レーティング:★★☆☆☆☆☆
第44回江戸川乱歩賞を受賞した作品です。何回かレビューしている福井さんの1998年刊行の一冊(読んだのは文庫版)で、時系列でいうとこれまでにレビューしたものより、更に前の作品となります。
さて、レビューですが、正直に言ってかなり残念でした。すでに書いたとおり、レビュー済みの二冊より前の作品ということもあり、かなり文章の癖が悪く出ており、話もリアリティに欠け、まとまりがありません。もっといえば、江戸川乱歩賞に値するのか微妙な作品です。ここら辺の事情は、解説の大沢在昌氏の文に詳しく出ていますが、他の作品が相当不作の年だったのかもしれません。
内容は福井さんの話に典型的な非公然組織のメンバーが様々な陰謀に巻き込まれ、そして巻き込み・・という話ですが、率直に本作以降の作品とかなり似通ったテーマとメッセージであり、もう少し作品ごとの変化を期待していた身としては残念です。また、例えば米国の描写も非常に単調で、わりと明確に反米的なメッセージが出ており深みに欠けます。福井さんの作品が相当好きな方は別として、基本的にあまりお勧めできない一作です。なぜ大沢さんがここまで押されたのかも良く分かりません。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2014年10月13日月曜日
2014年9月24日水曜日
第101回:「武士道」新渡戸 稲造著、矢内原忠雄訳
レーティング:★★★★★★★
古典を読むシリーズです。小さいころからこういう著作があるというのは社会(歴史)の授業などで繰り返し聞いてきましたが、やっと読むことにしました。古典と言えば岩波文庫で、めずらしく岩波から購入しました。とりあえず薄いので読みやすそうと思い手に取ったものでしたが、内容はさすが押しも押されぬ名著であり、大変面白かったです。
ご存じの方が多いと思いますが、この原作は英語で書かれ、原題は「Bushido, the Soul of Japan」(1899)です。今から115年も前にグローバルなコンテキストで武士道について考察し、流麗な英語で書きあげて出版した日本人が居るというのは純粋に驚きであり、現代と比べても全く遜色のない(もしくはそれ以上の)国際化ぶりです。
内容ですが、武士道というものを騎士道との対比や「義」、「勇」、「仁」、「礼」、「誠」などといったコンセプトとの関係で説明していきます。これらの説明の中では孔子(BC552-479)や孟子(BC372-289)といった中国の思想家についても随所に触れられます。また神道や仏教、西欧との対比ではキリスト教についても惜しみなく触れられ、非常にフェアな描写が続きます。全体を通じて感じるのは、武士というのは独自の価値や信念の体系に生きていて、良い悪いは抜きにして現代とは相当に違うパラダイムで生きていたということ。また、現代がたった100年のことではありますが、如何に資本主義的な価値観で染められていて、政治経済のみならず自分を含む人々の思考までも支配しているのかということです。
武士道の描写の中にはやや過激な描写が出てきて、正直引いてしまうところもありますが、逆に現代人には理解しがたい確固たる様式や思想があることが非常に面白く、独自の文化体系を作り上げたことに敬意が湧きます。更に体系としての武士道は滅びても随所にそれが社会に生きていくだろうという新渡戸の指摘は、卓見といわざるを得ません。読みものとしては、コンパクトかつ次のチャプターへの移行がとてもとてもスムーズで説得力がありますので、そういう観点でも楽しんで頂ける一冊だと思います。
古典を読むシリーズです。小さいころからこういう著作があるというのは社会(歴史)の授業などで繰り返し聞いてきましたが、やっと読むことにしました。古典と言えば岩波文庫で、めずらしく岩波から購入しました。とりあえず薄いので読みやすそうと思い手に取ったものでしたが、内容はさすが押しも押されぬ名著であり、大変面白かったです。
ご存じの方が多いと思いますが、この原作は英語で書かれ、原題は「Bushido, the Soul of Japan」(1899)です。今から115年も前にグローバルなコンテキストで武士道について考察し、流麗な英語で書きあげて出版した日本人が居るというのは純粋に驚きであり、現代と比べても全く遜色のない(もしくはそれ以上の)国際化ぶりです。
