レーティング:★★★★★★★
検事を辞めて、検事と相対する弁護士になる人をヤメ検というそうです。その動機は様々なようですが、検事の経験や人脈があるため、弁護に強いことから人によってはかなりの活躍をするそうです。同時に、一部では強引な弁護手法や検事との距離感などについて批判も根強くあるとのこと。そんなヤメ検として非常に有名になった田中氏のノンフィクション、出色の出来であり、さすが幻冬舎という一冊です。素晴らしい内容と情感をもった一冊だと思います。
簡単に中身をご紹介すると、佐賀の海近くの貧しい村に生まれた氏は、父から勉強など不要、進学も無用と言われていましたが、苦学して岡山大学に入学します(ここまでのいきさつも相当面白いです)。当時は村の出身者が大学まで進むなどというのは本当にレアで、家族はもとより村の期待を背負ってのことでした。その後、法曹を目指し、猛勉強の末に合格、裁判官を目指しますが、左派全盛の時代背景もあり、ひょんなことから裁判官になることが困難になり、検事の道に進みます。
検事になってからは、佐賀、大阪等で活躍、その後に東京地検特捜部に着任します。特捜部の前は割と単純な軽犯罪から地方自治体の首長を巻き込む贈収賄まで意欲的に手掛け、検事としての力量を高め、適性について確信を深めます。他方、具体的に記述されていますが、検察の上層部からの横やりや圧力が入ったことも一度ならずあり、一部は捜査や起訴を断念したことについても書かれています。本書で認識させられましたが、検察は法務省の傘下にあり、政府の法の番人であることから、政治や政府の意向を強く受けるようです。政府の一組織としてどういう事件を立件するか、捜査するかについてはかなり取捨選択や自主規制があるようです。著者はそうした検察の制約に違和感を感じ、またプライベートでいろいろあったこともあり、検事をやめ、弁護士に転身します。ここらへんの検察組織の特殊性については、内部の第一線に居た人だけに非常にリアルですし、特捜部の捜査を受けて著作を書いた人々の見方があながち滑稽ではないことも伺えます。
さて、ここからが後半ですが、バブル華やかな時代には数多くのバブル紳士がいましたが、大阪、東京を舞台にした数々の経済犯罪や闇の組織とのつながりをもっていった著者は、金が乱れ飛ぶ中で必死に仕事をし(このあたりは相当批判はあると思います)、自分でも書かれているやや悪趣味な金の使い方もしながら、しかし自身の正義と思うところで弁護活動を行っていきます。この間もヤメ検として検察と対峙しつつも、いろいろと人脈を保っており、圧巻です。著者自身の人生も非常に読んでいて面白いのですが、バブル紳士たちの派手すぎる生き方、強引なビジネス手法、法律との戦い方などが生き生きとしており、ポストバブルの現在からは到底理解できないような興味深い内容となっています。
その後、著者自身が特捜部との全面対決をしていき・・・。という話ですが、本当に面白いのでノンフィクション好きの方にはぜひというレベルのお勧め本です。単行本で400ページくらいありますが、あっというまに読めると思います。こういう確かな時代の記録を、自分の人生をさらけ出して書いた著者に感謝したいと思います。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2014年2月16日日曜日
2014年2月9日日曜日
第87回:「われ悩む、ゆえにわれあり」土屋 賢二
レーティング:★★★★★☆☆
土屋さんのエッセイを紹介されたのは、もう10年くらいまえでしょうか。現在の(初婚ですが)妻におもしろいよと当時紹介され、2冊ほど読んだ記憶があります。このたび1週間ほど時間がとれそうだったので、久々に土屋さんの本を読みたいと思い借りてきました。10年ほど前に読んだ時はお茶の水大学教授の肩書だった気がしますが、本書では同大名誉教授になってました。1944年生まれということなので、もう実質引退されているということでしょうか。ちなみに哲学の教授です。
さて、土屋さんの本業の著作は読んだことがないのですが、本書を含む一般向けに書かれているのは軽妙なエッセイが多く、どの本も面白くお勧めです。視点が徹底的に自虐的で、自虐ネタの書きものでは日本でも有数の方ではないかと勝手に思っています。哲学の教授というと難しそうとか高尚そうというイメージがありますが、正直言って息抜きに書いているのか、その真逆でゆるいネタばかりです。カントもヘーゲルも出てきません。
