レーティング:★★★★★★☆
今回の書評に入る前に、発生から1週間も経過してしまいましたが、東日本大震災で被災した全ての方にお見舞い申し上げると共に、亡くなられた方のご冥福をお祈りします。まだ中学生だったときに阪神大震災が起き、親族も被災しました。当時、塾からの帰り道のバスで随分と運命は(時として)むごいと感じたことを今も鮮明に覚えています。今回は亡くなられた方の数だけでもすでに阪神大震災を超えており、今後残念ながら一層増加しそうですし、原発のその後のトラブルにより不安感も増幅され、予期せぬ災害が地域や個々人の人生を一変させうることを改めて痛感した次第です。出来ることを、少しずつしてみたいと思います。
さて、今回の書評ですが(こうして安穏と書評できていることのありがたみを深く認識しないといけないと感じます)、第7回目にして既に黒木さん3作目です。結論からいうと、あまり期待していなかった(すみません)分、良い意味で非常に裏切られ嬉しい思いです。主人公と登場人物の魅力、対比の鮮やかさ、時間的な広がりがすばらしく、レーティングも(始まって間もないですが)現状までの最高です。
まず、主人公の魅力ですが、大学時代のストーリー、それをばねにした社会人になってからの活躍(特に一つ目の会社時代)は非常に説得力があります。おそらく(種目は違えど)著者の体験が相当ベースになっているはずですが、大学の部活で挫折を味わった主人公がそれを大きな原動力として仕事に打ち込む姿に共感する20代、30代のビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。その後、結婚して子供が出来て一つの転機が起きるのですが、仕事への姿勢は引き続き一途で、またぎりぎりのところで仕事における良心を保とうとするところ、家族への思いを貫くところなど、なんとも魅力的な人物となっています。
次に、(仕事面では主人公の対比として描かれている)マーシャルズ社の駐日代表を務める三條という人物も良く描けていて、粘着質な感じや地位への貪欲さなどが人間らしく、主人公とは違った意味ではありますが魅力があります。この他、S&D社の水野という女性もきりっとしたすがすがしさを持って描かれており、読み応えがあります(下巻になると余りでなくなるので、もう少しこの人の話を膨らませる手はあったのかもしれません)。
また、時間的な広がりですが、著者の作品は短いスパン(3年とか長くても10年)を切り取ったものが多い印象を持っています(但し、第2回で書評した「冬の喝采」等自伝的なものは別)が、この作品は日本における戦後の格付会社の歴史にも触れており、1984年の夏から話がスタートしリーマンショックの2008年まで足掛け25年の話となっています。この間の金融ビッグバン、護送船団方式の導入、投資銀行のヘッジファンド化、米国及び日本における証券化商品の隆盛、その裏で進行した審査プロセスの形式化、格付会社の変容や利益相反などを詳細に分かりやすく触れます(そしてこれら事象の解説は基本的に事実に基づいています)ので、金融現代史としても分かりやすく入門的に読めるものと思います。
最後に付け加えると、華々しいビジネスやビジネスパーソンを取り上げることの多い著者の作品の中では珍しく故・小倉昌男氏(元・ヤマト福祉財団理事長)の晩年の活動を大きくフィーチャーしているところもこの作品への深みを加えている点だと思います。氏の思いや活動を知りたくなりました。
このBlogの目的は、シンプルです。ただ、私が読んだ本を評していくこと、それだけです。ちなみにジャンルの限定はなく、ただ一つのルールは、私が最初から最後までリアルタイムに読んだ本、それを書評することだけです(従って、昔読んだ本や全て読まなかったものは対象外)。
2011年3月20日日曜日
2011年3月13日日曜日
第6回:「指一本の執念が勝負を決める」冨山 和彦
レーティング:★★★★★☆☆
鼓舞される本だった。2007年6月刊行なので第5回のレビュー作「会社は頭から腐る」より少し前に刊行されたもので、正直言って「会社は頭から腐る」と重なる部分は大きいものの、この作品はよりパーソナルなメッセージが多く親しみを持ちやすい。また、前作がどちらかというと産業再生機構での仕事をカジュアルに振り返るという面があったのに対して、本作はもうすこしビジネスパーソンの生き方や著者の今後の展望(新たな会社を立ち上げた直後)を語るところに重点が置かれています。
