レーティング:★★★★★★★
第221回でレビューした名作と呼び声の高い「極夜行」のまさに準備段階について記した一冊です。角幡さんには失礼ですが、人気作の二番煎じでつまらない本なんじゃないかという危惧も少しだけあったのですが、至極真面目に書かれており、またそのクオリティは「極夜行」よりも高いのではないかという一冊でした。探検物が好きな方には本当にマストといえる一冊ではないでしょうか。素晴らしい作品です。
おおもとになった「極夜行」については既に第221回に結構書き込んだのでまだの方はそちらを見ていただくとして、本書の素晴らしさは冒険家角幡唯介が如何に長い年月を掛け、また用意周到に困難を乗り越えながら準備してきたがの過程がつぶさにわかることです。例えば本編ではさらりとしか触れられない六分儀について試行錯誤を繰り返したこと、デポについては何度も何度も荒らされてきたこと、またカヤックでの北極圏での長旅を行ってきたことなど、どれもが得難い探検となっています。また、その過程では自らと北極圏がダイレクトにつながり、まさに自然の恵みを得て自分が生きていき、さらに旅をアレンジしていくというダイレクトな感覚を味わうプロセスが描かれており、感動的ですらあります。
自分が道具を使いこなし、スキルを習得しながら自らのできることを拡大していく、それは生命にとって生きることと同義であるはず。旅の中でそのプロセスをたくさんの助力を得ながら実現していったこの探検は、間違いなく事前準備も含めて角幡さんの最高傑作ではないでしょうか。また、30代後半から40代前半に掛けて何かの最高傑作を残したいという角幡さんの人生観は胸に刺さるものがあります。当然、探検という肉体的な要素が強いジャンルと市井の勤め人では何をもってピークとするかは相当異なるものと思いますが、その覚悟に学ぶところ大です。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2019年8月11日日曜日
2019年8月10日土曜日
第224回:「黄砂の籠城」松岡 圭祐
レーティング:★★★★★★☆
随分前回のレビューから時間が空いてしまいました。更新頻度が落ちるときは本があまり読めていないという時もあるのですが、それ以上に仕事やらで忙しくなってしまい、なかなか家でPCを空ける時間が取れないという時が多いです。7月は色々とバタバタでしたが、やっとお盆になり一息。数冊のストックがあるので順にレビューしていきたいと思います。
さて、松岡さんの本はまだ読んだことがなかったのですが、ミステリーを中心に書かれてきた作家が書下ろしで新たなジャンルに挑んだのがこの一冊ということです。あるブログを読んでいたら、本当に面白いので読んでほしいという熱いポストがあり手を出してみました。文庫で上下2冊ですが、非常に面白くてぐいぐい読んでしまいました。
題材は歴史で習う所謂「義和団事件」であり、義和団の乱とか義和団の変などといったりもします。時は清王朝の末期、1900年のことです。予てからの日本を含む列強の中国への駐屯が進む中で、欧米諸国は宣教師を通じたキリスト教の布教に力を入れていましたが、その欧米人やキリスト教のアプローチに強く反発した宗教結社の義和団が中核となり、キリスト教会を手始めに列強の権益に反対し、ついには西太后が列強に宣戦布告をし、北京の公使館地区である東交民港を義和団と清朝軍が包囲し、壮絶な籠城戦を行っていきますが、この過程が描かれています。
その籠城戦の中では、会津という歴史的な宿命を負ってしまった藩出身の柴五郎が陸軍軍人として連合国の作戦立案、籠城戦でとてつもない働きをします。そのこと自体知りませんでしたが、日本人は一致団結して、また義勇兵も含めて献身的に働き、籠城戦成功に大きな役割を果たしたと言われています。やや一方的な日本礼賛と思えるところもなくはないですが、筆致は抑え気味でわりと客観的なのではないかと思います。また、この間の他国(特にイギリス、ロシア)とのやりとりや内紛、スパイなどは息を握る展開であり、ものすごい戦いがあったのだなと痛感しました。歴史ものとしてもエンタメ大作としてもとても面白く読めると思います。お勧めです。