前置きが長くなりましたが本書は2012年に刊行されたもので、元々は雑誌PHPに連載された氏の人生相談から取っているそうです。相談ネタもユニークなものが多く、例えば「自然の美しさに無関心な子ども」について、とか「アリとキリギリス、どちらがトクか」などしょーもない(が当事者にとっては大事な)ものが並びます。しかし、こうして客観的に見てみると下らないなあと思える悩みも、実は自分に生じるとやっかいだったりして、私たちの抱える悩みもはたから見たらその程度なのかもしれません。土屋さんは、いつもどおり力の抜けた、真面目半分、不真面目半分な回答を繰り広げます。どれもかなり笑えるものばかりで公共の乗り物で読むのが困難なのですが、その自由すぎる発想を読んでいくと、単に笑えるだけでなく様々な角度からものをみることで、正当な悩みの評価や新たな抜け出し方を見つけられると言っている気がします(あえて教訓を抽出しようとすれば)。
面白いのはいくつもありますが、備忘まで挙げると「新幹線の肘掛け問題」、「夢がかなったらほんとうに幸せか」、「夢を捨てさせるには」、「仲良しの度合い」などでしょうか。旅に持っていったり、なんとなくふわっと笑いたい時などにお勧めの一冊です。人気のある土屋さんなので、引き続き著作はどんどん出るものと思われます。
土屋さんのエッセイを紹介されたのは、もう10年くらいまえでしょうか。現在の(初婚ですが)妻におもしろいよと当時紹介され、2冊ほど読んだ記憶があります。このたび1週間ほど時間がとれそうだったので、久々に土屋さんの本を読みたいと思い借りてきました。10年ほど前に読んだ時はお茶の水大学教授の肩書だった気がしますが、本書では同大名誉教授になってました。1944年生まれということなので、もう実質引退されているということでしょうか。ちなみに哲学の教授です。
さて、土屋さんの本業の著作は読んだことがないのですが、本書を含む一般向けに書かれているのは軽妙なエッセイが多く、どの本も面白くお勧めです。視点が徹底的に自虐的で、自虐ネタの書きものでは日本でも有数の方ではないかと勝手に思っています。哲学の教授というと難しそうとか高尚そうというイメージがありますが、正直言って息抜きに書いているのか、その真逆でゆるいネタばかりです。カントもヘーゲルも出てきません。
前置きが長くなりましたが本書は2012年に刊行されたもので、元々は雑誌PHPに連載された氏の人生相談から取っているそうです。相談ネタもユニークなものが多く、例えば「自然の美しさに無関心な子ども」について、とか「アリとキリギリス、どちらがトクか」などしょーもない(が当事者にとっては大事な)ものが並びます。しかし、こうして客観的に見てみると下らないなあと思える悩みも、実は自分に生じるとやっかいだったりして、私たちの抱える悩みもはたから見たらその程度なのかもしれません。土屋さんは、いつもどおり力の抜けた、真面目半分、不真面目半分な回答を繰り広げます。どれもかなり笑えるものばかりで公共の乗り物で読むのが困難なのですが、その自由すぎる発想を読んでいくと、単に笑えるだけでなく様々な角度からものをみることで、正当な悩みの評価や新たな抜け出し方を見つけられると言っている気がします(あえて教訓を抽出しようとすれば)。
面白いのはいくつもありますが、備忘まで挙げると「新幹線の肘掛け問題」、「夢がかなったらほんとうに幸せか」、「夢を捨てさせるには」、「仲良しの度合い」などでしょうか。旅に持っていったり、なんとなくふわっと笑いたい時などにお勧めの一冊です。人気のある土屋さんなので、引き続き著作はどんどん出るものと思われます。
2014年2月6日木曜日
第86回:「ザ・プロフェッショナル」大前 研一
レーティング:★★☆☆☆☆☆
言わずと知れた大前さんが2005年に出版された一冊です。いつか時間ができたら読もうかなぁと思っているうちにもう9年も経ってしまったことが驚きですが、遅ればせながら図書館で借りてきました。既にレビューしている大前さんの代表作「企業参謀」が素晴らしいものであったのに、本書は読んでみて非常に残念でした。人の時間は限りがあるので、途中で読むのをやめようかと思いましたが、後半良くなるかもしれないと読み続け、そして不可解な印象と混乱が残ってしまいました。
