レーティング:★★★☆☆☆☆
著者名だけで(図書館で)借りてしまったのですが、結論から言ってかなり期待外れな一冊でした。まず、①タイトルと本の内容が余りに異なる(詳細は後ほど)、②内容が前回レビューした「未来への記憶」と大きく重複(1/3くらいはほとんどそのまま。同じ出版社(岩波)とはいえ…)、③ライトな語りで全体が構成されている(そういう趣旨の本では本来ないはず)、という点で非常に残念です。
本書は「グーテンベルクの森」というシリーズの一冊だそうで、これは岩波書店が著名人に頼んで、今までの読書遍歴を書いてもらうというものだそうです。他に佐和 隆光氏(経済学)、長谷川 眞理子氏(生物学)などが書かれているようです(2005年時点)。著者である河合氏はもちろんユング派の臨床心理学を専門としていましたから、本書の後半はかなりその関連の本が多く、前回と同様に関心のある人には非常に面白いと思います(良い読書候補ソースとなります)。
以下、個人的なメモとして本書に紹介されていたもので将来的に読んでみたいと思ったものを残しておきたいと思います(ごく私的なネタですみません・・)。
夏目 漱石:『門』、『道草』
L・ヴァン・デル・ポスト:『影の獄にて』(思索社)
C・G・ユング:『ユング自伝‐思い出・夢・思想』(みすず書房)
山口 昌男:『道化の民俗学』(新潮社)
白洲 正子:『明恵上人』
あと神話の話がたくさん出てきますので、そういう方面に興味がある方にもお勧めです(私は全然分かりませんが)。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2012年10月7日日曜日
2012年9月30日日曜日
第52回:「未来への記憶」河合 隼雄
レーティング:★★★★★☆☆
久々に河合先生の本です。ご存じの通り、日本の臨床心理学の確立に大きな役割を果たし、スイスのユング研究所にてアジア人として二人目、日本人として初めて分析家の資格を得た人でもあります。また、晩年は2002年から文化庁長官を務められており、その点で記憶されている方も多いかと思います。
河合先生は本当に著作が多く本格的な心理学や臨床心理の本から、教育や生き方について論じたもの、本書のような口述の自伝的なもの、本当に色々あります。私は河合先生の相当のファンであり、機会があれば読み進めるようにしているのですが、それでもなかなか進みません。
ところで本書はサブタイトルに「自伝の試み」とあるように、先生が自身の人生を振り返ってしゃべり、それを本にしたものです。丹波の篠山での自由な少年時代、神戸工専(電気科)での生活、京都大でのやや暗めな青春時代など率直に語られていて、ものすごいドラマチックなことがあるわけではありませんが、一つの読み物として非常に面白いものがあります。大学までの先生は、自分に何ができるのかに悩み、進路に悩み、意外と回り道をしていることがわかります。もちろん実家が経済的にゆとりがあり、悩める余裕があったことは確かですが、一直線に進んだ秀才でも、一を知って百を知る天才でもなかったことが分かります。
大学を出た後はやや動きが出てきます。高校の先生になってみたり、独学で心理学の勉強を始めて、英語が全然できないのにフルブライト奨学金を得て留学したり、そこでの素晴らしい出会いからユング研究所に行くことになったり。印象に残るのは、先生自身も自分の人生がどこにいくのか確信はなかったにも関わらず、自分の好きなこと(人間そのものや心理)を追求して、家族以外のものを生活から(無理にではないのがいいところですが)そぎ落として真っすぐに生きているところです。
少しだけ物足りないところを書くと、「あとがき」で書かれているように、意図的に自分の家族(兄弟や両親ではなく、奥様やお子さん)に触れないようにしているところでしょうか。もちろんまだまだ生活のある方々なのでいたずらにプライバシーをさらす必要はないわけですが、自伝なので少し空白ができてしまう感じです。あとは、先生が深いところで持っていた懊悩についても、意図的か意図せずかほとんど触れていません。2回の留学時代や迷った大学時代には、かなり深い悩みがあったでしょうし、他の著作では悪への関心といった形で示唆されていますが、そこまで突っ込んだことは書いていません。