随分前回のレビューから時間が空いてしまいました。更新頻度が落ちるときは本があまり読めていないという時もあるのですが、それ以上に仕事やらで忙しくなってしまい、なかなか家でPCを空ける時間が取れないという時が多いです。7月は色々とバタバタでしたが、やっとお盆になり一息。数冊のストックがあるので順にレビューしていきたいと思います。
さて、松岡さんの本はまだ読んだことがなかったのですが、ミステリーを中心に書かれてきた作家が書下ろしで新たなジャンルに挑んだのがこの一冊ということです。あるブログを読んでいたら、本当に面白いので読んでほしいという熱いポストがあり手を出してみました。文庫で上下2冊ですが、非常に面白くてぐいぐい読んでしまいました。
題材は歴史で習う所謂「義和団事件」であり、義和団の乱とか義和団の変などといったりもします。時は清王朝の末期、1900年のことです。予てからの日本を含む列強の中国への駐屯が進む中で、欧米諸国は宣教師を通じたキリスト教の布教に力を入れていましたが、その欧米人やキリスト教のアプローチに強く反発した宗教結社の義和団が中核となり、キリスト教会を手始めに列強の権益に反対し、ついには西太后が列強に宣戦布告をし、北京の公使館地区である東交民港を義和団と清朝軍が包囲し、壮絶な籠城戦を行っていきますが、この過程が描かれています。
その籠城戦の中では、会津という歴史的な宿命を負ってしまった藩出身の柴五郎が陸軍軍人として連合国の作戦立案、籠城戦でとてつもない働きをします。そのこと自体知りませんでしたが、日本人は一致団結して、また義勇兵も含めて献身的に働き、籠城戦成功に大きな役割を果たしたと言われています。やや一方的な日本礼賛と思えるところもなくはないですが、筆致は抑え気味でわりと客観的なのではないかと思います。また、この間の他国(特にイギリス、ロシア)とのやりとりや内紛、スパイなどは息を握る展開であり、ものすごい戦いがあったのだなと痛感しました。歴史ものとしてもエンタメ大作としてもとても面白く読めると思います。お勧めです。
2019年7月7日日曜日
第223回:「沈黙」遠藤 周作
レーティング:★★★★★★★
第219回でレビューした「深い河」に続き、遠藤周作さんの代表作です。これもいいよとお勧めをしてもらった一冊となります。さっそく読んでみましたが、題材、構成、描写、文体などどれも超一流であり、文句なしの最高レーティングです。昭和の大作家はすごいということを折に触れて描いていますが、その凄まじさを印象付けるに十分な一冊です。中学以上の学生さんにも十分読める内容だと思いますので、ぜひ夏休みなどに読んでみるとよいのではないかと思います。
テーマはキリスト教、布教と弾圧、さらには神の沈黙、そもそも信仰とは何かというところまで掘り下がっていきます。そんなに分厚い本ではありませんが、司祭や信徒に待ち受ける過酷すぎる運命を通じて、これらが浮き彫りにされていきます。作品の内容としては決して明るくありませんし、読んでいると頭からどんよりと暗い気分になりますが、それほど作品がもつパワーが強いということかと思います。
作品は、じわじわと繰り返される疑問、なぜ沈黙なのか、なぜ何の救いも与えられないのかという点を軸に進んでいきます。そして最後まで沈黙は破られず、救いも与えられませんが、その中で葛藤し、答えが見いだされていきます。基本的には信仰の葛藤を描いていると考えられますが、シニカルな見方をすればそこまで信じる価値のあるものは何なのか、ただの自分勝手な思い込みに過ぎないのかという見方も成立するのではないかと思います。ここらへんの分岐は、そもそもキリスト教的な見方を持てるのか、持てないのか、もっといえば宗教的な強い信仰を持ったことがあるのか、ないのかというところに左右されるともいますが、私は後者の部類なので司祭に没入するということは難しかったです。
