例を交えているので、相応に説得力がありますし、奇抜ではないがあまりに常識的な内容ではないという意味でとてもバランスがよく、腹落ちする内容の一冊となっていました。ちなみに、私は「タイトルが異様に長い本は漏れなく内容が残念」という経験からの確信を持っているのですが、今回はあまり当てはまらないかったようで、やはり先入観を強く持ってはいけないなと反省しています。英題は「The One Thing You Need to Know: ...about great managing, great leading, and sustained individula success」というものでした。長いですね。

本書が言いたいことはとても明快です。リーダーは、あるべき姿を「明確に」示すことが大事。そうでないと人が付いてこない、新しい未来を見せられない。マネジャーは、部下の個性や強みの違いを把握し、強みを伸ばすことに注力する必要がある。型にはめて弱みを消す努力は多くの場合報われないので、徹底的に個性や強みを伸ばす手助けをすべき。そして、個人の成功は如何に不得意なことや情熱を感じないことをしないか、そして自分の個性や強みを発揮できることを続けていくかに掛かっている。バランスをとる必要はない。ということに集約されます。

これがどこまで正しいのかというのは人によって見方が分かれると思いますが、自分を振り返ると年下の同僚などに対してはここが弱いからいろいろと手助けをしよう、強みは勝手に伸びるし、伸ばしていけるだろう、というパターンで考えていることが多かったので、この本のアプローチを取り入れてみようと思いました。実感的に弱みを消すのはなかなかうまくいかないケースが多かったです。あと、自分の弱いことややりたくないことを排除することは容易ではありませんが、なにか工夫できないかと、これも考えていきたいと思います。示唆に富む一冊だと思います。

2018年9月8日土曜日

第197回:「聖の青春」大崎 善生

レーティング:★★★★★★★

もうずっと前、村上聖(さとし)さんが亡くなったのは平成10年ということなので、20年も前になります。1998年のこと。自分はそのころテレビニュースなどで何度か天才棋士の早すぎる死を聞いたものの、当時はあまり深く気に留めることがありませんでした。29歳の早すぎる死、幼いころから病気を患いながらも、棋士として素晴らしい才能を発揮したが道半ばで、という程度の認識しかなかったものでそれきりでした。しかし、なんとなく気になって、ずっと忘れて今日に至っていたところ、この前、図書館で偶然目に飛び込んできて、思わず借りました。

本書は村上さんや師匠である森さんと深い親交を結んだ将棋雑誌の編集者が描いた一冊であり、何気なく読み始めたものの、今まで読んできた本の中で、激しく心を揺さぶるトップ3に入る衝撃を受けました。村上さんの絶え間ない闘病の中での不屈の戦い、ご両親の温かい無私の支援、お兄さんの愛情と苦しみ、師匠であった森さんの苦悩と惜しみない親のような愛情、羽生、谷川といった将棋界の綺羅星のようなライバルたち(正確には谷川さんは目標であり、ライバルとは位置付けがたいが)が生き生きと描かれています。そして見逃せないのが、昭和後期から平成初期に掛けての大阪のアパートを中心とした庶民的な暮らしや千駄ヶ谷の将棋会館のあたりの風景も描かれ、一人の人間の生きざまを描きながら、その周りの大きな愛情や勝負の厳しさ、そして時代まで切り取る作品に仕上がっています。著者の筆力に脱帽です。

小学校の大半を病院で過ごす生活の中、将棋に傾倒していった村上さんは、文字通り人生すべてを将棋に捧げ、最後は一戦一戦ごとに文字通り命を削りながら棋戦を行いました。その思いの強さや執念、病気から培った独特の生命観。そんな中でも、人生を楽しめた北海道旅行や麻雀などで遊ぶこともできたエピソーがあったのは、本に明るさを添えています。自分は村上さんとは境遇が全く違うけれど、それだけ真剣に前向きに人生を生きているのかと考えると非常に心もとないものがありますが、命の大切さや高い目標に向かった真剣に物事に取り組むことの重要性を改めて思い起こさせてくれます。一級品の作品であり、高校生や大学生にぜひ読んでほしい一冊です。

