2019年3月4日月曜日

第208回:「湖底の光芒」松本 清張

レーティング:★★★★★★☆

前回に続いて、松本清張さんの長編ミステリーです。めちゃくちゃ面白い一冊です。前回の作品とは異なり、主に諏訪湖畔を舞台とした作品であり、昭和中期の圧倒的な熱量をもった企業の競争と、そこで次々と捨てられる下請会社たちの悲哀を余すことなく描いています。正気と狂気と誠実さと裏切りが交錯し、とてもドラマチックな作品となっています。

書き出しは衝撃的で、いきなり倒産した企業の債権者集会から幕を開けます。書き方は悪いですが、昭和中期は倒産法制もあるはあるものの透明性をもって機能しておらず、司法の秩序が十分に浸透していなかったようで、いきなり陰謀を感じる書き出しとなります。そこから未亡人社長と誠実な腕のいい部下、伸び盛りのカメラメーカーが出てきて・・という流れですが、書いてしまうとネタバレになってしまうので、ここらへんで止めておきたいと思います。

しかし、松本清張さんの作品がいまだにこうして新版として刊行されなおすというのは、それだけ人気があり圧倒的な筆力があるということかと思います。このシリーズは相当の作品数があるので、次々と飽きずに読んでしまいそうです・・。

2019年2月24日日曜日

第207回:「数の風景」松本 清張

レーティング:★★★★★★★

松本清張といえば昭和の大作家ですが、昭和後期にもかけて長く活躍し、多くのミステリーを中心とした作品を遺しました。現在、光文社文庫から順次「松本清張プレミアム・ミステリー」として再発行されており、その一冊です。多作な作家でしたが、どの作品も違うテーマであり、また読みごたえも十分です(本作は542ページ)。

本作は銀山跡地が発端として始まる話であり、電力会社やその用地の取得の問題、さらには謎の女性の大学教授や自動車メーカーも絡んで、飽きさせない展開です。なんどか主人公の行動の根拠となる推論が惜ししめられますが、読者はその妥当性はいかほどか迷いながら読むことになると思いますが、そこが謎の提示であり、確認のポイントとなっており、試される感じがあります(私は外しました)。また、松本さんの作品の素晴らしさは日本の各所の美しい風景を余すことなく描写し、そこに流れる昭和の旅情といったものを十分に感じられるところです。こうして読んでみると、昔、田舎の宿に行ってもテレビ、新聞、雑談、大人であれば酒とタバコくらいしか娯楽がなかったということです。今は、電波が通じていればネット三昧なのかもしれませんし、マッサージチェアなんてものもあるところもあり、これを風情がなくなったとはいいませんが、少なくともライフスタイルが変わったとはいえます。

この光文社のシリーズはものすごい冊数が出ているので、なかなか時間が取れない毎日ではありますが、少しずつ今年は読み進めていきたいと思います。

2019年1月20日日曜日

第206回:「果断(隠蔽捜査2)」今野 敏

レーティング:★★★★★☆☆

昨年最後にレビューした第204回の隠蔽捜査の続編です。全く接点のない作品でしたが、年末に読んで面白かったので続編を図書館で借りてみました。キャリア警察官僚が大森警察署長として左遷されてきましたが、その後の活躍を描くものです。新米所長の戸惑いや葛藤をうまく描きつつも、地元の警察官の好奇の眼差しとプロ意識、更には本庁との関係などがぎっしり詰め込まれています。前作より文章がこなれているのか、すいすいと読めますし、ストーリーも割と明快に設定しているので楽しく1日で読むことができました。

なにげない強盗事件、緊急配備からストーリーは急展開します。前半であれ、もう終わり?という感じになりますが、そこからが面白い展開になって読みごたえがあります。隠蔽捜査は人気シリーズであるようで、更に第3巻も読んでみようと思っています。ちなみに本書は、山本周五郎賞と日本推理作家協会賞も受賞ということで、前作に続き、著者の出世作といえる作品です。

第205回:「ブッダの真理のことば、感興のことば」中村 元訳

レーティング:★★★★★★☆

岩波書店から出ている大古典が、本年一冊目のレビューです。中村 元さんは日本を代表する仏教学者ですが、大学時代にある授業をとった時、その先生のお師匠ということで、講義で何度も絶賛されていたのを今でも覚えています。岩波文庫での発刊は1976年、文庫なのに1,000円を超えています。