経営という仕事を俯瞰したとき著者がこだわるのは、どこまで執念を持って粘り強く仕事に取り組み、周りの人を興味を持って観察し、ガチンコ勝負(数十回出てくる)できるかという点。例えば二十代は睡眠も貯金も必要ない、とか三十半ばまでは(仕事では)ガキとか刺激的であるが歯切れの良い言葉が多く出てきます。個人的には睡眠も多少の貯金も必要だったのですが、心意気としては著者の書いているところに共感できます。
(著者は自ら書いていますが)典型的な偏差値エリートですが、そこにはとどまらずロジカルに考え抜いて「自分の」人生を生きることの大切さについて力説します。特に第3章は、著者がどう勉強してきたかについて書いており、例えば20代前半の社会人の人などには(時間も沢山あるし)一つのモデルとして参考にできるのではないでしょうか。
最後に欲を言えば、守秘義務があって書けないことが多いのだとは思いますが、再建に当たって経験した修羅場についてもっと深く、具体的にかいてあると一層ガチンコ勝負の大切さが浮き上がってくると思われます(携帯電話事業の話などは秀逸)。前作は同僚から本の話を聞きましたが、実はこの本も尊敬する会社の大先輩から、伺った本です。
鼓舞される本だった。2007年6月刊行なので第5回のレビュー作「会社は頭から腐る」より少し前に刊行されたもので、正直言って「会社は頭から腐る」と重なる部分は大きいものの、この作品はよりパーソナルなメッセージが多く親しみを持ちやすい。また、前作がどちらかというと産業再生機構での仕事をカジュアルに振り返るという面があったのに対して、本作はもうすこしビジネスパーソンの生き方や著者の今後の展望(新たな会社を立ち上げた直後)を語るところに重点が置かれています。
経営という仕事を俯瞰したとき著者がこだわるのは、どこまで執念を持って粘り強く仕事に取り組み、周りの人を興味を持って観察し、ガチンコ勝負(数十回出てくる)できるかという点。例えば二十代は睡眠も貯金も必要ない、とか三十半ばまでは(仕事では)ガキとか刺激的であるが歯切れの良い言葉が多く出てきます。個人的には睡眠も多少の貯金も必要だったのですが、心意気としては著者の書いているところに共感できます。
(著者は自ら書いていますが)典型的な偏差値エリートですが、そこにはとどまらずロジカルに考え抜いて「自分の」人生を生きることの大切さについて力説します。特に第3章は、著者がどう勉強してきたかについて書いており、例えば20代前半の社会人の人などには(時間も沢山あるし)一つのモデルとして参考にできるのではないでしょうか。
最後に欲を言えば、守秘義務があって書けないことが多いのだとは思いますが、再建に当たって経験した修羅場についてもっと深く、具体的にかいてあると一層ガチンコ勝負の大切さが浮き上がってくると思われます(携帯電話事業の話などは秀逸)。前作は同僚から本の話を聞きましたが、実はこの本も尊敬する会社の大先輩から、伺った本です。
2011年3月5日土曜日
第5回:「会社は頭から腐る」冨山 和彦
レーティング:★★★★★☆☆
耳が痛い本でした。著者は、著名なコンサルタントであり、元産業再生機構COO。現在は経営共創基盤CEOとして活躍されています。名前を目にしたり、著作等を読んだ方も多いかもしれません。JALの関係でも一時期メディアから大きく取り上げられました。本作は2007年7月に出版されており、私は当時居た部署の同僚から、最近こういう本を読んで・・・と話を聞いて以来、いつか読みたい(それにしても3年以上それから経ってしまっているのは情けないものがありますが)と思っていたものです。
