レーティング:★★★★★☆☆
株式会社TKCの創始者で、税務史に残る当局との裁判である「飯塚事件」の中心に居た故・飯塚 毅氏の実話に基づく評伝です。TKCの成り立ちよりは、飯塚氏の人柄、生い立ち、教養、信念そしてそれらを持って国税庁と激突した飯塚事件の詳細が話の中心です。こんな立派な人が居たのかという驚くの連続で、士業を目指される方、とりわけ公認会計士や税理士を目指される人には大きなモチベーションになるのではないでしょうか?
飯塚氏は、ほぼ独学でドイツ語と英語をマスターしており、国内外の税法に通暁し、昭和中期にはドイツの会社と提携を成し遂げたり、米国企業の日本法人の法律顧問になったりと高い才能をもって活躍します。社用車は外車(これには信念があるわけですが)と順風満帆であった飯塚氏の会計事務所は突如、国税庁及び税務署との全面対決に入り、第ニの帝人事件といわれる飯塚事件が発生します。部下の逮捕・抑留、そして裁判は4年以上に及び、その前には全国的な事務所及び取引先への弾圧的調査が継続されます。
しかし、この渦中でも飯塚氏は見事な見識と態度をもって事務所を主導し、そして氏を助ける各界の有力者が現れます。単に硬派な訴訟ストーリーではなく、冷徹できれる経営者であった飯塚氏が、揺れまどい、多くの人の支えを得る中で成長する様も描かれており、いずれにせよ一級の経済ネタであることは間違いありません。
惜しむらくは高杉氏の記述がやや平板に思え、これだけの当局との激突であれば、描かれているよりもっと悪いことがあったのだと思うのですが、そこは実在の会社や存命中の関係者も多いためか相当に抑制された記述になっています。かかる記述があると、さらに国家権力と対峙することのむずかしさ、そこで立場を投げ出さなかった飯塚氏のすさまじさがより分かっただろうに、とも思います。
なお、この小説は一度映画化もされており、映画の方が好きだという方はそちらでご覧になるのも手かと思います。本は、文庫版で上下2冊ですが、比較的すぐ読めると思います。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年9月4日日曜日
2011年8月27日土曜日
第20回:「さよなら、愛しい人」レイモンド・チャンドラー
レーティング:★★★★★★☆
記念すべき第20回目に到達しました。数少ないReaderの方に於かれては、更新があまりに遅いので、もはやストップかと思われた方もいるようですが、単に夏休み、労働時間の長さなどから本が読み終わらないのが理由です。今回は、第16回でレビューしたレイモンド・チャンドラーの(私にとって)第2作目で、前回同様に村上春樹の訳です。
結論からいうと、前回レビューした「ロング・グッドバイ」より難解かつ複雑であり、読み進めるのに難儀し、読み終わった後もいまいち全体像を把握できていませんが、文章の旨さや筋の巧妙さについては十分に堪能ができ、前回よりは低いもののこのレーティングとなりました。
おなじみ私立探偵のマーロウが主人公ですが、今回は警察と裏組織がメインの舞台となります。いきなり荒っぽい描写から始まりますが、この出来事を通奏低音として、一気にエンディングに行く様はかなり圧巻でありますので、もしチャンドラーに興味を持ってもらえた方が居たら、最初に読むことはお勧めできないですが、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
ミステリという性質上、あまり多くを語ることは即ネタばれにつながるので、抑制したいと思いますが、最初の酒場のシーン、警察署で虫を見るシーン、船に潜入するシーンが強く頭に刻まれており、その前後のぴりっとした簡潔かつ臨場感ある文章は、さすがチャンドラーと僭越ながら思える素晴らしい文章かと思います。村上氏の翻訳は、正直に言えば「ロング・グッドバイ」ほどの輝きはないようにも思えますが、あとがきで氏が書かれている通り、原文は相当難解なのかもしれません。
