レーティング:★★★★★☆☆
2007年9月に発刊された本書。サブタイトルの「25歳女性起業家の号泣戦記」が良く表しているとおり、ある女性の生い立ちと起業に至る実話です。著者であり起業家の山口さんはメディアに頻繁にカバーされているので、見た・読んだという方も多いかもしれません。現在、株式会社マザーハウスの代表を務めています。
以前からだいぶ気になって、マザーハウスのサイトや山口さんのインタビューなどを読んでいたのですが、この本を読んで、随分と驚き、応援したい気持ちになりました。小学校での経験、中学校での非行(詳細はさすがに省かれていますが・・)の記述は壮絶で、一人の少女が背負った傷やそれに向き合った心の強さをひしひしと感じます。高校時代は柔道に明け暮れるのですが、このチョイスもなかなかユニークであり、練習スタイル?も随分と気合いが入っていて、(本人は否定されるでしょうが)ただものではないんだなあ、と感じます。
その後、慶應大学に進み、名門ゼミに入るところで一気に社会的、経済的な関心が高まり、IDB(米州開発銀行)でインターンを行い、バングラデシュに行くこととなります。そこから起業に至っていくのですが、ずいぶん中身の濃い話なので、ぜひ一読されることをお勧めします。
全てが著者の実体験であり、包み隠さず明らかにしていることで圧倒的なリアリティがありますし、著者の意思の強さと自分で考える姿勢には学ぶべきものが沢山あります。特に先が見えない状況で努力し続けるという点。高校時代の柔道は、全くの素人から3年間、体も壊しながら勝てるアテなどない中で想像を超える練習を継続しています。起業してからも、バングラデシュの工場で色々なことが起こるのですが、業務の継続が困難な状況で自分の思いを貫徹していきます。
株式会社マザーハウスがカバンを作り、日本の消費者に売り込めた(最初は150個限定)こと自体が奇跡のようなことで、ここまで失敗に至っておかしくない理由がざっと数十はあります。著者は、ものづくりなどしたこともなく、会社も経営しておらず、バングラデシュには適当な製造の人材の不足し、政情も不安定で・・でもそういう全てのことを「できない/しない理由」とせずに、自分の使命とやり方を信じて突き進んだのは見事としか言えません。先(ペイオフ)の見えない努力は回避したいものですし、社会人になって成算が見えないものに自分を捧げるのは相当の勇気が居るものですので、そういう「蛮勇」(というと失礼ですが)を読んで、正反対の生き方として学ぶものが多々あります。熱い本です。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年5月22日日曜日
2011年5月12日木曜日
第13回:「ローマ人の物語 ローマは一日にして成らず(上・下)」塩野 七生
レーティング:★★★★★☆☆
多くの人が世界史を学ぶのは中学校、高校で、大学に進んでごく稀に(すみません)歴史を専攻する人もいる。私は典型的な部類で、中学校、高校で世界史を学んだのですが、その中でもローマ時代はいかんせん教科書の最初の方にちょろっと出てくるだけであり、また身も蓋もない言い方をすれば遠い国の遠い昔の話なので、あまり興味を持ちませんでした。他方、塩野氏については月刊のオピニオン誌に「いまこそローマ人に学べ!」的な寄稿をたまにされているのは知っており(読んだことはなし)、いずれ代表作であるローマについての本を読んでみたいと思っていました。
また2年ほど前に短期間ですが数回イタリアに足を踏み入れる機会があり、そういえば自分はイタリアはおろかローマ時代のことも何も知らないなぁと痛感すると共に、何人か知り合えて、深い話もできたイタリア人はほぼ例外なくとても好きになることができました。そんなこんなで、新潮文庫から出ているこのシリーズを入手(現在、この2冊(通し番号1・2)と3及び5)したので読んでみようと思った次第です。
