2014年9月22日月曜日

第100回:「そうか、君は課長になったのか。」佐々木 常夫

レーティング:★★★★★★☆

継続は力なり、とはよく言ったもので2011年1月に立ちあげたこのブログも今回で100ポスト目です。仕事や子育て、趣味などでなかなか30代リーマンに自由になる時間は少ないのを実感しますが、電車や飛行機の中、寝る前、たまには喫茶店などでぼちぼち読んで来たものが3年8か月で100冊に到達しました。ほぼ1年25ポスト前後で安定しており、この中には上下や4冊で一つとしてカウントしているものもあるので、年間大体30~40冊程度を読んでいることとなります。もう少し読みたいなぁ、と感じることしきりですが、焦らず、途切れずに続けていきたいと思います。

さて記念すべき100冊目となる一冊です。タイトルは「課長になった」ですが、別に課長になったわけではありません。ただ、少し最近働き方が変わったこともあり、あれこれと立場の違う人、特に仕事場では立場的に下になる人とどう接していくか試行錯誤が続いており手に取りました。佐々木さんの説明は前回のレビューである第59回などでも少し行っていますが、難病と障害を抱えたご家族が居ながら、東レで企画中心に大きな仕事をされた方です。人間的に温かく、しかし本書を見ればわかる通り仕事に関しては非常に厳しい方です。

前回レビューしたものと同様に著者からのお手紙形式になっており、1つの区切りは数ページと極めて読みやすいものです。今回は、昔の部下が課長になった(ばかり)という想定で、課長としての心得を順々に説明していきます。内容は平易ですが、結構はっとさせられるものも多いものです。以下、自分の備忘まで興味を持ったところを。

1-3:高い「志」が人を動かす
1-5:プレーイング・マネージャーにはなるな
2-6:「在任中に何をなすか」を決める
2-10:細かいことは部下に教われ
2-12:部下の仕事に手を突っ込む
3-15:はっきりと言葉にする
3-18:褒めるが8割、叱るが2割
3-20:部下の仕事を認めてあげなさい
5-33:会社の常識に染まらない

この一冊は買ったので、なんどか読み直すこととなりそうです。なお、本書でかなり押されている「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」、「驕れる白人と闘うための日本近代史」、「プロフェッショナルマネジャー」は近々読んでみたいと思います。

2014年9月13日土曜日

第99回:「運命の人」山崎 豊子

レーティング:★★★★★★★

前回のポストからほぼ1カ月空いてしまいました。仕事でなかなか時間が取れなかったのと、今回のレビュー対象がかなり長い(文庫版で読みましたが1~4まで4冊・・)ことが理由でした。本作はもはや説明の必要がない故・山崎豊子さんの完結した作品としては最後の作品です。後書きで書かれていますがメディア・マスコミについて書こうと構想しているときに、戦後史に大きなインパクトを与えた「沖縄密約事件」に思い至ったそうで、これを題材とした一作です。

1~3巻までは、沖縄密約事件を題材として、メディアの使命、権力と情報公開、外交における秘密保持、男女関係、公務員秘密保持法などをテーマとして実際の出来事を下敷きとして進んでいきます。この部分はメディア関係者でもなく、外交関係者でもない自分にはビビッドに響く感じはなかったのですが、やはり(優れた小説のほとんどがそうであるように)人物描写が魅力的でぐいぐい引き込まれました。主人公の新聞記者、それを相克の中で支える妻、外務省の事務官と上層部、主人公の父(青果商)、支える優秀で情熱を持った弁護士などが登場し、昭和中期の熱い熱気、戦後からポスト戦後に舵を切りつつある日本の混乱などが生々しく、本当にその時代を少し経験したような錯覚に陥ります。