本書は教団化が進んでいない原始仏教の経典を邦訳したものであり、真理のことばは「ダンマパダ」(パーリ語)、感興のことばは「ウダーナヴァルガ」(同)を出店としており、翻訳に際しては漢語、英語などの後世の役も参考にしているとのことです。特に真理のことばはとても平明な短文で構成されていて、今の世の中でも十分我々の生き方を考えさせられるようなごく日常的な宗教色がほとんどない警句集といった趣です。感興のことばは、それに比較すれば少し長い感じがあり、もう少し論理構成 が長くなっている感じがします。

この原始仏教の良さは、その後の世俗化や高度に複雑化してしまった仏教の書物とは違い、もっと当時の人々の息遣いが聞こえるような切実さとシンプルさがあることです。ここ数年、日本や世界の古典を徐々に読もうとしているので、その意味で本書を読めたのはとても嬉しく、聖書やコーランも読んでみたいところです。本書は注釈を除けはそんなに長い本ではないので折に触れて取り出し、読む機会がありそうです。

2018年12月30日日曜日

第204回:「隠蔽捜査」今野 敏

レーティング:★★★★☆☆☆

最近、本を読むのは結構体力というか知力というか、要は力が居ることなんだなと実感します。10代の頃はそれこそ一日中読んでも大丈夫だったし、一週間に大げさではなく数冊というペースで読めていました。今はそんな時間が日々取れないことは別にしても、結構集中して読むと疲れを感じることがあり、202回、203回及び今回のようなやや軽めというかエンタメ系の読み物に走ってしまいます。難しい哲学の本なんて読んだら、五分で寝てしまいそうです。

さて、本書は今野さんという方の小説で、この方の本は初めて読みます。吉川英治文学新人賞受賞作で、もともとは2005年に刊行とのこと。どうしてこの本を選んだかですが、この前古書店にいってぶらぶらと見ていたら綺麗なのに安くなっており、お試しということで買ったものです。最初の方は慣れない文体で、なんだかあまり盛り上がらない感じでしたが、主人公(警察官僚)の意外な家族の悩みが露呈してから、一気に話が面白くなりました。後半は文字通りぐいぐいと一気に読んでしまいました。

本書で今年のレビューは最後となりそうです。振り返るとしめて25冊ということで、最少であったら昨年よりはぐっと回復しましたが、このブログを始めてからはかなり少ない水準となりました。来年はもう少し時間が取れそうな感じもあり、好きな本をどんどん読み続けていきたいと思います。

2018年12月25日火曜日

第203回:「オレたちバブル入行組」池井戸 潤

レーティング:★★★★★★☆

第96回でレビューをしていますが、ほぼ3年ぶりくらいに再読しました。正直にいって読んでいる間中、なんか読んだ気がかなりするなと思いつつ、面白いのでそのまま読んでしまいました。2度目ですが、改めてよくできている一冊だと思いました。

内容ですが、支店長の強引な決定により融資を決定した取引先が、突然倒産。いろいろと調べているとどうも計画倒産の疑いがあり・・というものです。本作は様々なテーマを織り込んでおり、下請けに甘んじる中小企業の困難さ、銀行の支店に圧し掛かるプレッシャー、その中でいかに正義を貫くか、またどうして道を誤るか、更にはいちかばちかの中国進出など現代的なテーマを多数読み取れます。

年末年始にはこういうさらりと読めるエンタメものを読むのが結構好きです。また、出張などにもっていくにも重くなく良いかと思います。

第202回:「銀翼のイカロス」池井戸 潤

レーティング:★★★★★★☆

久々に池井戸さんの一冊を読みました。いわゆる半沢直樹シリーズの第4冊目で、JALの再生を扱った一冊です。基本的には、JALの債権者である半沢直樹属する東京中央銀行が、政権が作ったタスク・フォースに債権放棄を迫られるが・・というお話です。この関係ではよく半沢シリーズで出てくる金融庁もいつもどおり出てきます。たぶん著者の問題意識、すなわち恣意的な航空行政、自身を顧みなかった航空業界、人気取りに走り正当性を失った時の政権などが強く念頭にあり、現実をデフォルメしながらもなぞる展開となっており、相当の取材をしたうえで批判的に状況を読み解いていきます。

中堅中小企業を取り扱った半沢直樹シリーズの前作までとは異なり、本作はダイナミックに政府、行政、ほかの債権者などのプレーヤーが出てくるので、スケール感がありとても面白い内容となっています。最近は半沢シリーズ新作が連載されているのかどうか知りませんが、ぜひまた大きなテーマを取り扱ってもらえると面白いものが仕上がるのではないかと思います。これを書いている12/25現在、日経平均が1000円以上下げていますが、2019年はどういうマーケットになるのでしょうか。システミックなリスクや戦争といった大きな顕在化した地政学リスクがなければ大きく底割れすることはないような気がしますが、来年もボラタイルなマーケットになりそうな気がします。