歴史の教科書は、歴史を学ぶ気をなくさせるほど無味乾燥ですが(そりゃあ世界の歴史を1冊で俯瞰しようということに限界があるわけですが)、細かく見ていくと一杯面白いエピソードや先進的なストーリーがあることをいやというほど痛感しました。著者の描き方はかなり俯瞰的ではありますが、それでもおよそ500年程度(ローマの勃興から半島統一まで)を丹念に描いています。政体、統治機構、軍隊、市民生活などのうち、何が変わって何を変えなかったかがよくわかります。
また感動してしまうのが、ローマが首都陥落(ケルト人による)などを経験しながら、幾度も起ちあがってその版図を広げ、驚異的ともいえる包容政策を取っていくあたりです。まだまだ、1・2ですが、今後が楽しみになります。
最後に装丁も見所です。各時代に鋳造された美しい小さなコインを載せた、シンプルながら非常に味のあるものに仕上がっておりますので、よろしれければ本屋などでチェックしてみてください。また、2の最後にある「ひとまずの結び」も優れた文章だと思います。欲を言えば、2の最後についている年表を1の最初に持ってきてほしかった(早く気付けよ、という話ではありますが)。次は3~5が一つのまとまり「ハンニバル戦記」となっているので、時間はかかると思いますが読み終わったらまたポストしたいと思います。
多くの人が世界史を学ぶのは中学校、高校で、大学に進んでごく稀に(すみません)歴史を専攻する人もいる。私は典型的な部類で、中学校、高校で世界史を学んだのですが、その中でもローマ時代はいかんせん教科書の最初の方にちょろっと出てくるだけであり、また身も蓋もない言い方をすれば遠い国の遠い昔の話なので、あまり興味を持ちませんでした。他方、塩野氏については月刊のオピニオン誌に「いまこそローマ人に学べ!」的な寄稿をたまにされているのは知っており(読んだことはなし)、いずれ代表作であるローマについての本を読んでみたいと思っていました。
また2年ほど前に短期間ですが数回イタリアに足を踏み入れる機会があり、そういえば自分はイタリアはおろかローマ時代のことも何も知らないなぁと痛感すると共に、何人か知り合えて、深い話もできたイタリア人はほぼ例外なくとても好きになることができました。そんなこんなで、新潮文庫から出ているこのシリーズを入手(現在、この2冊(通し番号1・2)と3及び5)したので読んでみようと思った次第です。
歴史の教科書は、歴史を学ぶ気をなくさせるほど無味乾燥ですが(そりゃあ世界の歴史を1冊で俯瞰しようということに限界があるわけですが)、細かく見ていくと一杯面白いエピソードや先進的なストーリーがあることをいやというほど痛感しました。著者の描き方はかなり俯瞰的ではありますが、それでもおよそ500年程度(ローマの勃興から半島統一まで)を丹念に描いています。政体、統治機構、軍隊、市民生活などのうち、何が変わって何を変えなかったかがよくわかります。
また感動してしまうのが、ローマが首都陥落(ケルト人による)などを経験しながら、幾度も起ちあがってその版図を広げ、驚異的ともいえる包容政策を取っていくあたりです。まだまだ、1・2ですが、今後が楽しみになります。
最後に装丁も見所です。各時代に鋳造された美しい小さなコインを載せた、シンプルながら非常に味のあるものに仕上がっておりますので、よろしれければ本屋などでチェックしてみてください。また、2の最後にある「ひとまずの結び」も優れた文章だと思います。欲を言えば、2の最後についている年表を1の最初に持ってきてほしかった(早く気付けよ、という話ではありますが)。次は3~5が一つのまとまり「ハンニバル戦記」となっているので、時間はかかると思いますが読み終わったらまたポストしたいと思います。
2011年5月7日土曜日
第12回:「獅子のごとく」黒木 亮
レーティング:★★★★★☆☆
本ブログでおなじみの黒木氏の新刊(といっても2010年11月初版・・)です。実在する人物をモチーフにしながら、虚実織り交ぜてストーリーが進行していく点は黒木氏の作品「巨大投資銀行」とほぼ同様ですが、本作はより「どぎつい」描写や批判的なスタンスが多く出てくるので、黒木氏はかなり慎重に筆を進めたのではないかと推察します。