勝手に低レーティングを付けるのも失礼なので、その理由を列挙してみます。
①内容がとびとびで「ザ・プロフェッショナル」という21世紀のビジネスパーソンのあるべき姿から拡散しており、なにが言いたいのか殆ど分からない。
②コンサルタントスタートだからか、どこまでいってもデルやGE、マイクロソフトといった如何にもビジネススクールが好きな企業の例が並び、その分析がどれも巷の経済雑誌に書かれているレベルで、独自のものが殆どない。
③(①につながる点ですが)サブタイトルが「21世紀をいかに生き抜くか」というものですが、21世紀の企業競争の要諦について、20世紀的なロジックのアプローチが通じるといってみたり、通じないといってみたりぶれており、結局20世紀と21世紀の特徴、違いがごちゃごちゃになっている。
そこらへんの経済評論家やゼミの課題作文ではなく、大前さんなのでこのようなタイトルの大上段の本をだされる以上はもっと整理されたものになっているのかと期待してたのですが、かなり混乱した内容になっている気がします。やはり経営者の一代記のようなリアリティのあるもの、学者でも突っ込んで事例を調べているものの方が面白く、また為になるなあということを再確認する事例でした。残念です。
言わずと知れた大前さんが2005年に出版された一冊です。いつか時間ができたら読もうかなぁと思っているうちにもう9年も経ってしまったことが驚きですが、遅ればせながら図書館で借りてきました。既にレビューしている大前さんの代表作「企業参謀」が素晴らしいものであったのに、本書は読んでみて非常に残念でした。人の時間は限りがあるので、途中で読むのをやめようかと思いましたが、後半良くなるかもしれないと読み続け、そして不可解な印象と混乱が残ってしまいました。
勝手に低レーティングを付けるのも失礼なので、その理由を列挙してみます。
①内容がとびとびで「ザ・プロフェッショナル」という21世紀のビジネスパーソンのあるべき姿から拡散しており、なにが言いたいのか殆ど分からない。
②コンサルタントスタートだからか、どこまでいってもデルやGE、マイクロソフトといった如何にもビジネススクールが好きな企業の例が並び、その分析がどれも巷の経済雑誌に書かれているレベルで、独自のものが殆どない。
③(①につながる点ですが)サブタイトルが「21世紀をいかに生き抜くか」というものですが、21世紀の企業競争の要諦について、20世紀的なロジックのアプローチが通じるといってみたり、通じないといってみたりぶれており、結局20世紀と21世紀の特徴、違いがごちゃごちゃになっている。
そこらへんの経済評論家やゼミの課題作文ではなく、大前さんなのでこのようなタイトルの大上段の本をだされる以上はもっと整理されたものになっているのかと期待してたのですが、かなり混乱した内容になっている気がします。やはり経営者の一代記のようなリアリティのあるもの、学者でも突っ込んで事例を調べているものの方が面白く、また為になるなあということを再確認する事例でした。残念です。
2014年1月26日日曜日
第85回:「バイアウト」幸田 真音
レーティング:★★★★☆☆☆
新幹線や飛行機のなかで、暇つぶしに読む感じで楽しむのに最適な一冊だと思います。決してネガティブな意味ではなく、長さは丁度良く、文章は読みやすく、複雑すぎないので適度に楽しめます。正直にいってあまり期待せずに読み始め、前半だれて読み続けるのをやめようかと思いましたが、後半の意外な展開におおっと読み続けました。良い意味で期待を裏切られた感じです。
さて、内容てすが、現実世界の人をモチーフにして、架空の音楽エンタメ会社を巡るTOB合戦を描いたものです。経済小説にありがちですが、その過程で主人公である女性証券ウーマンの生い立ちと成長が語られます。読めばすぐにわかりますが、一世を風靡した村上ファンド、筋にはあまり関係しませんがホリエモンなどが出てきます。主人公の所属する会社はリーマンブラザーズでしょうか。詳細を書いてしまうとすぐネタバレになりそうですが、時代背景としてはリーマンショック前のやや上向いた経済状況の中、資本主義を標榜するファンドが大きな資産含み益を持つ会社をターゲットに買収を計画するところからスト―リーから始まります。