非常に楽しんだのですが、3週間ほど時間をかけてしまい、やや理解不足のところがあるので、ぜひ少し経ったら読み直してみたいと思っています。また、その時にどうレーティングや印象が変わるかも書いてみたいと思います。これから読書の秋になり、読みたい本も溜まっているので、なんとか時間を工面してどんどんUPしていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願いします。
記念すべき第20回目に到達しました。数少ないReaderの方に於かれては、更新があまりに遅いので、もはやストップかと思われた方もいるようですが、単に夏休み、労働時間の長さなどから本が読み終わらないのが理由です。今回は、第16回でレビューしたレイモンド・チャンドラーの(私にとって)第2作目で、前回同様に村上春樹の訳です。
結論からいうと、前回レビューした「ロング・グッドバイ」より難解かつ複雑であり、読み進めるのに難儀し、読み終わった後もいまいち全体像を把握できていませんが、文章の旨さや筋の巧妙さについては十分に堪能ができ、前回よりは低いもののこのレーティングとなりました。
おなじみ私立探偵のマーロウが主人公ですが、今回は警察と裏組織がメインの舞台となります。いきなり荒っぽい描写から始まりますが、この出来事を通奏低音として、一気にエンディングに行く様はかなり圧巻でありますので、もしチャンドラーに興味を持ってもらえた方が居たら、最初に読むことはお勧めできないですが、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
ミステリという性質上、あまり多くを語ることは即ネタばれにつながるので、抑制したいと思いますが、最初の酒場のシーン、警察署で虫を見るシーン、船に潜入するシーンが強く頭に刻まれており、その前後のぴりっとした簡潔かつ臨場感ある文章は、さすがチャンドラーと僭越ながら思える素晴らしい文章かと思います。村上氏の翻訳は、正直に言えば「ロング・グッドバイ」ほどの輝きはないようにも思えますが、あとがきで氏が書かれている通り、原文は相当難解なのかもしれません。
非常に楽しんだのですが、3週間ほど時間をかけてしまい、やや理解不足のところがあるので、ぜひ少し経ったら読み直してみたいと思っています。また、その時にどうレーティングや印象が変わるかも書いてみたいと思います。これから読書の秋になり、読みたい本も溜まっているので、なんとか時間を工面してどんどんUPしていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願いします。
2011年7月30日土曜日
第19回:「私を離さないで」 カズオ イシグロ
レーティング:★★★★★☆☆
イギリスのブッカー賞作家、ということで日本で随分有名なカズオ イシグロさんの長編小説です。私はもう10年以上前になりますが、カズオ イシグロの「日の名残り」という作品の映画(アンソニー・ホプキンス主演)を見て、作者を知りました。それから随分と時間が経ちましたが、(私にとって)二つ目の作品として読んでみました。
各所のレビューで書かれている通り、ネタばれのリスクが高いのでもってまわったような書き方しかできませんが、最後の1/3でこの小説の凄さをじわじわ感じました。最初は、なにか現実感を失ったような、しかし凄くリアルな子供たちの生活が描かれていきます。正直言って、前半は進みが遅く、繰り返される会話ややりとりがなんのためにあるのか良く分からず、もったいぶっちゃってさ、と若干がっかりしながら読み進みました。
しかし、後半(の後半)に急展開して、今まで語られなかったことがより鮮明になり、息苦しいような展開になっていきます。設定されたシチュエーションはまったく凡庸ではないのですが、実は不変的で切実なテーマについての話だということに気づかされます。
