レーティング:★★★★★☆☆
ここ数年、松本清張さんの作品に嵌っていますが、挙げられるのはまずは圧倒的な筆力。ぐいぐい引き込まれるストーリー、無駄がない描写、最後の鮮やかさ。特に悪人を描く時の旨さと、単に勧善懲悪ではない、悪そのものの存在を肯定した作品になっているところに深みを感じます。松本さんに限らず、昭和の大作家は本当にすごかったと思う。本作品は昭和45年から連載開始(文藝春秋)ということです。当時私は生まれてなかったものの、まだぎりぎり当時の雰囲気が想像ではあるが理解できる気がします。
本作品は年の離れた夫婦、それも30歳も離れた夫婦の話であり、特にその奥さんが主役となって舞台を回していきます。しかしながら、夫もただの老人としては描かれておらずその相克が非常にち密に描かれます。さらに、そこに弁護士や医者、犯罪事件も絡むという豪華キャスト。内容はネタバレにならないよう書けませんが、解説で似鳥 鶏さんが書かれている文書は非常に面白いことを書き添えたいと思います。似鳥さんのお名前は初めて拝見しましたが、やけに現代調の文章だなと思ったら1981年生まれの推理作家の方で、本書(文庫)が刊行された2013年に書かれた文章のようです。
文庫で400ページくらいですが一気に読めます。清張さんの作品としては決して長くはなく、また舞台が地理的にかなり限定されてしまうので、スケールという点ではすこし物足りないものを感じましたが、人間の心理描写や40前後の葛藤といったところは余すところなく描かれている感じがしました。お勧めの一冊です。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2021年3月28日日曜日
2019年4月22日月曜日
第214回:「風紋」松本 清張
レーティング:★★★★★☆☆
またまた松本さんの一作です。これまでと同じく光文社文庫の松本清張プレミアム・ミステリーの一冊です。今回は渋い話ですが、社史編纂室にいるのんびりした室長とやる気のある若者の話です。二人の目から見た社内抗争や役員人事模様を描きつつ、従兄の少し変わり者の学者との再会から話は大きく動き出します。本書も時代背景を踏まえる必要はありますが、いわゆる健康食品の昭和前期におけるうさん臭さやそれでも流行していく様を描いています。現代ではサプリとった名前でもっと大胆に売り出されていますし、薬事法による縛りで一定の宣伝の抑制はなされているものの、その巧妙さにおいてはずっと進化しているのかもしれません。
本書は松本さんには珍しく企業を舞台として作品ですし、めずらしいことに殺人が出てきません。それにしても惹かれるのは昭和前期のカフェやバー、オフィスといった古いものです。昭和生まれだから余計に郷愁を感じるのでしょうか。なにかとても懐かしく、やたらレトロなカフェなどに惹かれる今日この頃です。単に年を取ったということかもしれませんが・・・。この一冊は血なまぐさいこともなく、テンポの良い、池井戸さんが描きそうな世界でもあります。こうして読んでみると、会社ってのも昭和前期とあまり変わってないのかな、とも思えます。そしてそこで繰り広げられるドラマも。
またまた松本さんの一作です。これまでと同じく光文社文庫の松本清張プレミアム・ミステリーの一冊です。今回は渋い話ですが、社史編纂室にいるのんびりした室長とやる気のある若者の話です。二人の目から見た社内抗争や役員人事模様を描きつつ、従兄の少し変わり者の学者との再会から話は大きく動き出します。本書も時代背景を踏まえる必要はありますが、いわゆる健康食品の昭和前期におけるうさん臭さやそれでも流行していく様を描いています。現代ではサプリとった名前でもっと大胆に売り出されていますし、薬事法による縛りで一定の宣伝の抑制はなされているものの、その巧妙さにおいてはずっと進化しているのかもしれません。
本書は松本さんには珍しく企業を舞台として作品ですし、めずらしいことに殺人が出てきません。それにしても惹かれるのは昭和前期のカフェやバー、オフィスといった古いものです。昭和生まれだから余計に郷愁を感じるのでしょうか。なにかとても懐かしく、やたらレトロなカフェなどに惹かれる今日この頃です。単に年を取ったということかもしれませんが・・・。この一冊は血なまぐさいこともなく、テンポの良い、池井戸さんが描きそうな世界でもあります。こうして読んでみると、会社ってのも昭和前期とあまり変わってないのかな、とも思えます。そしてそこで繰り広げられるドラマも。