内容ですが、武士道というものを騎士道との対比や「義」、「勇」、「仁」、「礼」、「誠」などといったコンセプトとの関係で説明していきます。これらの説明の中では孔子(BC552-479)や孟子(BC372-289)といった中国の思想家についても随所に触れられます。また神道や仏教、西欧との対比ではキリスト教についても惜しみなく触れられ、非常にフェアな描写が続きます。全体を通じて感じるのは、武士というのは独自の価値や信念の体系に生きていて、良い悪いは抜きにして現代とは相当に違うパラダイムで生きていたということ。また、現代がたった100年のことではありますが、如何に資本主義的な価値観で染められていて、政治経済のみならず自分を含む人々の思考までも支配しているのかということです。
武士道の描写の中にはやや過激な描写が出てきて、正直引いてしまうところもありますが、逆に現代人には理解しがたい確固たる様式や思想があることが非常に面白く、独自の文化体系を作り上げたことに敬意が湧きます。更に体系としての武士道は滅びても随所にそれが社会に生きていくだろうという新渡戸の指摘は、卓見といわざるを得ません。読みものとしては、コンパクトかつ次のチャプターへの移行がとてもとてもスムーズで説得力がありますので、そういう観点でも楽しんで頂ける一冊だと思います。
2014年9月22日月曜日
第100回:「そうか、君は課長になったのか。」佐々木 常夫
レーティング:★★★★★★☆
継続は力なり、とはよく言ったもので2011年1月に立ちあげたこのブログも今回で100ポスト目です。仕事や子育て、趣味などでなかなか30代リーマンに自由になる時間は少ないのを実感しますが、電車や飛行機の中、寝る前、たまには喫茶店などでぼちぼち読んで来たものが3年8か月で100冊に到達しました。ほぼ1年25ポスト前後で安定しており、この中には上下や4冊で一つとしてカウントしているものもあるので、年間大体30~40冊程度を読んでいることとなります。もう少し読みたいなぁ、と感じることしきりですが、焦らず、途切れずに続けていきたいと思います。
さて記念すべき100冊目となる一冊です。タイトルは「課長になった」ですが、別に課長になったわけではありません。ただ、少し最近働き方が変わったこともあり、あれこれと立場の違う人、特に仕事場では立場的に下になる人とどう接していくか試行錯誤が続いており手に取りました。佐々木さんの説明は前回のレビューである第59回などでも少し行っていますが、難病と障害を抱えたご家族が居ながら、東レで企画中心に大きな仕事をされた方です。人間的に温かく、しかし本書を見ればわかる通り仕事に関しては非常に厳しい方です。
前回レビューしたものと同様に著者からのお手紙形式になっており、1つの区切りは数ページと極めて読みやすいものです。今回は、昔の部下が課長になった(ばかり)という想定で、課長としての心得を順々に説明していきます。内容は平易ですが、結構はっとさせられるものも多いものです。以下、自分の備忘まで興味を持ったところを。
1-3:高い「志」が人を動かす
1-5:プレーイング・マネージャーにはなるな
2-6:「在任中に何をなすか」を決める
2-10:細かいことは部下に教われ
2-12:部下の仕事に手を突っ込む
3-15:はっきりと言葉にする
3-18:褒めるが8割、叱るが2割
3-20:部下の仕事を認めてあげなさい
5-33:会社の常識に染まらない
この一冊は買ったので、なんどか読み直すこととなりそうです。なお、本書でかなり押されている「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」、「驕れる白人と闘うための日本近代史」、「プロフェッショナルマネジャー」は近々読んでみたいと思います。
継続は力なり、とはよく言ったもので2011年1月に立ちあげたこのブログも今回で100ポスト目です。仕事や子育て、趣味などでなかなか30代リーマンに自由になる時間は少ないのを実感しますが、電車や飛行機の中、寝る前、たまには喫茶店などでぼちぼち読んで来たものが3年8か月で100冊に到達しました。ほぼ1年25ポスト前後で安定しており、この中には上下や4冊で一つとしてカウントしているものもあるので、年間大体30~40冊程度を読んでいることとなります。もう少し読みたいなぁ、と感じることしきりですが、焦らず、途切れずに続けていきたいと思います。
