2020年2月11日火曜日

第229回:「親鸞(激動篇)」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

前回レビューした親鸞3部作の真ん中に当たる激動篇となります。まさに文字通り激動ですが、流刑となり京を追われた親鸞が妻の故郷である越後で暮らし始め、その後、故あって東国に移り住むまでの数十年をカバーしています。越後での暮らしは楽なものではありませんが、妻と力を合わせ、また外道院などある意味高い仏性を持った人物たちと出会いながら、つつましいながらも幸せな生活を送り、子宝にも恵まれていきます。通して読んでいくと、この時期が人間の生活という観点では一番充実していたのではないかと思われる暮らしぶりです。

本日も野村監督が亡くなられたというニュースがありましたが、親鸞も終生の師であった法然が逝去したことを受け、自らの本願を探し、かなえるため、当時はまだ発展途上にあった東国に渡ることを決意します。都とも越後ともかけ離れた生活が始まりますが、筑波山の見える草庵にて、ここでも夫婦で力を合わせて生活を行い、幸いにして多くの信徒や信者を得ることに成功します。他方、1部作目から通奏低音になっている信仰の先鋭的な側面がちらちらと出てきて、まるで親鸞の思索や思想が突き詰められればられるほど、それへの反感もまた大きくなっていくようであり、3部作目への伏線がうまく引かれていきます。

2部作目ですが、中だるみせずどんどん読めます。

2019年12月31日火曜日

第228回:「親鸞」五木 寛之

レーティング:★★★★★☆☆

興味がありながら手が出ていなかった一冊です。厳密には上下巻2冊で後に「青春篇」とサブタイトルが付けられる親鸞三部作の第一作に当たるものです。世俗との交わり、弟たちを置いての出家、比叡山からの下山、そして流刑としての新潟への旅立ちまでが綴られます。

我ながら親鸞について改めてなにも知らないことに驚きつつ読みましたが、法然という素晴らしい師を得るものの、一度若いころに聞いた法然の話の良さはよくわからなかったり、色々な女性に思いを寄せたりと人間らしい親しみやすさを前面に出しつつ、修行に厳しい態度で妥協なく励み続ける若き日々が活写されています。また、黒面法師といった悪役が、歌舞伎のように分かりやすく描かれており、ここのあたりは賛否両論あると思いますが、活劇調でぐいぐい引き込まれていきます。さすが人気作家というところです。

親鸞は浄土真宗の宗祖とされており、阿弥陀如来に念仏を唱える、そのことだけで良いという法然の考えを継承して広めていきました。法然の考え方はシンプルですがとても影響力が強く、それゆえに複雑な教義や論理を力の源泉とする比叡山と鋭く対立して弾圧されていった過程は驚くばかりです。また読み進めていくと当時の末法といわれていた時代のとてつもない貧困や不衛生、医療の不在などが見えてきます。そして11月末に久々に行きましたが鴨川のあたりの壮絶な社会風景も浮かび上がってきます。色々な問題は現代にもあるわけですが、基本的な社会ニーズがいかに充足されてきたかを考えると、先人には感謝しないといけないと感じます。

現在、第二部を読んでおりこちらも大変面白いので読み終わったらレビューしていきたいと思います。

第227回:「小説帝銀事件」松本 清張

レーティング:★★★★★☆☆

またまた前回の投稿から2か月ほど空いてしまいました。この10月から年末までは仕事を始めて以来といってもよいかもしれないほど色々な案件が同時進行し、深夜残業ということはありませんでしたが、あらゆる方面に気を回さないといけずとても忙しかった実感があります。また、夏から時間のかかる趣味に取り組んでおり、そちらに会社帰りの電車の中の時間などを大きくとられています。そんな中ではありますが、3冊ほどストックがあるので、一部は年明けに掛かってしまいそうですが、順にレビューしていきたいと思います。

標題の作品は今や昭和の遠い昔の作家になってしまいましたが、大家である松本清張さんの作品です。帝銀事件というのは聞いたことはあったのですが、昭和23年1月26日に起きた帝国銀行の都内支店職員に対する毒薬投与の事件であり、大変衝撃的な内容となっています。本書ではGHQの影響が強く示唆される書き出しとなっていますが、本書を通読しても真相はよくわからず、捕まった方が真犯人であったのかどうかも含めて謎が多いところです。1点分からないのは、GHQの関与とは陰謀説的にはありそうですが、いかなる動機がありえたのかという点です。帝銀が占領政策に反対するようなことをしていたとは思えませんし、731部隊関係者が関与していたとしても積極的にGHQに協力する動機は思い浮かびません。松本さんはこの事件について「帝銀事件の謎」という本も書いているそうですので、そちも読んでみたいと思います。