展開はやや陳腐であり、現実に起きたこと、例えばTBSの買収騒動などの方が部外者としてはずっとエキサイティングだったように思えるのが少し残念です。また、著者の人間描写がやや単線的で感情移入しづらく、更に主人公以外の人物の深みに欠けるところが目立ってしまいます。経済小説でありしかたがない面はあるのですが、経済事象だけ読みたければノンフィクションを読めば良いわけで、そこはかなり残念でした。なお、本書は語りつくされた感のある疑問「会社はだれのものか」を問うものですが、この問いは立場によって見方によって色々な答えがあるので、あまり突き詰めて考えても仕方がないように思えます。
新幹線や飛行機のなかで、暇つぶしに読む感じで楽しむのに最適な一冊だと思います。決してネガティブな意味ではなく、長さは丁度良く、文章は読みやすく、複雑すぎないので適度に楽しめます。正直にいってあまり期待せずに読み始め、前半だれて読み続けるのをやめようかと思いましたが、後半の意外な展開におおっと読み続けました。良い意味で期待を裏切られた感じです。
さて、内容てすが、現実世界の人をモチーフにして、架空の音楽エンタメ会社を巡るTOB合戦を描いたものです。経済小説にありがちですが、その過程で主人公である女性証券ウーマンの生い立ちと成長が語られます。読めばすぐにわかりますが、一世を風靡した村上ファンド、筋にはあまり関係しませんがホリエモンなどが出てきます。主人公の所属する会社はリーマンブラザーズでしょうか。詳細を書いてしまうとすぐネタバレになりそうですが、時代背景としてはリーマンショック前のやや上向いた経済状況の中、資本主義を標榜するファンドが大きな資産含み益を持つ会社をターゲットに買収を計画するところからスト―リーから始まります。
展開はやや陳腐であり、現実に起きたこと、例えばTBSの買収騒動などの方が部外者としてはずっとエキサイティングだったように思えるのが少し残念です。また、著者の人間描写がやや単線的で感情移入しづらく、更に主人公以外の人物の深みに欠けるところが目立ってしまいます。経済小説でありしかたがない面はあるのですが、経済事象だけ読みたければノンフィクションを読めば良いわけで、そこはかなり残念でした。なお、本書は語りつくされた感のある疑問「会社はだれのものか」を問うものですが、この問いは立場によって見方によって色々な答えがあるので、あまり突き詰めて考えても仕方がないように思えます。
2014年1月19日日曜日
第84回:「35歳からのリアル」人生戦略会議
レーティング:★★★★☆☆☆
ハウツーものともちょっと違いますが、2000年代に入ってから書店で良く見るようになった類の一冊です。類書は28歳やら40代やら色々とありますが、一番年齢に近いものを図書館から借りてきました。以前は、こういう本って世代を十把一絡げにして語り、凄い恥ずかしいよな、意味ないよなと思っていたのですが(今も少し思っています)、読まず嫌いも良くないだろうということと、同世代は典型的にどういうイシューを抱えているのかを知るのは迷いの少なくない年代としてよいかなと思って借りた次第です。
前置きが長くなりましたが、本書は「仕事」「家庭」「お金」「活力」「選択」というカテゴリーにそって豊富な客観データを用いて説明を行っていきます。ちなみに読者を男性と明確に規定した内容ですので、男目線、夫目線が露骨に前面にでており、間違って女性が読むとかなり不快かもしれません。こういう本は全体を通して評価する作品ではないので、自分として気になった点、備忘のため記録しておきたい点に絞って書いてみたいと思います。
まず「仕事」です。全産業的にですが、1997~2007年にかけて30~34歳男性の所得は100~300万円減少している(恐るべき数字です)。1997年に最も多いレンジは500~699万円だったのが、2007年には300~399万円に落ちています。雇用体系ごとの分布のシフトがもっとも効いていると思いますが、そういう厳しい時代に生きているということは認識しとかないといけなさそうです。また、35~49歳は週60時間以上働く割合が最も大きい年代だそうです。60時間というのはやってみると割と普通ですが、まあ長いことは確かです。その上で、選択しとして大きく4つのモデルが提示されます、すなわち①専門職として自分の仕事を追究する、②ゼネラリストとしてマネジメントの道を進む、③出世しなくてよいので定年まで勤め上げる、④転職を考える/独立開業を考える。いずれの選択を行う上でも、1.自分は何が得意か、2.自分が本当にやりたいことはなんなのか、3.何をすることに意味や価値を感じるのか、を良く考えるべきということで、新卒当時とは全く違ったリアルな検討ができるようになっているはずだ、とのことです。