さて記念すべき100冊目となる一冊です。タイトルは「課長になった」ですが、別に課長になったわけではありません。ただ、少し最近働き方が変わったこともあり、あれこれと立場の違う人、特に仕事場では立場的に下になる人とどう接していくか試行錯誤が続いており手に取りました。佐々木さんの説明は前回のレビューである第59回などでも少し行っていますが、難病と障害を抱えたご家族が居ながら、東レで企画中心に大きな仕事をされた方です。人間的に温かく、しかし本書を見ればわかる通り仕事に関しては非常に厳しい方です。
前回レビューしたものと同様に著者からのお手紙形式になっており、1つの区切りは数ページと極めて読みやすいものです。今回は、昔の部下が課長になった(ばかり)という想定で、課長としての心得を順々に説明していきます。内容は平易ですが、結構はっとさせられるものも多いものです。以下、自分の備忘まで興味を持ったところを。
1-3:高い「志」が人を動かす
1-5:プレーイング・マネージャーにはなるな
2-6:「在任中に何をなすか」を決める
2-10:細かいことは部下に教われ
2-12:部下の仕事に手を突っ込む
3-15:はっきりと言葉にする
3-18:褒めるが8割、叱るが2割
3-20:部下の仕事を認めてあげなさい
5-33:会社の常識に染まらない
この一冊は買ったので、なんどか読み直すこととなりそうです。なお、本書でかなり押されている「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」、「驕れる白人と闘うための日本近代史」、「プロフェッショナルマネジャー」は近々読んでみたいと思います。
2014年9月13日土曜日
第99回:「運命の人」山崎 豊子
レーティング:★★★★★★★
前回のポストからほぼ1カ月空いてしまいました。仕事でなかなか時間が取れなかったのと、今回のレビュー対象がかなり長い(文庫版で読みましたが1~4まで4冊・・)ことが理由でした。本作はもはや説明の必要がない故・山崎豊子さんの完結した作品としては最後の作品です。後書きで書かれていますがメディア・マスコミについて書こうと構想しているときに、戦後史に大きなインパクトを与えた「沖縄密約事件」に思い至ったそうで、これを題材とした一作です。
1~3巻までは、沖縄密約事件を題材として、メディアの使命、権力と情報公開、外交における秘密保持、男女関係、公務員秘密保持法などをテーマとして実際の出来事を下敷きとして進んでいきます。この部分はメディア関係者でもなく、外交関係者でもない自分にはビビッドに響く感じはなかったのですが、やはり(優れた小説のほとんどがそうであるように)人物描写が魅力的でぐいぐい引き込まれました。主人公の新聞記者、それを相克の中で支える妻、外務省の事務官と上層部、主人公の父(青果商)、支える優秀で情熱を持った弁護士などが登場し、昭和中期の熱い熱気、戦後からポスト戦後に舵を切りつつある日本の混乱などが生々しく、本当にその時代を少し経験したような錯覚に陥ります。
ここでまでであれば、「あー面白かった」ということで終わります。3巻が終わるころ、この小説はどう終わるのか、言葉を換えれば4巻で何か書くことがあるのだろうかという疑問を持ちました。4巻は主人公の裁判後の後日談で、この部分が(相当フィクションを含んでいると思いますが)秀逸です。語られるのは沖縄密約事件と繋がる沖縄の激しい地上戦、多すぎてむごすぎる犠牲、戦後の圧倒的な米軍優位での人権蹂躙などがつぶさに描かれていきます。著者は普段は意識して客観的な描写を心掛けることが多い気がしますが、今回は相当の思い入れがあったのか、当事者の証言や史実を徹底的に沖縄の視点から紹介していきます。激しい地上戦やひめゆりに代表される悲劇についてはそれなりに知っていたつもりですが、本当に身につまされるような物語がかたられていきます(電車では読めないレベルです)。個人的に沖縄の基地反対運動については批判的な思いも持っていたりしたのですが、それが180度変わることはないものの、そういう反対運動が成立してきた歴史的事実を本当に知らなかったことを反省しました。綺麗事に聞こえますが、本書はそういう事実をきちんと共有すること、そのうえで現在の沖縄を理解することを要求しているように思えてなりません。
一般的な書評を見ると必ずしも評価の高くない一冊ですが、私は山崎さんの色々な作品の中でもトップクラスではないかと思います。やや青臭いトピックではありますが著者の思い入れの強さを感じられる一冊です。メディア、戦後史、沖縄の現代史をつなぐスケールの大きな作品だと思います。長いですがぜひご関心ある方はお手に取られることをお勧めします。
