レーティング:★★★★★★☆
上記レーティングは、私が村上春樹の大ファンなので相当バイアスが入っていることが確実ですが、私的書評なのでご容赦ください。
『雑文集』というタイトルが示す通り、村上氏が80年代から書いてきたライナーノーツや行ったスピーチ、新聞等への寄稿、自作の外国語訳版への序文等を集めたものです。本当に1ページの半分にも満たない電報から数十ページの読み応えあるエッセイまでありますが、駄文はなく、面白いものばかりです(褒めすぎか・・)。とりわけ、料理やジャズといった村上氏が得意のファンお馴染みの分野だけではなく、余り語られてこなかった生い立ち(初めて買ったレコードとか・・)や、日本では殆ど語らない文学観といったものが載っている点は貴重だと思います。
本当に個性的で多様な文章が集められていますが、私が特に良かったと思ったのは以下のものです。
・東京の地下のブラック・マジック:地下鉄サリン事件に関して。
・いいときにはとてもいい:短いけれど心にしみる電報です。
・柄谷行人:笑えて脱力します。これをボツにした編集者は正しい気がする。
・物語の善きサイクル:村上氏にしては珍しい物語論です。
と、リストし始めるとしまいには全てを書いてしまいそうですが、面白い本なのでぜひお手に取ってみてください。そうそう、装丁も安西水丸さんと和田誠さんの絵が素敵です。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年4月22日金曜日
2011年4月12日火曜日
第10回:「リストラ屋」黒木 亮
レーティング:★★★☆☆☆☆
(私にとっては)記念すべき第10回に到達しました。読んで下さった皆様、ありがとうございます。完全に趣味で行っている書評ですが、次は100回を目指して進んでいきたいと思います。大体、月4冊ペーストすると25カ月あれば100冊に到達するはずです・・。
ところで今回は本ブログではおなじみの黒木氏の作品です。他に2冊同時並行で読んでいるのですが、どうしても読みやすく、また著者が好きだということもあり他の2冊を追い抜いて読んでしまいました。が、レーティングは低めです。
本作は、黒木氏の書いた「カラ売り屋」の続編という位置づけであり、事実サブタイトルとして「カラ売り屋2」という名前も付いています。おなじみ?パンゲア&カンパニーというカラ売り専業のファンドが、極東スポーツというPE会社の保有するリストラ真っ最中の会社(の経営者)と戦っていくものです。
率直に言えば、第7回で書評した「トリプルA」のような人間描写はなく、(こちらは書評していませんが)「巨大投資銀行」や「エネルギー」で描かれたような緻密な経済/金融の描写もなく、半端な印象を受けました。書評で書かれている方も散見しましたが、リストラ経営者=悪、市場を守るもの=善という分かりやすい構図が設定・貫徹されてしまっています。著者特有の、ビジネスパーソンの行動の源泉を生い立ちに求めるという部分が本の後半にありますが、それとて生い立ちこそ描写していますが、上記の善悪の構図にはノータッチです。リストラ経営者にも、それを雇ったPEファンドにもそれぞれの論理があり、肯定的に描かれているカラ売り屋だってファンドによっては、人によっては、また意図と関係なく悪となることもあると思われますが、そういった多面的な評価が描かれなかったのは残念です。
ただ、著者は勧善懲悪的なストーリーを一貫して避けてきている(と私は強く感じます)ので、この作品では恐らく意図的にそういうストーリーを描いてみたのでしょう。もしそうだとすれば、(上記の善悪の構図を維持しなければ)パンゲアが所在するNYのハーレムにおける人々の生き様(そしてパンゲアのパートナーが行っているボランティア活動)が上手く描けなくなるからではないか、と思います。このNYの描写は、ストーリーに深みを与えていて、アメリカにおける人種、経済的格差を丹念に拾っています。
レーティングはやや辛めですが、実は結構楽しんで読みました。中盤まで読んでなんだかなぁと思われた方は、ぜひ我慢して最後の50ページまで行ってみてください。すこし救われた気になります。