レーティングがかなり高い理由は、以下のものです。まず、(架空の点が後半中心に多いとしても)ある強烈な人物の一代記として、純粋にストーリーが面白い点が挙げられます。主人公は家族や家業の関係で苦汁を舐めるのですが、それらをバネに猛烈な仕事ジャンキーとなっていきます。それが自身や家族、会社ひいては社会にもたらす正負の影響が比較的バランスよく描かれています(単に批判的なだけではない)。黒木氏は、MSN産経ニュースのインタビューで「(主人公にも)“痛み”があって、本当に悪役なのかどうかは、よく分からないんだけど」と語っており、二元論的に正邪を描こうとしているわけではないことを認めています。
次に、最初の点の補強になりますが、登場人物の人間性の変化が良く描けていると思います。仕事を通じて、成功したり、お金を持ったり、またその逆になる人が多数出てきますが、そこで各人は様々な変化を遂げます。作中では、人間性や仕事へのスタンスを曲げたくなくて主人公(及びその会社)から離れるもの、徹底的に人間性を捨て仕事に過剰適応していくもの、仕事にのめり込むあまり当初謙虚であったのに勝負の構図でしか人生をとらえられなくなる人など、様々なパターンが示されます。(言うまでもなく)どれが良い悪いというよりは、どういったモデルをベースに自分の生き方を選ぶのか、という問いかけに思えました。
最後に、投資銀行の内実(特にモデルとなった米系IB)の一端が垣間見られます。上記の「巨大投資銀行」はマーケット/トレーディング部門の視点から描かれていましたが、本作ではいわゆる投資銀行部(門)をメインの舞台としていますので、M&A、債券、株式、その他金融商品などが幅広く出てきて、投資銀行部がどういRM機能を果たしているか触れることができるため、投資銀行に就職したい学生さんなどにも良いのではないかと思います。
主人公の仕事に賭ける執念や熱気がみなぎった作品で、引くと同時に惹かれる点もある不思議なストーリーでした。主人公の過剰ともいえる接待、人脈作りなど寝技系の仕事獲得方法が多く描写されていますが、いうまでもなくそれを支えた多くの部下の方々の(プッシュされたが故もあるでしょうが)優れたプロポーザルや的確なエグゼキューションがあって仕事が獲得できてきた部分も多いはずであり、そこにもより言及があると更によかったかなあと思いました。いずれにせよ読み応えのある作品でした。
本ブログでおなじみの黒木氏の新刊(といっても2010年11月初版・・)です。実在する人物をモチーフにしながら、虚実織り交ぜてストーリーが進行していく点は黒木氏の作品「巨大投資銀行」とほぼ同様ですが、本作はより「どぎつい」描写や批判的なスタンスが多く出てくるので、黒木氏はかなり慎重に筆を進めたのではないかと推察します。
レーティングがかなり高い理由は、以下のものです。まず、(架空の点が後半中心に多いとしても)ある強烈な人物の一代記として、純粋にストーリーが面白い点が挙げられます。主人公は家族や家業の関係で苦汁を舐めるのですが、それらをバネに猛烈な仕事ジャンキーとなっていきます。それが自身や家族、会社ひいては社会にもたらす正負の影響が比較的バランスよく描かれています(単に批判的なだけではない)。黒木氏は、MSN産経ニュースのインタビューで「(主人公にも)“痛み”があって、本当に悪役なのかどうかは、よく分からないんだけど」と語っており、二元論的に正邪を描こうとしているわけではないことを認めています。
次に、最初の点の補強になりますが、登場人物の人間性の変化が良く描けていると思います。仕事を通じて、成功したり、お金を持ったり、またその逆になる人が多数出てきますが、そこで各人は様々な変化を遂げます。作中では、人間性や仕事へのスタンスを曲げたくなくて主人公(及びその会社)から離れるもの、徹底的に人間性を捨て仕事に過剰適応していくもの、仕事にのめり込むあまり当初謙虚であったのに勝負の構図でしか人生をとらえられなくなる人など、様々なパターンが示されます。(言うまでもなく)どれが良い悪いというよりは、どういったモデルをベースに自分の生き方を選ぶのか、という問いかけに思えました。