「家庭」では主に結婚と子供/子育てについて、「生活」では家、食事、健康をどうするかについて詳細に記載があります。既に幾つかのライフイベントを経験しているので、それほど驚きのある内容はありませんが、子育てにかんする費用については具体的な数字が多くてよかったです。あくまでモデルケースですが、22歳までの養育費は1640万円、私立中学3年間で380万円(公立141万円)、私立高校313万円(公立156万円)。あと日米の幸福度を比べると、アメリカでは年と取るほどに幸福度があがるのに対して、日本では逆に下がり続けています(平成20年度)。比較的福祉が充実している、かつ勝ち逃げ世代が多いと思われる今のシニアにそういう傾向があるのはなんとも不思議です。アメリカは良く分かりませんが、なぜこうも逆の挙動になるのでしょうか。
最後の「活力」「選択」では、もう35だと思うか、それとも今の知識・経験や人脈などを生かして10年後、20年後を(苦しくとも)見据えるかで大きな差が出ること、保守的でありつつも今やりたいことや今しかできないことをしっかり追求することの意味について書かれます。それを実現するために、楽観的であること、体を鍛えること、まずやってみること、「弱い紐帯」を活用すること、などが書かれます。読む前の先入観とは裏腹に、どれもそうだよなあということが多く、言い訳できない世代に差し掛かっていることを痛感しました。10年、20年の計を考えてみたいと思います。
ハウツーものともちょっと違いますが、2000年代に入ってから書店で良く見るようになった類の一冊です。類書は28歳やら40代やら色々とありますが、一番年齢に近いものを図書館から借りてきました。以前は、こういう本って世代を十把一絡げにして語り、凄い恥ずかしいよな、意味ないよなと思っていたのですが(今も少し思っています)、読まず嫌いも良くないだろうということと、同世代は典型的にどういうイシューを抱えているのかを知るのは迷いの少なくない年代としてよいかなと思って借りた次第です。
前置きが長くなりましたが、本書は「仕事」「家庭」「お金」「活力」「選択」というカテゴリーにそって豊富な客観データを用いて説明を行っていきます。ちなみに読者を男性と明確に規定した内容ですので、男目線、夫目線が露骨に前面にでており、間違って女性が読むとかなり不快かもしれません。こういう本は全体を通して評価する作品ではないので、自分として気になった点、備忘のため記録しておきたい点に絞って書いてみたいと思います。
まず「仕事」です。全産業的にですが、1997~2007年にかけて30~34歳男性の所得は100~300万円減少している(恐るべき数字です)。1997年に最も多いレンジは500~699万円だったのが、2007年には300~399万円に落ちています。雇用体系ごとの分布のシフトがもっとも効いていると思いますが、そういう厳しい時代に生きているということは認識しとかないといけなさそうです。また、35~49歳は週60時間以上働く割合が最も大きい年代だそうです。60時間というのはやってみると割と普通ですが、まあ長いことは確かです。その上で、選択しとして大きく4つのモデルが提示されます、すなわち①専門職として自分の仕事を追究する、②ゼネラリストとしてマネジメントの道を進む、③出世しなくてよいので定年まで勤め上げる、④転職を考える/独立開業を考える。いずれの選択を行う上でも、1.自分は何が得意か、2.自分が本当にやりたいことはなんなのか、3.何をすることに意味や価値を感じるのか、を良く考えるべきということで、新卒当時とは全く違ったリアルな検討ができるようになっているはずだ、とのことです。
「家庭」では主に結婚と子供/子育てについて、「生活」では家、食事、健康をどうするかについて詳細に記載があります。既に幾つかのライフイベントを経験しているので、それほど驚きのある内容はありませんが、子育てにかんする費用については具体的な数字が多くてよかったです。あくまでモデルケースですが、22歳までの養育費は1640万円、私立中学3年間で380万円(公立141万円)、私立高校313万円(公立156万円)。あと日米の幸福度を比べると、アメリカでは年と取るほどに幸福度があがるのに対して、日本では逆に下がり続けています(平成20年度)。比較的福祉が充実している、かつ勝ち逃げ世代が多いと思われる今のシニアにそういう傾向があるのはなんとも不思議です。アメリカは良く分かりませんが、なぜこうも逆の挙動になるのでしょうか。