(私にとっては)記念すべき第10回に到達しました。読んで下さった皆様、ありがとうございます。完全に趣味で行っている書評ですが、次は100回を目指して進んでいきたいと思います。大体、月4冊ペーストすると25カ月あれば100冊に到達するはずです・・。
ところで今回は本ブログではおなじみの黒木氏の作品です。他に2冊同時並行で読んでいるのですが、どうしても読みやすく、また著者が好きだということもあり他の2冊を追い抜いて読んでしまいました。が、レーティングは低めです。
本作は、黒木氏の書いた「カラ売り屋」の続編という位置づけであり、事実サブタイトルとして「カラ売り屋2」という名前も付いています。おなじみ?パンゲア&カンパニーというカラ売り専業のファンドが、極東スポーツというPE会社の保有するリストラ真っ最中の会社(の経営者)と戦っていくものです。
率直に言えば、第7回で書評した「トリプルA」のような人間描写はなく、(こちらは書評していませんが)「巨大投資銀行」や「エネルギー」で描かれたような緻密な経済/金融の描写もなく、半端な印象を受けました。書評で書かれている方も散見しましたが、リストラ経営者=悪、市場を守るもの=善という分かりやすい構図が設定・貫徹されてしまっています。著者特有の、ビジネスパーソンの行動の源泉を生い立ちに求めるという部分が本の後半にありますが、それとて生い立ちこそ描写していますが、上記の善悪の構図にはノータッチです。リストラ経営者にも、それを雇ったPEファンドにもそれぞれの論理があり、肯定的に描かれているカラ売り屋だってファンドによっては、人によっては、また意図と関係なく悪となることもあると思われますが、そういった多面的な評価が描かれなかったのは残念です。
ただ、著者は勧善懲悪的なストーリーを一貫して避けてきている(と私は強く感じます)ので、この作品では恐らく意図的にそういうストーリーを描いてみたのでしょう。もしそうだとすれば、(上記の善悪の構図を維持しなければ)パンゲアが所在するNYのハーレムにおける人々の生き様(そしてパンゲアのパートナーが行っているボランティア活動)が上手く描けなくなるからではないか、と思います。このNYの描写は、ストーリーに深みを与えていて、アメリカにおける人種、経済的格差を丹念に拾っています。
レーティングはやや辛めですが、実は結構楽しんで読みました。中盤まで読んでなんだかなぁと思われた方は、ぜひ我慢して最後の50ページまで行ってみてください。すこし救われた気になります。
2011年4月9日土曜日
第9回:「福祉を変える経営」小倉 昌男
レーティング:★★★★★☆☆
第7回のレビューにて触れた故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)が生前に書かれた本です(2003年10月初版)。小倉さんは経営の第一線を退いた後、莫大な私財を投じてこの財団を立ち上げ、各種の障害者への支援、雇用などを行ってきました。特に大手のパンメーカーと提携して立ち上げたスワンベーカリーの事業を軸として、主に「共同作業所」と呼ばれる全国の障害者施設に携わる人々に向けたセミナーの草稿を本にしたものが本書となります。
色々と胸を打たれるところはあるのですが、小倉さんのこの財団へのコミットメントの強さ、まさに無私と呼んでよい障害者との共生への努力が印象的です。財団は共同作業所の運営に携わる人々を、無料で2泊3日のセミナーに招待し、小倉さんは(高齢になっていたにもかかわらず)自ら熱弁を振るい続けました。しかも一年に何度も、何年間もです。
本書のメッセージをあえて単純化すれば、障害者にも適正な賃金を払えるビジネスモデルを確立・実行するべき、というものです。このメッセージは、(賛否両論あるんだとおもいますが)極めて熱い問いかけ(障害者の尊厳とはなにか、自立とは何か)に支えられており、わかりやすく語りつくされています。また、そういった考えを実践するためのセミナーをベースとしてますので、数々の先進的な障害者雇用事例、ビジネス事例が数多く詰め込まれており、大いに実践的な内容になっています。