しかしながら、個人的な信仰の有無は別として作品としての素晴らしさは全く減じることなくあります。また、歴史的なキリシタン弾圧の一つの側面が書かれており、その凄まじさを学ぶこともできます。2015年頃でしょうか、インドネシアのスマトラのキリスト教が多い地区に行ったことがありますが、そこでも圧倒的なイスラム圏におけるキリスト教の存在を目にして、ずいぶん驚いた記憶があります。良作中の良作といってよい一冊であり、ぜひ読んでいただきたいと思います。
第219回でレビューした「深い河」に続き、遠藤周作さんの代表作です。これもいいよとお勧めをしてもらった一冊となります。さっそく読んでみましたが、題材、構成、描写、文体などどれも超一流であり、文句なしの最高レーティングです。昭和の大作家はすごいということを折に触れて描いていますが、その凄まじさを印象付けるに十分な一冊です。中学以上の学生さんにも十分読める内容だと思いますので、ぜひ夏休みなどに読んでみるとよいのではないかと思います。
テーマはキリスト教、布教と弾圧、さらには神の沈黙、そもそも信仰とは何かというところまで掘り下がっていきます。そんなに分厚い本ではありませんが、司祭や信徒に待ち受ける過酷すぎる運命を通じて、これらが浮き彫りにされていきます。作品の内容としては決して明るくありませんし、読んでいると頭からどんよりと暗い気分になりますが、それほど作品がもつパワーが強いということかと思います。
作品は、じわじわと繰り返される疑問、なぜ沈黙なのか、なぜ何の救いも与えられないのかという点を軸に進んでいきます。そして最後まで沈黙は破られず、救いも与えられませんが、その中で葛藤し、答えが見いだされていきます。基本的には信仰の葛藤を描いていると考えられますが、シニカルな見方をすればそこまで信じる価値のあるものは何なのか、ただの自分勝手な思い込みに過ぎないのかという見方も成立するのではないかと思います。ここらへんの分岐は、そもそもキリスト教的な見方を持てるのか、持てないのか、もっといえば宗教的な強い信仰を持ったことがあるのか、ないのかというところに左右されるともいますが、私は後者の部類なので司祭に没入するということは難しかったです。
しかしながら、個人的な信仰の有無は別として作品としての素晴らしさは全く減じることなくあります。また、歴史的なキリシタン弾圧の一つの側面が書かれており、その凄まじさを学ぶこともできます。2015年頃でしょうか、インドネシアのスマトラのキリスト教が多い地区に行ったことがありますが、そこでも圧倒的なイスラム圏におけるキリスト教の存在を目にして、ずいぶん驚いた記憶があります。良作中の良作といってよい一冊であり、ぜひ読んでいただきたいと思います。
2019年6月30日日曜日
第222回:「植村直己、挑戦を語る」文藝春秋編
レーティング:★★★★☆☆☆
前回レビューした角幡さんの先達であり、北極圏の冒険で名をはせた植村直己さんの対談集です。この本自体は平成16年で刊行されており、すでに15年前の作品となります。植村さんは1984年、昭和59年に消息を絶たれており、私の思い違いかもしれませんがニュースで行方不明の速報があり、この人はどういう人なのかと父に聞いた覚えがあります。植村さんが43歳の時の話です。
私にとってはごく小さいころに亡くなられた植村さんの名前は、色々なところで見たり聞いたりすることになりました。主に登山雑誌や角幡さんのような探検家の書籍を通じてですが、やはりその極地を探検する行動力と先駆性について一様に称賛されており、いつか読んでみたいと願いつつずいぶんな時が経ちました。図書館で手に取った本書は、色々な媒体に掲載された10以上の著名人と植村さんの対談が収められています。よくわかったのは植村さんの凄まじさです。日本人としてヒマラヤに初登頂、その後、世界5大陸最高峰に世界で初めて登頂した人となります。更に、北極圏の犬ぞり(単独)12千キロ旅行、同じく北極点への犬ぞり(単独)成功。最後は世界初となるマッキンリー冬期単独登頂を達成され、直後に行方知れずとなります。その行動の密度とレベルの高さは驚愕すべきものであり、以降、同じような方は日本には現れておらず、世界的にも名前が轟きました。