例年本離れ、雑誌離れが叫ばれますが、確かに家計の使う本への消費額は実感としてもかなり減っている気がします。親の世代に比べて図書館や古本屋も充実していますし、簡単なコンテンツならネットで拾える(除く小説)ようになってきました。本を読むことが良いことだという単純な価値観は持っていませんが、電車やバスで本を読む人々の姿が本当に皆無になりつつあることは寂しい気がします。よい本があればしっかり書店で購入し、少しでも出版界の支えになりたいと思います。

2019年10月6日日曜日

第226回:「筋トレが最強のソリューションである」Testosterone

レーティング:★★★★★☆☆

前回のレビューからずいぶん時間が空いてしまいました。夏休み後から仕事がやたら忙しく、更にはお盆ぐらいから久々に将棋にハマってしまい、会社帰りなどの相当の時間を将棋に使ってしまい、純粋な読書量がかなり減少しています。純粋なという意味は将棋の本は数冊読んでおり、将棋関連以外の本を指しています。

それはともかくとして、図書館に予約してから彼此1年くらい待ってようやく届いた本がこちらです。本屋でも平積みですし、新聞広告などでも目にされる方が多い一冊かと思います。昨今、高齢化に伴う健康意識の高まり、さらにはライザップブーム(去った?)などで健康のために筋トレが役に立つという認識が急速に広がってきた影響で、Testosteroneさんを始めとしてトレーニング本隆盛の時代を迎えていきます。

過度なものでなければ運動が健康にいいのは疑う余地がないところですし、健康であれば結果としてダウンタイムや医療費の削減に繋がるのも事実でしょうから、そういう意味でこのブームは良いことだと思います。他方、糖分満載のタピオカが流行したり、相変わらずデカ盛り番組などがたくさん流されていることを考えると、おそらく健康やスポーツに目を向ける人とそうでない人というのもまた顕著に違うのかもしれません。結局は自分で責任を負うべき選択であり、それ自体はとやかくいえませんが。

この本はまさにタイトルの通りで筋トレしたらうまくいく、そして気分も上がるという本です。特に欧米ではかなり筋トレというのは標準的な日常活動に組み込まれている感じがします。マッチョ志向とは言いませんが、男女を問わずがっちりとした肉体で健康になる(見せる)というのはかなり重要な要素らしく、健康のためにそうしているかは別として、価値観に組み込まれていると思います。そういう波が大きな意味での欧米化の一部として日本にも遅ればせながら到来してきているのかもしれません。ちょうど今ラグビーワールドカップが盛り上がっていますが、彼らの筋肉隆々とした体とプレーを見ていると、日本人の憧れの体も少しずつ変化していくのかもしれません。本書の内容にほとんど触れませんでしたが、深い言葉あり、面白い逸話あり、軽妙なギャグありで面白いです。特に10代、20代で読むとその後の大きな財産になりそうな本です。

2019年8月11日日曜日

第225回:「極夜行前」角幡 唯介

レーティング:★★★★★★★

第221回でレビューした名作と呼び声の高い「極夜行」のまさに準備段階について記した一冊です。角幡さんには失礼ですが、人気作の二番煎じでつまらない本なんじゃないかという危惧も少しだけあったのですが、至極真面目に書かれており、またそのクオリティは「極夜行」よりも高いのではないかという一冊でした。探検物が好きな方には本当にマストといえる一冊ではないでしょうか。素晴らしい作品です。

おおもとになった「極夜行」については既に第221回に結構書き込んだのでまだの方はそちらを見ていただくとして、本書の素晴らしさは冒険家角幡唯介が如何に長い年月を掛け、また用意周到に困難を乗り越えながら準備してきたがの過程がつぶさにわかることです。例えば本編ではさらりとしか触れられない六分儀について試行錯誤を繰り返したこと、デポについては何度も何度も荒らされてきたこと、またカヤックでの北極圏での長旅を行ってきたことなど、どれもが得難い探検となっています。また、その過程では自らと北極圏がダイレクトにつながり、まさに自然の恵みを得て自分が生きていき、さらに旅をアレンジしていくというダイレクトな感覚を味わうプロセスが描かれており、感動的ですらあります。

自分が道具を使いこなし、スキルを習得しながら自らのできることを拡大していく、それは生命にとって生きることと同義であるはず。旅の中でそのプロセスをたくさんの助力を得ながら実現していったこの探検は、間違いなく事前準備も含めて角幡さんの最高傑作ではないでしょうか。また、30代後半から40代前半に掛けて何かの最高傑作を残したいという角幡さんの人生観は胸に刺さるものがあります。当然、探検という肉体的な要素が強いジャンルと市井の勤め人では何をもってピークとするかは相当異なるものと思いますが、その覚悟に学ぶところ大です。