作品としては重苦しく、密度が濃いので読むのにはパワーが必要でした。仕事の後、電車に乗ってさあ読むか、という気になかなかなりません。それだけきちんと向き合うことが必要な良い作品なのかもしれませんが、なかなかにヘビーです。カズオ イシグロの作品は沢山読んでいないものがあり、追って読んでいきたいと思います。
イギリスのブッカー賞作家、ということで日本で随分有名なカズオ イシグロさんの長編小説です。私はもう10年以上前になりますが、カズオ イシグロの「日の名残り」という作品の映画(アンソニー・ホプキンス主演)を見て、作者を知りました。それから随分と時間が経ちましたが、(私にとって)二つ目の作品として読んでみました。
各所のレビューで書かれている通り、ネタばれのリスクが高いのでもってまわったような書き方しかできませんが、最後の1/3でこの小説の凄さをじわじわ感じました。最初は、なにか現実感を失ったような、しかし凄くリアルな子供たちの生活が描かれていきます。正直言って、前半は進みが遅く、繰り返される会話ややりとりがなんのためにあるのか良く分からず、もったいぶっちゃってさ、と若干がっかりしながら読み進みました。
しかし、後半(の後半)に急展開して、今まで語られなかったことがより鮮明になり、息苦しいような展開になっていきます。設定されたシチュエーションはまったく凡庸ではないのですが、実は不変的で切実なテーマについての話だということに気づかされます。
作品としては重苦しく、密度が濃いので読むのにはパワーが必要でした。仕事の後、電車に乗ってさあ読むか、という気になかなかなりません。それだけきちんと向き合うことが必要な良い作品なのかもしれませんが、なかなかにヘビーです。カズオ イシグロの作品は沢山読んでいないものがあり、追って読んでいきたいと思います。
2011年7月16日土曜日
第18回:「会社再建」湯谷昇羊
レーティング:★★★☆☆☆☆
サブタイトルは、「福岡を燃えさせた男 高塚 猛の軌跡」です。高校を卒業しリクルートに入社、22歳で課長となり、29歳で盛岡のあるホテルの再建のため総支配人として送り込まれ、見事再建をし、その後請われて福岡ドーム、シーホークホテル&リゾーツ及び福岡ダイエーホークス社長となった方で、週刊ダイヤモンドの連載を単行本化したものです。
ダイエーといえば、小さい頃10年ほど住んだ町の中心部に大きな店舗があったことを良く覚えています。圧倒的に大きなスーパーで、おもちゃ売り場やカセットテープ、CDを売る店やドムドム(ファストフード、Webで調べるとまだあるようです)なんかがあって買い物のみならずちょっと遊べる要素もあり、よく家族でいったものでした。そのダイエーは私にとって大きな存在だったのですが、その後、業績は低迷していきました。2000年前後のダイエーにとって「お荷物」と言われてしまった、いわゆる「福岡3点セット」といわれる上記の3社が、高塚氏が再建に取り組んだ対象です。
福岡に縁もゆかりもなく、既に盛岡で財界人として経営者として十分な実績と名声を得ていた高塚氏がこの3点を引き受けた勇気には敬服します。そして、独特の販促キャンペーン、人事制度の大幅な柔軟化、3点セットの有機的な活用等により、短期間に営業利益化(ただし本書のなかでは経常利益計上はならず)していきます。数字のみならず、経営者として従業員の行動を変えていった点も本書によってつまびらかにされており、ホテル業、スポーツビジネス等に関心ある方には面白い内容かと思います。
他方、残念なことであり、ビジネス雑誌や経営者列伝にたまに起きることですが、ある時期を見て名経営者と褒めあげられた人が様々な毀誉褒貶にさらされていく好例になっています。高塚氏は、Wikiに詳細が書かれていますが、その後ダイエーを去っていきます。進めた改革が急進的でありすぎたのか、会社の再建をやりきれなかったのか、その過程で恨みを買ったのか慢心が過ぎたのか、そのあたりの経緯は分かりませんが複雑な気持ちになります。(本書は、出版のタイミングによるものですが、3点セット再建の軌跡のみが綴られており、後日譚は一切ありません。)