内容は、著者が産業再生機構、そしてその前に社長を務めていたCDIという会社を通じて得た企業再生、コンサルティングの現場から感じたことを綴ったものです。著者は、東大大学中に司法試験をパス、外資系コンサルティング会社を経て共同で起業、その後同社の社長となり、産業再生機構に請われて行きます(あとスタンフォードでMBAも)。一見、バリバリ・キレキレ系のキャリアであり、数式やエレガントな競争戦略論満載の本を出しそうですが、(体験を踏まえた)泥臭い経営論を書いています。優れた経営人材はガチンコの勝負からしか生まれない、だめな会社はまず「頭から」腐る、ということを繰り返します。大企業や安定した企業内での経験というのは、(これはさすがに場合によると思いますが)会社がつぶれるわけでもなく、個人として連帯保証を銀行に差し入れて破産するわけでもなく、所詮「ごっこ」に過ぎないと言い切ります。人によっては、根性論も多分に入った本なので拒否反応があるかもしれませんが、どの主張も極めてロジカルに展開されており、また経験に裏打ちされているのですっと納得できるものです。キャリアから来るイメージと内容の泥臭さが大きなミスマッチですが、それをつなぐロジックの太さが、この本の面白さであるように思えます。
冒頭の耳が痛いというのは、著者の主張の一つ、とにかくガチンコ勝負をしろという点です。「恵まれていること」と「ガチンコ勝負の欠如」は軌を一にしているということが繰り返し語られており、高度成長期の遺産が(だいぶ減ったとはいえ)まだ有る日本企業では、ガチンコ勝負する必要自体がなかったということも触れられていますが、私も日々ガチンコにさらされているわけではなく、身につまされます。耳が痛い本を読むと、この著者はちょっと変わった人だなとか、そんなガチンコ勝負してるやつの方がむしろ少ない、と否定的なドライブが入りがちですが、ここは真摯に受け止めたいと思います。
感心した点としては、一般的な会社における経営層、ミドル、現場の各層に働くインセンティブがどれほど大きく異なり、また影響を持っているかについて描写している点、会社員とは弱く・流されるものであるという前提に立っている点など、会社(員)心理への理解も十分に示されているところで、まったくもって頭でっかちではなく、あくまで現実における葛藤の中から生まれてきている点です。(そういう意味では第1回でレビューした「ストーリーとしての競争戦略」と好対照です。もちろん主眼が違うのでだからどちらかがダメということには全くなりません。)
著者の本を読むのは初めてですが、もう一冊手元にあるのでそちらも近々レビューしたいと思います。産業再生機構の実務的な活動に興味がある方は、去年読んだのですが「事業再生の実践(第1~3巻)」産業再生機構も読まれることをお勧めします。こちらは至極実践的なものですが、この本と合わせ読むと事業と財務の一体再生といった産業再生機構の手法の多くが、(COOだったので当然ですが)著者の経験や信念、そして仕事のやり方から来ていることが分かります。
耳が痛い本でした。著者は、著名なコンサルタントであり、元産業再生機構COO。現在は経営共創基盤CEOとして活躍されています。名前を目にしたり、著作等を読んだ方も多いかもしれません。JALの関係でも一時期メディアから大きく取り上げられました。本作は2007年7月に出版されており、私は当時居た部署の同僚から、最近こういう本を読んで・・・と話を聞いて以来、いつか読みたい(それにしても3年以上それから経ってしまっているのは情けないものがありますが)と思っていたものです。
内容は、著者が産業再生機構、そしてその前に社長を務めていたCDIという会社を通じて得た企業再生、コンサルティングの現場から感じたことを綴ったものです。著者は、東大大学中に司法試験をパス、外資系コンサルティング会社を経て共同で起業、その後同社の社長となり、産業再生機構に請われて行きます(あとスタンフォードでMBAも)。一見、バリバリ・キレキレ系のキャリアであり、数式やエレガントな競争戦略論満載の本を出しそうですが、(体験を踏まえた)泥臭い経営論を書いています。優れた経営人材はガチンコの勝負からしか生まれない、だめな会社はまず「頭から」腐る、ということを繰り返します。大企業や安定した企業内での経験というのは、(これはさすがに場合によると思いますが)会社がつぶれるわけでもなく、個人として連帯保証を銀行に差し入れて破産するわけでもなく、所詮「ごっこ」に過ぎないと言い切ります。人によっては、根性論も多分に入った本なので拒否反応があるかもしれませんが、どの主張も極めてロジカルに展開されており、また経験に裏打ちされているのですっと納得できるものです。キャリアから来るイメージと内容の泥臭さが大きなミスマッチですが、それをつなぐロジックの太さが、この本の面白さであるように思えます。