考えてみれば少し形態は違いますが、途上国の産品を「貧しい人が一生懸命つくったから、買って下さい」という形ではなく、㈱マザーハウスのように「かっこいい/綺麗でほしくなるバック作ったので、納得すれば買って下さい」という社会起業家が出て、成功を収めてきてます。若いこうした社会起業家が活躍する一方、かなり前から、ビジネスの当たり前の論理と強い情熱をもった日本のビジネスパーソンが実践していたこと、これは余り知られていないでしょうし文句なく称賛に値することだと思いました。ずいぶんと頭が下がりますし、色々と考えさせられる本です。
第7回のレビューにて触れた故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)が生前に書かれた本です(2003年10月初版)。小倉さんは経営の第一線を退いた後、莫大な私財を投じてこの財団を立ち上げ、各種の障害者への支援、雇用などを行ってきました。特に大手のパンメーカーと提携して立ち上げたスワンベーカリーの事業を軸として、主に「共同作業所」と呼ばれる全国の障害者施設に携わる人々に向けたセミナーの草稿を本にしたものが本書となります。
色々と胸を打たれるところはあるのですが、小倉さんのこの財団へのコミットメントの強さ、まさに無私と呼んでよい障害者との共生への努力が印象的です。財団は共同作業所の運営に携わる人々を、無料で2泊3日のセミナーに招待し、小倉さんは(高齢になっていたにもかかわらず)自ら熱弁を振るい続けました。しかも一年に何度も、何年間もです。
本書のメッセージをあえて単純化すれば、障害者にも適正な賃金を払えるビジネスモデルを確立・実行するべき、というものです。このメッセージは、(賛否両論あるんだとおもいますが)極めて熱い問いかけ(障害者の尊厳とはなにか、自立とは何か)に支えられており、わかりやすく語りつくされています。また、そういった考えを実践するためのセミナーをベースとしてますので、数々の先進的な障害者雇用事例、ビジネス事例が数多く詰め込まれており、大いに実践的な内容になっています。
考えてみれば少し形態は違いますが、途上国の産品を「貧しい人が一生懸命つくったから、買って下さい」という形ではなく、㈱マザーハウスのように「かっこいい/綺麗でほしくなるバック作ったので、納得すれば買って下さい」という社会起業家が出て、成功を収めてきてます。若いこうした社会起業家が活躍する一方、かなり前から、ビジネスの当たり前の論理と強い情熱をもった日本のビジネスパーソンが実践していたこと、これは余り知られていないでしょうし文句なく称賛に値することだと思いました。ずいぶんと頭が下がりますし、色々と考えさせられる本です。
2011年4月3日日曜日
第8回:「努力しない生き方」桜井 章一
レーティング:★★★☆☆☆☆
麻雀好きな人であればご存知かもしれませんし、そうでない人も耳にしたことがあるかもしれませんが、雀鬼と呼ばれた桜井氏による生き方?本です。現代の人々の生き方や社会が「足し算」の積み重ねから出来ているとして、そうではない「引き算」や「足さない」ことを通じて違う生き方を目指すというもので、著者の実体験や考えから構成されています。
一つ一つの内容は突飛ではなく、頑張れば全てが叶う的な自己啓発本への強烈なアンチテーゼとしての面白さがあります。例えば、「壁を乗り越えられないのは、壁を意識しすぎるからである。(中略)壁は越えるのではなく、上に乗っかればいいと思う。(中略)壁となっている問題をとりあえず丸ごと受け入れるということである。」とか、「人というのはもともと、意味を持たない不合理な存在としてこの世にあらわれたのであるる。(中略)「意味を求める」姿勢だけでいくと、人は意味に縛られて窒息してくる。」など、なかなか(私としては)面白いと思える言葉がよく出てきました。