サブタイトルは、「福岡を燃えさせた男 高塚 猛の軌跡」です。高校を卒業しリクルートに入社、22歳で課長となり、29歳で盛岡のあるホテルの再建のため総支配人として送り込まれ、見事再建をし、その後請われて福岡ドーム、シーホークホテル&リゾーツ及び福岡ダイエーホークス社長となった方で、週刊ダイヤモンドの連載を単行本化したものです。
ダイエーといえば、小さい頃10年ほど住んだ町の中心部に大きな店舗があったことを良く覚えています。圧倒的に大きなスーパーで、おもちゃ売り場やカセットテープ、CDを売る店やドムドム(ファストフード、Webで調べるとまだあるようです)なんかがあって買い物のみならずちょっと遊べる要素もあり、よく家族でいったものでした。そのダイエーは私にとって大きな存在だったのですが、その後、業績は低迷していきました。2000年前後のダイエーにとって「お荷物」と言われてしまった、いわゆる「福岡3点セット」といわれる上記の3社が、高塚氏が再建に取り組んだ対象です。
福岡に縁もゆかりもなく、既に盛岡で財界人として経営者として十分な実績と名声を得ていた高塚氏がこの3点を引き受けた勇気には敬服します。そして、独特の販促キャンペーン、人事制度の大幅な柔軟化、3点セットの有機的な活用等により、短期間に営業利益化(ただし本書のなかでは経常利益計上はならず)していきます。数字のみならず、経営者として従業員の行動を変えていった点も本書によってつまびらかにされており、ホテル業、スポーツビジネス等に関心ある方には面白い内容かと思います。
他方、残念なことであり、ビジネス雑誌や経営者列伝にたまに起きることですが、ある時期を見て名経営者と褒めあげられた人が様々な毀誉褒貶にさらされていく好例になっています。高塚氏は、Wikiに詳細が書かれていますが、その後ダイエーを去っていきます。進めた改革が急進的でありすぎたのか、会社の再建をやりきれなかったのか、その過程で恨みを買ったのか慢心が過ぎたのか、そのあたりの経緯は分かりませんが複雑な気持ちになります。(本書は、出版のタイミングによるものですが、3点セット再建の軌跡のみが綴られており、後日譚は一切ありません。)
2011年6月26日日曜日
第17回:「「愚直」論」樋口 泰行
レーティング:★★★★☆☆☆
経営者の書いた本が結構好きで、広告でも良くチェックしています。この本を読むのは二度目ですが、色あせることない面白さがあります。
樋口氏は松下電器産業(現パナソニック)を皮切りにハーバードMBA、BCG、アップル、コンパック(合併でHPに)、日本HP(社長)でキャリアを積んでこられた方です(本書の刊行は2005年)。その後も私が承知している限りですが、ダイエーの再建に取り組まれ(某スポンサーとの確執で1年強で社長退任)、その後2008年から日本マイクロソフトの社長を務められています。これだけ書くとなんだか外資渡り歩きで身近な感じはしないのですが、意外や意外、この本を読むと、氏は自他共に認める(昭和型)猛烈リーマンであり、英語は(少なくとも昔は)大の苦手であり、ビジネススクールでも1年目は悪戦苦闘、松下での最初の配属は相当地味、と共感しやすい要素が多いので、一人の現代ビジネスパーソンの自伝として楽しく読めます。
印象的なのは第6回でレビューした冨山氏同様に、現場で逃げずに頭を絞って、苦しみ抜いて仕事をすることを何度も繰り返し訴えているところです。また、コンピュータやマネージメントという専門性があるにも関わらず、一番大事なのはマインドだ、と断言するところも意外です。もちろん後者は高い志や仕事における目線といった意味を多分に含んでおり、対人でどうしていくべきかといった話には矮小化されていませんが、色々と感じるものがあります。
仕事やキャリアについて考える20~30代のビジネスパーソンや、熱いものを忘れかけた/失いかけそうな人に良いかもしれません。しかしちょっと熱すぎるところもあるので、ややこの冷房カット全盛の夏場に読むのはしんどいところですが、変に押しつけがましいところはなく、時間的にもさらりと読めるのでお勧めです。