前回のポストからほぼ1カ月空いてしまいました。仕事でなかなか時間が取れなかったのと、今回のレビュー対象がかなり長い(文庫版で読みましたが1~4まで4冊・・)ことが理由でした。本作はもはや説明の必要がない故・山崎豊子さんの完結した作品としては最後の作品です。後書きで書かれていますがメディア・マスコミについて書こうと構想しているときに、戦後史に大きなインパクトを与えた「沖縄密約事件」に思い至ったそうで、これを題材とした一作です。
1~3巻までは、沖縄密約事件を題材として、メディアの使命、権力と情報公開、外交における秘密保持、男女関係、公務員秘密保持法などをテーマとして実際の出来事を下敷きとして進んでいきます。この部分はメディア関係者でもなく、外交関係者でもない自分にはビビッドに響く感じはなかったのですが、やはり(優れた小説のほとんどがそうであるように)人物描写が魅力的でぐいぐい引き込まれました。主人公の新聞記者、それを相克の中で支える妻、外務省の事務官と上層部、主人公の父(青果商)、支える優秀で情熱を持った弁護士などが登場し、昭和中期の熱い熱気、戦後からポスト戦後に舵を切りつつある日本の混乱などが生々しく、本当にその時代を少し経験したような錯覚に陥ります。
ここでまでであれば、「あー面白かった」ということで終わります。3巻が終わるころ、この小説はどう終わるのか、言葉を換えれば4巻で何か書くことがあるのだろうかという疑問を持ちました。4巻は主人公の裁判後の後日談で、この部分が(相当フィクションを含んでいると思いますが)秀逸です。語られるのは沖縄密約事件と繋がる沖縄の激しい地上戦、多すぎてむごすぎる犠牲、戦後の圧倒的な米軍優位での人権蹂躙などがつぶさに描かれていきます。著者は普段は意識して客観的な描写を心掛けることが多い気がしますが、今回は相当の思い入れがあったのか、当事者の証言や史実を徹底的に沖縄の視点から紹介していきます。激しい地上戦やひめゆりに代表される悲劇についてはそれなりに知っていたつもりですが、本当に身につまされるような物語がかたられていきます(電車では読めないレベルです)。個人的に沖縄の基地反対運動については批判的な思いも持っていたりしたのですが、それが180度変わることはないものの、そういう反対運動が成立してきた歴史的事実を本当に知らなかったことを反省しました。綺麗事に聞こえますが、本書はそういう事実をきちんと共有すること、そのうえで現在の沖縄を理解することを要求しているように思えてなりません。
一般的な書評を見ると必ずしも評価の高くない一冊ですが、私は山崎さんの色々な作品の中でもトップクラスではないかと思います。やや青臭いトピックではありますが著者の思い入れの強さを感じられる一冊です。メディア、戦後史、沖縄の現代史をつなぐスケールの大きな作品だと思います。長いですがぜひご関心ある方はお手に取られることをお勧めします。
2014年8月17日日曜日
第98回:「しんがり」清武 英利
レーティング:★★★★★☆☆
このところ夏だというのにめずらしく仕事が立て込んでおり、読書も本ブログの更新も頻度が落ちてますが、忙しい時に限って2~3冊併読していて更にアップが遅れたりします。忙しくても毎月2冊は最低限目指しているのですが、今月は(本書以外に)あと1冊読めるか微妙な情勢です。
さて、本書は日経新聞朝刊の広告欄に出ていて、興味をひかれて借りたものです。サブタイトルは「山一證券 最後の12人」というもので、破綻が決まった後、給与も途中からでない中で破綻の原因の解明や責任追及などのため会社に残り続けた人々の物語です。破綻した会社で本当に清算まで至る会社は少なく、他社に買われたり、民事再生という形で再建を目指すわけですが、山一の場合は強い行政指導や裁判所からの拒否もあり自主廃業という形で異例の清算に至りました。文字通り金融危機の中で会社自体が消滅するわけですが、自分のキャリアや家族の生活を頭の片隅に抱えながら、強い責任感を発揮して残り続けた人々のエピソードはかなり強く心を打つものがありました。どうして自分が長年務めた山一が消滅しなくてはならないのか、いつから「飛ばし」が始まったのか、そして誰が。見つける機会はなかったのか、会社が生き残る機会はなかったのか。そういう疑問に突き動かされながら、心身ともに厳しい状況での仕事が続いたようです。