2019年4月21日日曜日
第213回:「分離の時間」松本 清張
レーティング:★★★★★☆☆
またまた松本清張プレミアム・ミステリー(光文社文庫)シリーズです。今年から読みはじめ、かなり面白くてのめり込んで読んでいますが、ここでややひと段落を入れようと思います。どんなに面白い作家でも続けすぎると文体に少し飽きてしまうことがあり、その感じがしてきています。いうまでもないことですが、それは作品のクオリティとは全く違う話であり、本作も松本さんの新たな作風に出会える鮮烈なものでした。
今回は代議士が主要な登場人物となっており、その死の謎を追う二人の一般人が主人公となります。松本さんの作品では一般人がひょんなことから事件に関与し、私利私欲を捨ててその事件を追いかけてしまうというパターンが結構ありますが、今回もその系統です。他方、時間の分離という非常に面白いコンセプトで、今風に言えば時間のロンダリングでしょうか、巧妙に何をしているのかわからない時間を作ってしまうというところから話が始まります。犯人にとっては何をしているのか悟られないという利点がある一方、アリバイを明確に残せないという点では結構弱いのではないかと思います。しかし、それにつけても松本さんの作品が書かれた昭和の時代と今の日本では防犯カメラの有無というのが犯罪捜査上、多きな違いをもたらしているように思えます。刑法犯の検挙率がどう変わってきているのかわかりませんが、犯罪の発生数は大きく下がり、検挙率はかなり上がっているのではないでしょうか。
話がそれましたが、本書には珍しくもう一話収録されています。これも社会派の内容ですが、「速力の告発」という作品で車社会、とりわけ交通事故を題材としたものです。連日痛ましい事故が続いていますが、アイサイトのような衝突防止装置を早期に義務化しないといけないのではないでしょうか。これから高齢者による事故は減ることはないでしょうし。
またまた松本清張プレミアム・ミステリー(光文社文庫)シリーズです。今年から読みはじめ、かなり面白くてのめり込んで読んでいますが、ここでややひと段落を入れようと思います。どんなに面白い作家でも続けすぎると文体に少し飽きてしまうことがあり、その感じがしてきています。いうまでもないことですが、それは作品のクオリティとは全く違う話であり、本作も松本さんの新たな作風に出会える鮮烈なものでした。
今回は代議士が主要な登場人物となっており、その死の謎を追う二人の一般人が主人公となります。松本さんの作品では一般人がひょんなことから事件に関与し、私利私欲を捨ててその事件を追いかけてしまうというパターンが結構ありますが、今回もその系統です。他方、時間の分離という非常に面白いコンセプトで、今風に言えば時間のロンダリングでしょうか、巧妙に何をしているのかわからない時間を作ってしまうというところから話が始まります。犯人にとっては何をしているのか悟られないという利点がある一方、アリバイを明確に残せないという点では結構弱いのではないかと思います。しかし、それにつけても松本さんの作品が書かれた昭和の時代と今の日本では防犯カメラの有無というのが犯罪捜査上、多きな違いをもたらしているように思えます。刑法犯の検挙率がどう変わってきているのかわかりませんが、犯罪の発生数は大きく下がり、検挙率はかなり上がっているのではないでしょうか。
話がそれましたが、本書には珍しくもう一話収録されています。これも社会派の内容ですが、「速力の告発」という作品で車社会、とりわけ交通事故を題材としたものです。連日痛ましい事故が続いていますが、アイサイトのような衝突防止装置を早期に義務化しないといけないのではないでしょうか。これから高齢者による事故は減ることはないでしょうし。
2019年4月7日日曜日
第212回:「地の指」松本 清張
レーティング:★★★★★☆☆
文庫版で上下巻の大作です。昭和中期の都議会議員、都職員、私立病院、業界誌記者、タクシー運転手、そして警察が複雑に絡み合う本格的なミステリーです。スタートは業界紙記者からですが、だんだんと官民の汚職の構造が見えてくるものの、病院という強い守秘の鎧に守られて、なかなか真相が明らかになりません。そんな中で各社の思惑が交錯する中で更なる犯罪が積み重なってきます。偶発的な事件もあり、考え抜かれた証拠隠滅もあり、とても練られたストーリーです。