なお、読んだのは岩波新書版の上下巻であり、2001年に発刊されたものです。先生ファンでないとあまり読む気がしないかと思いますが、もしご関心あればぜひ。読み物として面白いです。
久々に河合先生の本です。ご存じの通り、日本の臨床心理学の確立に大きな役割を果たし、スイスのユング研究所にてアジア人として二人目、日本人として初めて分析家の資格を得た人でもあります。また、晩年は2002年から文化庁長官を務められており、その点で記憶されている方も多いかと思います。
河合先生は本当に著作が多く本格的な心理学や臨床心理の本から、教育や生き方について論じたもの、本書のような口述の自伝的なもの、本当に色々あります。私は河合先生の相当のファンであり、機会があれば読み進めるようにしているのですが、それでもなかなか進みません。
ところで本書はサブタイトルに「自伝の試み」とあるように、先生が自身の人生を振り返ってしゃべり、それを本にしたものです。丹波の篠山での自由な少年時代、神戸工専(電気科)での生活、京都大でのやや暗めな青春時代など率直に語られていて、ものすごいドラマチックなことがあるわけではありませんが、一つの読み物として非常に面白いものがあります。大学までの先生は、自分に何ができるのかに悩み、進路に悩み、意外と回り道をしていることがわかります。もちろん実家が経済的にゆとりがあり、悩める余裕があったことは確かですが、一直線に進んだ秀才でも、一を知って百を知る天才でもなかったことが分かります。
大学を出た後はやや動きが出てきます。高校の先生になってみたり、独学で心理学の勉強を始めて、英語が全然できないのにフルブライト奨学金を得て留学したり、そこでの素晴らしい出会いからユング研究所に行くことになったり。印象に残るのは、先生自身も自分の人生がどこにいくのか確信はなかったにも関わらず、自分の好きなこと(人間そのものや心理)を追求して、家族以外のものを生活から(無理にではないのがいいところですが)そぎ落として真っすぐに生きているところです。
少しだけ物足りないところを書くと、「あとがき」で書かれているように、意図的に自分の家族(兄弟や両親ではなく、奥様やお子さん)に触れないようにしているところでしょうか。もちろんまだまだ生活のある方々なのでいたずらにプライバシーをさらす必要はないわけですが、自伝なので少し空白ができてしまう感じです。あとは、先生が深いところで持っていた懊悩についても、意図的か意図せずかほとんど触れていません。2回の留学時代や迷った大学時代には、かなり深い悩みがあったでしょうし、他の著作では悪への関心といった形で示唆されていますが、そこまで突っ込んだことは書いていません。
なお、読んだのは岩波新書版の上下巻であり、2001年に発刊されたものです。先生ファンでないとあまり読む気がしないかと思いますが、もしご関心あればぜひ。読み物として面白いです。
2012年9月23日日曜日
第51回:「レバレッジ・シンキング」本田 直之
レーティング:★★★★☆☆☆
今日は久々の自己啓発系の本をレビューしてみます。本田氏は売れっ子のビジネス書/自己啓発書の著者であり、本書もそうですが「レバレッジ」シリーズで好評を博しています。私は書店で立ち読みしたり、新聞の広告で見かけたりもしていて、関心は持っていたのですが読んだのは本書が初めてです。
さて、内容はタイトルのいかつさ、とは裏腹にきわめて真っ当な自己啓発書です。要点をまとめてしまえば、①アスリート同様にビジネスパーソンもトレーニングが必要、なのに多くのビジネスパーソンは仕事に時間を取られすぎてトレーニングしていない、②Do more with lessを念頭に、より少ない労力で効果を上げるべく、押さえるポイント、力を入れる部分を見極めて賢く研鑽することが必要、③必要な勉強等の時間はあらかじめスケジュールに組み込む、休日の時間割を作る、習慣づけるなどで捻出、④知識は先駆者のまとめたものや外部スクールなどを積極的に利用して効率的に吸収する、⑤人脈は自分が相手に何を与えられるかで考え、常に助言者(コーチ)を持つ、という感じです。
著者は毎日朝の5時から7時まで入浴しながらビジネス書を読んでいるそうで、本書の読みやすさや組み立て方は抜群だと感じます。質問の投げかけ、ノウハウの解説、著者自身の実践の仕方など非常に説得力があり、安心感があります。こういう本は、読んであー面白かったで終わってしまいがちなのですが、著者はそこを厳しく戒めているので、私も次のことは少なくとも心がけてみようと思います。
