レーティング:★★★★★★★
なかなか読みごたえのある一冊でした。レーティングは6か7かで悩みましたが、これだけクオリティを落とさずに真正面からユングの心理学を解説しながら、分かりやすさと神話や小説、映画といったイメージにあふれ、理解を助けられる本はそうそうこれからもでないであろうことは確かなので、惜しむことなく7としました。
著作集1より踏み込んで、ユング心理学のエッセンスの一部である「影」と「イメージ」について論が展開されます。前半は「影の現象学」ということで、「影」の定義や解説を行っていき、影が自我に与える影響、また影自身の世界について解説を行っていきます。このなかで非常に面白かったのは「影の逆説」という部分で触れられる道化についての考察です。王の影の部分を引き受けるスケープゴートとしての「道化」という認識が基本にありますが、科学というよりは文学や歴史といった領域も巻き込む論となっています。
後半は「イメージの心理学」ということで、様々なイメージの持つ意味について論が展開されます。例えば、熊は●●の象徴といった安易なひも付けは一切排しつつ、あるイメージから導かれる多様な意味や意義を探っていく内容となっています。ここでも神話や文学といったものが数多く出てきますが、特に「創造の病い」や「ライフサイクル」(特に直線と円環)といったところは秀逸だと感じました。
一般受けする本ではありませんが、非常にフェアに書かれていると思いますので、関心ある方はぜひ一読されることをお勧めします。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年12月17日土曜日
2011年12月4日日曜日
第31回:「大河の一滴」五木 寛之
レーティング:★★★★★☆☆
師走は、文字通り忙しい月と言われていますが、私も例外ではなく、なんだか11月後半からばたばたとしており、平日も休日もなにかしらがあり、本をじっくり読む時間が取れません。そんな中で、この本と河合隼先生の本とSteve Jobsの伝記(英語版)を並行して読むというめちゃくちゃな読書スタイルをとっていたので、どれもいつもに輪をかけて進んでいませんでしたが、一番読みやすい本書をなんとか読み終わったというところです。某消費者金融ではありませんが、読書も計画的にすることが必要そうです。
さて、この本は1998年に出版され、大ヒットとなったのでタイトルを耳にされた方も多いかと思います。ただし、年代としては私の世代よりは、当時40~50代以上に受けたものと思われ、内容としては渋いものです(しかしながら、若い人も読んで感じることは等しくあると思います)。
具体的な内容的ですが、やはり重いものが多く、親鸞などを引き合いに出しながら現代の問題(犯罪、自殺、心の問題etc)について答えではないものの、一つの見方を提示しています。著者も書かれている通り、この本では割と素直に「こうではないか」という一つの見立てが示されていて、いつもは「なになにではないだろうか」と問いかけるスタイルの多い著者にしては珍しいスタイルかと思います。
うーんと思ったのは、この本が出版されベストセラーになった13年後の2011年、現在の日本が突きつけられている問題の多くは概ね(当時から)変わらず、その深刻さの度合いが増しているものもある(多い)ということです。本書では繰り返し自殺の問題(これは当時より数で言うと増えています)、不況や貧富の格差の問題(これも目立って改善はしていないかもしれません)が触れられていますが、これらのイシューは変わらず今日も残っています。また、自然災害(阪神大震災、当時)についても残念ながら今年は東日本大震災が起こってしまい、今、この本が再びこの本が書かれることがあれば、原発やエネルギーといった話も追加されてしまいそうです。
フェアに言えば、本書でしばしば触れられている犯罪は、統計的には減少しているようです(警察庁によれば、刑法犯罪の認知件数は平成14年を境に一貫して減少してきています)。もちろん犯罪の性質といったものは加味していませんが・・。