冒頭の耳が痛いというのは、著者の主張の一つ、とにかくガチンコ勝負をしろという点です。「恵まれていること」と「ガチンコ勝負の欠如」は軌を一にしているということが繰り返し語られており、高度成長期の遺産が(だいぶ減ったとはいえ)まだ有る日本企業では、ガチンコ勝負する必要自体がなかったということも触れられていますが、私も日々ガチンコにさらされているわけではなく、身につまされます。耳が痛い本を読むと、この著者はちょっと変わった人だなとか、そんなガチンコ勝負してるやつの方がむしろ少ない、と否定的なドライブが入りがちですが、ここは真摯に受け止めたいと思います。
感心した点としては、一般的な会社における経営層、ミドル、現場の各層に働くインセンティブがどれほど大きく異なり、また影響を持っているかについて描写している点、会社員とは弱く・流されるものであるという前提に立っている点など、会社(員)心理への理解も十分に示されているところで、まったくもって頭でっかちではなく、あくまで現実における葛藤の中から生まれてきている点です。(そういう意味では第1回でレビューした「ストーリーとしての競争戦略」と好対照です。もちろん主眼が違うのでだからどちらかがダメということには全くなりません。)
著者の本を読むのは初めてですが、もう一冊手元にあるのでそちらも近々レビューしたいと思います。産業再生機構の実務的な活動に興味がある方は、去年読んだのですが「事業再生の実践(第1~3巻)」産業再生機構も読まれることをお勧めします。こちらは至極実践的なものですが、この本と合わせ読むと事業と財務の一体再生といった産業再生機構の手法の多くが、(COOだったので当然ですが)著者の経験や信念、そして仕事のやり方から来ていることが分かります。
2011年2月24日木曜日
第4回:「排出権商人」黒木 亮
レーティング:★★★★☆☆☆
まだレビュー4作目なのに、黒木亮2冊目となります(偏っててすみません)。この本が刊行されたとき、丁度海外に居たこともあり、つい最近まで不覚にも存在を把握していませんでした。さっそく図書館で借りて読み終わったところです。
タイトルが全てを表している本なのですが、排出権にまつわる様々な人の観点から同ビジネスが描かれています。主人公はある大手エンジニアリング会社の女性であり、その人の公私にわたる成長の小説として読むことも可能ですし、実に皮肉たっぷりに排出権ビジネスを描いている本としても読めます。また、金融危機発生までの数年間の資源・環境ブーム(引き続き、ではありますが)でひと儲けをたくらむカラ売り屋のお話としても読めます。これら多様な読み方ができる、という意味で面白い本かと思います。黒木亮の小説の特徴かと思いますが、なるべくネタとしているビジネスの全貌を描こうとして、多種多様なプレーヤーを丁寧にプロットし、動かしていることが伺えます。
やや残念だと思ったのが、ビジネスを丹念に描写し、そのために多くの登場人部を配置したがために、この分量の本にしては人物が盛り沢山になりすぎ、結果としてストーリーが弱くなった感じがする点です。主人公は魅力的ですし、祖母のストーリーも有効に機能しているのですが、なにか予定調和的な終わり方です。また、徹底した悪役がおらず(別にいなくても小説は成り立つわけですが)、中途半端な印象も受けます。
それにしても、上にも書きましたがこの本にも「カラ売り屋」が出てきます。黒木亮はカラ売り屋自体についての小説も書いていますが、証券会社時代にカラ売りでよっぽど儲けたのか(そんな感じもしませんが)、商社時代にカラ売りでよっぽど嫌な目にあわされたのかわかりませんが、何度もこのモチーフが出てくるのは非常に面白く感じます。大抵、リスクを取って、丹念に真実を追求し、虚飾を暴いて利益を得ていく経済界のお掃除屋さんといった形で出てくるので、作者はかなりカラ売り屋に好意的なのだとは思いますが・・なにかあったんでしょうか。
なお、舞台となっているエンジニアリング会社の内幕の描写はかなりリアルであり、プラント・ビジネスの一端(受注と利益をどう結び付けるか、VEとは何かなど)が垣間見られるという意味でも面白い本かと思います。
まだレビュー4作目なのに、黒木亮2冊目となります(偏っててすみません)。この本が刊行されたとき、丁度海外に居たこともあり、つい最近まで不覚にも存在を把握していませんでした。さっそく図書館で借りて読み終わったところです。