レーティングはやや低いのですが、各メッセージには著者の想像から来た部分が多く(実体験もあるけどやや具体性に欠ける)、買って手元に置いておいて読み返そうという気にはならなかったことが原因です。著者に言わせれば、こういう感じ方が既に相当「足し算」もしくは効用追求型の読み方ということかもしれません。
大学受験中の学生などには進められませんが、少し疲れたなーと感じられた社会人の方などにはふっと気づきのある本かもしれません。軽いタッチで1-2時間もあればさらりと読めるので、夜にビールでも片手に寝る前読む、そんなスタイルで向き合うと楽しいかもしれません。
麻雀好きな人であればご存知かもしれませんし、そうでない人も耳にしたことがあるかもしれませんが、雀鬼と呼ばれた桜井氏による生き方?本です。現代の人々の生き方や社会が「足し算」の積み重ねから出来ているとして、そうではない「引き算」や「足さない」ことを通じて違う生き方を目指すというもので、著者の実体験や考えから構成されています。
一つ一つの内容は突飛ではなく、頑張れば全てが叶う的な自己啓発本への強烈なアンチテーゼとしての面白さがあります。例えば、「壁を乗り越えられないのは、壁を意識しすぎるからである。(中略)壁は越えるのではなく、上に乗っかればいいと思う。(中略)壁となっている問題をとりあえず丸ごと受け入れるということである。」とか、「人というのはもともと、意味を持たない不合理な存在としてこの世にあらわれたのであるる。(中略)「意味を求める」姿勢だけでいくと、人は意味に縛られて窒息してくる。」など、なかなか(私としては)面白いと思える言葉がよく出てきました。
レーティングはやや低いのですが、各メッセージには著者の想像から来た部分が多く(実体験もあるけどやや具体性に欠ける)、買って手元に置いておいて読み返そうという気にはならなかったことが原因です。著者に言わせれば、こういう感じ方が既に相当「足し算」もしくは効用追求型の読み方ということかもしれません。
大学受験中の学生などには進められませんが、少し疲れたなーと感じられた社会人の方などにはふっと気づきのある本かもしれません。軽いタッチで1-2時間もあればさらりと読めるので、夜にビールでも片手に寝る前読む、そんなスタイルで向き合うと楽しいかもしれません。
2011年3月20日日曜日
第7回:「トリプルA」黒木 亮
レーティング:★★★★★★☆
今回の書評に入る前に、発生から1週間も経過してしまいましたが、東日本大震災で被災した全ての方にお見舞い申し上げると共に、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。まだ中学生だったときに阪神大震災が起き、親族も被災しました。当時、塾からの帰り道のバスで随分と運命は(時として)むごいと感じたことを今も鮮明に覚えています。今回は亡くなられた方の数だけでもすでに阪神大震災を超えており、今後残念ながら一層増加しそうですし、原発のその後のトラブルにより不安感も増幅され、予期せぬ災害が地域や個々人の人生を一変させうることを改めて痛感した次第です。出来ることを、少しずつしてみたいと思います。
さて、今回の書評ですが(こうして安穏と書評できていることのありがたみを深く認識しないといけないと感じます)、第7回目にして既に黒木さん3作目です。結論からいうと、あまり期待していなかった(すみません)分、良い意味で非常に裏切られ嬉しい思いです。主人公と登場人物の魅力、対比の鮮やかさ、時間的な広がりがすばらしく、レーティングも(始まって間もないですが)現状までの最高です。
まず、主人公の魅力ですが、大学時代のストーリー、それをばねにした社会人になってからの活躍(特に一つ目の会社時代)は非常に説得力があります。おそらく(種目は違えど)著者の体験が相当ベースになっているはずですが、大学の部活で挫折を味わった主人公がそれを大きな原動力として仕事に打ち込む姿に共感する20代、30代のビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。その後、結婚して子供が出来て一つの転機が起きるのですが、仕事への姿勢は引き続き一途で、またぎりぎりのところで仕事における良心を保とうとするところ、家族への思いを貫くところなど、なんとも魅力的な人物となっています。