最後にあとがきを読んではたと気づきましたが、本書は幻冬舎から出ています。色々と型破りで有名な見城 徹氏は著者と実は長い長い付き合いだそうで、氏に口説き落とされて本書を書いたようです。幻冬舎の設立は1993年ということなので、少し経ってからの出版ですが、この本も幻冬舎が飛躍するのに大きく寄与したことは間違いなさそうです。こういう普段見えにくい著者と編集者の交流ややりとりが垣間見れるのは、興味深いところです。
師走は、文字通り忙しい月と言われていますが、私も例外ではなく、なんだか11月後半からばたばたとしており、平日も休日もなにかしらがあり、本をじっくり読む時間が取れません。そんな中で、この本と河合隼先生の本とSteve Jobsの伝記(英語版)を並行して読むというめちゃくちゃな読書スタイルをとっていたので、どれもいつもに輪をかけて進んでいませんでしたが、一番読みやすい本書をなんとか読み終わったというところです。某消費者金融ではありませんが、読書も計画的にすることが必要そうです。
さて、この本は1998年に出版され、大ヒットとなったのでタイトルを耳にされた方も多いかと思います。ただし、年代としては私の世代よりは、当時40~50代以上に受けたものと思われ、内容としては渋いものです(しかしながら、若い人も読んで感じることは等しくあると思います)。
具体的な内容的ですが、やはり重いものが多く、親鸞などを引き合いに出しながら現代の問題(犯罪、自殺、心の問題etc)について答えではないものの、一つの見方を提示しています。著者も書かれている通り、この本では割と素直に「こうではないか」という一つの見立てが示されていて、いつもは「なになにではないだろうか」と問いかけるスタイルの多い著者にしては珍しいスタイルかと思います。
うーんと思ったのは、この本が出版されベストセラーになった13年後の2011年、現在の日本が突きつけられている問題の多くは概ね(当時から)変わらず、その深刻さの度合いが増しているものもある(多い)ということです。本書では繰り返し自殺の問題(これは当時より数で言うと増えています)、不況や貧富の格差の問題(これも目立って改善はしていないかもしれません)が触れられていますが、これらのイシューは変わらず今日も残っています。また、自然災害(阪神大震災、当時)についても残念ながら今年は東日本大震災が起こってしまい、今、この本が再びこの本が書かれることがあれば、原発やエネルギーといった話も追加されてしまいそうです。
フェアに言えば、本書でしばしば触れられている犯罪は、統計的には減少しているようです(警察庁によれば、刑法犯罪の認知件数は平成14年を境に一貫して減少してきています)。もちろん犯罪の性質といったものは加味していませんが・・。
最後にあとがきを読んではたと気づきましたが、本書は幻冬舎から出ています。色々と型破りで有名な見城 徹氏は著者と実は長い長い付き合いだそうで、氏に口説き落とされて本書を書いたようです。幻冬舎の設立は1993年ということなので、少し経ってからの出版ですが、この本も幻冬舎が飛躍するのに大きく寄与したことは間違いなさそうです。こういう普段見えにくい著者と編集者の交流ややりとりが垣間見れるのは、興味深いところです。
2011年11月16日水曜日
第30回:「夜明けを待ちながら」五木 寛之
レーティング:★★★★★☆☆
ゆるく始めた本ブログですが、お陰様で第30回目のレビューに到達しました。飽きっぽい私がここまで続けられているのは、ひとえに本が好きということではありますが、こうしてつたないレビューを書き残すことが非常にポータブルな記録となっていることもあります。本のチョイスは、偶然であったり、またある程度意思を働かせたものも色々ですが、その時々になにを読んでなにを考えていたのか、少しわかる気がします。
今回は五木氏が1998年に出したエッセイです。多くの方がご覧になったことがあると思いますが、五木氏は多くのエッセイを特に90年代から立て続けに出しており、周りに聞いてみると賛否はかなり分かれますが、幾つかの本はベストセラーになるなど人気作家と言っていい存在になっています。私も記憶している限りではこれが3冊目(五木氏の著作のうち)だと思いますが、素直に良い本だと思います。