ここでまでであれば、「あー面白かった」ということで終わります。3巻が終わるころ、この小説はどう終わるのか、言葉を換えれば4巻で何か書くことがあるのだろうかという疑問を持ちました。4巻は主人公の裁判後の後日談で、この部分が(相当フィクションを含んでいると思いますが)秀逸です。語られるのは沖縄密約事件と繋がる沖縄の激しい地上戦、多すぎてむごすぎる犠牲、戦後の圧倒的な米軍優位での人権蹂躙などがつぶさに描かれていきます。著者は普段は意識して客観的な描写を心掛けることが多い気がしますが、今回は相当の思い入れがあったのか、当事者の証言や史実を徹底的に沖縄の視点から紹介していきます。激しい地上戦やひめゆりに代表される悲劇についてはそれなりに知っていたつもりですが、本当に身につまされるような物語がかたられていきます(電車では読めないレベルです)。個人的に沖縄の基地反対運動については批判的な思いも持っていたりしたのですが、それが180度変わることはないものの、そういう反対運動が成立してきた歴史的事実を本当に知らなかったことを反省しました。綺麗事に聞こえますが、本書はそういう事実をきちんと共有すること、そのうえで現在の沖縄を理解することを要求しているように思えてなりません。

一般的な書評を見ると必ずしも評価の高くない一冊ですが、私は山崎さんの色々な作品の中でもトップクラスではないかと思います。やや青臭いトピックではありますが著者の思い入れの強さを感じられる一冊です。メディア、戦後史、沖縄の現代史をつなぐスケールの大きな作品だと思います。長いですがぜひご関心ある方はお手に取られることをお勧めします。

2014年8月17日日曜日

第98回:「しんがり」清武 英利

レーティング:★★★★★☆☆

このところ夏だというのにめずらしく仕事が立て込んでおり、読書も本ブログの更新も頻度が落ちてますが、忙しい時に限って2~3冊併読していて更にアップが遅れたりします。忙しくても毎月2冊は最低限目指しているのですが、今月は(本書以外に)あと1冊読めるか微妙な情勢です。

さて、本書は日経新聞朝刊の広告欄に出ていて、興味をひかれて借りたものです。サブタイトルは「山一證券 最後の12人」というもので、破綻が決まった後、給与も途中からでない中で破綻の原因の解明や責任追及などのため会社に残り続けた人々の物語です。破綻した会社で本当に清算まで至る会社は少なく、他社に買われたり、民事再生という形で再建を目指すわけですが、山一の場合は強い行政指導や裁判所からの拒否もあり自主廃業という形で異例の清算に至りました。文字通り金融危機の中で会社自体が消滅するわけですが、自分のキャリアや家族の生活を頭の片隅に抱えながら、強い責任感を発揮して残り続けた人々のエピソードはかなり強く心を打つものがありました。どうして自分が長年務めた山一が消滅しなくてはならないのか、いつから「飛ばし」が始まったのか、そして誰が。見つける機会はなかったのか、会社が生き残る機会はなかったのか。そういう疑問に突き動かされながら、心身ともに厳しい状況での仕事が続いたようです。

破綻の直接の原因は、過去の法人取引の中で取引先の損失を被る形で多くの簿外債務を抱え、雪だるま式に大きくなってきたこと、大物総会屋に(他社も同様ですが)付け込まれたことなどが描写されていきます。ここまでは既報のものとそう変わりませんが、本書はインサイダーの多くに取材しているので部門間の争い、とりわけ法人部門の強大化と牽制部門の権限の小ささが浮き彫りにされていき、その発端がなんとも人間臭く、悲しくなるようなエピソードで驚きます。

他方、辞めた山一社員が人それぞれ一筋縄ではいかないポスト山一の人生を送ったことも描かれています。本書を読み始めてから気づいたのですが著者は読売巨人のGMとなって5カ月で解任されたあの人です。知りませんでしたが元々新聞記者だったということで、文章は大変読みやすく、取材も丁寧にされている感じを受けています。そして、こういう地味だけれど硬骨のノンフィクションを書くところに、著者の人間性がよく表れていると感じました。

2014年7月13日日曜日

第97回:「スコールの夜」芦崎 笙

レーティング:★★★★☆☆☆

2013年、第5回日経小説大賞受賞作です。当時かなり大きく報道されましたし、書店でも結構平積みされていましたので目にされた方も多いのではないでしょうか。現役○○、というのはとかく影響を集めやすいですが、財務省の現役キャリアということも話題を呼びました。たしかに本省のキャリアで根気よくコツコツと破綻ない小説を書くのは大変だと思います。