最後に、投資銀行の内実(特にモデルとなった米系IB)の一端が垣間見られます。上記の「巨大投資銀行」はマーケット/トレーディング部門の視点から描かれていましたが、本作ではいわゆる投資銀行部(門)をメインの舞台としていますので、M&A、債券、株式、その他金融商品などが幅広く出てきて、投資銀行部がどういRM機能を果たしているか触れることができるため、投資銀行に就職したい学生さんなどにも良いのではないかと思います。
主人公の仕事に賭ける執念や熱気がみなぎった作品で、引くと同時に惹かれる点もある不思議なストーリーでした。主人公の過剰ともいえる接待、人脈作りなど寝技系の仕事獲得方法が多く描写されていますが、いうまでもなくそれを支えた多くの部下の方々の(プッシュされたが故もあるでしょうが)優れたプロポーザルや的確なエグゼキューションがあって仕事が獲得できてきた部分も多いはずであり、そこにもより言及があると更によかったかなあと思いました。いずれにせよ読み応えのある作品でした。
2011年4月22日金曜日
第11回:「雑文集」村上 春樹
レーティング:★★★★★★☆
上記レーティングは、私が村上春樹の大ファンなので相当バイアスが入っていることが確実ですが、私的書評なのでご容赦ください。
『雑文集』というタイトルが示す通り、村上氏が80年代から書いてきたライナーノーツや行ったスピーチ、新聞等への寄稿、自作の外国語訳版への序文等を集めたものです。本当に1ページの半分にも満たない電報から数十ページの読み応えあるエッセイまでありますが、駄文はなく、面白いものばかりです(褒めすぎか・・)。とりわけ、料理やジャズといった村上氏が得意のファンお馴染みの分野だけではなく、余り語られてこなかった生い立ち(初めて買ったレコードとか・・)や、日本では殆ど語らない文学観といったものが載っている点は貴重だと思います。
本当に個性的で多様な文章が集められていますが、私が特に良かったと思ったのは以下のものです。
・東京の地下のブラック・マジック:地下鉄サリン事件に関して。
・いいときにはとてもいい:短いけれど心にしみる電報です。
・柄谷行人:笑えて脱力します。これをボツにした編集者は正しい気がする。
・物語の善きサイクル:村上氏にしては珍しい物語論です。
と、リストし始めるとしまいには全てを書いてしまいそうですが、面白い本なのでぜひお手に取ってみてください。そうそう、装丁も安西水丸さんと和田誠さんの絵が素敵です。
上記レーティングは、私が村上春樹の大ファンなので相当バイアスが入っていることが確実ですが、私的書評なのでご容赦ください。
『雑文集』というタイトルが示す通り、村上氏が80年代から書いてきたライナーノーツや行ったスピーチ、新聞等への寄稿、自作の外国語訳版への序文等を集めたものです。本当に1ページの半分にも満たない電報から数十ページの読み応えあるエッセイまでありますが、駄文はなく、面白いものばかりです(褒めすぎか・・)。とりわけ、料理やジャズといった村上氏が得意のファンお馴染みの分野だけではなく、余り語られてこなかった生い立ち(初めて買ったレコードとか・・)や、日本では殆ど語らない文学観といったものが載っている点は貴重だと思います。
本当に個性的で多様な文章が集められていますが、私が特に良かったと思ったのは以下のものです。
・東京の地下のブラック・マジック:地下鉄サリン事件に関して。
・いいときにはとてもいい:短いけれど心にしみる電報です。
・柄谷行人:笑えて脱力します。これをボツにした編集者は正しい気がする。
・物語の善きサイクル:村上氏にしては珍しい物語論です。
と、リストし始めるとしまいには全てを書いてしまいそうですが、面白い本なのでぜひお手に取ってみてください。そうそう、装丁も安西水丸さんと和田誠さんの絵が素敵です。
2011年4月12日火曜日
第10回:「リストラ屋」黒木 亮
レーティング:★★★☆☆☆☆
(私にとっては)記念すべき第10回に到達しました。読んで下さった皆様、ありがとうございます。完全に趣味で行っている書評ですが、次は100回を目指して進んでいきたいと思います。大体、月4冊ペーストすると25カ月あれば100冊に到達するはずです・・。
ところで今回は本ブログではおなじみの黒木氏の作品です。他に2冊同時並行で読んでいるのですが、どうしても読みやすく、また著者が好きだということもあり他の2冊を追い抜いて読んでしまいました。が、レーティングは低めです。