2017年9月16日土曜日

第175回:「野村證券第2事業法人部」横尾 宣政

レーティング:★★★★★★☆

かなり面白い一冊でした。著者のお名前にピンと来た方もいらっしゃるかと思いますが、そうです、野村證券出身で退職してからずいぶん経って、オリンパスの粉飾に関与したということで逮捕されてしまった方です。大きく分けて2部構成になっており、第1~7章が野村證券在籍時代、第8~11章がポスト野村時代です。

前半は青春活劇のようでとても臨場感や高揚感があって面白い一冊です。金沢支店を皮切りに、フィーを稼ぐことに邁進し、リテールから始めて、花形の事業法人部に乗り込みます。そこでも末席であったにもかかわらず、人の何倍も努力し、執念と度胸をもって顧客を開拓していきます。ここらへんは多少盛っている部分はあろうかと思いますが、すこぶる詳細かつ具体的な内容で、著者の証券マンとしての凄さをまざまざと感じさせます。しかし、80年代、90年代の証券会社というのは評判が悪かったですが、本当に良くも悪くもなんでもありだったんだということがよくわかりません。バブル崩壊後、証券会社や証券業界は大改革につぐ大改革を行いましたが、いまの株式や資本市場がいかに正常化されてきたのかがよくわかります。そりゃ株をやる人が日本で少ないよな、と実感します。

後半は野村証券を惜しまれながら退社し、ベンチャー投資や投資先の経営に当たる話です。しかし野村の看板は大きく、資本が限られている中で事業はなかなかうまくいかないようです。そこで昔のつてもあり、オリンパスとの接点が出てきます。著者は一貫してオリンパスの関係の関与を否定しており、一定の説得力は感じますが、前半で見せたリスク感度の高さ、真っ当かつ執拗な思考力がオリンパス関連ではすっぽり欠落している部分が、やや気にかかります。当然こういうものだとおもっていた、自分は細かいところにはタッチせず、部下に任せていた、自分が粉飾スキームを考えるのであればもっとうまくやった、など本当にそうなんだろうかという部分がいくつかあります。裁判はまだ続いているので、司法が結論を出す話ではありますが。

前半の生き生きした感じと、後半の苦難が対照的であり、人生論として読んでもとても味わい深い一冊です。証券会社や業界に関心がある方にはお勧めです。

2017年8月26日土曜日

第174回:「リーダーを目指す人の心得」コリン・パウエル(トニー・コルツ著)

レーティング:★★★★★☆☆

面白いよと推薦を頂いて読んだ本。米国の偉人といって良い方の本ですが、意外なほど読みやすく、また頭の下がる一冊でした。黒人として初めて米軍の統合参謀本部議長に付き、湾岸戦争や数々の戦いを指揮し、これも黒人として初めての国務長官に上り詰め、大統領選にでれば当選確実とまで言われた方ですが、偉ぶるところがなく、率直に自分の弱みや失敗もさらけ出しながら、自分なりにどう工夫して生きてきたかを書いた本です。邦題は上に書いた通りですが、原書では「It worked for me. IN LIFE and LEADERSHIP」となっており、私にはこのやり方がうまくいった、というとても謙虚な打ち出しになっており、邦題よりずっとパウエルさんの思いを表しているものと思います。

さて、内容ですがパウエルさんが心にとめてきた13か条(備忘のため末尾に記載しますが、ネタバレにもなるのでご注意)から始まり、自らの出自、辛酸をなめた第2次湾岸戦争での判断の誤り、軍隊での生活、引退後の(主として)講演生活などがつづられています。本書の良いところは、米国社会で差別を含めて厳しい立場に置かれていたパウエルさんが偏見はそれはそれで認識しつつ、できることを正攻法からやって偉くなったということではないでしょうか。いろいろなハードワークもあったでしょうし、秘訣もあったのだと思いますが、奇をてらわずに人を信じて、協力してやってきたように感じます。驕らず、見下さず、蔑ろにしないその姿勢はとても学ぶべきものが多いように感じます。

さて、上で紹介した13か条は次の通りです。なかなか面白いです。

1.なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ。
2.まず怒れ。その上で怒りを乗り越えろ。
3.自分の人格と意見を混同してはならない。さもないと、意見が却下されたとき自分も地に落ちてしまう。
4.やればできる。
5.選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
6.優れた決断を問題で曇らせてはならない。
7.他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
8.小さなことをチェックすべし。
9.功績は分けあう。
10.冷静であれ。親切であれ。
11.ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
12.恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
13.楽観的でありつづければ力が倍増する。