経営者の書いた本が結構好きで、広告でも良くチェックしています。この本を読むのは二度目ですが、色あせることない面白さがあります。
樋口氏は松下電器産業(現パナソニック)を皮切りにハーバードMBA、BCG、アップル、コンパック(合併でHPに)、日本HP(社長)でキャリアを積んでこられた方です(本書の刊行は2005年)。その後も私が承知している限りですが、ダイエーの再建に取り組まれ(某スポンサーとの確執で1年強で社長退任)、その後2008年から日本マイクロソフトの社長を務められています。これだけ書くとなんだか外資渡り歩きで身近な感じはしないのですが、意外や意外、この本を読むと、氏は自他共に認める(昭和型)猛烈リーマンであり、英語は(少なくとも昔は)大の苦手であり、ビジネススクールでも1年目は悪戦苦闘、松下での最初の配属は相当地味、と共感しやすい要素が多いので、一人の現代ビジネスパーソンの自伝として楽しく読めます。
印象的なのは第6回でレビューした冨山氏同様に、現場で逃げずに頭を絞って、苦しみ抜いて仕事をすることを何度も繰り返し訴えているところです。また、コンピュータやマネージメントという専門性があるにも関わらず、一番大事なのはマインドだ、と断言するところも意外です。もちろん後者は高い志や仕事における目線といった意味を多分に含んでおり、対人でどうしていくべきかといった話には矮小化されていませんが、色々と感じるものがあります。
仕事やキャリアについて考える20~30代のビジネスパーソンや、熱いものを忘れかけた/失いかけそうな人に良いかもしれません。しかしちょっと熱すぎるところもあるので、ややこの冷房カット全盛の夏場に読むのはしんどいところですが、変に押しつけがましいところはなく、時間的にもさらりと読めるのでお勧めです。
2011年6月19日日曜日
第16回:「ロング・グッドバイ」レイモンド・チャンドラー
レーティング:★★★★★★★
久々の更新になります。なんやかんやでバタバタしており、本を読む時間自体があまり確保できず、また、この本はあとがきを入れると645ページもあるので、今月はやっと1冊を読み終わった状態です。
レーティングは、当ブログ初の満点!渋すぎるフィリップ・マーロウ(=主人公)にしびれました。レイモンド・チャンドラーは、1888年に米国シカゴで生まれたミステリ作家です。フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公としたミステリのシリーズで有名になり、今でも多くのファンを内外で獲得しています(この翻訳は村上春樹氏)。本作が発表されてからすでに48年が経過してますので、既に歴史の風雪に曝された上で生き延びていることを考えれば、高いレーティングになることは不思議ではないのですが、それにしても(満点を付ける程)面白かったです。
まず、強烈な主人公の設定。主人公は私立探偵で、都会に一人で住んでいて、割と酒を良く飲んでいて(酒の話の部分を読むとのどが渇きます)、警察に多数の知己が居て(友人ではない)・・・とミステリアスな人物となっています。こういう人物なので実にドライなのかと思いきや、偶然に見かけた酔っぱらいを助けてしまい、というところから物語がスタートするのも意外ですが、その酔っぱらいを最後まで見捨てることができず・・・という展開も人物造形を良い意味で裏切っていきます。
次に全体を貫く喪失感。あまり書くとネタばれになってしまうのですが、戦争、金、名誉、そして人にとってのプライド、そういったものが随所に語られ、それらがどういう経路を辿って人生に影響を与えるかが大胆に描かれていきます。人について言えば金持ちもいれば、移民も出てきますし、私立探偵も警察官もギャングもでてきますが夫々に悲哀を抱えています。その渦に翻弄されていくフィリップ・マーロウはある意味そういった周囲の物語の語り部として機能していきます。