本作は、黒木氏の書いた「カラ売り屋」の続編という位置づけであり、事実サブタイトルとして「カラ売り屋2」という名前も付いています。おなじみ?パンゲア&カンパニーというカラ売り専業のファンドが、極東スポーツというPE会社の保有するリストラ真っ最中の会社(の経営者)と戦っていくものです。
率直に言えば、第7回で書評した「トリプルA」のような人間描写はなく、(こちらは書評していませんが)「巨大投資銀行」や「エネルギー」で描かれたような緻密な経済/金融の描写もなく、半端な印象を受けました。書評で書かれている方も散見しましたが、リストラ経営者=悪、市場を守るもの=善という分かりやすい構図が設定・貫徹されてしまっています。著者特有の、ビジネスパーソンの行動の源泉を生い立ちに求めるという部分が本の後半にありますが、それとて生い立ちこそ描写していますが、上記の善悪の構図にはノータッチです。リストラ経営者にも、それを雇ったPEファンドにもそれぞれの論理があり、肯定的に描かれているカラ売り屋だってファンドによっては、人によっては、また意図と関係なく悪となることもあると思われますが、そういった多面的な評価が描かれなかったのは残念です。
ただ、著者は勧善懲悪的なストーリーを一貫して避けてきている(と私は強く感じます)ので、この作品では恐らく意図的にそういうストーリーを描いてみたのでしょう。もしそうだとすれば、(上記の善悪の構図を維持しなければ)パンゲアが所在するNYのハーレムにおける人々の生き様(そしてパンゲアのパートナーが行っているボランティア活動)が上手く描けなくなるからではないか、と思います。このNYの描写は、ストーリーに深みを与えていて、アメリカにおける人種、経済的格差を丹念に拾っています。
レーティングはやや辛めですが、実は結構楽しんで読みました。中盤まで読んでなんだかなぁと思われた方は、ぜひ我慢して最後の50ページまで行ってみてください。すこし救われた気になります。
(私にとっては)記念すべき第10回に到達しました。読んで下さった皆様、ありがとうございます。完全に趣味で行っている書評ですが、次は100回を目指して進んでいきたいと思います。大体、月4冊ペーストすると25カ月あれば100冊に到達するはずです・・。
ところで今回は本ブログではおなじみの黒木氏の作品です。他に2冊同時並行で読んでいるのですが、どうしても読みやすく、また著者が好きだということもあり他の2冊を追い抜いて読んでしまいました。が、レーティングは低めです。
本作は、黒木氏の書いた「カラ売り屋」の続編という位置づけであり、事実サブタイトルとして「カラ売り屋2」という名前も付いています。おなじみ?パンゲア&カンパニーというカラ売り専業のファンドが、極東スポーツというPE会社の保有するリストラ真っ最中の会社(の経営者)と戦っていくものです。
率直に言えば、第7回で書評した「トリプルA」のような人間描写はなく、(こちらは書評していませんが)「巨大投資銀行」や「エネルギー」で描かれたような緻密な経済/金融の描写もなく、半端な印象を受けました。書評で書かれている方も散見しましたが、リストラ経営者=悪、市場を守るもの=善という分かりやすい構図が設定・貫徹されてしまっています。著者特有の、ビジネスパーソンの行動の源泉を生い立ちに求めるという部分が本の後半にありますが、それとて生い立ちこそ描写していますが、上記の善悪の構図にはノータッチです。リストラ経営者にも、それを雇ったPEファンドにもそれぞれの論理があり、肯定的に描かれているカラ売り屋だってファンドによっては、人によっては、また意図と関係なく悪となることもあると思われますが、そういった多面的な評価が描かれなかったのは残念です。
ただ、著者は勧善懲悪的なストーリーを一貫して避けてきている(と私は強く感じます)ので、この作品では恐らく意図的にそういうストーリーを描いてみたのでしょう。もしそうだとすれば、(上記の善悪の構図を維持しなければ)パンゲアが所在するNYのハーレムにおける人々の生き様(そしてパンゲアのパートナーが行っているボランティア活動)が上手く描けなくなるからではないか、と思います。このNYの描写は、ストーリーに深みを与えていて、アメリカにおける人種、経済的格差を丹念に拾っています。