タイトルが全てを表している本なのですが、排出権にまつわる様々な人の観点から同ビジネスが描かれています。主人公はある大手エンジニアリング会社の女性であり、その人の公私にわたる成長の小説として読むことも可能ですし、実に皮肉たっぷりに排出権ビジネスを描いている本としても読めます。また、金融危機発生までの数年間の資源・環境ブーム(引き続き、ではありますが)でひと儲けをたくらむカラ売り屋のお話としても読めます。これら多様な読み方ができる、という意味で面白い本かと思います。黒木亮の小説の特徴かと思いますが、なるべくネタとしているビジネスの全貌を描こうとして、多種多様なプレーヤーを丁寧にプロットし、動かしていることが伺えます。
やや残念だと思ったのが、ビジネスを丹念に描写し、そのために多くの登場人部を配置したがために、この分量の本にしては人物が盛り沢山になりすぎ、結果としてストーリーが弱くなった感じがする点です。主人公は魅力的ですし、祖母のストーリーも有効に機能しているのですが、なにか予定調和的な終わり方です。また、徹底した悪役がおらず(別にいなくても小説は成り立つわけですが)、中途半端な印象も受けます。
それにしても、上にも書きましたがこの本にも「カラ売り屋」が出てきます。黒木亮はカラ売り屋自体についての小説も書いていますが、証券会社時代にカラ売りでよっぽど儲けたのか(そんな感じもしませんが)、商社時代にカラ売りでよっぽど嫌な目にあわされたのかわかりませんが、何度もこのモチーフが出てくるのは非常に面白く感じます。大抵、リスクを取って、丹念に真実を追求し、虚飾を暴いて利益を得ていく経済界のお掃除屋さんといった形で出てくるので、作者はかなりカラ売り屋に好意的なのだとは思いますが・・なにかあったんでしょうか。
なお、舞台となっているエンジニアリング会社の内幕の描写はかなりリアルであり、プラント・ビジネスの一端(受注と利益をどう結び付けるか、VEとは何かなど)が垣間見られるという意味でも面白い本かと思います。
2011年2月19日土曜日
第3回:「チーム・バチスタの栄光」海堂 尊
レーティング:★★★★★★☆
あまり説明の必要がないくらい知名度の高い作品かもしれません。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞、しかもぶっちぎりの評価だったそうです。後続のシリーズを含めて大変な売れ行きでしたし、発売した2006年当時のメディアによるカバーも非常に多かったのが印象的です。
当時から関心を持っていたんですが、ミステリーって一回読んだらもう一度読もうと滅多に思わないし、買うのもなーと読まずじまいになっていました。周りにも(あんなに売れたのに)読んだと言う人が不思議に一人もおらず、また、医療?大学病院もの?が元来苦手で(山崎豊子の「白い巨塔」に至っては1冊目の三分の一も読めませんでした)ためらっていました。そんななか、昨年末に某巨大チェーンの古本屋に行ったときに文庫版上下が105円でたたき売られており(すみません)、重い腰を上げて購入しました。
読んでみると冒頭のレーティングのとおりですが、これは面白いな~の一言です。まず、人物の設定と描写が極めて優れていて、一貫して出てくる田口講師は村上春樹の「1Q84」の牛河を明るくしたような味があるし、白鳥技官は(好みは別れると正直思いますが)キャラ立ちという意味ですばらしく、著者の思い切りに敬意を表したいと思います。
また、各所で指摘されていることですが、著者は現役の医師であり、医療問題がかかえる様々な構造的な問題や、見えにくい問題を随分丁寧に書いており、広い意味での社会的問題意識の高いミステリーでもあります。医師が人の生死を小説にすることには、やや抵抗がある向きもあるかもしれませんが、著者の問題意識が広く社会に投げかけることが出来ている事実を考慮すれば余り問題にならないのではないかと思います。
後続のシリーズ(2作)もぜひ読んでみたいと思います(そしてレビューします)。
あまり説明の必要がないくらい知名度の高い作品かもしれません。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞、しかもぶっちぎりの評価だったそうです。後続のシリーズを含めて大変な売れ行きでしたし、発売した2006年当時のメディアによるカバーも非常に多かったのが印象的です。