最後の「活力」「選択」では、もう35だと思うか、それとも今の知識・経験や人脈などを生かして10年後、20年後を(苦しくとも)見据えるかで大きな差が出ること、保守的でありつつも今やりたいことや今しかできないことをしっかり追求することの意味について書かれます。それを実現するために、楽観的であること、体を鍛えること、まずやってみること、「弱い紐帯」を活用すること、などが書かれます。読む前の先入観とは裏腹に、どれもそうだよなあということが多く、言い訳できない世代に差し掛かっていることを痛感しました。10年、20年の計を考えてみたいと思います。
2014年1月13日月曜日
第83回:「亡国のイージス」福井 晴敏
レーティング:★★★★★★☆
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年ものんびりとしたペースですが、1冊読み終わるごとに懲りずにレビューしていきたいと思います。さて、昨年末から読み始めていた本書ですがやっと読み終わりました。映画化もされた(見てませんが)ようなので、ご存知の方も多いかもしれない一冊です。私は文庫版の上下2冊を読んだのですが、単行本は1999年が初刊とのことで、もう15年も経つのですね。
まず、非常に長い一冊です。文庫で上下合計ですが千ページを超えています。上巻は謎がふんだんにちりばめられ、海のシーンを中心とした戦記ものみたいな感じですが、下巻は登場人物の家族も含むストーリーが多くなり、人間中心の話に移行していきます。正直に言えばもう少し短い方が楽ですし、後半少しだれる感じがありますが、かといって無駄な削れそうな部分があるかというとそういうことでもないようで、これだけの内容を詰め込むにはやむを得ないのかなと思います。
次に、話は面白いです。上に書いたとおり既に15年が経過していますが、在日米軍、ミサイル防衛、朝鮮半島情勢など日本を取り巻く状況はあまり変わっておらず、いまでも新鮮に読めます。現在は、中国や尖閣情勢が加わっているという意味で更に複雑化していますが・・。要は政治的なリアリティがありつつ、各国家や主体の考えをいくつかのギミックをつかってあぶりだしており、非常に完成度が高いと思います。更に一番上手いなとおもったのは、その魅力ある人物造形です。どの人物もハードボイルドな側面をもっていつつ、人間臭さを失っておらず、常に混乱と迷いの中で最善の選択をしようともがきます。その結果、行動は矛盾を孕んでいたり、合理的でないこともありますが、そういうことを含めて人間であることの賛歌になっています。2000年に日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を一気に受賞していることからも、非常に衝撃を与えた作品ということが分かるかと思います。
あと男子というかおっさん的な観点で面白かったのは、イージス艦や現代の海戦というのがどういうものかという一端が読めたことです。レーダーの性能が飛躍的に向上し、多くのミサイル発射や近接戦闘が自動で行えることや、データリンクをフル活用した電子戦の様相を呈していることなど、まさにハイテクの力を結集していることが分かりました。この文脈では日本が独自に航空機、艦艇を作れば相当のものができそうですが、費用やテスト、また外交上の配慮もあってなかなか難しいそうです。
著者の作品を読むのは初めてでしたが非常に面白く、いつか時間がある時に評判のよい「終戦のローレライ」も読んでみたいと思いますが、こちらは表題作の倍くらいの長さのようなので正直躊躇してしまいます・・。本年は30冊を読むことを目標に掲げているので、年末に115冊くらいまでいけるよう頑張っていきたいと思います。その次は松岡正剛さんの千夜千冊に追いつけ、追い越せで頑張っていきたいと思います。