・労力、時間、知識、人脈の4資産を意識して生活する。
・本の内容をメモ化する、できれば持ち歩く。(本の種類によりますね)
・習慣化されたエクササイズは非常に重要。
・大きな習慣を定着させるには、小さな習慣を確実にやる。
読まれた方も多いかと思いますが、なんとなく時間がないと感じる方や自己啓発の方法論に関心ある方にはお勧めです。
今日は久々の自己啓発系の本をレビューしてみます。本田氏は売れっ子のビジネス書/自己啓発書の著者であり、本書もそうですが「レバレッジ」シリーズで好評を博しています。私は書店で立ち読みしたり、新聞の広告で見かけたりもしていて、関心は持っていたのですが読んだのは本書が初めてです。
さて、内容はタイトルのいかつさ、とは裏腹にきわめて真っ当な自己啓発書です。要点をまとめてしまえば、①アスリート同様にビジネスパーソンもトレーニングが必要、なのに多くのビジネスパーソンは仕事に時間を取られすぎてトレーニングしていない、②Do more with lessを念頭に、より少ない労力で効果を上げるべく、押さえるポイント、力を入れる部分を見極めて賢く研鑽することが必要、③必要な勉強等の時間はあらかじめスケジュールに組み込む、休日の時間割を作る、習慣づけるなどで捻出、④知識は先駆者のまとめたものや外部スクールなどを積極的に利用して効率的に吸収する、⑤人脈は自分が相手に何を与えられるかで考え、常に助言者(コーチ)を持つ、という感じです。
著者は毎日朝の5時から7時まで入浴しながらビジネス書を読んでいるそうで、本書の読みやすさや組み立て方は抜群だと感じます。質問の投げかけ、ノウハウの解説、著者自身の実践の仕方など非常に説得力があり、安心感があります。こういう本は、読んであー面白かったで終わってしまいがちなのですが、著者はそこを厳しく戒めているので、私も次のことは少なくとも心がけてみようと思います。
・労力、時間、知識、人脈の4資産を意識して生活する。
・本の内容をメモ化する、できれば持ち歩く。(本の種類によりますね)
・習慣化されたエクササイズは非常に重要。
・大きな習慣を定着させるには、小さな習慣を確実にやる。
読まれた方も多いかと思いますが、なんとなく時間がないと感じる方や自己啓発の方法論に関心ある方にはお勧めです。
2012年9月17日月曜日
第50回:「永遠の0(ゼロ)」百田 尚樹
レーティング:★★★★★★☆
以前から気になっていたものの、読む機会なくもうほとんど忘れてしまっていた一冊です。先日、とある大先輩が読まれ、強烈に薦めてくださったので、これは読まねば!と思い立ちました。結論から言って、非常にメッセージ性の強い半ばノンフィクションのような話ですが、非常に強く心を打つものがあり、ぜひ感受性の強い中高生なども含めて、多くの方にお勧めしたい一冊でした。
ネタばれを慎重に避けないといけない一冊なので、概略だけ記載すると、自分のルーツ探しを始めた司法浪人の青年が、零戦の名パイロットであった「祖父」の足跡を辿るうち、数奇な昭和前期の歴史とそこに翻弄されながらも懸命に生きた人々の生き様に触れて・・、という話です。これだけ書くとふうん、という感じですが高い力量と熱量を持って書かれている一冊であり、濃さが違います。
優れた本である理由はたくさんあるのですが、自分なりにまとめてみると、①見方がバランスのとれたものとなっており、いたずらに著者の主張のごり押しではないこと、そうではありながら②多くの取材に基づいて事実に即した記載が多いので説得力があること、③太平洋戦争を大きなテーマとして流れを追いつつも、兵士たちの戦前・戦後を複雑かつ非情な社会との関係を踏まえて描いていること、④小説らしさ(フィクションの部分)を失っていないこと、かなあと思います。④の部分が少し強く出てしまっている(最後に)ため、レーティング満点をためらったのですが、④の部分がないと逆に中途半端な本になってしまっていたはずなので、非難しているわけではありません(私が非難できるようなレベルを遥かに超えた意欲作です)。