今作が松本さんの作品群の中で特徴的なのは、警察の視点で語られる部分が多いことで、特に下巻はほとんどが警官の視点となります。その仮説を立てながら追い詰めていく様はとてもスリリングで、思わず自分も犯人を追っているかのような錯覚に陥ります。ネタバレになるので、ほとんど中身を掛けないところが悔しいところですが、社会的なサスペンスの要素もあり、著者が強いメッセージを込めていることが分かります。そして、昭和中期の社会の独特の悲哀も感じられます。三丁目の夕日的なバラ色の世界ではなく、いつの時代もそれなりの裏面があるということがよくわかります。
松本さんを代表する一作といえるのではないでしょうか。
文庫版で上下巻の大作です。昭和中期の都議会議員、都職員、私立病院、業界誌記者、タクシー運転手、そして警察が複雑に絡み合う本格的なミステリーです。スタートは業界紙記者からですが、だんだんと官民の汚職の構造が見えてくるものの、病院という強い守秘の鎧に守られて、なかなか真相が明らかになりません。そんな中で各社の思惑が交錯する中で更なる犯罪が積み重なってきます。偶発的な事件もあり、考え抜かれた証拠隠滅もあり、とても練られたストーリーです。
今作が松本さんの作品群の中で特徴的なのは、警察の視点で語られる部分が多いことで、特に下巻はほとんどが警官の視点となります。その仮説を立てながら追い詰めていく様はとてもスリリングで、思わず自分も犯人を追っているかのような錯覚に陥ります。ネタバレになるので、ほとんど中身を掛けないところが悔しいところですが、社会的なサスペンスの要素もあり、著者が強いメッセージを込めていることが分かります。そして、昭和中期の社会の独特の悲哀も感じられます。三丁目の夕日的なバラ色の世界ではなく、いつの時代もそれなりの裏面があるということがよくわかります。
松本さんを代表する一作といえるのではないでしょうか。
2019年3月18日月曜日
第210回:「花実のない森」松本 清張
レーティング:★★★★★★☆
今ハマっている光文社の松本清張プレミアム・ミステリーの一作です。1964年に刊行された一冊であり、昭和39年の作品です。始まり方はとてもユニークで、やっとこさ買った車でドライブを楽しんだ若者が、あるカップルをヒッチハイクで乗せ・・というものです。現代風に言えば、美女と野獣といったその二人に運転手はなぜかひっかかり、さらにはその女性に深く気を取られていくことになります。
これだけだとただの恋愛ものかストーカーもの見たいですが、ストーリーは思わぬ方向に動いていきます。考えてみると松本さんのミステリーは、善悪を超えて強く好奇心に突き動かされていく執念を持った男性が描かれていますが、知らぬ間に著者は自身を主人公に投影していたのではないでしょうか。それは一般的に見れば異常なほどの情熱ですが、その本人にとっては仕事やある時は人生をも左右してかまわないと思う切実な好奇心です。
本作の面白さは万葉集がキーワードとして随所に出てくるところです。百人一首もいいですが、私も万葉集の方が庶民の喜び、悲哀が聞こえる様で好きです。作品としてはずっと素朴ではありますが、そこにリアリティがあると思います。知りませんでしたが、松本さんは万葉集の大ファンだったそうで、関連する作品もあるそうですので、それはそれで読んでみたいところです。ちなみに本作も地方が終わりの方に出てきます。とても面白いです。
今ハマっている光文社の松本清張プレミアム・ミステリーの一作です。1964年に刊行された一冊であり、昭和39年の作品です。始まり方はとてもユニークで、やっとこさ買った車でドライブを楽しんだ若者が、あるカップルをヒッチハイクで乗せ・・というものです。現代風に言えば、美女と野獣といったその二人に運転手はなぜかひっかかり、さらにはその女性に深く気を取られていくことになります。
これだけだとただの恋愛ものかストーカーもの見たいですが、ストーリーは思わぬ方向に動いていきます。考えてみると松本さんのミステリーは、善悪を超えて強く好奇心に突き動かされていく執念を持った男性が描かれていますが、知らぬ間に著者は自身を主人公に投影していたのではないでしょうか。それは一般的に見れば異常なほどの情熱ですが、その本人にとっては仕事やある時は人生をも左右してかまわないと思う切実な好奇心です。