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。本年ものんびりとしたペースですが、1冊読み終わるごとに懲りずにレビューしていきたいと思います。さて、昨年末から読み始めていた本書ですがやっと読み終わりました。映画化もされた(見てませんが)ようなので、ご存知の方も多いかもしれない一冊です。私は文庫版の上下2冊を読んだのですが、単行本は1999年が初刊とのことで、もう15年も経つのですね。
まず、非常に長い一冊です。文庫で上下合計ですが千ページを超えています。上巻は謎がふんだんにちりばめられ、海のシーンを中心とした戦記ものみたいな感じですが、下巻は登場人物の家族も含むストーリーが多くなり、人間中心の話に移行していきます。正直に言えばもう少し短い方が楽ですし、後半少しだれる感じがありますが、かといって無駄な削れそうな部分があるかというとそういうことでもないようで、これだけの内容を詰め込むにはやむを得ないのかなと思います。
次に、話は面白いです。上に書いたとおり既に15年が経過していますが、在日米軍、ミサイル防衛、朝鮮半島情勢など日本を取り巻く状況はあまり変わっておらず、いまでも新鮮に読めます。現在は、中国や尖閣情勢が加わっているという意味で更に複雑化していますが・・。要は政治的なリアリティがありつつ、各国家や主体の考えをいくつかのギミックをつかってあぶりだしており、非常に完成度が高いと思います。更に一番上手いなとおもったのは、その魅力ある人物造形です。どの人物もハードボイルドな側面をもっていつつ、人間臭さを失っておらず、常に混乱と迷いの中で最善の選択をしようともがきます。その結果、行動は矛盾を孕んでいたり、合理的でないこともありますが、そういうことを含めて人間であることの賛歌になっています。2000年に日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を一気に受賞していることからも、非常に衝撃を与えた作品ということが分かるかと思います。
あと男子というかおっさん的な観点で面白かったのは、イージス艦や現代の海戦というのがどういうものかという一端が読めたことです。レーダーの性能が飛躍的に向上し、多くのミサイル発射や近接戦闘が自動で行えることや、データリンクをフル活用した電子戦の様相を呈していることなど、まさにハイテクの力を結集していることが分かりました。この文脈では日本が独自に航空機、艦艇を作れば相当のものができそうですが、費用やテスト、また外交上の配慮もあってなかなか難しいそうです。
著者の作品を読むのは初めてでしたが非常に面白く、いつか時間がある時に評判のよい「終戦のローレライ」も読んでみたいと思いますが、こちらは表題作の倍くらいの長さのようなので正直躊躇してしまいます・・。本年は30冊を読むことを目標に掲げているので、年末に115冊くらいまでいけるよう頑張っていきたいと思います。その次は松岡正剛さんの千夜千冊に追いつけ、追い越せで頑張っていきたいと思います。
2013年12月23日月曜日
第82回:「経営パワーの危機」三枝 匡
レーティング ★★★★★☆☆
前回レビューした一作と同じ三枝さんの本です。1994年の一冊ですのでそろそろ20年になりますが、色あせていないのはさすがとしか言いようがありません。前回の一作、今回の「経営パワーの危機」、下で触れる「戦略プロフェッショナル」は3部作になっており(直接のつながりはありませんが)、三枝さんの代表作となっています(もとい他の著作はそこまで多くありません)。
さて本書は、ある大企業のミドルが不振子会社に送り込まれるところからスタートします。30代の社員を子会社とはいえ、いきなり社長で行かせてくれるのは本書の題材のようなオーナー企業か商社くらいでしょうか。いまならベンチャーもあるかもしれません。背景にある考え方は、早めに会社全体を見回すマネージメントの仕事をさせることがなによりもの経営人材育成になるというものです。これをベースに本書のテーマは2つ、ミドルの成長譚と不振企業の再生です。いずれも面白いテーマだとおもいます。