破綻の直接の原因は、過去の法人取引の中で取引先の損失を被る形で多くの簿外債務を抱え、雪だるま式に大きくなってきたこと、大物総会屋に(他社も同様ですが)付け込まれたことなどが描写されていきます。ここまでは既報のものとそう変わりませんが、本書はインサイダーの多くに取材しているので部門間の争い、とりわけ法人部門の強大化と牽制部門の権限の小ささが浮き彫りにされていき、その発端がなんとも人間臭く、悲しくなるようなエピソードで驚きます。
他方、辞めた山一社員が人それぞれ一筋縄ではいかないポスト山一の人生を送ったことも描かれています。本書を読み始めてから気づいたのですが著者は読売巨人のGMとなって5カ月で解任されたあの人です。知りませんでしたが元々新聞記者だったということで、文章は大変読みやすく、取材も丁寧にされている感じを受けています。そして、こういう地味だけれど硬骨のノンフィクションを書くところに、著者の人間性がよく表れていると感じました。
このところ夏だというのにめずらしく仕事が立て込んでおり、読書も本ブログの更新も頻度が落ちてますが、忙しい時に限って2~3冊併読していて更にアップが遅れたりします。忙しくても毎月2冊は最低限目指しているのですが、今月は(本書以外に)あと1冊読めるか微妙な情勢です。
さて、本書は日経新聞朝刊の広告欄に出ていて、興味をひかれて借りたものです。サブタイトルは「山一證券 最後の12人」というもので、破綻が決まった後、給与も途中からでない中で破綻の原因の解明や責任追及などのため会社に残り続けた人々の物語です。破綻した会社で本当に清算まで至る会社は少なく、他社に買われたり、民事再生という形で再建を目指すわけですが、山一の場合は強い行政指導や裁判所からの拒否もあり自主廃業という形で異例の清算に至りました。文字通り金融危機の中で会社自体が消滅するわけですが、自分のキャリアや家族の生活を頭の片隅に抱えながら、強い責任感を発揮して残り続けた人々のエピソードはかなり強く心を打つものがありました。どうして自分が長年務めた山一が消滅しなくてはならないのか、いつから「飛ばし」が始まったのか、そして誰が。見つける機会はなかったのか、会社が生き残る機会はなかったのか。そういう疑問に突き動かされながら、心身ともに厳しい状況での仕事が続いたようです。
破綻の直接の原因は、過去の法人取引の中で取引先の損失を被る形で多くの簿外債務を抱え、雪だるま式に大きくなってきたこと、大物総会屋に(他社も同様ですが)付け込まれたことなどが描写されていきます。ここまでは既報のものとそう変わりませんが、本書はインサイダーの多くに取材しているので部門間の争い、とりわけ法人部門の強大化と牽制部門の権限の小ささが浮き彫りにされていき、その発端がなんとも人間臭く、悲しくなるようなエピソードで驚きます。
他方、辞めた山一社員が人それぞれ一筋縄ではいかないポスト山一の人生を送ったことも描かれています。本書を読み始めてから気づいたのですが著者は読売巨人のGMとなって5カ月で解任されたあの人です。知りませんでしたが元々新聞記者だったということで、文章は大変読みやすく、取材も丁寧にされている感じを受けています。そして、こういう地味だけれど硬骨のノンフィクションを書くところに、著者の人間性がよく表れていると感じました。
2014年7月13日日曜日
第97回:「スコールの夜」芦崎 笙
レーティング:★★★★☆☆☆
2013年、第5回日経小説大賞受賞作です。当時かなり大きく報道されましたし、書店でも結構平積みされていましたので目にされた方も多いのではないでしょうか。現役○○、というのはとかく影響を集めやすいですが、財務省の現役キャリアということも話題を呼びました。たしかに本省のキャリアで根気よくコツコツと破綻ない小説を書くのは大変だと思います。
さて、本書はある大銀行に勤める女性総合職第1期の物語です、枢要な部署に登用され、厳しい仕事に当たるうちに・・・というものです。話自体は至極普通といっては失礼ですが、大きなクライマックスもドラマチックな展開もなく、やや淡々と話は進んでいきます。この点、結構批判はありますが、私自身は荒唐無稽なもので現実感を喪失するより、ややじっとりしていますが地に足のついた話として徹底しているのはリアリティがあってよいなあと思いました。他方、主人公が女性であり、日本の大組織における女性の存在という重要テーマがあるのはわかるのですが、ややそこに話が集中しすぎていたのが残念でした。知的世界で格闘する男性弁護士、SEとして組織の枠にとらわれず活躍する若手男性、主人公の母の昭和的価値観など、素材は色々と提供されていますが、どの人も魅力的ではあるけれど踏み込んだ人物造形がないので、やや印象不足な感じです。