さて、本書はある大銀行に勤める女性総合職第1期の物語です、枢要な部署に登用され、厳しい仕事に当たるうちに・・・というものです。話自体は至極普通といっては失礼ですが、大きなクライマックスもドラマチックな展開もなく、やや淡々と話は進んでいきます。この点、結構批判はありますが、私自身は荒唐無稽なもので現実感を喪失するより、ややじっとりしていますが地に足のついた話として徹底しているのはリアリティがあってよいなあと思いました。他方、主人公が女性であり、日本の大組織における女性の存在という重要テーマがあるのはわかるのですが、ややそこに話が集中しすぎていたのが残念でした。知的世界で格闘する男性弁護士、SEとして組織の枠にとらわれず活躍する若手男性、主人公の母の昭和的価値観など、素材は色々と提供されていますが、どの人も魅力的ではあるけれど踏み込んだ人物造形がないので、やや印象不足な感じです。

プロの作家ではないので多産は難しいかもしれませんが、自作を読んでみたいところです(最後の方に示唆されています)。

2014年7月5日土曜日

第96回:「オレたちバブル入行組」池井戸 潤

レーティング:★★★★☆☆☆

流行りもの、といってももうやや懐かしめに属するかもしれない1冊です。ご存じ池井戸さんの半沢直樹シリーズの第1冊です。経済小説は基本的に好きなのでこまめにチェックするようにしているのですが、池井戸さんの本は一冊も読んだことがなく、TBSの半沢直樹も後半から見たので本書がカバーする話は殆ど知りませんでした。

原作を読んでから映画/ドラマ化されたものをみるとがっかりするというのは良くあることですが、本書については逆でドラマを見てから原作を読むことになったのですが、既にドラマで雰囲気というか世界観が分かっているからか、あまり面白さがありませんでした。率直なところ。ドラマは堺雅人さんの怪演と他のキャストのはまり方がすばらしかったのですが、原作はやや密度が薄く退屈に感じてしまい。金融関係ならば、黒木亮さんなどの方が密度が濃く、ずっと面白い感じがします。しかしながら、半沢直樹シリーズ第3・4作はかなり評判が高く、雑誌連載時にもちょっと読んで関心をもっていたので懲りずに第2作目以降を読んでいこうと思います。

あと気づいたんですが、主人公の親父さんの設定がドラマと原作は違うんですね。半沢直樹が入行10年以上たった時点から話が始まりますが、若手時代の話なども番外編として将来刊行されそうです。池井戸さんがそれを潔しとするかはわかりませんが・・・。

2014年6月25日水曜日

第95回:「終戦のローレライ」福井 晴敏

レーティング:★★★★★★☆

かなり前回のレビューから時間が空いてしまいました。別に読書をやめていたわけではないのですが、色々と変化もありちょっと忙しくなってしまったのと、今回レビューする一作が文庫版で4冊もあり、異様に大作だったことが原因です。以前「亡国のイージス」をレビューした福井さんの代表作の一つである「終戦のローレライ」です。

元々映画化のために書き下ろされた一作だそうですが(映画は見てません)、核心の点がやや荒唐無稽であり最初は鼻白む感じがしましたが、ところがどっこいストーリーの壮大さ、まさに映画向きな危機の連続とその切り抜け方、単なる娯楽大作に留まらない複数の納得感ある視点の提示があり、ほとんど飽きることなく読み進めることができました。常々よい小説とは様々な読み方ができるものと書いていますが、本書はそういう意味でよい一冊だとおもいます。とにかくこれだけスケールが大きいのに破綻していないエンターテイメントを書ける作者は、今の日本にも5人いるかどうかというレベルではないかと思います。

「亡国のイージス」はほぼ現代の話でしたが、今回は終戦という言葉から分かるとおり1945年の終戦(敗戦)に着想を得て書かれています。素晴らしいのはドイツ、日本、アメリカを主な舞台にしていながら、各々がバラバラにならずに綺麗に一つの物語に統合される点です。また、主人公と思しき3人はいずれも10代であり、ただの戦争や戦闘といった話ではなくさわやかな青春小説という側面も持っています。この点、話としては決して明るくないと思いますが、「亡国のイージス」よりずっと前向きで心を打つ物語に仕上がっています。