当時から関心を持っていたんですが、ミステリーって一回読んだらもう一度読もうと滅多に思わないし、買うのもなーと読まずじまいになっていました。周りにも(あんなに売れたのに)読んだと言う人が不思議に一人もおらず、また、医療?大学病院もの?が元来苦手で(山崎豊子の「白い巨塔」に至っては1冊目の三分の一も読めませんでした)ためらっていました。そんななか、昨年末に某巨大チェーンの古本屋に行ったときに文庫版上下が105円でたたき売られており(すみません)、重い腰を上げて購入しました。
読んでみると冒頭のレーティングのとおりですが、これは面白いな~の一言です。まず、人物の設定と描写が極めて優れていて、一貫して出てくる田口講師は村上春樹の「1Q84」の牛河を明るくしたような味があるし、白鳥技官は(好みは別れると正直思いますが)キャラ立ちという意味ですばらしく、著者の思い切りに敬意を表したいと思います。
また、各所で指摘されていることですが、著者は現役の医師であり、医療問題がかかえる様々な構造的な問題や、見えにくい問題を随分丁寧に書いており、広い意味での社会的問題意識の高いミステリーでもあります。医師が人の生死を小説にすることには、やや抵抗がある向きもあるかもしれませんが、著者の問題意識が広く社会に投げかけることが出来ている事実を考慮すれば余り問題にならないのではないかと思います。
後続のシリーズ(2作)もぜひ読んでみたいと思います(そしてレビューします)。
2011年2月11日金曜日
第2回:「冬の喝采」黒木 亮
レーティング:★★★★☆☆☆
黒木亮は好きな作家の一人で、特に金融ネタの長編はすば抜けて面白い。事実、作者の本の多くはその類の本であり、その意味からして本書は相当に異色のものである。内容は、作者の陸上競技人生(中学から大学卒業まで)を中心にした青春の物語。いかに一人の青年が陸上に出会い、のめりこみ、その過程で高揚、失望、離別や出会いを体験していくか淡々とした筆致で描かれている。
全体を貫くテーマは真摯なもので、一つのことに打ち込むこと(うちこむといった生易しい言葉では決してすまされないのみりこみ様であるが)、それを通じて学べること、一生懸命やって酸いも甘いも味わいつくすことなどに加えて出生と家族も大きなテーマになっている。
1月、長時間飛行機に乗る機会があり、機内に入る前に成田空港の良く行く本屋で上下(文庫)を購入。それからやや忙しくなったのもあるが、結局、読了までちょうど1カ月かかった。特に上巻を終えたあたりで1週間程度手が伸びず(第1回の本を併読していたのもあるが)、そこまで夢中に読めなかった。
なぜ夢中で読めなかったかといえば、おそらく陸上競技人生の記録的要素が多すぎることと陸上競技以外のっ描写が乏しすぎたことだろう。前者について言えば、練習内容の記録や一カ月走ったキロ数などが延々と、そして繰り返し記載される。自伝的小説というにはなにか日記の転載のような感じを受けた。後者について言えば、意識的だとは思うが高校・大学の勉強、恋愛、アルバイトなどの記述を極力減らしているように見える。そこが一人の人間の成長ストーリーとして広がりを欠き、すこし共感が難しかった原因かもしれない。
この小説は誰に向けてかかれたものだろうか、と考える。私はこれは作者自身に、そして両親(二つの)に向けて書かれたものである気がしてならない。その意味では、一般的な読者の一人であろう私が共感できようができまいがあまり大事なことではないかもしれない。この作品は、(少なくとも)作者にとってはすごく大きな意味がある作品だったのだろうと感じる。
陸上等なにか運動に青春を捧げた人、そういう人に興味がある人、箱根駅伝に興味がある人、北海道出身の人などは読まれると強く共感されるかもしれないと思う。
黒木亮は好きな作家の一人で、特に金融ネタの長編はすば抜けて面白い。事実、作者の本の多くはその類の本であり、その意味からして本書は相当に異色のものである。内容は、作者の陸上競技人生(中学から大学卒業まで)を中心にした青春の物語。いかに一人の青年が陸上に出会い、のめりこみ、その過程で高揚、失望、離別や出会いを体験していくか淡々とした筆致で描かれている。