最後に文章の巧みさ。ここは読んでくださいとしか言えないのですが、どの文章も無駄がないのに詳細で、そして飽きることなく600ページを読み切らせる力量はたいしたものです。ぜひチャンドラーの他の作品も読まねばと思わせます。また、ぜひ原書でも読んでみたいと思わせるものでした。
たまに何気なく書店で手に取った一冊が、忘れえぬ良作であることがあり、その意味で読書はやめられないものだと再認識しました。
久々の更新になります。なんやかんやでバタバタしており、本を読む時間自体があまり確保できず、また、この本はあとがきを入れると645ページもあるので、今月はやっと1冊を読み終わった状態です。
レーティングは、当ブログ初の満点!渋すぎるフィリップ・マーロウ(=主人公)にしびれました。レイモンド・チャンドラーは、1888年に米国シカゴで生まれたミステリ作家です。フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公としたミステリのシリーズで有名になり、今でも多くのファンを内外で獲得しています(この翻訳は村上春樹氏)。本作が発表されてからすでに48年が経過してますので、既に歴史の風雪に曝された上で生き延びていることを考えれば、高いレーティングになることは不思議ではないのですが、それにしても(満点を付ける程)面白かったです。
まず、強烈な主人公の設定。主人公は私立探偵で、都会に一人で住んでいて、割と酒を良く飲んでいて(酒の話の部分を読むとのどが渇きます)、警察に多数の知己が居て(友人ではない)・・・とミステリアスな人物となっています。こういう人物なので実にドライなのかと思いきや、偶然に見かけた酔っぱらいを助けてしまい、というところから物語がスタートするのも意外ですが、その酔っぱらいを最後まで見捨てることができず・・・という展開も人物造形を良い意味で裏切っていきます。
次に全体を貫く喪失感。あまり書くとネタばれになってしまうのですが、戦争、金、名誉、そして人にとってのプライド、そういったものが随所に語られ、それらがどういう経路を辿って人生に影響を与えるかが大胆に描かれていきます。人について言えば金持ちもいれば、移民も出てきますし、私立探偵も警察官もギャングもでてきますが夫々に悲哀を抱えています。その渦に翻弄されていくフィリップ・マーロウはある意味そういった周囲の物語の語り部として機能していきます。
最後に文章の巧みさ。ここは読んでくださいとしか言えないのですが、どの文章も無駄がないのに詳細で、そして飽きることなく600ページを読み切らせる力量はたいしたものです。ぜひチャンドラーの他の作品も読まねばと思わせます。また、ぜひ原書でも読んでみたいと思わせるものでした。
たまに何気なく書店で手に取った一冊が、忘れえぬ良作であることがあり、その意味で読書はやめられないものだと再認識しました。
2011年5月29日日曜日
第15回:「セイビング・ザ・サン」ジリアン テット
レーティング:★★★★★★☆
だいたい一度読んだ本というのは覚えており、一度読んだにも関わらずまた買って/借りてしまうというのは極めて少ないんですが、それがこの本でした。書き出しの飛行機の中での偶然の出会いのシーンを読んで、あれ、なんか読んだ気もするけど気のせいか・・と読み続けましたが、やはり一度(おそらく2006年頃)読んだことがありました。しかしながら、大著なので細部を忘れており、またなによりも作品のクオリティの高さにひかれて2度目の通読をしてしまいました。
サブタイトルは、「リップルウッドと新生銀行の誕生」です。シンプルな3部構成となっていますが、まず第一部は日本長期信用銀行(長銀)がいかにバブルのさなかに不動産セクターへの投融資を拡大していったか、その後の不良債権隠しを行ったか、またスイスの銀行との提携等の生き残りを図ったかが詳細に記述されていきます。第ニ部は、リップルウッドを中心とした米国及びその他の国の投資家グループが組成され、米国政府高官も巻き込んだ形で、長銀の競売が行われたことを丹念に描写しています。そして第三部が、長銀が新生銀行となってからの苦闘、IPOまでをカバーしています。いずれの記述も社会人類学でPh.Dまでとった著者らしく、驚くほどのインタビューと客観的な歴史をつなぎ合わせた、非常にクオリティの高いものです。特になかなか話したがらないであろう長銀の元幹部やリップルウッド周辺の人や政府関係者、また新生銀行の元社長である八城氏からも厚い信頼を寄せられていたことが伺えます。