2015年3月3日火曜日

第113回:「花のように、生きる。」平井 正修

レーティング:★★★☆☆☆☆

第111回にレビューした全生庵住職の平井和尚の一冊です。前回レビューしたものと同じ幻冬舎から出た一冊で、文字通り前作がかなりヒットしたので出された一冊であることが伺えます。内容は、禅の考え方、とりわけ囚われない、捨てる、拘らない、流す、忘れる、そういったコンセプトを禅語といっしょに照会していくもので、優しい人生訓のような形式を取っています。

面白かったのは禅宗では桜より梅を高く評価しているというところ。なんでも梅は寒さの中で咲き、ほのかな香りを付け、そして確かな実を結ぶからだそうです。なんとも禅宗らしい感じ方だと思います。怒りや妬みといった日常的な感情について、禅的な考え方からある種の考え方を解説しており、そちらも含蓄があってとても面白いです。

一つだけ残念なのは、とても滋養に富んだ一冊だと思うのですが、細切れで短く、少し物足りない感じがするところです。幻冬舎は面白い本を次々と世に送り出す凄味があるのですが、他方、売れることもかなり重視していて、この一冊は企画先行になってしまった感が否めません。まあもちろん売れなくてよいと思って本を出す人はいないのだと思いますが。

残る平井氏の作品も読み進めてみたいと思います。

2014年5月6日火曜日

第93回:「熱く生きる」天野 篤

レーティング:★★★★★☆☆

著者の名前をどこかで聞いたことが・・という方は多いのではないでしょうか。今上天皇の心臓手術を2012年に執刀した心臓血管外科医で、現在、順天堂大学医学部の教授です。私は2012年の手術の時に、その経歴を紹介するエピソードを聞いて関心を持ち、おそらくその年か2013年だったか定かでないのですが、NHKの『プロフェッショナル』で特集されており、強く感銘を受けました。気骨のある、血の通った人柄に大変な魅力を感じました。

その偉業や経歴については様々なところで紹介されていますので、ググれば一発で出てくると思いますが、若くしてお父さんが心臓病に罹り、それを治したいという思いもあって医師を志します。優秀な進学校に居たのですが成績は振るわず3浪、(医学部としては)決して優秀とは言えないある私学に入り、医者となります。その後も伝統的な医師のヒエラルキーに安住することなく腕を磨き続け、比類ない治療件数と手術実績を残し、順天堂教授に上り詰めます。これだけでも一つの現代版のサクセスストーリーとして面白く読めますが、3浪時の意外な放蕩のエピソード、お父さんを救えなかった無念、コンプレックスを基にした強烈な努力とプライド、(偉くなっても)患者を第一に考え向き合い続ける姿勢など、まさにプロフェッショナルの題材にうってつけという感じです。

平易な文章で書いてあり、すらすらと読めますので、おそらく3時間もかからないと思いますが幾つか面白いなと思った点を残しておきます。
・医師は大変な金銭的、社会的コストの上になる職業であり、全力で患者に奉仕しないといけない(際限はあります)。
・エリート医師でもそれに見合う努力をしていないモノが多すぎる。自身は泊まり込みを続けて平日は殆ど家に帰らないスタイルでやってきた(推奨はされていません)。
・患者に言われた「人の3倍努力すると、神様はなにかくれる」をモットーとして、今も糸の結び方などを日々練習している。医師は医師道だと思っている。
・オフポンプ(人工心臓不使用)手術が現在の主流であり、積極的に取り組んできた。また、感染症の低減も世界トップクラス。6,500回以上執刀。


自分なりに魅力を感じた点を纏めれば、①オリジナルな信念を持って実践している、②そのための努力を継続している(場数の多さが成長を速めている)、③心が通っている、④適度な遊びがある(麻雀やゴルフetc)というところでしょうか。興味を持たれた方はオンラインで見られるのかもしれませんが、上記のNHKプロフェッショナルを見るとより厳しくも温かい人柄が伝わるかと思います。医者の不養生ではありませんが、食生活などがかなり厳しい感じだったので、ぜひご自身も大切に長く医療に携わって頂きたいと思った一冊です。