本作の面白さは万葉集がキーワードとして随所に出てくるところです。百人一首もいいですが、私も万葉集の方が庶民の喜び、悲哀が聞こえる様で好きです。作品としてはずっと素朴ではありますが、そこにリアリティがあると思います。知りませんでしたが、松本さんは万葉集の大ファンだったそうで、関連する作品もあるそうですので、それはそれで読んでみたいところです。ちなみに本作も地方が終わりの方に出てきます。とても面白いです。
2015年4月26日日曜日
第115回:「蒼い描点」松本 清張
レーティング:★★★★★☆☆
このところ仕事がやや忙しく、また今後も8月くらいまで忙しくなりそうなので、暫く読書がやや停滞することが見込まれます。しかし、絶対的な読書時間の不足に加えて、今回レビューする1冊は本当に長く、文庫本1冊なのですがほぼ800ページほどもあります。とても面白かったのですが、この圧倒的なまでの長さが必要であったのかは正直疑問であり、星マイナス1としました。しかし、いつもどおりとても面白い一冊でした。なんと現在までの4回もドラマ化されているそうです。
さてWikipediaによれば、本作はロマンティック・ミステリーと呼ばれているそうで、若い男女二人が事件の真相解明に動くのですが、絶妙な距離感で心の揺れを伴いながら話が進んでいきます。複雑な謎解きとは別に、この側面がとても繊細に瑞々しく描かれており、恋愛小説のような読み方も可能です。また、すぐれた話には欠かせない要素ですが、人物の造形がとてもよくできていて、飽きることがなく、また登場人物が多くてもとても苦痛だということにはならないよう工夫されています。
内容については言及をしてしまうとネタバレになるので、1点だけ。舞台の多くが箱根なので、もしGWや夏休みに箱根に行かれる前後や最中に読むととても面白いかもしれません。特にどういう名所がということはありませんが、何度もいまでもお馴染みの箱根の有名どころが出てきますので、なんとなくあそこの地理感覚が頭にあると、より面白く読めるかもしれません。
昨今は時間がないのと、個人的に経営学関係のものは大体読み終えた(すごく不遜な認識であることはよく理解していますが)というか、しばらく読む気が起きないので、暫くこういったミステリー、とりわけ多作な清張さんの作品を読み進めていこうと思います。昭和中期の文学作品は特別な香りがあってとても素敵だと思います。
このところ仕事がやや忙しく、また今後も8月くらいまで忙しくなりそうなので、暫く読書がやや停滞することが見込まれます。しかし、絶対的な読書時間の不足に加えて、今回レビューする1冊は本当に長く、文庫本1冊なのですがほぼ800ページほどもあります。とても面白かったのですが、この圧倒的なまでの長さが必要であったのかは正直疑問であり、星マイナス1としました。しかし、いつもどおりとても面白い一冊でした。なんと現在までの4回もドラマ化されているそうです。
さてWikipediaによれば、本作はロマンティック・ミステリーと呼ばれているそうで、若い男女二人が事件の真相解明に動くのですが、絶妙な距離感で心の揺れを伴いながら話が進んでいきます。複雑な謎解きとは別に、この側面がとても繊細に瑞々しく描かれており、恋愛小説のような読み方も可能です。また、すぐれた話には欠かせない要素ですが、人物の造形がとてもよくできていて、飽きることがなく、また登場人物が多くてもとても苦痛だということにはならないよう工夫されています。
内容については言及をしてしまうとネタバレになるので、1点だけ。舞台の多くが箱根なので、もしGWや夏休みに箱根に行かれる前後や最中に読むととても面白いかもしれません。特にどういう名所がということはありませんが、何度もいまでもお馴染みの箱根の有名どころが出てきますので、なんとなくあそこの地理感覚が頭にあると、より面白く読めるかもしれません。
昨今は時間がないのと、個人的に経営学関係のものは大体読み終えた(すごく不遜な認識であることはよく理解していますが)というか、しばらく読む気が起きないので、暫くこういったミステリー、とりわけ多作な清張さんの作品を読み進めていこうと思います。昭和中期の文学作品は特別な香りがあってとても素敵だと思います。
2015年3月22日日曜日
第114回:「点と線」松本 清張
レーティング:★★★★★★★