2019年8月10日土曜日

第224回:「黄砂の籠城」松岡 圭祐

レーティング:★★★★★★☆

随分前回のレビューから時間が空いてしまいました。更新頻度が落ちるときは本があまり読めていないという時もあるのですが、それ以上に仕事やらで忙しくなってしまい、なかなか家でPCを空ける時間が取れないという時が多いです。7月は色々とバタバタでしたが、やっとお盆になり一息。数冊のストックがあるので順にレビューしていきたいと思います。

さて、松岡さんの本はまだ読んだことがなかったのですが、ミステリーを中心に書かれてきた作家が書下ろしで新たなジャンルに挑んだのがこの一冊ということです。あるブログを読んでいたら、本当に面白いので読んでほしいという熱いポストがあり手を出してみました。文庫で上下2冊ですが、非常に面白くてぐいぐい読んでしまいました。

題材は歴史で習う所謂「義和団事件」であり、義和団の乱とか義和団の変などといったりもします。時は清王朝の末期、1900年のことです。予てからの日本を含む列強の中国への駐屯が進む中で、欧米諸国は宣教師を通じたキリスト教の布教に力を入れていましたが、その欧米人やキリスト教のアプローチに強く反発した宗教結社の義和団が中核となり、キリスト教会を手始めに列強の権益に反対し、ついには西太后が列強に宣戦布告をし、北京の公使館地区である東交民港を義和団と清朝軍が包囲し、壮絶な籠城戦を行っていきますが、この過程が描かれています。

その籠城戦の中では、会津という歴史的な宿命を負ってしまった藩出身の柴五郎が陸軍軍人として連合国の作戦立案、籠城戦でとてつもない働きをします。そのこと自体知りませんでしたが、日本人は一致団結して、また義勇兵も含めて献身的に働き、籠城戦成功に大きな役割を果たしたと言われています。やや一方的な日本礼賛と思えるところもなくはないですが、筆致は抑え気味でわりと客観的なのではないかと思います。また、この間の他国(特にイギリス、ロシア)とのやりとりや内紛、スパイなどは息を握る展開であり、ものすごい戦いがあったのだなと痛感しました。歴史ものとしてもエンタメ大作としてもとても面白く読めると思います。お勧めです。

2019年7月7日日曜日

第223回:「沈黙」遠藤 周作

レーティング:★★★★★★★

第219回でレビューした「深い河」に続き、遠藤周作さんの代表作です。これもいいよとお勧めをしてもらった一冊となります。さっそく読んでみましたが、題材、構成、描写、文体などどれも超一流であり、文句なしの最高レーティングです。昭和の大作家はすごいということを折に触れて描いていますが、その凄まじさを印象付けるに十分な一冊です。中学以上の学生さんにも十分読める内容だと思いますので、ぜひ夏休みなどに読んでみるとよいのではないかと思います。

テーマはキリスト教、布教と弾圧、さらには神の沈黙、そもそも信仰とは何かというところまで掘り下がっていきます。そんなに分厚い本ではありませんが、司祭や信徒に待ち受ける過酷すぎる運命を通じて、これらが浮き彫りにされていきます。作品の内容としては決して明るくありませんし、読んでいると頭からどんよりと暗い気分になりますが、それほど作品がもつパワーが強いということかと思います。

作品は、じわじわと繰り返される疑問、なぜ沈黙なのか、なぜ何の救いも与えられないのかという点を軸に進んでいきます。そして最後まで沈黙は破られず、救いも与えられませんが、その中で葛藤し、答えが見いだされていきます。基本的には信仰の葛藤を描いていると考えられますが、シニカルな見方をすればそこまで信じる価値のあるものは何なのか、ただの自分勝手な思い込みに過ぎないのかという見方も成立するのではないかと思います。ここらへんの分岐は、そもそもキリスト教的な見方を持てるのか、持てないのか、もっといえば宗教的な強い信仰を持ったことがあるのか、ないのかというところに左右されるともいますが、私は後者の部類なので司祭に没入するということは難しかったです。

しかしながら、個人的な信仰の有無は別として作品としての素晴らしさは全く減じることなくあります。また、歴史的なキリシタン弾圧の一つの側面が書かれており、その凄まじさを学ぶこともできます。2015年頃でしょうか、インドネシアのスマトラのキリスト教が多い地区に行ったことがありますが、そこでも圧倒的なイスラム圏におけるキリスト教の存在を目にして、ずいぶん驚いた記憶があります。良作中の良作といってよい一冊であり、ぜひ読んでいただきたいと思います。