面白かったのは植村さんのとても飾らない人柄と謙虚さです。ご本人は自分は社会や会社では普通にはやっていけない落伍者であるという認識を基本に持っており、それがゆえに大学を卒業してもふらふらと流れるようにアフリカにわたっていった話をされます。野生時のようなたくましさを持っている一方、少なくとも戦後の日本社会によくなじめないという感じが強くにじみ出ており、もの悲しさもあります。それにしても対談者が豪華であり、石原慎太郎、五木寛之、王貞治、堀江健一(ヨットマン)、遠藤周作、開高健、伊丹重蔵、小西政継(登山家)、井上靖、大貫映子(ドーバー海峡横断スイマー)らが並んでいます。何人かはすでにお亡くなりになっていますが、彼らの若いころの対談は現代ではNGのような発言も数多く、おおらかな時代だったことを伺わせます。
今度は、ご本人の著作を探して読んでみたいと思います。
前回レビューした角幡さんの先達であり、北極圏の冒険で名をはせた植村直己さんの対談集です。この本自体は平成16年で刊行されており、すでに15年前の作品となります。植村さんは1984年、昭和59年に消息を絶たれており、私の思い違いかもしれませんがニュースで行方不明の速報があり、この人はどういう人なのかと父に聞いた覚えがあります。植村さんが43歳の時の話です。
私にとってはごく小さいころに亡くなられた植村さんの名前は、色々なところで見たり聞いたりすることになりました。主に登山雑誌や角幡さんのような探検家の書籍を通じてですが、やはりその極地を探検する行動力と先駆性について一様に称賛されており、いつか読んでみたいと願いつつずいぶんな時が経ちました。図書館で手に取った本書は、色々な媒体に掲載された10以上の著名人と植村さんの対談が収められています。よくわかったのは植村さんの凄まじさです。日本人としてヒマラヤに初登頂、その後、世界5大陸最高峰に世界で初めて登頂した人となります。更に、北極圏の犬ぞり(単独)12千キロ旅行、同じく北極点への犬ぞり(単独)成功。最後は世界初となるマッキンリー冬期単独登頂を達成され、直後に行方知れずとなります。その行動の密度とレベルの高さは驚愕すべきものであり、以降、同じような方は日本には現れておらず、世界的にも名前が轟きました。
面白かったのは植村さんのとても飾らない人柄と謙虚さです。ご本人は自分は社会や会社では普通にはやっていけない落伍者であるという認識を基本に持っており、それがゆえに大学を卒業してもふらふらと流れるようにアフリカにわたっていった話をされます。野生時のようなたくましさを持っている一方、少なくとも戦後の日本社会によくなじめないという感じが強くにじみ出ており、もの悲しさもあります。それにしても対談者が豪華であり、石原慎太郎、五木寛之、王貞治、堀江健一(ヨットマン)、遠藤周作、開高健、伊丹重蔵、小西政継(登山家)、井上靖、大貫映子(ドーバー海峡横断スイマー)らが並んでいます。何人かはすでにお亡くなりになっていますが、彼らの若いころの対談は現代ではNGのような発言も数多く、おおらかな時代だったことを伺わせます。
今度は、ご本人の著作を探して読んでみたいと思います。
2019年6月16日日曜日
第221回:「極夜行」角幡 唯介
レーティング:★★★★★★★
以前ツアンポーの探検についてレビューした角幡(かくはた)さんの一冊です。2018年の本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞と大佛次郎賞を獲得した一冊です。角幡さんは、ノンフィクション分野、とりわけ探検分野(というものがあれば)では本当に伸び盛り、また円熟さも出してきている第一人者です。目が離せない作家といって良いと思います。その良さはオリジナリティのあふれる探検を自ら考え、自らの資金で実行し、それを作品にしているという点、また筆力も高く、ただの叙述ではなく、かといって過剰な叙情でもない良さがある点です。本書はまぎれもなく一線級の作品であり、こういう探検と著作を出せる人は日本にはごくわずかになっていると思います。