次に、(仕事面では主人公の対比として描かれている)マーシャルズ社の駐日代表を務める三條という人物も良く描けていて、粘着質な感じや地位への貪欲さなどが人間らしく、主人公とは違った意味ではありますが魅力があります。この他、S&D社の水野という女性もきりっとしたすがすがしさを持って描かれており、読み応えがあります(下巻になると余りでなくなるので、もう少しこの人の話を膨らませる手はあったのかもしれません)。
また、時間的な広がりですが、著者の作品は短いスパン(3年とか長くても10年)を切り取ったものが多い印象を持っています(但し、第2回で書評した「冬の喝采」等自伝的なものは別)が、この作品は日本における戦後の格付会社の歴史にも触れており、1984年の夏から話がスタートしリーマンショックの2008年まで足掛け25年の話となっています。この間の金融ビッグバン、護送船団方式の導入、投資銀行のヘッジファンド化、米国及び日本における証券化商品の隆盛、その裏で進行した審査プロセスの形式化、格付会社の変容や利益相反などを詳細に分かりやすく触れます(そしてこれら事象の解説は基本的に事実に基づいています)ので、金融現代史としても分かりやすく入門的に読めるものと思います。
最後に付け加えると、華々しいビジネスやビジネスパーソンを取り上げることの多い著者の作品の中では珍しく故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)の晩年の活動を大きくフィーチャーしているところもこの作品への深みを加えている点だと思います。氏の思いや活動を知りたくなりました。
今回の書評に入る前に、発生から1週間も経過してしまいましたが、東日本大震災で被災した全ての方にお見舞い申し上げると共に、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。まだ中学生だったときに阪神大震災が起き、親族も被災しました。当時、塾からの帰り道のバスで随分と運命は(時として)むごいと感じたことを今も鮮明に覚えています。今回は亡くなられた方の数だけでもすでに阪神大震災を超えており、今後残念ながら一層増加しそうですし、原発のその後のトラブルにより不安感も増幅され、予期せぬ災害が地域や個々人の人生を一変させうることを改めて痛感した次第です。出来ることを、少しずつしてみたいと思います。
さて、今回の書評ですが(こうして安穏と書評できていることのありがたみを深く認識しないといけないと感じます)、第7回目にして既に黒木さん3作目です。結論からいうと、あまり期待していなかった(すみません)分、良い意味で非常に裏切られ嬉しい思いです。主人公と登場人物の魅力、対比の鮮やかさ、時間的な広がりがすばらしく、レーティングも(始まって間もないですが)現状までの最高です。
まず、主人公の魅力ですが、大学時代のストーリー、それをばねにした社会人になってからの活躍(特に一つ目の会社時代)は非常に説得力があります。おそらく(種目は違えど)著者の体験が相当ベースになっているはずですが、大学の部活で挫折を味わった主人公がそれを大きな原動力として仕事に打ち込む姿に共感する20代、30代のビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。その後、結婚して子供が出来て一つの転機が起きるのですが、仕事への姿勢は引き続き一途で、またぎりぎりのところで仕事における良心を保とうとするところ、家族への思いを貫くところなど、なんとも魅力的な人物となっています。
次に、(仕事面では主人公の対比として描かれている)マーシャルズ社の駐日代表を務める三條という人物も良く描けていて、粘着質な感じや地位への貪欲さなどが人間らしく、主人公とは違った意味ではありますが魅力があります。この他、S&D社の水野という女性もきりっとしたすがすがしさを持って描かれており、読み応えがあります(下巻になると余りでなくなるので、もう少しこの人の話を膨らませる手はあったのかもしれません)。