全体を貫くテーマは真摯なもので、一つのことに打ち込むこと(うちこむといった生易しい言葉では決してすまされないのみりこみ様であるが)、それを通じて学べること、一生懸命やって酸いも甘いも味わいつくすことなどに加えて出生と家族も大きなテーマになっている。
1月、長時間飛行機に乗る機会があり、機内に入る前に成田空港の良く行く本屋で上下(文庫)を購入。それからやや忙しくなったのもあるが、結局、読了までちょうど1カ月かかった。特に上巻を終えたあたりで1週間程度手が伸びず(第1回の本を併読していたのもあるが)、そこまで夢中に読めなかった。
なぜ夢中で読めなかったかといえば、おそらく陸上競技人生の記録的要素が多すぎることと陸上競技以外のっ描写が乏しすぎたことだろう。前者について言えば、練習内容の記録や一カ月走ったキロ数などが延々と、そして繰り返し記載される。自伝的小説というにはなにか日記の転載のような感じを受けた。後者について言えば、意識的だとは思うが高校・大学の勉強、恋愛、アルバイトなどの記述を極力減らしているように見える。そこが一人の人間の成長ストーリーとして広がりを欠き、すこし共感が難しかった原因かもしれない。
この小説は誰に向けてかかれたものだろうか、と考える。私はこれは作者自身に、そして両親(二つの)に向けて書かれたものである気がしてならない。その意味では、一般的な読者の一人であろう私が共感できようができまいがあまり大事なことではないかもしれない。この作品は、(少なくとも)作者にとってはすごく大きな意味がある作品だったのだろうと感じる。
陸上等なにか運動に青春を捧げた人、そういう人に興味がある人、箱根駅伝に興味がある人、北海道出身の人などは読まれると強く共感されるかもしれないと思う。
第1回:「ストーリーとしての競争戦略」楠木 建
レーティング:★★★★★☆☆
(僭越ではありますが、7段階評価させて頂きます。今回は5。)
昨今ちょっと話題になっている掲題の書を読んでみました。
率直にいって面白い本であり、経営、特に競争戦略論に興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。著者の抑制の効いたスタンスが非常にかっこいい本です。自分がこの考え方をオリジナルに発明したぜ!といった傲慢さがない(現に多くの類似、関連ある指摘が既になされていることを認め、その上でどこがオリジナルかを丁寧に説明している)、これを理解・実践すればだれでもひと儲けできるぜ!といった軽薄さがない(断定したり、過度に大きく見せようという多くのビジネス書に見られる点を慎重に避けている)といった点に好感が持てます。
ところで内容ですが、優れた競争戦略はある種のストーリーとなっている、というコンセプトで貫かれています。第1章で戦略がなぜストーリーとして読み解けるか、またストーリーとは何かを説明、第2章で過去の競争戦略理論や基本的な分析の枠組み(Strategic PositioningとOrganizational Capability)を提示します。その後、第3~5章で優れたストーリーとはなにかをコンセプト、時間軸(にそった発展)、キラーパスといった視点から分析・解説していきます。直後の第6章ではガリバーインターナショナルの事例分析を行い、第7章でまとめと続きます。
第2章まではやや冗長な感じがあり、少し飽きたのですが、第3章からは随分と鋭い分析が出てきて、唸らされます。また、著者は幅広く内外のケースを取り上げており、航空会社(サウスウエスト)、Eコマース(楽天)、飲食(Starbucks)、中古自動車(ガリバー)といった随分と異なる業種の企業のストーリーを読むだけでもかなり面白いものがあります。企業の戦略ストーリーを読むだけではビジネス・スクールのケース・スタディと変わらないわけですが、著者はストーリーをなぞるだけではなく、丁寧に腑分けし、競争優位の源泉を説得力をもって解説していきます。
著者の議論で共感した点は以下のようなところです。
・戦略とは「アクションリスト」ではない
・戦略とは「テンプレート」ではない
・ベストプラクティスの模倣は、かえって競争力を削ぐ(ただし、文脈による)