本作は、極夜でどこまでいけるかという題材を取り扱った一冊です。極夜とは耳慣れないことばですが、白夜の対義語で要すれば一日中太陽が昇らない状態を指します。北極圏のごく近い地域では白夜と極夜の両方が体験出来て、まさに異次元的というか宇宙的な体験ができるそうです。グリーンランドが舞台であり、角幡さんは4年間を掛けて実験的な探検から始まり、各種の技術習得、デポの設営など何度も現地に足を運びながら周到に準備をされます。その成果もあって極めて過酷な状況ながらツアンポーよりも死地をさまよう局面が少ないような感じですが、それでも毎日暗い中を犬と一緒に橇を引きながら何か月も氷点下30-40度といったなかを人力で歩きとおすのですから、大変なことです。当たり前ですが常人には全く想像もつかない世界です。
また、結婚、奥さんの出産といったライフイベントがうまく探検とマッチしてきて、ただの探検から人生や太陽といったものへの深い考察へと降りてきます。加えて今回特徴的なのは犬を同行させており、その犬との交流や協力、さらには抜き差しならない状況に陥った時の判断までつまびらかに開示されており、犬とと旅することについてもユニークな考察がなされた一冊になっています。
角幡さんは40歳ころまでに最高の探検をしたかった、これからは衰えが出てくるだろうということを書かれています。しかしながら、本書を読む限りむしろ経験を増して更に独創性のある探検ができるようになられている印象があります。次の本格的な探検がどういう形になるのかわかりませんが、大変期待しているところです。
以前ツアンポーの探検についてレビューした角幡(かくはた)さんの一冊です。2018年の本屋大賞2018年ノンフィクション本大賞と大佛次郎賞を獲得した一冊です。角幡さんは、ノンフィクション分野、とりわけ探検分野(というものがあれば)では本当に伸び盛り、また円熟さも出してきている第一人者です。目が離せない作家といって良いと思います。その良さはオリジナリティのあふれる探検を自ら考え、自らの資金で実行し、それを作品にしているという点、また筆力も高く、ただの叙述ではなく、かといって過剰な叙情でもない良さがある点です。本書はまぎれもなく一線級の作品であり、こういう探検と著作を出せる人は日本にはごくわずかになっていると思います。
本作は、極夜でどこまでいけるかという題材を取り扱った一冊です。極夜とは耳慣れないことばですが、白夜の対義語で要すれば一日中太陽が昇らない状態を指します。北極圏のごく近い地域では白夜と極夜の両方が体験出来て、まさに異次元的というか宇宙的な体験ができるそうです。グリーンランドが舞台であり、角幡さんは4年間を掛けて実験的な探検から始まり、各種の技術習得、デポの設営など何度も現地に足を運びながら周到に準備をされます。その成果もあって極めて過酷な状況ながらツアンポーよりも死地をさまよう局面が少ないような感じですが、それでも毎日暗い中を犬と一緒に橇を引きながら何か月も氷点下30-40度といったなかを人力で歩きとおすのですから、大変なことです。当たり前ですが常人には全く想像もつかない世界です。
また、結婚、奥さんの出産といったライフイベントがうまく探検とマッチしてきて、ただの探検から人生や太陽といったものへの深い考察へと降りてきます。加えて今回特徴的なのは犬を同行させており、その犬との交流や協力、さらには抜き差しならない状況に陥った時の判断までつまびらかに開示されており、犬とと旅することについてもユニークな考察がなされた一冊になっています。
角幡さんは40歳ころまでに最高の探検をしたかった、これからは衰えが出てくるだろうということを書かれています。しかしながら、本書を読む限りむしろ経験を増して更に独創性のある探検ができるようになられている印象があります。次の本格的な探検がどういう形になるのかわかりませんが、大変期待しているところです。