昭和33年に刊行された松本氏の代表作の一つです。本来あまりミステリーは読まない(好きな人はミステリー本当に好きですが)たちなのですが、松本清張はもはや歴史的大御所に属し、文章がとてもかっこいいのです好きです。と書きながら白状すると、羽田空港で出発前に買ったのですが、数ページ読むまで以前読んだことがあることに気づきませんでした・・。しかし、どうも以前読んだ時は最後まで読まなかったようで、このブログでチェックしても記録がなく(基本的に最後まで読んだものは全てアップしてます)、今回読んでも後半は記憶になかったのでそういう意味では初めて読んだといってよさそうです。結論から言って、とても面白く、話の謎だけではなく昭和中期の独特の雰囲気が描写されていて、その観点からも貴重な一作と言えると思います。
話はとても有名ですし、ネタバレを避けるために詳細には触れませんが、時刻表を中心としたトリックです。松本氏のミステリは単なる謎ではなく社会性をもった広がりがあることで著名ですが、本作も安田という人物と役所の距離が大きな背景として機能します。面白いのは色々な謎を2名の刑事が執拗に追うのですが、その都度本当に破りがたい壁にぶち当たるところです。さらに2名というのがポイントで、励まし、考察するものと発奮し、行動するものがある種2人で一つの人格を作り上げ、犯人を追い込んでいくところがユニークで、物語に深みを与えていると思います。
また、ここに描かれる料亭、結核療養、長距離列車、航空会社、博多などはいずれも生き生きとした戦後復興を果たしつつある社会を映し出しており、なぜかとてもおしゃれな感じがします。主人公というべき刑事がちょくちょく美味しいコーヒーを飲みに行くのも、当時としてもとてもハイカラなのではないでしょうか。ブルーボトルコーヒーとはまったくちがう本当に味のあるコーヒーの香りがする一冊です。
昭和33年に刊行された松本氏の代表作の一つです。本来あまりミステリーは読まない(好きな人はミステリー本当に好きですが)たちなのですが、松本清張はもはや歴史的大御所に属し、文章がとてもかっこいいのです好きです。と書きながら白状すると、羽田空港で出発前に買ったのですが、数ページ読むまで以前読んだことがあることに気づきませんでした・・。しかし、どうも以前読んだ時は最後まで読まなかったようで、このブログでチェックしても記録がなく(基本的に最後まで読んだものは全てアップしてます)、今回読んでも後半は記憶になかったのでそういう意味では初めて読んだといってよさそうです。結論から言って、とても面白く、話の謎だけではなく昭和中期の独特の雰囲気が描写されていて、その観点からも貴重な一作と言えると思います。
話はとても有名ですし、ネタバレを避けるために詳細には触れませんが、時刻表を中心としたトリックです。松本氏のミステリは単なる謎ではなく社会性をもった広がりがあることで著名ですが、本作も安田という人物と役所の距離が大きな背景として機能します。面白いのは色々な謎を2名の刑事が執拗に追うのですが、その都度本当に破りがたい壁にぶち当たるところです。さらに2名というのがポイントで、励まし、考察するものと発奮し、行動するものがある種2人で一つの人格を作り上げ、犯人を追い込んでいくところがユニークで、物語に深みを与えていると思います。
また、ここに描かれる料亭、結核療養、長距離列車、航空会社、博多などはいずれも生き生きとした戦後復興を果たしつつある社会を映し出しており、なぜかとてもおしゃれな感じがします。主人公というべき刑事がちょくちょく美味しいコーヒーを飲みに行くのも、当時としてもとてもハイカラなのではないでしょうか。ブルーボトルコーヒーとはまったくちがう本当に味のあるコーヒーの香りがする一冊です。
2011年8月27日土曜日
第20回:「さよなら、愛しい人」レイモンド・チャンドラー
レーティング:★★★★★★☆
記念すべき第20回目に到達しました。数少ないReaderの方に於かれては、更新があまりに遅いので、もはやストップかと思われた方もいるようですが、単に夏休み、労働時間の長さなどから本が読み終わらないのが理由です。今回は、第16回でレビューしたレイモンド・チャンドラーの(私にとって)第2作目で、前回同様に村上春樹の訳です。