また本書で一番秀逸と思われる議論は「キラーパス」についてですが、キラーパスには模倣不能ということを超えて模倣回避を促す要素があるという点は非常にエキサイティングです。競争戦略上のキラーパスってなによ?という肝心の点ですが、ぜひ本書をご覧下さい。
500ページを超える大作ですが、著者の好奇心と探求はまだまだ続きそう(若い・・)なので、次回作にも期待したいと思います。個人的には、ケース・スタディをもっと読んで、この競争戦略論の妥当性や適用可能性についてもっと知りたい、という気持ちがあります。他方、これらの本で取り上げられた企業がもし競争優位を失っていく、失ったとすればそれはどういう過程を辿ってかという事例もぜひ読んでみたいと思います。
内容は真面目な本ですが著者の砕けた表現が随所に出てくるので読みやすさもあり(評価は分かれると思いますが、論文ではないので個人的にOKだと感じました)、かたい本はちょっとな、と思われる方にも随分とお勧めできます。
(僭越ではありますが、7段階評価させて頂きます。今回は5。)
昨今ちょっと話題になっている掲題の書を読んでみました。
率直にいって面白い本であり、経営、特に競争戦略論に興味のある方はぜひ一読されることをお勧めします。著者の抑制の効いたスタンスが非常にかっこいい本です。自分がこの考え方をオリジナルに発明したぜ!といった傲慢さがない(現に多くの類似、関連ある指摘が既になされていることを認め、その上でどこがオリジナルかを丁寧に説明している)、これを理解・実践すればだれでもひと儲けできるぜ!といった軽薄さがない(断定したり、過度に大きく見せようという多くのビジネス書に見られる点を慎重に避けている)といった点に好感が持てます。
ところで内容ですが、優れた競争戦略はある種のストーリーとなっている、というコンセプトで貫かれています。第1章で戦略がなぜストーリーとして読み解けるか、またストーリーとは何かを説明、第2章で過去の競争戦略理論や基本的な分析の枠組み(Strategic PositioningとOrganizational Capability)を提示します。その後、第3~5章で優れたストーリーとはなにかをコンセプト、時間軸(にそった発展)、キラーパスといった視点から分析・解説していきます。直後の第6章ではガリバーインターナショナルの事例分析を行い、第7章でまとめと続きます。
第2章まではやや冗長な感じがあり、少し飽きたのですが、第3章からは随分と鋭い分析が出てきて、唸らされます。また、著者は幅広く内外のケースを取り上げており、航空会社(サウスウエスト)、Eコマース(楽天)、飲食(Starbucks)、中古自動車(ガリバー)といった随分と異なる業種の企業のストーリーを読むだけでもかなり面白いものがあります。企業の戦略ストーリーを読むだけではビジネス・スクールのケース・スタディと変わらないわけですが、著者はストーリーをなぞるだけではなく、丁寧に腑分けし、競争優位の源泉を説得力をもって解説していきます。
著者の議論で共感した点は以下のようなところです。
・戦略とは「アクションリスト」ではない
・戦略とは「テンプレート」ではない
・ベストプラクティスの模倣は、かえって競争力を削ぐ(ただし、文脈による)
また本書で一番秀逸と思われる議論は「キラーパス」についてですが、キラーパスには模倣不能ということを超えて模倣回避を促す要素があるという点は非常にエキサイティングです。競争戦略上のキラーパスってなによ?という肝心の点ですが、ぜひ本書をご覧下さい。
500ページを超える大作ですが、著者の好奇心と探求はまだまだ続きそう(若い・・)なので、次回作にも期待したいと思います。個人的には、ケース・スタディをもっと読んで、この競争戦略論の妥当性や適用可能性についてもっと知りたい、という気持ちがあります。他方、これらの本で取り上げられた企業がもし競争優位を失っていく、失ったとすればそれはどういう過程を辿ってかという事例もぜひ読んでみたいと思います。
内容は真面目な本ですが著者の砕けた表現が随所に出てくるので読みやすさもあり(評価は分かれると思いますが、論文ではないので個人的にOKだと感じました)、かたい本はちょっとな、と思われる方にも随分とお勧めできます。
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