2013年10月14日月曜日

第78回:「温かなこころ」中村 元

レーティング:★★★☆☆☆☆

前回に続いて中村先生の一冊です。1999年に初版が発行されており、平成2年から9年までに行われた4回の講演を編集した一冊です。講演のテーマが似通っているためか重複する話もありますが、全体的に(ベースが講演でもあり)さらりと読めます。

以下は感想というよりは個人的な備忘録です。親鸞の言葉、「無明長夜(むみょうじょうや)の灯炬(とうこ)なり。智眼(ちげん)暗しと哀しむな」、なかなか味わい深いですね。唐招提寺の語源、唐は鑑真和上の出身国、招提はパーリ語のチャートゥッディサ(四方にわたる)の音を写したもの。奈良の大仏は華厳教学の本家本元(総本山)。華厳経は元々南インドから出たものと考えられているが、インドからインドネシアまで広がっており、ボロブドゥールの彫刻にも出てくる。その華厳経は「縁起」の思想を中心に据えており、東洋的考え方の大きな要素の一つ。この関連で良忍上人の一句「一人一切人 一切人一人 一行一切行 一切行一行」。中村先生は弘法大師の「綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)」に触発され、東方学院を設立した。

この一冊で続いた仏教モノシリーズにいったん区切りをつけ、現在は全く毛色の違うものを読んでいます。読書の秋なので(といってもあまり進みませんが)、ぼちぼち読み進めていきたいと思います。

2013年9月22日日曜日

第76回:「ブッダ最後の旅」中村 元訳

レーティング:★★★★★★★

今回の一作は、本ブログ史上最古の本の翻訳です。原文はパーリ語で書かれており、日本の偉大な仏教学者であった中村元氏が訳したものです。私が中村元氏の名前を知ったのはもう10年以上前ですが、大学で「比較宗教学」なる授業をとっていたことがきっかけです。授業に関心があったというよりは、比較的楽に単位が来て、時間帯もたしか午前中の遅めだったので(遅刻しなそうで)いいなというぶったるんだ大学生の典型のような気持ちで受講したのがきっかけでした。しかし、人生万事塞翁が馬ですね、授業は思いのほか面白く、殆ど出席した覚えがあります。その授業を担当していた教授は(今も健在で教えているようです)中村先生の直弟子であり、授業中何度となく中村先生を絶賛していた(事実絶賛しきれないくらいすごい業績を残されています)のがきっかけです。いつかは中村先生の著作を読もうよもうと思いつつ、はや10何年たってしまいましたが、やっと1冊読むことができました。読書はなにか縁を感じることがありますが、この一冊もそういうものとなりました。

さて、本書ですが上記の通りパーリ語で書かれた「大パリニッバーナ経」を翻訳し、さらに分厚い脚注を付したものです(脚注の方が長い)。主題はまさにタイトルの通りで、ブッダ入滅の前後が描かれており、後世の脚色はあるものの、比較的史実に忠実なブッダの姿を伝える経典だそうです。これも大学生の時に手塚おさむの「ブッダ」を読んで大変感銘を受け、今、こうして原典(の翻訳)を読めて非常に感慨深いものがあります。私は特定の宗教を信じることはなく、神社にも寺にも行きます。海外なら教会も行きますし(礼拝にはいきませんが)、ヒンズー教の寺院にも入ります。ただ、海外にいくときにたまに宗教をきかれますが、そういうときに自分ははてなにを(相対的に)信じているかと聞かれれば仏教だと思います。仏教の(相対的にですが)排他的でないところ、無理がないところなどが好きです。その根幹にはブッダというその人への共感がある気がします。

この経典を読んで驚いたのは(およそ経典を読むのも初めてですが)、なんども繰り返しをともなう独特のスタイルです。Aという発言が出てくると、それが1度、多いときは2、3度繰り返されます。最初はめんくらうのですが、繰り返されると自然と頭に入ってきて、心地よいリズムができてきます。解説によれば、初期の経典は口承で伝えられたので、覚えやすいように繰り返しが多用されているとのことです。もうひとつは、非常に人間的なところです。後世の脚色/神格化が少ない経典だそうで、比較的生き生きとした会話があり、痛みの描写があり、気遣いの様子が描かれています。まさに人間ブッダを描いており、そのストイックさ、他者への思いやり、飾らなさなどに心を打たれます。特に思いやりという点では、死の前に客人から振る舞われた食事をとって急速に体調を崩すのですが、その状況でさえ食事を出した人がのちのち自分のせいではないかと気にやまないように深い気遣いを見せます。また、古代インド/ネパールでも深い身分制度が確立されていたのですが、殆どそれを感じさせず様々な階層の人と対等に自在に交流しているところです。おごらず、たかぶらず、えらぶらず、当たり前といえばそうですがどこにも強権的なところがありません。