ラジオで、リスナーからの手紙に対して答えたものに手を入れたのが大半を占めるのですが、そのテーマも決して明るいものばかりではなく、むしろヘビーなものが大半です。それらに対して五木氏が迷いながら、殆どが答えにはなっていないのですが(当然ですが)話をしていきます。よくよく考えると人生の相談事というのは大抵答えはなくて、それをどうみるか、どう考えるかということしかできない気もしますが、答えがなくても相談者をぐっと受け止め、支え、静かに鼓舞することはできるように思えます。
他の作家と同様に、そして五木氏自身が認めているように、どのエッセイも同じようなネタやものの見方が繰り返されますが、別にまたかという感じもせず、年が離れているからか割と素直に読めます。書かれたのは、1998年はバブルが崩壊し、企業倒産やリストラも増えたそれなりに暗い話題の多かった年と記憶していますが、その時代から今があまり変わっていない印象を(本書を通じて)受けます。また、ポジティブ思考や強者生存的なテーゼに真っ向から反論をしており、勝間和代氏的な世界観の対極を行っていることろは、非常に読んでいて面白いものがあります。
本を季節で分類すれば、秋か冬のものですので、この季節にまったり読むには面白いと思います。ただし、受験を控えている等、テンションを上げていかないと行かない人には不向きですので、春休みあたりに読んでください。
ゆるく始めた本ブログですが、お陰様で第30回目のレビューに到達しました。飽きっぽい私がここまで続けられているのは、ひとえに本が好きということではありますが、こうしてつたないレビューを書き残すことが非常にポータブルな記録となっていることもあります。本のチョイスは、偶然であったり、またある程度意思を働かせたものも色々ですが、その時々になにを読んでなにを考えていたのか、少しわかる気がします。
今回は五木氏が1998年に出したエッセイです。多くの方がご覧になったことがあると思いますが、五木氏は多くのエッセイを特に90年代から立て続けに出しており、周りに聞いてみると賛否はかなり分かれますが、幾つかの本はベストセラーになるなど人気作家と言っていい存在になっています。私も記憶している限りではこれが3冊目(五木氏の著作のうち)だと思いますが、素直に良い本だと思います。
ラジオで、リスナーからの手紙に対して答えたものに手を入れたのが大半を占めるのですが、そのテーマも決して明るいものばかりではなく、むしろヘビーなものが大半です。それらに対して五木氏が迷いながら、殆どが答えにはなっていないのですが(当然ですが)話をしていきます。よくよく考えると人生の相談事というのは大抵答えはなくて、それをどうみるか、どう考えるかということしかできない気もしますが、答えがなくても相談者をぐっと受け止め、支え、静かに鼓舞することはできるように思えます。
他の作家と同様に、そして五木氏自身が認めているように、どのエッセイも同じようなネタやものの見方が繰り返されますが、別にまたかという感じもせず、年が離れているからか割と素直に読めます。書かれたのは、1998年はバブルが崩壊し、企業倒産やリストラも増えたそれなりに暗い話題の多かった年と記憶していますが、その時代から今があまり変わっていない印象を(本書を通じて)受けます。また、ポジティブ思考や強者生存的なテーゼに真っ向から反論をしており、勝間和代氏的な世界観の対極を行っていることろは、非常に読んでいて面白いものがあります。
本を季節で分類すれば、秋か冬のものですので、この季節にまったり読むには面白いと思います。ただし、受験を控えている等、テンションを上げていかないと行かない人には不向きですので、春休みあたりに読んでください。
2011年11月13日日曜日
第29回:「リスクは金なり」黒木 亮
レーティング:★★★☆☆☆☆
たままた時間があり、本屋でぶらぶらと文庫本を眺めていたところ、見つけて購入しました。好きな作家であり、このブログでも何度か著作を紹介してる黒木氏のエッセー集です。私が知る限り、氏のエッセー集はこれが初めてではないかと思われ(そもそもエッセーを積極的に書いているわけではないようです)、その意味では貴重なのですが、残念ながらレーティングはかなり辛めにつけさせてもらいました。