2019年6月8日土曜日
第220回:「猫だましい」河合 隼雄
レーティング:★★★★★★☆
変わったタイトルの一冊ですが、要は河合さんが猫を題材にした本を取り上げ、心理学的な観点も交えながら解説するというコンセプトの本です。猫はいまや犬を上回る数が日本にいる模様です(といっても家猫が多いのであまり見た目にはわかりません)。私の実家でも昔は犬を歴代2頭飼っていましたが、今は(現存は2代目)すっかり猫が定住しています。いやはや。
猫はあまりなじみがなかったのですが、西の方にあった祖父母の家に黒猫が居たのを覚えています。孫が来ても初対面ですし、特に喜ぶでもなくじっと家の上の方から様子を観察していたのを思い出します。本書貫くテーマは猫の変幻自在さ、そして両義性を描きつつ、それが持つ「たましい」というものに迫ろうというものです。「たましい」というのは本当に曖昧過ぎですが、人間と動物の交歓を通じて、相互が影響を及ぼしあっている。大げさに言えばたましいが触れ合っている、そういうことが書かれていきます。
いまさら言うまでもないことですが、猫は不思議な生き物だと思います。ペットでありながら、常時媚びるわけでもなく、非常に凛としています。自由です。同時によくわからない基準で人に甘えたりすることもあります。素朴なようで何を考えているのかわからない面もあり、じっと色々なものを観察しています。そういう猫の面白さと、昔話を含めてどう人間が関わってきたかをとても面白可笑しく書いています。古代エジプトでは猫は神様で破壊的な面と母性的な面、両方を表象していたそうです。なんとなくわかるような。
変わったタイトルの一冊ですが、要は河合さんが猫を題材にした本を取り上げ、心理学的な観点も交えながら解説するというコンセプトの本です。猫はいまや犬を上回る数が日本にいる模様です(といっても家猫が多いのであまり見た目にはわかりません)。私の実家でも昔は犬を歴代2頭飼っていましたが、今は(現存は2代目)すっかり猫が定住しています。いやはや。
猫はあまりなじみがなかったのですが、西の方にあった祖父母の家に黒猫が居たのを覚えています。孫が来ても初対面ですし、特に喜ぶでもなくじっと家の上の方から様子を観察していたのを思い出します。本書貫くテーマは猫の変幻自在さ、そして両義性を描きつつ、それが持つ「たましい」というものに迫ろうというものです。「たましい」というのは本当に曖昧過ぎですが、人間と動物の交歓を通じて、相互が影響を及ぼしあっている。大げさに言えばたましいが触れ合っている、そういうことが書かれていきます。
いまさら言うまでもないことですが、猫は不思議な生き物だと思います。ペットでありながら、常時媚びるわけでもなく、非常に凛としています。自由です。同時によくわからない基準で人に甘えたりすることもあります。素朴なようで何を考えているのかわからない面もあり、じっと色々なものを観察しています。そういう猫の面白さと、昔話を含めてどう人間が関わってきたかをとても面白可笑しく書いています。古代エジプトでは猫は神様で破壊的な面と母性的な面、両方を表象していたそうです。なんとなくわかるような。
第219回:「深い河」遠藤 周作
レーティング:★★★★★★★
記憶の範囲では、恥ずかしいことに遠藤周作さんの本は読んだことがありませんでした。もちろん私が10代の頃は存命であったし、母からもこんなすごい作家がいるという話は聞いていたのですが、キリスト教的な作品が多いこと、重そうな作品が多いこと、そういう先入観も手伝いなかなか読む気にならず今日に至りました。