レーティングはやや辛めですが、実は結構楽しんで読みました。中盤まで読んでなんだかなぁと思われた方は、ぜひ我慢して最後の50ページまで行ってみてください。すこし救われた気になります。
2011年4月9日土曜日
第9回:「福祉を変える経営」小倉 昌男
レーティング:★★★★★☆☆
第7回のレビューにて触れた故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)が生前に書かれた本です(2003年10月初版)。小倉さんは経営の第一線を退いた後、莫大な私財を投じてこの財団を立ち上げ、各種の障害者への支援、雇用などを行ってきました。特に大手のパンメーカーと提携して立ち上げたスワンベーカリーの事業を軸として、主に「共同作業所」と呼ばれる全国の障害者施設に携わる人々に向けたセミナーの草稿を本にしたものが本書となります。
色々と胸を打たれるところはあるのですが、小倉さんのこの財団へのコミットメントの強さ、まさに無私と呼んでよい障害者との共生への努力が印象的です。財団は共同作業所の運営に携わる人々を、無料で2泊3日のセミナーに招待し、小倉さんは(高齢になっていたにもかかわらず)自ら熱弁を振るい続けました。しかも一年に何度も、何年間もです。
本書のメッセージをあえて単純化すれば、障害者にも適正な賃金を払えるビジネスモデルを確立・実行するべき、というものです。このメッセージは、(賛否両論あるんだとおもいますが)極めて熱い問いかけ(障害者の尊厳とはなにか、自立とは何か)に支えられており、わかりやすく語りつくされています。また、そういった考えを実践するためのセミナーをベースとしてますので、数々の先進的な障害者雇用事例、ビジネス事例が数多く詰め込まれており、大いに実践的な内容になっています。
考えてみれば少し形態は違いますが、途上国の産品を「貧しい人が一生懸命つくったから、買って下さい」という形ではなく、㈱マザーハウスのように「かっこいい/綺麗でほしくなるバック作ったので、納得すれば買って下さい」という社会起業家が出て、成功を収めてきてます。若いこうした社会起業家が活躍する一方、かなり前から、ビジネスの当たり前の論理と強い情熱をもった日本のビジネスパーソンが実践していたこと、これは余り知られていないでしょうし文句なく称賛に値することだと思いました。ずいぶんと頭が下がりますし、色々と考えさせられる本です。
第7回のレビューにて触れた故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)が生前に書かれた本です(2003年10月初版)。小倉さんは経営の第一線を退いた後、莫大な私財を投じてこの財団を立ち上げ、各種の障害者への支援、雇用などを行ってきました。特に大手のパンメーカーと提携して立ち上げたスワンベーカリーの事業を軸として、主に「共同作業所」と呼ばれる全国の障害者施設に携わる人々に向けたセミナーの草稿を本にしたものが本書となります。
色々と胸を打たれるところはあるのですが、小倉さんのこの財団へのコミットメントの強さ、まさに無私と呼んでよい障害者との共生への努力が印象的です。財団は共同作業所の運営に携わる人々を、無料で2泊3日のセミナーに招待し、小倉さんは(高齢になっていたにもかかわらず)自ら熱弁を振るい続けました。しかも一年に何度も、何年間もです。
本書のメッセージをあえて単純化すれば、障害者にも適正な賃金を払えるビジネスモデルを確立・実行するべき、というものです。このメッセージは、(賛否両論あるんだとおもいますが)極めて熱い問いかけ(障害者の尊厳とはなにか、自立とは何か)に支えられており、わかりやすく語りつくされています。また、そういった考えを実践するためのセミナーをベースとしてますので、数々の先進的な障害者雇用事例、ビジネス事例が数多く詰め込まれており、大いに実践的な内容になっています。