気に入らない理由をあまり挙げるのもお行儀が良くありませんが、自分でレーティングを付けている以上、一つの見方としてご紹介したいと思います。
①多くのエッセーが短すぎて、読みごたえがない:短いから優れていないというわけではないのですが、なかには2ページといった極めて短いものがかなりあります。すらすら読めるといえばそうなのですが、わざわざ本に収録するほどか・・というものも多数あります。
②タイトルが大げさすぎる:内容は多岐に亘っていて楽しいのですが(例えば外国のお酒の話)、その反面このタイトルのネーミングが示唆するものと相当にズレがあります。ついでに言えば、帯にある「なりたい自分になるための仕事術、人間術」に至っては???という感じがします。
③既存の著作と重複する内容が少なからずある:エッセイは古いもので2000年ころからのものを含んでいますが、時々の取材ノート的な内容があり、それらは概ね今までの作品に書き込まれているもので、新味がありません。
内容は楽しいものや味のあるものもありますが、熱心に読んでいるファンとしては(①、③はそれが故にかもしれませんが)全体としてがっかりするものでした。
たままた時間があり、本屋でぶらぶらと文庫本を眺めていたところ、見つけて購入しました。好きな作家であり、このブログでも何度か著作を紹介してる黒木氏のエッセー集です。私が知る限り、氏のエッセー集はこれが初めてではないかと思われ(そもそもエッセーを積極的に書いているわけではないようです)、その意味では貴重なのですが、残念ながらレーティングはかなり辛めにつけさせてもらいました。
気に入らない理由をあまり挙げるのもお行儀が良くありませんが、自分でレーティングを付けている以上、一つの見方としてご紹介したいと思います。
①多くのエッセーが短すぎて、読みごたえがない:短いから優れていないというわけではないのですが、なかには2ページといった極めて短いものがかなりあります。すらすら読めるといえばそうなのですが、わざわざ本に収録するほどか・・というものも多数あります。
②タイトルが大げさすぎる:内容は多岐に亘っていて楽しいのですが(例えば外国のお酒の話)、その反面このタイトルのネーミングが示唆するものと相当にズレがあります。ついでに言えば、帯にある「なりたい自分になるための仕事術、人間術」に至っては???という感じがします。
③既存の著作と重複する内容が少なからずある:エッセイは古いもので2000年ころからのものを含んでいますが、時々の取材ノート的な内容があり、それらは概ね今までの作品に書き込まれているもので、新味がありません。
内容は楽しいものや味のあるものもありますが、熱心に読んでいるファンとしては(①、③はそれが故にかもしれませんが)全体としてがっかりするものでした。
2011年11月3日木曜日
第28回:「日出る国の工場」村上 春樹/安西 水丸
レーティング:★★★★☆☆☆
皆さんは一度読んだ本について、読んだこと自体を思い出せなくなることってあるのでしょうか?私は、大体の本は内容は覚えていなくとも、読んだという事実については思い出せることが殆どなのですが、たまにどうしても、「読んだ気がするんだけどな・・・でもちょっと読んでも、読んだかどうか思い出せない・・・」という本があります。第15回でレビューした本(こちらは再読の比較的早い段階で読んだことを思い出しました)もそうですし、今回レビューする本も同様です。今回は、なんと最終章に来るまで、以前読んだことを確信をもって思い出すことができませんでした。
そもそもある本を読んだことが思い出せないというのは、よっぽど適当に読んでいたか、内容に記憶に引っかかるようなインパクトなり意外性が相当欠如していた、ということかと思います。これを読んだのはもう10年ほど前ということまで思い出しましたので、どっちが(もしくは両方が)理由かいまや良く分かりませんが、どちらかというと後者の理由の気がします。