本書の後半は全て中村先生による解説ですが、またこれが秀逸です。余りに難しくて2割くらいしか分からないのですが、東西の翻訳や写本も検討し、細かなニュアンスの検討をこれでもかと行っています。現代の世界、日本でこういうレベルで語れる人は何人くらいいるのでしょうか。その圧倒的な博識と執念にただあきれるばかりです。

いきなりブッダ入滅の経典を読んでしまったわけですが、他のものも時間を見つけてライフワークの一つとして読み進めていきたいと思います。

2013年9月7日土曜日

第75回:「憂鬱でなければ、仕事じゃない」見城 徹・藤田 晋

レーティング:★★★★☆☆☆

2011年に刊行された1冊、対談かと思いきや見城さんの自筆の一言と解説2ページ、その後に藤田さんの解説2ページが続く構成です。内容は、仕事への取り組み方に関するものが殆どです。見城さん(幻冬舎社長)のかなり強烈なパーソナリティと藤田さんのわりと冷静な、良い意味でバランスの取れた解説が良いコントラストで面白いです。

非常に読みやすい一冊で、お二人のかなりのファンでなければ買って手元に置いておく必要性は感じませんが、色々と印象深い言葉が紹介されてます(さすが見城さんですね)ので、ご紹介がてら。「小さいことにくよくよしろ」(小さいことをできない、守れない人に大きなことはできない)、「努力は自分、評価は他人」(そのままですね)、大石内蔵助の辞世の句「あら楽し 思ひは晴るる 身は捨つる 浮世の月に かかる雲なし」、どれももちろん解説があってこそではありますが、なかなか面白いなーと思いました。味があります。

藤田さんについてはこのブログの第40回でも「渋谷で働く社長の告白」をレビューしており、なんとなく予備知識があったのですが、見城さんの本をちゃんと読むのは初めてで、かなり極端な仕事のスタイルを持たれていることと、それを支える情熱というか熱量に驚かされます。あまりに凄過ぎてこういうアプローチはできないよな、と正直思ってしまったのですが、これに痺れる出版関係者の方なども多いのではないでしょうか。

2011年4月3日日曜日

第8回:「努力しない生き方」桜井 章一

レーティング:★★★☆☆☆☆

麻雀好きな人であればご存知かもしれませんし、そうでない人も耳にしたことがあるかもしれませんが、雀鬼と呼ばれた桜井氏による生き方?本です。現代の人々の生き方や社会が「足し算」の積み重ねから出来ているとして、そうではない「引き算」や「足さない」ことを通じて違う生き方を目指すというもので、著者の実体験や考えから構成されています。

一つ一つの内容は突飛ではなく、頑張れば全てが叶う的な自己啓発本への強烈なアンチテーゼとしての面白さがあります。例えば、「壁を乗り越えられないのは、壁を意識しすぎるからである。(中略)壁は越えるのではなく、上に乗っかればいいと思う。(中略)壁となっている問題をとりあえず丸ごと受け入れるということである。」とか、「人というのはもともと、意味を持たない不合理な存在としてこの世にあらわれたのであるる。(中略)「意味を求める」姿勢だけでいくと、人は意味に縛られて窒息してくる。」など、なかなか(私としては)面白いと思える言葉がよく出てきました。

レーティングはやや低いのですが、各メッセージには著者の想像から来た部分が多く(実体験もあるけどやや具体性に欠ける)、買って手元に置いておいて読み返そうという気にはならなかったことが原因です。著者に言わせれば、こういう感じ方が既に相当「足し算」もしくは効用追求型の読み方ということかもしれません。

大学受験中の学生などには進められませんが、少し疲れたなーと感じられた社会人の方などにはふっと気づきのある本かもしれません。軽いタッチで1-2時間もあればさらりと読めるので、夜にビールでも片手に寝る前読む、そんなスタイルで向き合うと楽しいかもしれません。