今回も実例に即したもので随分リアルな話になっていますが、当然成功事例を取り上げているので、かなり劇的な展開です。三枝さんはトップダウンの威力をどの著作でも強調していて、社員の頑張りも大事だけれど、それを意味あるものにする経営の戦略性やモチベーションの鼓舞のほうがずっと大事だ(本当に変革を起こせる)と強調されています。もちろんトップだけが考えれば良いという短絡的な見方ではなく、再生の過程では社員一人一人の仕事の再生も伴わなければ実現しないということも描かれています。オペレーショナルな改善はボトムアップでもかなりの部分が可能ですが、戦略的な変更は確かにボトムアップでは時間がかかり過ぎますし、よっぽどリスクを取れる/取らざるを得ない環境でないと下から突き上げるインセンティブは低くなると思うので、確かに経営陣が大切というなのは首肯できます。家ではまず親がちゃんとしないと、ということと似ています(難しいですが)。
この一冊には随所に経営ノートというのが挟まれており、著者の経験から導き出された要諦がたくさん書かれていますが、またこれが含蓄のあるものばかりで面白いです。若手からシニアまで読める一冊で、前回レビューしたものより熱量としては少ないですが、それでも熱くなる内容です。
来年になってしまうと思いますが著者の処女作である「戦略プロフェッショナル」を読んでレビューしたいと思います。時系列が刊行順序からすっかり逆になってしまいましたが今から楽しみな一冊です。
11、12月とやや忙しくなってしまい読書ペースが落ちてますが、本年中にもう一冊くらいはレビューしたいと思います。今年は何冊読めたのかあまり自信はありませんが読んだ本のクオリティは相当高い一年間でした。時間が無くなれば、その分有効活用しようと考え流ようで、人生における制約も悪いことばかりではありませんね。
前回レビューした一作と同じ三枝さんの本です。1994年の一冊ですのでそろそろ20年になりますが、色あせていないのはさすがとしか言いようがありません。前回の一作、今回の「経営パワーの危機」、下で触れる「戦略プロフェッショナル」は3部作になっており(直接のつながりはありませんが)、三枝さんの代表作となっています(もとい他の著作はそこまで多くありません)。
さて本書は、ある大企業のミドルが不振子会社に送り込まれるところからスタートします。30代の社員を子会社とはいえ、いきなり社長で行かせてくれるのは本書の題材のようなオーナー企業か商社くらいでしょうか。いまならベンチャーもあるかもしれません。背景にある考え方は、早めに会社全体を見回すマネージメントの仕事をさせることがなによりもの経営人材育成になるというものです。これをベースに本書のテーマは2つ、ミドルの成長譚と不振企業の再生です。いずれも面白いテーマだとおもいます。
今回も実例に即したもので随分リアルな話になっていますが、当然成功事例を取り上げているので、かなり劇的な展開です。三枝さんはトップダウンの威力をどの著作でも強調していて、社員の頑張りも大事だけれど、それを意味あるものにする経営の戦略性やモチベーションの鼓舞のほうがずっと大事だ(本当に変革を起こせる)と強調されています。もちろんトップだけが考えれば良いという短絡的な見方ではなく、再生の過程では社員一人一人の仕事の再生も伴わなければ実現しないということも描かれています。オペレーショナルな改善はボトムアップでもかなりの部分が可能ですが、戦略的な変更は確かにボトムアップでは時間がかかり過ぎますし、よっぽどリスクを取れる/取らざるを得ない環境でないと下から突き上げるインセンティブは低くなると思うので、確かに経営陣が大切というなのは首肯できます。家ではまず親がちゃんとしないと、ということと似ています(難しいですが)。
この一冊には随所に経営ノートというのが挟まれており、著者の経験から導き出された要諦がたくさん書かれていますが、またこれが含蓄のあるものばかりで面白いです。若手からシニアまで読める一冊で、前回レビューしたものより熱量としては少ないですが、それでも熱くなる内容です。
来年になってしまうと思いますが著者の処女作である「戦略プロフェッショナル」を読んでレビューしたいと思います。時系列が刊行順序からすっかり逆になってしまいましたが今から楽しみな一冊です。
11、12月とやや忙しくなってしまい読書ペースが落ちてますが、本年中にもう一冊くらいはレビューしたいと思います。今年は何冊読めたのかあまり自信はありませんが読んだ本のクオリティは相当高い一年間でした。時間が無くなれば、その分有効活用しようと考え流ようで、人生における制約も悪いことばかりではありませんね。
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