ところで本の内容は、著者の二人が様々な工場見学を行い、雑感を記すというゆるいものです。「ゆるい」のですが、別に批判的にそういっているわけではなく、ユーモアもペーソスもあり、そして1980年代の日本の戦後経済成長の最高潮の興奮も感じられる本になっています。大学生だった当時は工場見学など殆どしたこともなく(小学校で楽しみにしていた某大手製パン会社の工場見学は、風邪で欠席)、余り面白さがわからなかったのですが、社会人になって各種の工場等にお邪魔をする機会に恵まれたため、今読んでみると面白い内容となっていました。
軽く読める本で、ちゃんと時間が取れるならば1日で十分と思われます。旅行の移動時間などリラックスして読めるときにどうでしょうか。また、安西さんの絵が(いつもながら)洒脱で良い感じです。面白いのは、CD工場(当時最先端バリバリであったCDがもはや絶滅危惧種とはいかないまでも、劣勢に立っているのは時代の流れの速さを感じます)と牧場でしょうか。経済動物というコンセプトが出てきますが、なかなかにシビアで牛乳もありがたく飲まないといけないなと感じるかもしれません。いずれにせよ、ひっさびさの再読ですが、それなりに楽しかったです。そこそこのお勧めです。
皆さんは一度読んだ本について、読んだこと自体を思い出せなくなることってあるのでしょうか?私は、大体の本は内容は覚えていなくとも、読んだという事実については思い出せることが殆どなのですが、たまにどうしても、「読んだ気がするんだけどな・・・でもちょっと読んでも、読んだかどうか思い出せない・・・」という本があります。第15回でレビューした本(こちらは再読の比較的早い段階で読んだことを思い出しました)もそうですし、今回レビューする本も同様です。今回は、なんと最終章に来るまで、以前読んだことを確信をもって思い出すことができませんでした。
そもそもある本を読んだことが思い出せないというのは、よっぽど適当に読んでいたか、内容に記憶に引っかかるようなインパクトなり意外性が相当欠如していた、ということかと思います。これを読んだのはもう10年ほど前ということまで思い出しましたので、どっちが(もしくは両方が)理由かいまや良く分かりませんが、どちらかというと後者の理由の気がします。
ところで本の内容は、著者の二人が様々な工場見学を行い、雑感を記すというゆるいものです。「ゆるい」のですが、別に批判的にそういっているわけではなく、ユーモアもペーソスもあり、そして1980年代の日本の戦後経済成長の最高潮の興奮も感じられる本になっています。大学生だった当時は工場見学など殆どしたこともなく(小学校で楽しみにしていた某大手製パン会社の工場見学は、風邪で欠席)、余り面白さがわからなかったのですが、社会人になって各種の工場等にお邪魔をする機会に恵まれたため、今読んでみると面白い内容となっていました。
軽く読める本で、ちゃんと時間が取れるならば1日で十分と思われます。旅行の移動時間などリラックスして読めるときにどうでしょうか。また、安西さんの絵が(いつもながら)洒脱で良い感じです。面白いのは、CD工場(当時最先端バリバリであったCDがもはや絶滅危惧種とはいかないまでも、劣勢に立っているのは時代の流れの速さを感じます)と牧場でしょうか。経済動物というコンセプトが出てきますが、なかなかにシビアで牛乳もありがたく飲まないといけないなと感じるかもしれません。いずれにせよ、ひっさびさの再読ですが、それなりに楽しかったです。そこそこのお勧めです。
2011年10月29日土曜日
第27回:「河合隼雄著作集1ユング心理学入門」河合 隼雄
レーティング:★★★★★★☆
前回レビューした河合先生の著作です。こちらは打って変わって硬い本であり、前半はユング心理学の根幹をなす概念や考え方について説明を行い、後半はそれらを理解するために不可欠なユングの人生についての記述です。ユングの心理学について体系的に記述した本を読むのは初めてでしたが、結論から言って非常に面白い本でした。