考えてみれば少し形態は違いますが、途上国の産品を「貧しい人が一生懸命つくったから、買って下さい」という形ではなく、㈱マザーハウスのように「かっこいい/綺麗でほしくなるバック作ったので、納得すれば買って下さい」という社会起業家が出て、成功を収めてきてます。若いこうした社会起業家が活躍する一方、かなり前から、ビジネスの当たり前の論理と強い情熱をもった日本のビジネスパーソンが実践していたこと、これは余り知られていないでしょうし文句なく称賛に値することだと思いました。ずいぶんと頭が下がりますし、色々と考えさせられる本です。
2011年4月3日日曜日
第8回:「努力しない生き方」桜井 章一
レーティング:★★★☆☆☆☆
麻雀好きな人であればご存知かもしれませんし、そうでない人も耳にしたことがあるかもしれませんが、雀鬼と呼ばれた桜井氏による生き方?本です。現代の人々の生き方や社会が「足し算」の積み重ねから出来ているとして、そうではない「引き算」や「足さない」ことを通じて違う生き方を目指すというもので、著者の実体験や考えから構成されています。
一つ一つの内容は突飛ではなく、頑張れば全てが叶う的な自己啓発本への強烈なアンチテーゼとしての面白さがあります。例えば、「壁を乗り越えられないのは、壁を意識しすぎるからである。(中略)壁は越えるのではなく、上に乗っかればいいと思う。(中略)壁となっている問題をとりあえず丸ごと受け入れるということである。」とか、「人というのはもともと、意味を持たない不合理な存在としてこの世にあらわれたのであるる。(中略)「意味を求める」姿勢だけでいくと、人は意味に縛られて窒息してくる。」など、なかなか(私としては)面白いと思える言葉がよく出てきました。
レーティングはやや低いのですが、各メッセージには著者の想像から来た部分が多く(実体験もあるけどやや具体性に欠ける)、買って手元に置いておいて読み返そうという気にはならなかったことが原因です。著者に言わせれば、こういう感じ方が既に相当「足し算」もしくは効用追求型の読み方ということかもしれません。
大学受験中の学生などには進められませんが、少し疲れたなーと感じられた社会人の方などにはふっと気づきのある本かもしれません。軽いタッチで1-2時間もあればさらりと読めるので、夜にビールでも片手に寝る前読む、そんなスタイルで向き合うと楽しいかもしれません。
麻雀好きな人であればご存知かもしれませんし、そうでない人も耳にしたことがあるかもしれませんが、雀鬼と呼ばれた桜井氏による生き方?本です。現代の人々の生き方や社会が「足し算」の積み重ねから出来ているとして、そうではない「引き算」や「足さない」ことを通じて違う生き方を目指すというもので、著者の実体験や考えから構成されています。
一つ一つの内容は突飛ではなく、頑張れば全てが叶う的な自己啓発本への強烈なアンチテーゼとしての面白さがあります。例えば、「壁を乗り越えられないのは、壁を意識しすぎるからである。(中略)壁は越えるのではなく、上に乗っかればいいと思う。(中略)壁となっている問題をとりあえず丸ごと受け入れるということである。」とか、「人というのはもともと、意味を持たない不合理な存在としてこの世にあらわれたのであるる。(中略)「意味を求める」姿勢だけでいくと、人は意味に縛られて窒息してくる。」など、なかなか(私としては)面白いと思える言葉がよく出てきました。
レーティングはやや低いのですが、各メッセージには著者の想像から来た部分が多く(実体験もあるけどやや具体性に欠ける)、買って手元に置いておいて読み返そうという気にはならなかったことが原因です。著者に言わせれば、こういう感じ方が既に相当「足し算」もしくは効用追求型の読み方ということかもしれません。
大学受験中の学生などには進められませんが、少し疲れたなーと感じられた社会人の方などにはふっと気づきのある本かもしれません。軽いタッチで1-2時間もあればさらりと読めるので、夜にビールでも片手に寝る前読む、そんなスタイルで向き合うと楽しいかもしれません。
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