もし福井さんの本に関心を持って、読んでみたいという方がいれば、間違いなく本作から読むことをお勧めします。相当の大作ですが文章がこなれていて読みやすく、場面もそれなりに素早く展開していくのでほとんど飽きません。約1カ月これを読むのに費やしてしまいましたが、全然後悔はありません。なお、終章の完成度も非常に高く、作者は相当推敲を繰り返したであろう後が読み取れます。ぜひ、夏休みの終戦のシーズンに一度手に取ってみてはいかがでしょうか。色々と考えさせられます。

2014年5月11日日曜日

第94回:「外資系金融のExcel作成術」慎 秦俊

レーティング:★★★★★☆☆

日経新聞で何度も広告が打たれており、実際、書店でもかなりの売り上げになっているようなので、なんとなくタイトルを目にされた方も多いかもしれません。タイトルはやや釣りが入っていますが、要は外資系金融機関でフィナンシャル・モデル(FM)をどう作っているか、というノウハウを記載したものです。著者はモルスタに勤務後、プライベート・エクイティのユニゾン・キャピタルに勤務したそうです。ジュニアポジションだったので、相当FMを作り、回しという作業を積み重ねたであろうことが想像できます。

私も仕事がらFMを受け取って、簡単なシュミレーションをしたり、また自分の仕事のため、簡単なコーポレートのFMなどを作って走らせるということはしていたのですが、高度なモデルを組めない、そもそも組み方を体系的に学んだことがない、簡単なモデルを組んでもやたら見づらい、などの悩みがありました。このため本書には刊行後からかなり関心があったのですが、丁度、後輩が貸してくれるということでありがたく読みました。結論からいって金融関係の方、特にジュニアの方にはよい一冊だと思います。私もそんなに若くはないのですが、目からうろこが沢山あり、一部の内容は日々実践することで身につきつつあります。ちなみに、本書は実際に手を動かしてExcelを開いてカチャカチャしながら読むのが一番だと思います。

さて、本書の良いなと思う点はかなりあるのですが、まずは徹底して無駄が省かれ、大事な内容に絞って書いてあることです。ノウハウとしてはたくさん詰まっていますが、覚えきれないほどの分量ではありません。良くあるExcel使えるようになる!みたいな本は、やたらめったらどうでもいいショートカットなども記載しているのですが、FMを綺麗に、正しく作るというその目的に必要かつ良く使うものに絞り込んでいるので、とても読みやすいものになっています。次には、「いかに見せるか」という見た目の話をきっちりと書いているところです。綺麗に頭に入ってくる数字、見やすくて、その意味を読み取ろうという気になる数字というのがあります。見やすい、見やすくないの分かれ目は、多くの場合見せ方の問題で、特に投資銀行的なノウハウが特に役立つところなのでしょう。簡単なルールだけ記載していますが、ちゃんと、綺麗に見せる、というのは社内でも社外でも非常に大事だと思います。読む気が失せるような数字の羅列はわりとどこの業界でもあるのではないでしょうか。見せ方だけにこだわれば軽薄に聞こえますが、しっかりとした理由と技術が詰め込まれており説得的です。最後に、今までない領域に挑戦した点です。英語では1冊FMだけについて記載している本を知っていますが、日本語でFMについて正面から書いているものはなかったはずです。そういうところに若い著者が果敢に挑んだところは大変勇気がいることですし、意味も大きかったような気がします。

他方、少しだけ改善すれば・・と思う点ですが、Amazonの書評でも指摘されています(その他にも数字でも数点あります)が、誤植や数字が手順どおりにやっても合致しないところがある点です。これはおそらく重版で修正されるものと思いますが、少し残念でした(他の部分がプロフェッショナルなだけに)。あと一つは印刷の色が薄い点です。Excelで見やすいように淡色を使っている影響があるかと思いますが、印刷の色もかなり薄いので少し見にくいのが気になります。少し色覚が良くない方などは殆ど色が分からなくなるのではないでしょうか。

色々書きましたが良著です。金融関係者、各種財務諸表を扱う方などはぜひ手にとって見られると面白い一冊だと思います。著者は意欲的な方のようなので、お忙しそうですがこれに限らずいつか2冊目を出されることを期待しています。