前半は、次の点について説明がなされます:「タイプ」「コンプレックス」「個人的無意識と普遍的無意識」「心像と象徴」「夢分析」「アニマ・アニムス」「自己」。これらについて解説するのは私の力量を遥かに超えているのですが、河合先生は分かりやすく説明を進めるので、心理学について殆ど学んだことのない方でも入っていけるものと思われます。ただ、フロイトとの対比があちらこちらに出てくる(二人のポジションを考えれば仕方ないことですが)ので、フロイトの入門みたいなものを一度読んでいると、より良くユングの立ち位置が理解できるものと思います。
また、この本が日本人の先生によって書かれているため、いたずらにユング心理学を日本や日本人にそのまま適用することを主張するのではなく、むしろどう我々日本人の文脈でユング心理学が意味を持つのかということが意識的に触れられており、あるときは慎重な記述がなされていることです。これだけ正統性をもって深くユングを理解した日本人が、こういった著作を残したことの意義は、非常に大きいものと感じます。あと、面白いのは曼荼羅のストーリーと解釈でした。
後半のユングの生涯も読みものとしても非常に面白いものです。先生も指摘している通り、ユングは疑いようのない業績を残しているのですが、普通の面を非常に持ち合わせていると共に、少年時代と中年?時代に大いに人生を崩しかねないような大きな苦悩というか壁にぶち当たっていたことが意外であり、また一般人として励まされるところです。それらの苦悩はとても深く、激しいものでしたが、一つ言えるのはユングはそこに真正面から突入し、逃避的な行動を殆ど取っていないように見えるということです。
なお、この著作集は14巻まであるそうなので、なかなか全て読むのは大変そうですが、あと2冊は近々読んでみたいと思っています。もし、上記のキーワードにご興味がある方はお手に取られることをお勧めします。偏りのない、深みのある秀逸な一冊だと思います。
前回レビューした河合先生の著作です。こちらは打って変わって硬い本であり、前半はユング心理学の根幹をなす概念や考え方について説明を行い、後半はそれらを理解するために不可欠なユングの人生についての記述です。ユングの心理学について体系的に記述した本を読むのは初めてでしたが、結論から言って非常に面白い本でした。
前半は、次の点について説明がなされます:「タイプ」「コンプレックス」「個人的無意識と普遍的無意識」「心像と象徴」「夢分析」「アニマ・アニムス」「自己」。これらについて解説するのは私の力量を遥かに超えているのですが、河合先生は分かりやすく説明を進めるので、心理学について殆ど学んだことのない方でも入っていけるものと思われます。ただ、フロイトとの対比があちらこちらに出てくる(二人のポジションを考えれば仕方ないことですが)ので、フロイトの入門みたいなものを一度読んでいると、より良くユングの立ち位置が理解できるものと思います。
また、この本が日本人の先生によって書かれているため、いたずらにユング心理学を日本や日本人にそのまま適用することを主張するのではなく、むしろどう我々日本人の文脈でユング心理学が意味を持つのかということが意識的に触れられており、あるときは慎重な記述がなされていることです。これだけ正統性をもって深くユングを理解した日本人が、こういった著作を残したことの意義は、非常に大きいものと感じます。あと、面白いのは曼荼羅のストーリーと解釈でした。
後半のユングの生涯も読みものとしても非常に面白いものです。先生も指摘している通り、ユングは疑いようのない業績を残しているのですが、普通の面を非常に持ち合わせていると共に、少年時代と中年?時代に大いに人生を崩しかねないような大きな苦悩というか壁にぶち当たっていたことが意外であり、また一般人として励まされるところです。それらの苦悩はとても深く、激しいものでしたが、一つ言えるのはユングはそこに真正面から突入し、逃避的な行動を殆ど取っていないように見えるということです。
なお、この著作集は14巻まであるそうなので、なかなか全て読むのは大変そうですが、あと2冊は近々読んでみたいと思っています。もし、上記のキーワードにご興味がある方はお手に取られることをお勧めします。偏りのない、深みのある秀逸な一冊だと思います。