本書の最良の部分は、バブルから2000年代半ばまでの日本の銀行を取り囲む変化や金融行政をバランスの取れた筆致で描ききっている点です。その他にも著者が外国人であったことから、多少誤解に基づくと思われる点も無きにしも非ずですが、優れた日本人論にもなっています。特に日本が変えること以外に選択肢がなくなるまで変えないことが正当化されうるといった指摘は非常に興味深いものがあります。また、金融に関する本としても面白く、PEとしてリスクをコントロールしながら、少額の投資でこれだけの(少なくとも金銭的には)大成功のディールを成功させたリップルウッドの手腕は称賛に値しますし、新生銀行の意図した道であるリテールと投資銀行業務の強化がどのように成功し、またその後伸び悩んでいるかも良く分かります。
いずれにせよ有名紙の記者とはいえ、これだけの大作をなした著者の能力と情熱に敬意を表し、また上記のように色々な観点から優れた読みものなので、ほぼ満点に近いレーティング6としました。
だいたい一度読んだ本というのは覚えており、一度読んだにも関わらずまた買って/借りてしまうというのは極めて少ないんですが、それがこの本でした。書き出しの飛行機の中での偶然の出会いのシーンを読んで、あれ、なんか読んだ気もするけど気のせいか・・と読み続けましたが、やはり一度(おそらく2006年頃)読んだことがありました。しかしながら、大著なので細部を忘れており、またなによりも作品のクオリティの高さにひかれて2度目の通読をしてしまいました。
サブタイトルは、「リップルウッドと新生銀行の誕生」です。シンプルな3部構成となっていますが、まず第一部は日本長期信用銀行(長銀)がいかにバブルのさなかに不動産セクターへの投融資を拡大していったか、その後の不良債権隠しを行ったか、またスイスの銀行との提携等の生き残りを図ったかが詳細に記述されていきます。第ニ部は、リップルウッドを中心とした米国及びその他の国の投資家グループが組成され、米国政府高官も巻き込んだ形で、長銀の競売が行われたことを丹念に描写しています。そして第三部が、長銀が新生銀行となってからの苦闘、IPOまでをカバーしています。いずれの記述も社会人類学でPh.Dまでとった著者らしく、驚くほどのインタビューと客観的な歴史をつなぎ合わせた、非常にクオリティの高いものです。特になかなか話したがらないであろう長銀の元幹部やリップルウッド周辺の人や政府関係者、また新生銀行の元社長である八城氏からも厚い信頼を寄せられていたことが伺えます。
本書の最良の部分は、バブルから2000年代半ばまでの日本の銀行を取り囲む変化や金融行政をバランスの取れた筆致で描ききっている点です。その他にも著者が外国人であったことから、多少誤解に基づくと思われる点も無きにしも非ずですが、優れた日本人論にもなっています。特に日本が変えること以外に選択肢がなくなるまで変えないことが正当化されうるといった指摘は非常に興味深いものがあります。また、金融に関する本としても面白く、PEとしてリスクをコントロールしながら、少額の投資でこれだけの(少なくとも金銭的には)大成功のディールを成功させたリップルウッドの手腕は称賛に値しますし、新生銀行の意図した道であるリテールと投資銀行業務の強化がどのように成功し、またその後伸び悩んでいるかも良く分かります。
いずれにせよ有名紙の記者とはいえ、これだけの大作をなした著者の能力と情熱に敬意を表し、また上記のように色々な観点から優れた読みものなので、ほぼ満点に近いレーティング6としました。
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