しかしこの本を読んでいると、(いつかも書きましたが)自分が如何に幸せな時代に生きているのかを痛感します。色々な人が感想を書かれていますが、読んでいくのがつらい場面が良く出てきます。10代後半で読んだ(毀誉褒貶ありますが)「きけわだつみのこえ」を思い出してしまいました。本書で繰り返し指摘されているとおり、あの戦争は現代に通じるさまざまな病理をショーケースのように含んでいて、複雑な気持ちになります。ぜひ読み継いでいきたい、読み継いでいくべき一冊かと思います。著者の新刊も話題になっており、こちらは図書館で予約待ちなので、借りられる日が非常に待ち遠しい状況です。
ところで気づいてみると投稿も今回で第50回となりました。めざせ千冊という心意気でやっているのですが、なかなか簡単に稼げるものではないですね。。。気長にやっていきたいとおもいますので、引き続きたまに覘いて戴ければと思います。
以前から気になっていたものの、読む機会なくもうほとんど忘れてしまっていた一冊です。先日、とある大先輩が読まれ、強烈に薦めてくださったので、これは読まねば!と思い立ちました。結論から言って、非常にメッセージ性の強い半ばノンフィクションのような話ですが、非常に強く心を打つものがあり、ぜひ感受性の強い中高生なども含めて、多くの方にお勧めしたい一冊でした。
ネタばれを慎重に避けないといけない一冊なので、概略だけ記載すると、自分のルーツ探しを始めた司法浪人の青年が、零戦の名パイロットであった「祖父」の足跡を辿るうち、数奇な昭和前期の歴史とそこに翻弄されながらも懸命に生きた人々の生き様に触れて・・、という話です。これだけ書くとふうん、という感じですが高い力量と熱量を持って書かれている一冊であり、濃さが違います。
優れた本である理由はたくさんあるのですが、自分なりにまとめてみると、①見方がバランスのとれたものとなっており、いたずらに著者の主張のごり押しではないこと、そうではありながら②多くの取材に基づいて事実に即した記載が多いので説得力があること、③太平洋戦争を大きなテーマとして流れを追いつつも、兵士たちの戦前・戦後を複雑かつ非情な社会との関係を踏まえて描いていること、④小説らしさ(フィクションの部分)を失っていないこと、かなあと思います。④の部分が少し強く出てしまっている(最後に)ため、レーティング満点をためらったのですが、④の部分がないと逆に中途半端な本になってしまっていたはずなので、非難しているわけではありません(私が非難できるようなレベルを遥かに超えた意欲作です)。
しかしこの本を読んでいると、(いつかも書きましたが)自分が如何に幸せな時代に生きているのかを痛感します。色々な人が感想を書かれていますが、読んでいくのがつらい場面が良く出てきます。10代後半で読んだ(毀誉褒貶ありますが)「きけわだつみのこえ」を思い出してしまいました。本書で繰り返し指摘されているとおり、あの戦争は現代に通じるさまざまな病理をショーケースのように含んでいて、複雑な気持ちになります。ぜひ読み継いでいきたい、読み継いでいくべき一冊かと思います。著者の新刊も話題になっており、こちらは図書館で予約待ちなので、借りられる日が非常に待ち遠しい状況です。
ところで気づいてみると投稿も今回で第50回となりました。めざせ千冊という心意気でやっているのですが、なかなか簡単に稼げるものではないですね。。。気長にやっていきたいとおもいますので、引き続きたまに覘いて戴ければと思います。
2012年8月30日木曜日
第49回:「栄花物語」山本 周五郎
レーティング ★★★★★★☆
歴史小説が好きで、小学校の後半から家にあった司馬遼太郎、吉川英治などに夢中になりました。中学卒業くらいで、かなり読んだ気になって、このジャンルはいいかなと早合点し、それ以来あまり読んでませんでしたが、不思議と社会に出るとまた読みたいなぁと思うことがあります。
さて、山本周五郎氏はいわずと知れた歴史/人情小説家で昭和を舞台に数多くの名作を残されました。しかし、よく読んでいた司馬作品に比べて、人情要素が多そうなこと、執筆した年代が古いことなどが理由で一冊も読んだことがありませんでしたが、本屋に行くといつも気になる存在であり、このたび栄花物語を読んでみることにしました。