また、時間的な広がりですが、著者の作品は短いスパン(3年とか長くても10年)を切り取ったものが多い印象を持っています(但し、第2回で書評した「冬の喝采」等自伝的なものは別)が、この作品は日本における戦後の格付会社の歴史にも触れており、1984年の夏から話がスタートしリーマンショックの2008年まで足掛け25年の話となっています。この間の金融ビッグバン、護送船団方式の導入、投資銀行のヘッジファンド化、米国及び日本における証券化商品の隆盛、その裏で進行した審査プロセスの形式化、格付会社の変容や利益相反などを詳細に分かりやすく触れます(そしてこれら事象の解説は基本的に事実に基づいています)ので、金融現代史としても分かりやすく入門的に読めるものと思います。
最後に付け加えると、華々しいビジネスやビジネスパーソンを取り上げることの多い著者の作品の中では珍しく故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)の晩年の活動を大きくフィーチャーしているところもこの作品への深みを加えている点だと思います。氏の思いや活動を知りたくなりました。
2011年3月13日日曜日
第6回:「指一本の執念が勝負を決める」冨山 和彦
レーティング:★★★★★☆☆
鼓舞される本だった。2007年6月刊行なので第5回のレビュー作「会社は頭から腐る」より少し前に刊行されたもので、正直言って「会社は頭から腐る」と重なる部分は大きいものの、この作品はよりパーソナルなメッセージが多く親しみを持ちやすい。また、前作がどちらかというと産業再生機構での仕事をカジュアルに振り返るという面があったのに対して、本作はもうすこしビジネスパーソンの生き方や著者の今後の展望(新たな会社を立ち上げた直後)を語るところに重点が置かれています。
経営という仕事を俯瞰したとき著者がこだわるのは、どこまで執念を持って粘り強く仕事に取り組み、周りの人を興味を持って観察し、ガチンコ勝負(数十回出てくる)できるかという点。例えば二十代は睡眠も貯金も必要ない、とか三十半ばまでは(仕事では)ガキとか刺激的であるが歯切れの良い言葉が多く出てきます。個人的には睡眠も多少の貯金も必要だったのですが、心意気としては著者の書いているところに共感できます。
(著者は自ら書いていますが)典型的な偏差値エリートですが、そこにはとどまらずロジカルに考え抜いて「自分の」人生を生きることの大切さについて力説します。特に第3章は、著者がどう勉強してきたかについて書いており、例えば20代前半の社会人の人などには(時間も沢山あるし)一つのモデルとして参考にできるのではないでしょうか。
最後に欲を言えば、守秘義務があって書けないことが多いのだとは思いますが、再建に当たって経験した修羅場についてもっと深く、具体的にかいてあると一層ガチンコ勝負の大切さが浮き上がってくると思われます(携帯電話事業の話などは秀逸)。前作は同僚から本の話を聞きましたが、実はこの本も尊敬する会社の大先輩から、伺った本です。
鼓舞される本だった。2007年6月刊行なので第5回のレビュー作「会社は頭から腐る」より少し前に刊行されたもので、正直言って「会社は頭から腐る」と重なる部分は大きいものの、この作品はよりパーソナルなメッセージが多く親しみを持ちやすい。また、前作がどちらかというと産業再生機構での仕事をカジュアルに振り返るという面があったのに対して、本作はもうすこしビジネスパーソンの生き方や著者の今後の展望(新たな会社を立ち上げた直後)を語るところに重点が置かれています。
経営という仕事を俯瞰したとき著者がこだわるのは、どこまで執念を持って粘り強く仕事に取り組み、周りの人を興味を持って観察し、ガチンコ勝負(数十回出てくる)できるかという点。例えば二十代は睡眠も貯金も必要ない、とか三十半ばまでは(仕事では)ガキとか刺激的であるが歯切れの良い言葉が多く出てきます。個人的には睡眠も多少の貯金も必要だったのですが、心意気としては著者の書いているところに共感できます。