結論からいうと、前回レビューした「ロング・グッドバイ」より難解かつ複雑であり、読み進めるのに難儀し、読み終わった後もいまいち全体像を把握できていませんが、文章の旨さや筋の巧妙さについては十分に堪能ができ、前回よりは低いもののこのレーティングとなりました。
おなじみ私立探偵のマーロウが主人公ですが、今回は警察と裏組織がメインの舞台となります。いきなり荒っぽい描写から始まりますが、この出来事を通奏低音として、一気にエンディングに行く様はかなり圧巻でありますので、もしチャンドラーに興味を持ってもらえた方が居たら、最初に読むことはお勧めできないですが、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
ミステリという性質上、あまり多くを語ることは即ネタばれにつながるので、抑制したいと思いますが、最初の酒場のシーン、警察署で虫を見るシーン、船に潜入するシーンが強く頭に刻まれており、その前後のぴりっとした簡潔かつ臨場感ある文章は、さすがチャンドラーと僭越ながら思える素晴らしい文章かと思います。村上氏の翻訳は、正直に言えば「ロング・グッドバイ」ほどの輝きはないようにも思えますが、あとがきで氏が書かれている通り、原文は相当難解なのかもしれません。
非常に楽しんだのですが、3週間ほど時間をかけてしまい、やや理解不足のところがあるので、ぜひ少し経ったら読み直してみたいと思っています。また、その時にどうレーティングや印象が変わるかも書いてみたいと思います。これから読書の秋になり、読みたい本も溜まっているので、なんとか時間を工面してどんどんUPしていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願いします。
記念すべき第20回目に到達しました。数少ないReaderの方に於かれては、更新があまりに遅いので、もはやストップかと思われた方もいるようですが、単に夏休み、労働時間の長さなどから本が読み終わらないのが理由です。今回は、第16回でレビューしたレイモンド・チャンドラーの(私にとって)第2作目で、前回同様に村上春樹の訳です。
結論からいうと、前回レビューした「ロング・グッドバイ」より難解かつ複雑であり、読み進めるのに難儀し、読み終わった後もいまいち全体像を把握できていませんが、文章の旨さや筋の巧妙さについては十分に堪能ができ、前回よりは低いもののこのレーティングとなりました。
おなじみ私立探偵のマーロウが主人公ですが、今回は警察と裏組織がメインの舞台となります。いきなり荒っぽい描写から始まりますが、この出来事を通奏低音として、一気にエンディングに行く様はかなり圧巻でありますので、もしチャンドラーに興味を持ってもらえた方が居たら、最初に読むことはお勧めできないですが、ぜひ手に取っていただきたい作品です。
ミステリという性質上、あまり多くを語ることは即ネタばれにつながるので、抑制したいと思いますが、最初の酒場のシーン、警察署で虫を見るシーン、船に潜入するシーンが強く頭に刻まれており、その前後のぴりっとした簡潔かつ臨場感ある文章は、さすがチャンドラーと僭越ながら思える素晴らしい文章かと思います。村上氏の翻訳は、正直に言えば「ロング・グッドバイ」ほどの輝きはないようにも思えますが、あとがきで氏が書かれている通り、原文は相当難解なのかもしれません。
非常に楽しんだのですが、3週間ほど時間をかけてしまい、やや理解不足のところがあるので、ぜひ少し経ったら読み直してみたいと思っています。また、その時にどうレーティングや印象が変わるかも書いてみたいと思います。これから読書の秋になり、読みたい本も溜まっているので、なんとか時間を工面してどんどんUPしていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願いします。
2011年6月19日日曜日
第16回:「ロング・グッドバイ」レイモンド・チャンドラー
レーティング:★★★★★★★
久々の更新になります。なんやかんやでバタバタしており、本を読む時間自体があまり確保できず、また、この本はあとがきを入れると645ページもあるので、今月はやっと1冊を読み終わった状態です。