読み始めてみると、かなり人情色が強く、最初はちょっと外したのかなと思いましたが、田沼意次を中心として武家と町人を交えて物語が絡み合い、独特のリズムを感じ、ぐっと引き込まれてしまいました。文庫で600ページを超えるのですが、全く長さを感じさせません。長らく親しんだ司馬さんの本に比べると目線が(意図的に)低く設定されており、少し説明的です。その分、人の描写は、素晴らしく、感情移入させられます。
主題は色々あると思いますが、毀誉褒貶ある政治家の信念、優れた才能を持ちながら、身を持ち崩しつつ、なお人情に引きずられる人間くさい作家、生真面目でうまく行くように見えて、激しい一面を持つ旗本、などなど様々な生き方があり、どれも魅力的なテーマを抱えています。古い小説ですがかなりお勧めです。
歴史小説が好きで、小学校の後半から家にあった司馬遼太郎、吉川英治などに夢中になりました。中学卒業くらいで、かなり読んだ気になって、このジャンルはいいかなと早合点し、それ以来あまり読んでませんでしたが、不思議と社会に出るとまた読みたいなぁと思うことがあります。
さて、山本周五郎氏はいわずと知れた歴史/人情小説家で昭和を舞台に数多くの名作を残されました。しかし、よく読んでいた司馬作品に比べて、人情要素が多そうなこと、執筆した年代が古いことなどが理由で一冊も読んだことがありませんでしたが、本屋に行くといつも気になる存在であり、このたび栄花物語を読んでみることにしました。
読み始めてみると、かなり人情色が強く、最初はちょっと外したのかなと思いましたが、田沼意次を中心として武家と町人を交えて物語が絡み合い、独特のリズムを感じ、ぐっと引き込まれてしまいました。文庫で600ページを超えるのですが、全く長さを感じさせません。長らく親しんだ司馬さんの本に比べると目線が(意図的に)低く設定されており、少し説明的です。その分、人の描写は、素晴らしく、感情移入させられます。
主題は色々あると思いますが、毀誉褒貶ある政治家の信念、優れた才能を持ちながら、身を持ち崩しつつ、なお人情に引きずられる人間くさい作家、生真面目でうまく行くように見えて、激しい一面を持つ旗本、などなど様々な生き方があり、どれも魅力的なテーマを抱えています。古い小説ですがかなりお勧めです。
2012年7月29日日曜日
第48回:「交流分析入門」桂 戴作他
レーティング:★★★★★★☆
今日は心理学もので、交流分析の入門書です。一般になじみがない言葉で、私も全く知らなかったのですが、数年前とあるきっかけで交流分析の創始者であるEric Berneの著書を読むことととなり、知るに至りました。交流分析は心理学理論の一つであり、人格をP(Parent)、A(Adult)、C(Child)から構成されるものとして分析したり、Transaction Analysisという名前のとおり、人と人とのやりとりからその人の持つ傾向や偏りを判断しようとする特徴があります。詳細はWikiepdiaに良くできた解説があるので、ご興味がある方はそちらをご参照ください。
当時、Ericの本を英語で読まされ、心理学のタームがバンバンでてきてかなり「?」の状態でした。しかし「?」なりに関心を持てる内容で、結局、かなり時間が掛ったのですが読み終わりました。とりわけ面白いと思ったのがScript(脚本と本書では訳されています)の分析です。ある人が持つ傾向、それも短期、中期、長期になぞってしまう生き方がScriptと定義づけられていますが、神話や童話などを引きつつScript分析がなされるのが非常に面白く、興味を引き付けられました。ただし、本書では残念ながらScriptの分析はそこまで多くありません(シリーズ第5巻が「脚本分析」というタイトルなので、そちらを読む必要があるかもしれません)。
本書は、丁寧でありながら勝手な解釈なしに交流分析について紹介しており、著者も3名がバランスよく記述しているので非常によい入門書だと思います。なんと初版は昭和59年と書いてあるので、もう30年近く読み継がれていることも頷けます。また、エゴグラムという性格を見える化したものもあり、どういう形がどういう意味合いを持つのかが分かって、なるほどという感じです。もちろん、どのエゴグラムが良い、悪いという短絡的な判断はされておらず、むしろどういうことに留意すべきか、どういう傾向があるかについて記載があります。また、交流分析は実践家からもかなり支持されているようで、エゴグラムやScriptは変えうるのだ、という立場で書かれていますので、100%自分に満足していますという人(少ないかと思いますが)以外にはなかなか前向きな書物だと思います。ご興味ある方はぜひ。大きめの本屋でないとなかなか置いていないようです。(丸善(丸の内)で買いましたが、紀伊国屋(新宿本店)にも在庫がありました。)