(著者は自ら書いていますが)典型的な偏差値エリートですが、そこにはとどまらずロジカルに考え抜いて「自分の」人生を生きることの大切さについて力説します。特に第3章は、著者がどう勉強してきたかについて書いており、例えば20代前半の社会人の人などには(時間も沢山あるし)一つのモデルとして参考にできるのではないでしょうか。
最後に欲を言えば、守秘義務があって書けないことが多いのだとは思いますが、再建に当たって経験した修羅場についてもっと深く、具体的にかいてあると一層ガチンコ勝負の大切さが浮き上がってくると思われます(携帯電話事業の話などは秀逸)。前作は同僚から本の話を聞きましたが、実はこの本も尊敬する会社の大先輩から、伺った本です。
2011年3月5日土曜日
第5回:「会社は頭から腐る」冨山 和彦
レーティング:★★★★★☆☆
耳が痛い本でした。著者は、著名なコンサルタントであり、元産業再生機構COO。現在は経営共創基盤CEOとして活躍されています。名前を目にしたり、著作等を読んだ方も多いかもしれません。JALの関係でも一時期メディアから大きく取り上げられました。本作は2007年7月に出版されており、私は当時居た部署の同僚から、最近こういう本を読んで・・・と話を聞いて以来、いつか読みたい(それにしても3年以上それから経ってしまっているのは情けないものがありますが)と思っていたものです。
内容は、著者が産業再生機構、そしてその前に社長を務めていたCDIという会社を通じて得た企業再生、コンサルティングの現場から感じたことを綴ったものです。著者は、東大大学中に司法試験をパス、外資系コンサルティング会社を経て共同で起業、その後同社の社長となり、産業再生機構に請われて行きます(あとスタンフォードでMBAも)。一見、バリバリ・キレキレ系のキャリアであり、数式やエレガントな競争戦略論満載の本を出しそうですが、(体験を踏まえた)泥臭い経営論を書いています。優れた経営人材はガチンコの勝負からしか生まれない、だめな会社はまず「頭から」腐る、ということを繰り返します。大企業や安定した企業内での経験というのは、(これはさすがに場合によると思いますが)会社がつぶれるわけでもなく、個人として連帯保証を銀行に差し入れて破産するわけでもなく、所詮「ごっこ」に過ぎないと言い切ります。人によっては、根性論も多分に入った本なので拒否反応があるかもしれませんが、どの主張も極めてロジカルに展開されており、また経験に裏打ちされているのですっと納得できるものです。キャリアから来るイメージと内容の泥臭さが大きなミスマッチですが、それをつなぐロジックの太さが、この本の面白さであるように思えます。
冒頭の耳が痛いというのは、著者の主張の一つ、とにかくガチンコ勝負をしろという点です。「恵まれていること」と「ガチンコ勝負の欠如」は軌を一にしているということが繰り返し語られており、高度成長期の遺産が(だいぶ減ったとはいえ)まだ有る日本企業では、ガチンコ勝負する必要自体がなかったということも触れられていますが、私も日々ガチンコにさらされているわけではなく、身につまされます。耳が痛い本を読むと、この著者はちょっと変わった人だなとか、そんなガチンコ勝負してるやつの方がむしろ少ない、と否定的なドライブが入りがちですが、ここは真摯に受け止めたいと思います。
感心した点としては、一般的な会社における経営層、ミドル、現場の各層に働くインセンティブがどれほど大きく異なり、また影響を持っているかについて描写している点、会社員とは弱く・流されるものであるという前提に立っている点など、会社(員)心理への理解も十分に示されているところで、まったくもって頭でっかちではなく、あくまで現実における葛藤の中から生まれてきている点です。(そういう意味では第1回でレビューした「ストーリーとしての競争戦略」と好対照です。もちろん主眼が違うのでだからどちらかがダメということには全くなりません。)