プロの作家ではないので多産は難しいかもしれませんが、自作を読んでみたいところです(最後の方に示唆されています)。
2013年、第5回日経小説大賞受賞作です。当時かなり大きく報道されましたし、書店でも結構平積みされていましたので目にされた方も多いのではないでしょうか。現役○○、というのはとかく影響を集めやすいですが、財務省の現役キャリアということも話題を呼びました。たしかに本省のキャリアで根気よくコツコツと破綻ない小説を書くのは大変だと思います。
さて、本書はある大銀行に勤める女性総合職第1期の物語です、枢要な部署に登用され、厳しい仕事に当たるうちに・・・というものです。話自体は至極普通といっては失礼ですが、大きなクライマックスもドラマチックな展開もなく、やや淡々と話は進んでいきます。この点、結構批判はありますが、私自身は荒唐無稽なもので現実感を喪失するより、ややじっとりしていますが地に足のついた話として徹底しているのはリアリティがあってよいなあと思いました。他方、主人公が女性であり、日本の大組織における女性の存在という重要テーマがあるのはわかるのですが、ややそこに話が集中しすぎていたのが残念でした。知的世界で格闘する男性弁護士、SEとして組織の枠にとらわれず活躍する若手男性、主人公の母の昭和的価値観など、素材は色々と提供されていますが、どの人も魅力的ではあるけれど踏み込んだ人物造形がないので、やや印象不足な感じです。
プロの作家ではないので多産は難しいかもしれませんが、自作を読んでみたいところです(最後の方に示唆されています)。
2014年7月5日土曜日
第96回:「オレたちバブル入行組」池井戸 潤
レーティング:★★★★☆☆☆
流行りもの、といってももうやや懐かしめに属するかもしれない1冊です。ご存じ池井戸さんの半沢直樹シリーズの第1冊です。経済小説は基本的に好きなのでこまめにチェックするようにしているのですが、池井戸さんの本は一冊も読んだことがなく、TBSの半沢直樹も後半から見たので本書がカバーする話は殆ど知りませんでした。
原作を読んでから映画/ドラマ化されたものをみるとがっかりするというのは良くあることですが、本書については逆でドラマを見てから原作を読むことになったのですが、既にドラマで雰囲気というか世界観が分かっているからか、あまり面白さがありませんでした。率直なところ。ドラマは堺雅人さんの怪演と他のキャストのはまり方がすばらしかったのですが、原作はやや密度が薄く退屈に感じてしまい。金融関係ならば、黒木亮さんなどの方が密度が濃く、ずっと面白い感じがします。しかしながら、半沢直樹シリーズ第3・4作はかなり評判が高く、雑誌連載時にもちょっと読んで関心をもっていたので懲りずに第2作目以降を読んでいこうと思います。
あと気づいたんですが、主人公の親父さんの設定がドラマと原作は違うんですね。半沢直樹が入行10年以上たった時点から話が始まりますが、若手時代の話なども番外編として将来刊行されそうです。池井戸さんがそれを潔しとするかはわかりませんが・・・。
流行りもの、といってももうやや懐かしめに属するかもしれない1冊です。ご存じ池井戸さんの半沢直樹シリーズの第1冊です。経済小説は基本的に好きなのでこまめにチェックするようにしているのですが、池井戸さんの本は一冊も読んだことがなく、TBSの半沢直樹も後半から見たので本書がカバーする話は殆ど知りませんでした。
原作を読んでから映画/ドラマ化されたものをみるとがっかりするというのは良くあることですが、本書については逆でドラマを見てから原作を読むことになったのですが、既にドラマで雰囲気というか世界観が分かっているからか、あまり面白さがありませんでした。率直なところ。ドラマは堺雅人さんの怪演と他のキャストのはまり方がすばらしかったのですが、原作はやや密度が薄く退屈に感じてしまい。金融関係ならば、黒木亮さんなどの方が密度が濃く、ずっと面白い感じがします。しかしながら、半沢直樹シリーズ第3・4作はかなり評判が高く、雑誌連載時にもちょっと読んで関心をもっていたので懲りずに第2作目以降を読んでいこうと思います。
あと気づいたんですが、主人公の親父さんの設定がドラマと原作は違うんですね。半沢直樹が入行10年以上たった時点から話が始まりますが、若手時代の話なども番外編として将来刊行されそうです。池井戸さんがそれを潔しとするかはわかりませんが・・・。
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