今日は心理学もので、交流分析の入門書です。一般になじみがない言葉で、私も全く知らなかったのですが、数年前とあるきっかけで交流分析の創始者であるEric Berneの著書を読むことととなり、知るに至りました。交流分析は心理学理論の一つであり、人格をP(Parent)、A(Adult)、C(Child)から構成されるものとして分析したり、Transaction Analysisという名前のとおり、人と人とのやりとりからその人の持つ傾向や偏りを判断しようとする特徴があります。詳細はWikiepdiaに良くできた解説があるので、ご興味がある方はそちらをご参照ください。
当時、Ericの本を英語で読まされ、心理学のタームがバンバンでてきてかなり「?」の状態でした。しかし「?」なりに関心を持てる内容で、結局、かなり時間が掛ったのですが読み終わりました。とりわけ面白いと思ったのがScript(脚本と本書では訳されています)の分析です。ある人が持つ傾向、それも短期、中期、長期になぞってしまう生き方がScriptと定義づけられていますが、神話や童話などを引きつつScript分析がなされるのが非常に面白く、興味を引き付けられました。ただし、本書では残念ながらScriptの分析はそこまで多くありません(シリーズ第5巻が「脚本分析」というタイトルなので、そちらを読む必要があるかもしれません)。
本書は、丁寧でありながら勝手な解釈なしに交流分析について紹介しており、著者も3名がバランスよく記述しているので非常によい入門書だと思います。なんと初版は昭和59年と書いてあるので、もう30年近く読み継がれていることも頷けます。また、エゴグラムという性格を見える化したものもあり、どういう形がどういう意味合いを持つのかが分かって、なるほどという感じです。もちろん、どのエゴグラムが良い、悪いという短絡的な判断はされておらず、むしろどういうことに留意すべきか、どういう傾向があるかについて記載があります。また、交流分析は実践家からもかなり支持されているようで、エゴグラムやScriptは変えうるのだ、という立場で書かれていますので、100%自分に満足していますという人(少ないかと思いますが)以外にはなかなか前向きな書物だと思います。ご興味ある方はぜひ。大きめの本屋でないとなかなか置いていないようです。(丸善(丸の内)で買いましたが、紀伊国屋(新宿本店)にも在庫がありました。)
2012年7月22日日曜日
第47回:「パール判事」中島 岳志
レーティング:★★★★☆☆☆
長い間、論争が続いて簡単には決着しない問題があります。例えば、日本の戦争責任は終戦以来ずっと議論されてきたにも関わらず、さまざまな意見が未だにあり、まだ暫らくは決着をみることはなさそうです。その議論に大きく影響を与えているのが、本書が取り上げるインド出身の東京裁判判事であったラーダービノール・パール氏です。
第二次世界大戦の日本の指導層の戦争責任を裁いた東京裁判ですが、その中で個人責任ある犯罪として、「平和に対する罪」「通例の戦争犯罪」「人道に対する罪」が定義され、適用されました。このうち、通例の戦争犯罪を除いては、それまでの国際法に規定されていないもので所謂事後法でした。事後法は通常の裁判でも認められないことであり、この点が東京裁判を批判する多数の根拠の一つとなっています。個人的には、敗戦国で無条件降伏したから、なにされても文句は言えないよな、と安易に感じることもありますが、たしかに裁判の形式としては異例尽くめであり、問題は多かったように思えます(あとの祭りではありますが)。