著者の本を読むのは初めてですが、もう一冊手元にあるのでそちらも近々レビューしたいと思います。産業再生機構の実務的な活動に興味がある方は、去年読んだのですが「事業再生の実践(第1~3巻)」産業再生機構も読まれることをお勧めします。こちらは至極実践的なものですが、この本と合わせ読むと事業と財務の一体再生といった産業再生機構の手法の多くが、(COOだったので当然ですが)著者の経験や信念、そして仕事のやり方から来ていることが分かります。
耳が痛い本でした。著者は、著名なコンサルタントであり、元産業再生機構COO。現在は経営共創基盤CEOとして活躍されています。名前を目にしたり、著作等を読んだ方も多いかもしれません。JALの関係でも一時期メディアから大きく取り上げられました。本作は2007年7月に出版されており、私は当時居た部署の同僚から、最近こういう本を読んで・・・と話を聞いて以来、いつか読みたい(それにしても3年以上それから経ってしまっているのは情けないものがありますが)と思っていたものです。
内容は、著者が産業再生機構、そしてその前に社長を務めていたCDIという会社を通じて得た企業再生、コンサルティングの現場から感じたことを綴ったものです。著者は、東大大学中に司法試験をパス、外資系コンサルティング会社を経て共同で起業、その後同社の社長となり、産業再生機構に請われて行きます(あとスタンフォードでMBAも)。一見、バリバリ・キレキレ系のキャリアであり、数式やエレガントな競争戦略論満載の本を出しそうですが、(体験を踏まえた)泥臭い経営論を書いています。優れた経営人材はガチンコの勝負からしか生まれない、だめな会社はまず「頭から」腐る、ということを繰り返します。大企業や安定した企業内での経験というのは、(これはさすがに場合によると思いますが)会社がつぶれるわけでもなく、個人として連帯保証を銀行に差し入れて破産するわけでもなく、所詮「ごっこ」に過ぎないと言い切ります。人によっては、根性論も多分に入った本なので拒否反応があるかもしれませんが、どの主張も極めてロジカルに展開されており、また経験に裏打ちされているのですっと納得できるものです。キャリアから来るイメージと内容の泥臭さが大きなミスマッチですが、それをつなぐロジックの太さが、この本の面白さであるように思えます。
冒頭の耳が痛いというのは、著者の主張の一つ、とにかくガチンコ勝負をしろという点です。「恵まれていること」と「ガチンコ勝負の欠如」は軌を一にしているということが繰り返し語られており、高度成長期の遺産が(だいぶ減ったとはいえ)まだ有る日本企業では、ガチンコ勝負する必要自体がなかったということも触れられていますが、私も日々ガチンコにさらされているわけではなく、身につまされます。耳が痛い本を読むと、この著者はちょっと変わった人だなとか、そんなガチンコ勝負してるやつの方がむしろ少ない、と否定的なドライブが入りがちですが、ここは真摯に受け止めたいと思います。
感心した点としては、一般的な会社における経営層、ミドル、現場の各層に働くインセンティブがどれほど大きく異なり、また影響を持っているかについて描写している点、会社員とは弱く・流されるものであるという前提に立っている点など、会社(員)心理への理解も十分に示されているところで、まったくもって頭でっかちではなく、あくまで現実における葛藤の中から生まれてきている点です。(そういう意味では第1回でレビューした「ストーリーとしての競争戦略」と好対照です。もちろん主眼が違うのでだからどちらかがダメということには全くなりません。)
著者の本を読むのは初めてですが、もう一冊手元にあるのでそちらも近々レビューしたいと思います。産業再生機構の実務的な活動に興味がある方は、去年読んだのですが「事業再生の実践(第1~3巻)」産業再生機構も読まれることをお勧めします。こちらは至極実践的なものですが、この本と合わせ読むと事業と財務の一体再生といった産業再生機構の手法の多くが、(COOだったので当然ですが)著者の経験や信念、そして仕事のやり方から来ていることが分かります。
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