今回、作品を読んだのはどこかの書評でこの本はすごい・・という一冊に選ばれていたためですが、読んでみて本当にすごいと思える一冊で、昭和・平成の大作家の凄まじさとその内容の豊かさに打ちひしがれました。本書は、一人の青年が大人になっていく過程で、その信仰についての葛藤を描きつつ、絵本作家、サラリーマン、そして離婚経験のある女性といった市井の人々の人生の挫折と錯誤、そして深い悲しみが描かれていきます。本書が発行された(書下ろし)のは、1993年はバブル崩壊後の社会に暗い雲が急速にかかりつつある頃でした。しかし、まだバブルの気分や要素もすぐ戻ってくるんではないかという感じもあった頃です。その時代に、こういう深みのある、そして深く人間の心をのぞき込むような一作が世に出たのは、単に作者の人生の旅というだけでなく、日本人の旅にとってもとても重要な出来事だったと思います。
素晴らしい作品であり、また小説であるためネタバレを極力避けたいとおもいますが、学生運動時代以降の大学生の精神的荒廃、昭和の猛烈サラリーマンと専業主婦家庭の安定するなかでの抑圧などが淡々と描かれていきます。大人になっても苦悩や苦しみ、そして喜びがあることを描きながら、それでも作者の心情を反映してか全体としてはもの悲しいトーンが作品を支配します。それは成長すること、老いていくことが本質的に持つ哀しみともいえると思います。
作品の主題は信仰と葛藤である、というサマリーが目につきます。キリスト教と日本人という作者が追い求めたテーマがメインであることは間違いないですが、それだけではない広い視野を持った作品です。昭和を生き抜いて生きた日本人がなにに傷ついてきたのか、それを個人個人がどのように向き合えるのかということが克明に描かれています。とりわけ私が惹かれたのはほぼ主人公の一人である女性の葛藤です。すべてを理解はできないですが、とてもよく描かれていると思います。時代を超えた素晴らしい作品だと思います。
記憶の範囲では、恥ずかしいことに遠藤周作さんの本は読んだことがありませんでした。もちろん私が10代の頃は存命であったし、母からもこんなすごい作家がいるという話は聞いていたのですが、キリスト教的な作品が多いこと、重そうな作品が多いこと、そういう先入観も手伝いなかなか読む気にならず今日に至りました。
今回、作品を読んだのはどこかの書評でこの本はすごい・・という一冊に選ばれていたためですが、読んでみて本当にすごいと思える一冊で、昭和・平成の大作家の凄まじさとその内容の豊かさに打ちひしがれました。本書は、一人の青年が大人になっていく過程で、その信仰についての葛藤を描きつつ、絵本作家、サラリーマン、そして離婚経験のある女性といった市井の人々の人生の挫折と錯誤、そして深い悲しみが描かれていきます。本書が発行された(書下ろし)のは、1993年はバブル崩壊後の社会に暗い雲が急速にかかりつつある頃でした。しかし、まだバブルの気分や要素もすぐ戻ってくるんではないかという感じもあった頃です。その時代に、こういう深みのある、そして深く人間の心をのぞき込むような一作が世に出たのは、単に作者の人生の旅というだけでなく、日本人の旅にとってもとても重要な出来事だったと思います。
素晴らしい作品であり、また小説であるためネタバレを極力避けたいとおもいますが、学生運動時代以降の大学生の精神的荒廃、昭和の猛烈サラリーマンと専業主婦家庭の安定するなかでの抑圧などが淡々と描かれていきます。大人になっても苦悩や苦しみ、そして喜びがあることを描きながら、それでも作者の心情を反映してか全体としてはもの悲しいトーンが作品を支配します。それは成長すること、老いていくことが本質的に持つ哀しみともいえると思います。
作品の主題は信仰と葛藤である、というサマリーが目につきます。キリスト教と日本人という作者が追い求めたテーマがメインであることは間違いないですが、それだけではない広い視野を持った作品です。昭和を生き抜いて生きた日本人がなにに傷ついてきたのか、それを個人個人がどのように向き合えるのかということが克明に描かれています。とりわけ私が惹かれたのはほぼ主人公の一人である女性の葛藤です。すべてを理解はできないですが、とてもよく描かれていると思います。時代を超えた素晴らしい作品だと思います。
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