2011年10月23日日曜日
第26回:「こころと人生」河合 隼雄
レーティング:★★★★☆☆☆
私が河合先生のことを知ったきっかけは、村上春樹との対談本を読んだことでした。心理学自体には高校時代にも興味があり、個人的な話ですが真剣に文学部に進んで心理学をやろうかどうか考えた覚えがあります。それから心理学への興味はだいぶ落ちたのですが、また、この対談本を読み、その後海外で心理学や心理学的なアプローチにそれなりに触れる機会があり、ちょっと先生の本をちゃんと読んでみようと思いました。なお、ご案内のとおりですが、先生は2007年に亡くなられてしまいました。
河合先生は、スイスのチューリッヒにあるユング研究所にて、日本人初のユング派分析家として認定され、その後、京都大学等で教鞭をとったり、文化庁長官を務めたりしました。著作は本当に多く、細かなものまで含めたら何冊あるのか想像もできませんが、本書は非常に軽い(基本的には講演/講義の記録)というか読みやすい本であり、学術的なものは前面に出さず、身近な話題や実例を取った本です。
面白いのは、タイトルに「人生」とあるように、子供、青年期、中年、老いといった形で人生の各ステージにおける心理の動きや軋轢を取り上げている点です。たとえば私の年であれば子供や青年時代を思い出しながら読みつつ、中年と老いを読んで、うーむと考える(もしくは親を思い出す)こともあり、どのセクションもそれなりに関心を持って読めることが特徴かと思います。
深い話もあれば、新書のハウツーに出てきそうなアドバイスもあるのですが(別に悪い意味ではなく)、特徴としては全てを肯定的にまず受け止めるという視点が秀逸だと思います。カウンセラーとしては当たり前の態度なのだと思いますが、子供の非行、青年期の無力感、中年期の危機などをいずれも理由があったり、なかったりするけど、まずはそれをどっかりと受け止めて、ぼちぼち考えていきましょうという態度で語られており、そのこと自体が相談者にとって大いなる一歩になったのだろうと考えます。
まずは軽めに先生の世界にアプローチするには、良著だと思います。
私が河合先生のことを知ったきっかけは、村上春樹との対談本を読んだことでした。心理学自体には高校時代にも興味があり、個人的な話ですが真剣に文学部に進んで心理学をやろうかどうか考えた覚えがあります。それから心理学への興味はだいぶ落ちたのですが、また、この対談本を読み、その後海外で心理学や心理学的なアプローチにそれなりに触れる機会があり、ちょっと先生の本をちゃんと読んでみようと思いました。なお、ご案内のとおりですが、先生は2007年に亡くなられてしまいました。
河合先生は、スイスのチューリッヒにあるユング研究所にて、日本人初のユング派分析家として認定され、その後、京都大学等で教鞭をとったり、文化庁長官を務めたりしました。著作は本当に多く、細かなものまで含めたら何冊あるのか想像もできませんが、本書は非常に軽い(基本的には講演/講義の記録)というか読みやすい本であり、学術的なものは前面に出さず、身近な話題や実例を取った本です。
面白いのは、タイトルに「人生」とあるように、子供、青年期、中年、老いといった形で人生の各ステージにおける心理の動きや軋轢を取り上げている点です。たとえば私の年であれば子供や青年時代を思い出しながら読みつつ、中年と老いを読んで、うーむと考える(もしくは親を思い出す)こともあり、どのセクションもそれなりに関心を持って読めることが特徴かと思います。
深い話もあれば、新書のハウツーに出てきそうなアドバイスもあるのですが(別に悪い意味ではなく)、特徴としては全てを肯定的にまず受け止めるという視点が秀逸だと思います。カウンセラーとしては当たり前の態度なのだと思いますが、子供の非行、青年期の無力感、中年期の危機などをいずれも理由があったり、なかったりするけど、まずはそれをどっかりと受け止めて、ぼちぼち考えていきましょうという態度で語られており、そのこと自体が相談者にとって大いなる一歩になったのだろうと考えます。
まずは軽めに先生の世界にアプローチするには、良著だと思います。
登録:
投稿 (Atom)