この裁判の判事は対日降伏文書に署名した九カ国が指名権を持っていました。インドはその九カ国に含まれていませんでしたが、日本による戦争被害を受けたとし、判事選出の要求を出し、パール判事が派遣されました。本書の美点は、パール判事が無批判に日本を無罪と断じていたのではなく、プロの法律家としての論理と筋金入りのガンジー主義者としての信念をもって、是々非々で戦争犯罪、そして戦争責任を判断したことを明らかにしたことです。著者は一部の右派の論者によって、パールが不適切に引用され、都合のよいように使われていることに強い危機感を抱いており、そこに一定の歯止めを掛けることに成功しているように見えます。また、あまり知られていないパール自身の人生に迫ったており、プレ・ポスト東京裁判の記述がほぼ全体の半分を占め、人間として大変魅力のある人物であったことが分かります。特に東京裁判の後も老齢まで3度にわたり来日し、チャンドラ・ボーズゆかりの人々とも交流を持ったエピソードは感動的です。
他方、本書の気になる部分は、パール判決の検証、考察の弱さです。参考文献に(そうではないと信じたいですが)パール判決の原文がなく、もっぱら二次的な資料(しかも日本語)に頼っており、逆に自身の主張に沿う部分のみを著者も使っているのではないかとの懸念があります。読了後に知ったことですが、本書をめぐって大きな論争が起きており、幾人かの保守系の論者からは相当きつい指摘を受けています。これを踏まえた検証本や著者自身の再反論が本の形でなされるとより議論は深まったと思うのですが。
少し毛色は違いますが、小熊 英二と並んで同時代の歴史研究者として気になる存在です。これが最初の本だったので、引き続き読んでみたいと思います。
長い間、論争が続いて簡単には決着しない問題があります。例えば、日本の戦争責任は終戦以来ずっと議論されてきたにも関わらず、さまざまな意見が未だにあり、まだ暫らくは決着をみることはなさそうです。その議論に大きく影響を与えているのが、本書が取り上げるインド出身の東京裁判判事であったラーダービノール・パール氏です。
第二次世界大戦の日本の指導層の戦争責任を裁いた東京裁判ですが、その中で個人責任ある犯罪として、「平和に対する罪」「通例の戦争犯罪」「人道に対する罪」が定義され、適用されました。このうち、通例の戦争犯罪を除いては、それまでの国際法に規定されていないもので所謂事後法でした。事後法は通常の裁判でも認められないことであり、この点が東京裁判を批判する多数の根拠の一つとなっています。個人的には、敗戦国で無条件降伏したから、なにされても文句は言えないよな、と安易に感じることもありますが、たしかに裁判の形式としては異例尽くめであり、問題は多かったように思えます(あとの祭りではありますが)。
この裁判の判事は対日降伏文書に署名した九カ国が指名権を持っていました。インドはその九カ国に含まれていませんでしたが、日本による戦争被害を受けたとし、判事選出の要求を出し、パール判事が派遣されました。本書の美点は、パール判事が無批判に日本を無罪と断じていたのではなく、プロの法律家としての論理と筋金入りのガンジー主義者としての信念をもって、是々非々で戦争犯罪、そして戦争責任を判断したことを明らかにしたことです。著者は一部の右派の論者によって、パールが不適切に引用され、都合のよいように使われていることに強い危機感を抱いており、そこに一定の歯止めを掛けることに成功しているように見えます。また、あまり知られていないパール自身の人生に迫ったており、プレ・ポスト東京裁判の記述がほぼ全体の半分を占め、人間として大変魅力のある人物であったことが分かります。特に東京裁判の後も老齢まで3度にわたり来日し、チャンドラ・ボーズゆかりの人々とも交流を持ったエピソードは感動的です。
他方、本書の気になる部分は、パール判決の検証、考察の弱さです。参考文献に(そうではないと信じたいですが)パール判決の原文がなく、もっぱら二次的な資料(しかも日本語)に頼っており、逆に自身の主張に沿う部分のみを著者も使っているのではないかとの懸念があります。読了後に知ったことですが、本書をめぐって大きな論争が起きており、幾人かの保守系の論者からは相当きつい指摘を受けています。これを踏まえた検証本や著者自身の再反論が本の形でなされるとより議論は深まったと思うのですが。
少し毛色は違いますが、小熊 英二と並んで同時代の歴史研究者として気になる存在です。これが最初の本だったので、引き続き読んでみたいと思います。
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