レーティングは、当ブログ初の満点!渋すぎるフィリップ・マーロウ(=主人公)にしびれました。レイモンド・チャンドラーは、1888年に米国シカゴで生まれたミステリ作家です。フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公としたミステリのシリーズで有名になり、今でも多くのファンを内外で獲得しています(この翻訳は村上春樹氏)。本作が発表されてからすでに48年が経過してますので、既に歴史の風雪に曝された上で生き延びていることを考えれば、高いレーティングになることは不思議ではないのですが、それにしても(満点を付ける程)面白かったです。
まず、強烈な主人公の設定。主人公は私立探偵で、都会に一人で住んでいて、割と酒を良く飲んでいて(酒の話の部分を読むとのどが渇きます)、警察に多数の知己が居て(友人ではない)・・・とミステリアスな人物となっています。こういう人物なので実にドライなのかと思いきや、偶然に見かけた酔っぱらいを助けてしまい、というところから物語がスタートするのも意外ですが、その酔っぱらいを最後まで見捨てることができず・・・という展開も人物造形を良い意味で裏切っていきます。
次に全体を貫く喪失感。あまり書くとネタばれになってしまうのですが、戦争、金、名誉、そして人にとってのプライド、そういったものが随所に語られ、それらがどういう経路を辿って人生に影響を与えるかが大胆に描かれていきます。人について言えば金持ちもいれば、移民も出てきますし、私立探偵も警察官もギャングもでてきますが夫々に悲哀を抱えています。その渦に翻弄されていくフィリップ・マーロウはある意味そういった周囲の物語の語り部として機能していきます。
最後に文章の巧みさ。ここは読んでくださいとしか言えないのですが、どの文章も無駄がないのに詳細で、そして飽きることなく600ページを読み切らせる力量はたいしたものです。ぜひチャンドラーの他の作品も読まねばと思わせます。また、ぜひ原書でも読んでみたいと思わせるものでした。
たまに何気なく書店で手に取った一冊が、忘れえぬ良作であることがあり、その意味で読書はやめられないものだと再認識しました。
久々の更新になります。なんやかんやでバタバタしており、本を読む時間自体があまり確保できず、また、この本はあとがきを入れると645ページもあるので、今月はやっと1冊を読み終わった状態です。
レーティングは、当ブログ初の満点!渋すぎるフィリップ・マーロウ(=主人公)にしびれました。レイモンド・チャンドラーは、1888年に米国シカゴで生まれたミステリ作家です。フィリップ・マーロウという私立探偵を主人公としたミステリのシリーズで有名になり、今でも多くのファンを内外で獲得しています(この翻訳は村上春樹氏)。本作が発表されてからすでに48年が経過してますので、既に歴史の風雪に曝された上で生き延びていることを考えれば、高いレーティングになることは不思議ではないのですが、それにしても(満点を付ける程)面白かったです。
まず、強烈な主人公の設定。主人公は私立探偵で、都会に一人で住んでいて、割と酒を良く飲んでいて(酒の話の部分を読むとのどが渇きます)、警察に多数の知己が居て(友人ではない)・・・とミステリアスな人物となっています。こういう人物なので実にドライなのかと思いきや、偶然に見かけた酔っぱらいを助けてしまい、というところから物語がスタートするのも意外ですが、その酔っぱらいを最後まで見捨てることができず・・・という展開も人物造形を良い意味で裏切っていきます。
次に全体を貫く喪失感。あまり書くとネタばれになってしまうのですが、戦争、金、名誉、そして人にとってのプライド、そういったものが随所に語られ、それらがどういう経路を辿って人生に影響を与えるかが大胆に描かれていきます。人について言えば金持ちもいれば、移民も出てきますし、私立探偵も警察官もギャングもでてきますが夫々に悲哀を抱えています。その渦に翻弄されていくフィリップ・マーロウはある意味そういった周囲の物語の語り部として機能していきます。
最後に文章の巧みさ。ここは読んでくださいとしか言えないのですが、どの文章も無駄がないのに詳細で、そして飽きることなく600ページを読み切らせる力量はたいしたものです。ぜひチャンドラーの他の作品も読まねばと思わせます。また、ぜひ原書でも読んでみたいと思わせるものでした。
たまに何気なく書店で手に取った一冊が、忘れえぬ良作であることがあり、その意味で読書はやめられないものだと再認識しました。
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